72 / 170
19章 三者面談での誓い
第71話 花菜なら誰も反対しない
しおりを挟む通夜が営まれている間、読経や焼香の場で身動きひとつできず、ハンカチをギュッと握りしめていた松本。
家族葬だと伝えてはあったけれど、校長や教頭を始め、クラスの子も何人か顔を出してくれた。
松本がこれに対応するのは無理と判断し、必ず伝えるからと前置きをしたうえで、自分が応対することにした。
「皆さん、今夜は本当にありがとうございます。授業の方は鈴木先生を困らせてないですか?」
「ちょっと普通の話ではないので、みんな今のところはおとなしくしてます」
「そうですか」
「先生、花菜のことお願いします。本当は泣きたいのだと思うから」
彼女は橘と言ったか。中学時代からの唯一の友達だと聞いていた。
「分かりました。橘さんも、いろいろと相談に乗ってあげてくださいね」
葬儀が始まる直前、花菜は俺たちに頭を下げた。「啓太お兄ちゃんがいてくれるおかげで、何とか乗り切っていけそう」だと。彼女がそう思うのであればその意思を尊重したい。
途中きつくなったら、遠慮なく申し出るように伝えておいた。
簡単な食事を買ってきてみんなで食べたときも、松本は必死に平静を装おうとしている様子がかえって痛々しかった。
「啓太、花菜ちゃんをこれからも守ってあげるのよ?」
俺に彼女を任せられたことは、きっとお袋も伝えられていたのだろう。
その夜は三人で斎場に併設された部屋で過ごすことにした。
通夜の席が終わり寝床の準備をしているとき、お袋が小さな声でそう言ったんだ。
「俺は前からそのつもりではいるけれど、父さんと母さんは構わないのか?」
「ええ、お父さんとも話してる。花菜ちゃんなら啓太のお嫁さんにちょうどいいだろうって。任せられるしっかりした子だし」
「そうか。ありがとう。花菜も喜んでくれると思う」
両家の問題は解決していても、物事はそんなに簡単には進まないだろう。
「私、きっと最初は泣いてばかりかもしれないです……。嫌われちゃうかもしれない……」
「花菜ちゃん。お母さんはそれも分かっていて俺たちに言い聞かせたんじゃないか?」
「ははっ……、そうですよね……」
そのあと、彼女は棺と遺影の前に一人で座って何かを話しかけているようだったけれど、そこは最後の親子の時間だ。他人が邪魔をしちゃいけない。
「花菜ちゃん、これは……?」
テーブルの上に置かれていたはさみ。祭壇横に飾られている花を切るためかと思ったけれど、それは汎用に使えるキッチンはさみではなく散髪用に使うもので花の茎を切るには不向きなものだ。それに何かに必要なら斎場で言えば貸してもらえるだろう。なぜこんなものを持ち出してきたのか。
「これね、いつもお母さんが私の髪を切るときに使ってくれたもの。さっきね、『持っていく?』って聞いたら、『もっと大事な時に使いなさい』って怒られちゃった」
「そうか……」
彼女がそれをすぐにカバンの中に収めたので、俺はそれ以上触れることはしなかった。
「花菜ちゃん休もう。寝れなくても目をつぶるだけでも違う」
「うん……」
俺はその晩、花菜を抱きしめたまま過ごした。
小学生だったあの頃と同じように、疲れ切った彼女は両足を抱えていつまでも鼻をすすっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる