まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

文字の大きさ
31 / 170
7章 口に出せない呼び名

第30話 だって、生徒と教師は…なぁ?

しおりを挟む



「松本……は、うちのクラスでしたよね」

「はい、そうです」

 新米教師としては誉められたものではないけれど、ここはわざと呼び捨てにしてみた。

 あの松本花菜と二人きりで部室にいる。しかし、ここはあくまで平常心を保つことに集中。


「文芸部って、具体的にはなにをしているんでしょう? 本当にさっき突然決まったものですから」

「えっ? そうなんですか!?」

「そうです。ですからまだ職員室の机に荷物を置いてもいません」

 放課後に教室を追い出されてから、職員室に入ったとたん、自分の机に戻る暇もなくここまで連れてこられたことを話すと、彼女はプッと吹き出した。

 その笑った顔を見た瞬間、この表情は教室ではまず見せないものだということに気づいた。そう、あの当時の顔が一瞬とはいえ、確実に見えた。

「先生も早々に無茶に巻き込まれましたね。そうですね……。基本的には自由な創作なんですけど……」

 こういうときは、沈黙よりも何か会話を続けていた方が間が持つ。

 彼女にしても、変な沈黙などで気を遣うより、事務的に説明をしていた方が楽だろう。

 そうでなくても、教室で感じていた壁が今の一瞬で一気に低くなったように感じる。だからこそ彼女の言葉で説明してくれた。

「なるほど。僕は来たばかりであまり具体的には分からないから、3年生の岡本さんと松本の二人に聞けばいいですかね?」

「はい。それで大丈夫です」

「そうですか、それじゃ、この荷物を置きに職員室に戻りますね。教室では大丈夫ですか? あんな自己紹介でしたし、木原先生からも『くれぐれも』と直々に引き継ぎを受けました。なにか不安とかあったら話してくださいね?」

「はぃ。あの……先生……」
「なんでしょう?」

 扉を閉める寸前、松本が俺を呼び止めた。

 振り向いて彼女の顔を見たとき、はっと気づく。

「……い、いえ……。何もありません。失礼しました」

 彼女も少し慌てているようだ。必死に平静を取り戻そうとしたのだろう。

「そうですか。もうすぐ下校時間ですから気を付けて帰ってくださいね」

 扉を閉めて、職員室に戻りながら、さっきの一瞬を思い出す。

 彼女が何かを言いかけてすぐに元に戻した。

 髪型や外見も変え、年を重ねて成長している。

 それでも、一瞬見せた上目遣いの潤んだ瞳はよく覚えている。あの日と全く同じだ。

 それを他の人物に見せるかどうかは別として、少なくとも俺の前では変わっていない。

 教室で自己紹介の声を聞いたときよりもはっきり確信できる。

 彼女は俺の記憶の中に存在し続けた松本花菜。3年振りに再会した本人に間違いはない。

 それと同時にもっと重要なことは、彼女も俺の事に気づいている。

 あの吹き出したときの笑った顔もそうだし、別れ際に言いかけた言葉。音は出なかったけれど、口の形は「お」だった。その先は必死に飲み込んだのだろう。

 ここは学校だし、誰がいつ入ってくるか分からない状況だからだ。

 その事実が分かっただけでも、本当は偶然に感謝すべき嬉しいことなのだから。

 しかし、次の瞬間には一方で難しい問題を突きつけられたことに頭を抱えることになった。

 なぜかって?

『決まってるだろう。教師と生徒の恋愛はご法度じゃないか……』

 職員室の椅子に座った途端、外の夕陽に向かって大きくため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

処理中です...