まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

文字の大きさ
52 / 170
14章 オフタイムなのだから

第51話 そうか、理由は何とでもつけられる

しおりを挟む


「申し訳ない。配慮に欠けてしまった」

 私服を着てこなかったことを言ってしまってから後悔しても遅かった。

 いつも明るくしている松本にすっかり油断してしまった。

 先日久しぶりに入ったあのアパート。本人は慣れていると言っても、決して暮らしぶりに余裕があるとは思えない。

  学校では誰よりも制服をきちんと着こなしているから、あの生活実態とは大きなギャップだ。

「ごめんな……、花菜ちゃん」

 そんな言葉を思わず呟いた時、彼女は俺に寄りかかって小さく寝息をたてていた。

 昨日も夜7時まで図書館で仕事をしていたのだろう。そこから洗濯などを片付けて休み、早朝から料理をしていたのなら、いくら若いとはいえ疲れるはず。

 他の子たちが夏休みを楽しんでいるのに、毎日の仕事や家事で家庭を支えている松本には、少しくらい息抜きの時間を味わえる権利はないのか。



 本当なら五十嵐と岡本が行けなくなった時点で合宿を取りやめてもよかった。

 旅館は親戚のところだし、キャンセルをしたところで無駄な費用がかかるわけではない。同じことを部室か国語準備室でやればいいだけだ。

 しかし、取りやめれば松本にはいつもと変わらない毎日に戻るだけだと思い返した。

 だから思い切って聞いてみたんだ。「二人だけど予定通り行くか?」と。思ったよりもすぐに返事が返ってきた。

 「行きましょう」と。

 もちろん、やらなくてはならないことは済ませる必要がある。その代わり、地元とは違って周りの目を気にする必要がないのだから。松本に息抜きをさせてやりたいのが本音だ。

 結果的に二人で良かったのかもしれない。年齢を重ねたとしても昔と変わらないから分かる。間違いなく今の彼女は一番無防備な状態だ。残り二人がいたらこんなふうに頭を乗せてくるなんてしないだろう。

 隣で眠りについてしまっている松本のバックの隙間から中が少し見えた。

 いま履いているのはローファーだけど、海が近いと言っておいたから、サンダルは持ってきたみたいだ。でも、その下にはあまり私服というものは見えない。

 高校生の女子にしてはあまりにも味気ない。

 修学旅行だって、もう少し中が華やかかもしれない。

 それにこれほど近くに顔があっても鼻につく化粧品の匂いがしないということは、何もつけていないか、最低限なのだろう。



 昔から物欲が無いというより、欲しいものを口に出さずに我慢するタイプの子だ。こちらから選択肢を差し出してやらないと選ぶということもしない。

 幸いにして財布の中身は少し多めに持ってきたし、クレジットカードもある。途中で補充しても構わない。


 スマホで下田の駅前を探してみると、いくつか洋服屋も見つかる。チェーン店なら松本が好きそうな服もあるだろう。

 比較的白や淡い色が好きだというのは当時の記憶で覚えている。普段のハンカチや文房具などの持ち物を見た限りは、それが変わっているようには思えない。

 ここは手始めに彼女に似合う服をプレゼントして、夏休み気分に解放してやろう。

 そう心に決め、俺は彼女の重みを肩に感じながら、そっと上から手を重ねて目を瞑ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

サクラブストーリー

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。  しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。  桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。  ※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

処理中です...