まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

文字の大きさ
37 / 170
9章 確認のカミングアウト

第36話 その呼び名で呼ばれたら

しおりを挟む



「暑いな……」

 先生はひとりごとを言いながらカーテンを閉めて強い日差しを遮った。

「悪いが、少し昔話に付き合ってもらえるか。あと、他に誰もいないなら、松本にはもうこっちの言葉づかいでいいだろうな」

 突然、先生は口調を変えた。そう、あの懐かしい話し方に変わったんだ。

「はい」

「いや、この本を読んだ時の感想と言ってもいい。こんな近くにいた作者を前にしては失礼かもしれないが」

「いえ。読んでくださった方の感想は、作者には何よりもの宝ものですから」

「そうか」

 先生は笑った。

 再びページに視線を落として続けた。

「俺は初めてこの本を読んだときに、自分の昔のことを重ねたんだ……。昔、一緒にいた年下の女の子のことだ。親父さんを亡くして寂しかったはずなのに、その子はいつも我慢していて。静かに本を読んでいた。それが好きなのかと思ったら、本当は外に遊びに行きたい。でもそんな当たり前の事も出来ない」

「はい……」

「この作品のタイトルを見たときにはっと思い出した。その子は『自分は泣き虫だから、空はどんどん青くなってしまうのか』と問いかけてきた。だから、『泣かずに笑っていられるようになろうよ』と答えたことを今でも覚えている」

「はい……」

 ずっと探してきた答えがとうとう出たよ……。やっぱり、あの言葉をかけてくれたのはこの人だったんだ……。

「その子に笑って欲しくて公園やプールにも出かけた。一緒に買い物にも行った。はじめの頃は近所の女の子の面倒を見ているような感覚だった。でも、それがいつしか変わっていったんだ」

 本を閉じて私を見る。

「この本の中の子は、なくしてしまったと思っていた自分の宝ものをもう一度見つけることが出来たんだろう?」

「……はい」

 そう。本の中の彼女は大切なものを見つけ出した。それは形ある「物」ではない。

「松本は……、どうだ?」

 沈黙の中、先生が私に聞いた。

「私は……。分かりません……。自分でもまだ答えがでません……」

 だめ……、これ以上は私がもう我慢を抑えられない……。超えられない一線になるから。

 堪えていたけれど、涙がひとつ、つうっと頬に線を引く。




 先生が本を机に置いて、私の前に立ち止まった。




「ずっと……一人で頑張ってきてくれたんだね。……花菜ちゃん……」

「お兄ちゃん……!!」

 小声で囁かれて、次の瞬間にはその人の胸の中に飛び込んでいた。背中から両腕でギュッと抱きしめられる。

「辛い思いをさせて、ごめんな」

「ううん……、私こそごめんね……。おかえりなさい……」

「よかった……。ずっと……、その言葉が聞きたかった……」

「うん……」

 いつぶりに頭を撫でられたんだろう。私は最後に言葉を交わした中1終わりの春に戻っていた。




 午後から、いつものように図書館の仕事に向かった。

 あのあと、すぐに元に戻った私たち。さすがに部室の中でいつまでも向かい合って抱きついているわけにはいかない。

 夏休みだって誰かに見られてしまうこともある。

「ちょっと、あまりにも突然すぎです先生!」

「仕方ありません。他に場所とタイミングがなかったんです」

「私がああなっちゃうかもって、想像ついていたんですよね? というか、絶対わざとですよね!?」

 調子を戻すように、わざと軽口を叩くようにして会話をしていった。

「さぁ、どうでしょうか」

「まったくもぉ……。私がどんな気持ちで1学期を過ごしていたか想像できますか?」

「それは悪かったって。でも、ちゃんと今日認めただろ?」

 どんな受け答えをしたって、もう時計の針を再び止めることは出来ないし、したくない。

 私たちは自ら認めてしまったのだから。


 そう、私たちは再会を約束しあった仲で、その時は既に訪れていたのだと。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

処理中です...