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14章 オフタイムなのだから
第51話 そうか、理由は何とでもつけられる
しおりを挟む「申し訳ない。配慮に欠けてしまった」
私服を着てこなかったことを言ってしまってから後悔しても遅かった。
いつも明るくしている松本にすっかり油断してしまった。
先日久しぶりに入ったあのアパート。本人は慣れていると言っても、決して暮らしぶりに余裕があるとは思えない。
学校では誰よりも制服をきちんと着こなしているから、あの生活実態とは大きなギャップだ。
「ごめんな……、花菜ちゃん」
そんな言葉を思わず呟いた時、彼女は俺に寄りかかって小さく寝息をたてていた。
昨日も夜7時まで図書館で仕事をしていたのだろう。そこから洗濯などを片付けて休み、早朝から料理をしていたのなら、いくら若いとはいえ疲れるはず。
他の子たちが夏休みを楽しんでいるのに、毎日の仕事や家事で家庭を支えている松本には、少しくらい息抜きの時間を味わえる権利はないのか。
本当なら五十嵐と岡本が行けなくなった時点で合宿を取りやめてもよかった。
旅館は親戚のところだし、キャンセルをしたところで無駄な費用がかかるわけではない。同じことを部室か国語準備室でやればいいだけだ。
しかし、取りやめれば松本にはいつもと変わらない毎日に戻るだけだと思い返した。
だから思い切って聞いてみたんだ。「二人だけど予定通り行くか?」と。思ったよりもすぐに返事が返ってきた。
「行きましょう」と。
もちろん、やらなくてはならないことは済ませる必要がある。その代わり、地元とは違って周りの目を気にする必要がないのだから。松本に息抜きをさせてやりたいのが本音だ。
結果的に二人で良かったのかもしれない。年齢を重ねたとしても昔と変わらないから分かる。間違いなく今の彼女は一番無防備な状態だ。残り二人がいたらこんなふうに頭を乗せてくるなんてしないだろう。
隣で眠りについてしまっている松本のバックの隙間から中が少し見えた。
いま履いているのはローファーだけど、海が近いと言っておいたから、サンダルは持ってきたみたいだ。でも、その下にはあまり私服というものは見えない。
高校生の女子にしてはあまりにも味気ない。
修学旅行だって、もう少し中が華やかかもしれない。
それにこれほど近くに顔があっても鼻につく化粧品の匂いがしないということは、何もつけていないか、最低限なのだろう。
昔から物欲が無いというより、欲しいものを口に出さずに我慢するタイプの子だ。こちらから選択肢を差し出してやらないと選ぶということもしない。
幸いにして財布の中身は少し多めに持ってきたし、クレジットカードもある。途中で補充しても構わない。
スマホで下田の駅前を探してみると、いくつか洋服屋も見つかる。チェーン店なら松本が好きそうな服もあるだろう。
比較的白や淡い色が好きだというのは当時の記憶で覚えている。普段のハンカチや文房具などの持ち物を見た限りは、それが変わっているようには思えない。
ここは手始めに彼女に似合う服をプレゼントして、夏休み気分に解放してやろう。
そう心に決め、俺は彼女の重みを肩に感じながら、そっと上から手を重ねて目を瞑ってしまった。
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