転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです

奈津輝としか

文字の大きさ
2 / 41
第1章

第2話 スキル・二天一流

しおりを挟む
 俺は華州華陰県史家村を出て、首都である東京開封府を目指して歩いていた。老翁は、ほとんど他人であるはずの俺に男物の着物をくれ、更には旅の路銀や水筒なども用意して渡してくれた。本当に感謝でしか無い。

「ふう、サッパリした」

 周囲に人の気配が無い事を確認して水浴びをし、水筒に水をんでゴクゴクと飲んだ。俺は普段から人よりも、水分摂取が多い方だと思っている。だから、なるべく川の近くを歩く様にしていた。

“半径100m以内に、何者かによって囲まれています!”

「山賊って言うか匪賊か。この時代は多いんだっけな」

 匪賊達のほとんどは、元々は天下の良民だ。しかし腐敗した政治は、官僚やさらに末端の役人達をも腐らせた。横領や賄賂は当然の如く横行し、大した罪でも無いのに役人に賄賂を渡せなくて死罪になった者もいた。
 どうしようも無い状況となれば、死にたく無い者は逃げるしか無い。匪賊は、同じ様な状況で逃げて来た者達を受け入れて、その勢力を拡大して行った。
 元々は天下の良民だった彼らも、食わねば死ぬしか無い。だから生きる為に、自分達よりも更に弱い者達から奪った。金を奪い、女は犯した。
 匪賊達にも言い訳はあるだろう。これも皆んな政治が悪いせいだと。だからと言って悪事を働いて良い理由にはならない。

「女?いや、男か?まぁ、どっちでも良い。それだけツラが良ければ楽しめるってもんだ」

「身ぐるみいじまえ!」

 怒号と同時に打ち掛かって来た。俺を犯すと言っているので、殺すつもりまでは無く手加減していた。

「あははは。殺しに来たなら返り討ちにする所だが、命だけは助けてやろう」

 『天眼』のスキルのおかげで、匪賊の全ての攻撃軌道予測が出来た。『柳生新陰流』が使えないのが残念だったが、新撰組が使っていた『天然理心流』を会得しているのは大きい。
 打ち掛かって来た者の剣を跳ね上げて背を打ち、突いて来た者の剣を受け流して胴を打った。今度は6人同時に向かって来たので、走り高跳びの背面跳びでわし、唖然とする匪賊3人に突撃して背や腰や脚を打つと、地面に転がって苦しんだ。

「どう?もう止める?」

「クソが!兄貴を呼んで来い!」

 しばらくすると、彼らが兄貴と呼んだ男が現れた。その男の顔半分にはあざがあった。

「青面獣・楊志だ!」

 思わず心の声がこぼれた。史進の次に会うのが林冲では無く、魯智深でも無く楊志だったのは意外だったが、有り得ない事でも無かった。恐らく今は放浪の途中だろう。

 青面獣・楊志は水滸伝に出て来る武将の中では、最も不遇でかつ運が無く最大の転落人生を送る1人だ。彼は宋建国初期の功臣である楊業の子孫で代々武官の家柄に生まれ、若くして武挙に合格し殿司制使(近衛隊長)の地位に登った。
 その後、花石綱運搬の監督を9人の制使の1人として命ぜられた際に、嵐に巻き込まれて船が沈没し任務は失敗した。彼は責任追及を恐れて、官職を捨てて逃亡した。
 ほどなくして大赦が出たことを知ると、復職を望んで東京開封府へ向かう。その途中で梁山泊にいた八十万禁軍教頭・林沖に襲われた。(林冲は梁山泊入山条件として3日以内に首1つ取って来いと言われ、村人は見逃して最終日に武芸者(楊志)が現れたので襲いかかったのだ)
 2人の一騎討ちは互角で、勝負がつかなかった。これを見た梁山泊の首領・王倫は、自分の地位安泰のため林冲の当て馬にしようと入山を勧めたが楊志は断った。
 それから楊志は東京開封府に到着すると賄賂を使って方々にとりなしを頼み、後は太尉・高俅の認可を得るだけという状況まで漕ぎ着けたが、「罪を認めず逃亡し、大赦に甘えて復官しようなどと虫が良すぎる」と、高俅に一蹴されて復官出来なかった。
 所持金を使い果たした楊志は、止む無く家宝の宝刀を売りに出している所に絡んできたゴロツキの牛ニを斬殺。しかしすぐに自首したのと相手が鼻つまみ者だったた
め、宝刀を没収され北京へ流罪という軽い罰で済んだ。
 流刑先の北京留守司・梁世傑は楊志を気に入り軍人として取り立てようとするが、他の武官たちが納得しない事を考慮して御前試合を催す。試合で周謹を破り、更に周謹の師匠である索超と引き分けた楊志は、提轄使(民兵長)に取り立てられて武官に返り咲きした。
 それから数ヶ月後、梁世傑の舅である蔡京の誕生祝(という体裁をとった賄賂)で、10万貫の価値がある生辰綱の運搬監督を命ぜられる。
 しかし賄賂を贈る情報を得て、阻止しようと晁蓋らが生辰綱を狙っていた。それでも楊志は盗賊対策に十分な配慮をしていたが、指揮下にあるはずの使者や運び手達の反発に遭い、その隙を晁蓋ら盗賊団に突かれ痺れ酒を盛られた挙句、宝物も全て奪われてしまう。帰るに帰れなくなり、楊志は再び逃亡する。
 目的も無く旅をしていたが偶然、林沖の弟子だった酒屋・曹正や林冲の義兄弟の魯智深と出会い意気投合、3人で青州二竜山にこもる山賊を退治し、ここで山賊稼業を始める。さらに武松、施恩、張青、孫二娘を加えた二竜山は梁山泊に次ぐ勢力を誇るようになるのだ。

 ここで水滸伝を知っている者なら、楊志がどれほど強いのか判るだろう。水滸伝の作品にいて最強なのは、豹子頭・林冲である。何故なら林冲のモデルは、三国志演義の張飛だからだ。後に関羽の子孫である関勝も登場する為、どちらが強いか度々議論されたが、三国志演義にいて関羽は自分よりも義弟の張飛の方が強いと言っている。従って関羽よりも張飛の方が強く、つまり関勝よりも林冲の方が強いと言う事になる。
 楊志は、林冲、魯智深、索超、呼延灼など後の梁山泊トップクラスの豪傑達とも互角に渡り合った猛者だ。新撰組の組長でも、楊志を斬るのは厳しいかも知れない。

 俺が楊志の名を口に出すと、ジロリとにらんで来た。彼は朝廷から追われる身だ。俺を追手だと思ったのかも知れない。楊志が剣を構えると、凄まじい闘気と言うか剣気を感じた。

“正面より攻撃が来ます!”

シャア!(死ね!)」

「すあっ!」

ガギーン!

 初太刀は火花を散らして弾き返したが、息も付かずに連続で斬り返して来た。それをらして胴を払ったが、受け流された。

「うらあぁぁ!」

シャア!」
 
 鈍い鉄がぶつかり合う音が辺りに響いた。体勢を整えて再び剣がぶつかり、はじくと同時にぎ払った。楊志に受け流されて、カウンターを受けたがギリギリでわした。
 強烈な斬撃を受けては流し、はじいては斬ったが、互いにかすり傷さえ受ける事は無かった。

「はぁ、はぁ、はぁ…強い…」

 斬り結びながら今さら気が付いた。彼とは体力が違う。こちらは女性の身体で転生しているのだ。100%のパフォーマンスを、いつまでも維持など出来ない。

「スキル『二天一流』…」

 腰に下げていたもう1本の刀を抜いて構えた。楊志は咄嗟とっさに飛び退いて、距離を取った。匪賊達はハッタリだと馬鹿にしていたが、楊志は慎重に間合いを取った。
 スキル『二天一流』を開放して理解した。全身に日本が誇る剣豪・宮本武蔵の強さが流れ込んで来るみたいだった。
 楊志は間合いの外から、一気呵成して飛び込んで斬りかかって来た。俺はその突きを受け流すと同時に右手の剣で胴を打ち、無防備となった背中を左手の剣で打った。
 地面に楊志が倒れて転がると、匪賊達は蜘蛛の子を散らしたみたいに逃げて行った。

「薄情な奴らだな」

 俺は気を失わせた楊志を介抱した。女の身体では、大の男を担いで近くの客桟まで行くなど無理だったからだ。と言って楊志を放置して、死なれても困る。

「うっ…」

 膝枕をして楊志の口に水を流し込むと、意識を取り戻した。

「何故、助けた?」

「俺はあなたの不遇を知っており、同情するからだ」

「同情など!」

 プライドの高い楊志は、いきどおって俺の介抱をこばんだ。

「言い方を間違えました、謝ります。すみません。もしや大赦をあてにして、東京開封府に行く途中では?」

「その通りだ。何故それを?」

「ここから都に行く途中は、梁山泊の近くを通らないといけません。首領の王倫は狭量で小物ですが、1人だけ梁山泊に身を寄せる武芸者がおります。その者と戦えば、きっと未来の貴方は不遇から逃れる事が出来るでしょう」

「…預言者なのか?」

「まあ、そんな所です」

 俺は笑って楊志と別れ様としたが、少し先にある客桟で酒を酌み交わしたいと言われ、特に断る理由もない為に了承した。

大哥ダーグゥア(義兄)」

 俺は楊志と意気投合し、頼み込まれて義兄弟の契りを結んだ。俺が義兄で楊志が義弟だ。見た目の年齢は俺の方が歳下なのに、義兄を譲る楊志の心の広さだ。まぁ実際、俺は37歳だったし今は女なので義兄では無く義姉だな。そう思い笑みがこぼれた。
 酒を飲んで酔っ払い、目が覚めると楊志に別れを告げて旅立った。俺は何気無く2本目の刀が気になり、銘を見てみた。

「備州長船秀光だ…」

 最上大業物の中でも、1番の切れ味と名高い名刀中の名刀だ。流石に手が震えた。国宝が2本とも俺の腰に差してあるのだ。震えもするだろう。
 それに、義兄弟が出来た。これで水滸伝の世界らしくなり、面白くなって来た。そう思いながら、次に会う豪傑を楽しみにした。





 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...