まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

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10章 相合傘と家庭訪問

第38話 この雨じゃ誰も見てないし

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 夕方、窓のブラインドを調整していた私は、空が暗くなっていることに気づいた。

「あー、これは雨が降りますね」

 お昼のあの時に見た入道雲がそのまま夕立雲まで大きくなってしまったみたいだ。

 そのことを子連れで来ているお母さんたちに教えてあげると、「雨が降る前に家に着かないと」と慌てて帰っていった。

「松本さんが帰るまで持つといいね」

「ありがとうございます。微妙ですよね。お気をつけて」

 4時を過ぎる頃には子どもたちはみんな居なくなった。早めに片付けをしている内に、とうとう大粒の雨が窓を叩くように降り始めてしまう。

「あーあ。これは随分な夕立ですね……」

「花菜ちゃん、傘ある?」

「学校まで戻れば置き傘がありますから」

 学校までなら走って2,3分の距離だから、そこまで行けば何とかなる。



 階段を下りて自動ドアが見えるところに来たとき、人影が見えた。

 急に降られて雨宿りをしている人かと思ったけれど、その手にはちゃんと傘がある。

「夕立、降っちゃったな」

「先生……」

 帰り支度を終えている先生が立っていた。

「どうしたんですか?」

「5時までだと聞いていましたし。これだけの夕立ですから。傘を持ってないと思ったので」

「待っていてくださったんですか?」

「みんなあの雲を見て雨が降る前に帰宅したので、学校には誰も残っていません。仕事をしているのを知っていながら自分の生徒をずぶ濡れにして帰すのは、さすがに良心が痛みますからね」

 そう、こんなシチュエーションは初めてじゃない。

 昔からそうだった。お兄ちゃんが中学生のとき、夕立があると小学校まで私を迎えに来てくれることがあって、そういったときの待ち合わせ場所も決めてあったっけ。

 図書館の自動ドアを出れば、わたしたちの会話も上には聞こえない。

「生徒と一緒に歩くなんて、見られたら大変ですよ?」

「このどしゃ降りだ。誰も見てないだろう。それに駅までだ。見られても言い訳はどうにでもなる」

 先生は大きい傘を広げて私を入れてくれた。

「なんか……、懐かしいですね……」

 川沿いの道を駅まで歩く。この降りだから他に歩いている人も見当たらない。私の顔が見えないように傘を深めに持ってくれたから、もしものことがあってもシラを切り通せる。

「もう、ずいぶん昔の話になるよな。覚えてるもんだな」

「だって……、私の大切な思い出です……」

「そうか……」

 駅まで来た頃には、雨の勢いはだいぶ収まってきてはいたけれど、それでも二人とも濡れてしまった。

「先生はここから電車ですか?」

「電車と言っても、駅ふたつですよ」

「そうですか……」

 私はそこで改札口周りや通路に、同じ制服や見知った顔がいないことを確かめる。

「よかったら、一度うちに寄ってください。タオルとか使えますし」

「松本さん、それは悪いですよ」

「先生に風邪ひかせたなんて事になった方が私には後味悪いですから。それに、お母さん今日は早いと言ってました。もう帰っていると思います」

「そうですか。では松本さんをご自宅まで送ったという設定で行きましょう」

 私たちは改札口から離れ、また並んで駅の反対側への階段を降りていった。

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