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21章 新しい家を決めよう
第77話 補習授業の帰り道
しおりを挟む「そうか、そんな経験を持った人だったんだな」
国語準備室で補講を受けている私。もう夕方で他の生徒はほとんど残っていない。
私の事情を知った図書館の館長さんは、気持ちや生活が落ちつくまでお仕事をお休みさせてくれている。
その時間を使って、忌引きで休んでいる間に遅れてしまったそれぞれの授業に追いつけるよう、放課後になるとこの部屋でプリントをやったり、先生に聞いたりして補習授業を受けていた。
結花先生が教えてくれた、「生徒と先生の恋物語」を成就させた大先輩だということには、長谷川先生も驚いていた。
「そんな人が松本の生活指導担当なら、何でも相談できちゃうな」
「本当に、私たちと同じような人がいたんだなぁって……」
学校の中で、そんなことを大きな声で話すわけにいかない。このときもプリントに視線を落としながら他の人に聞こえないくらいの呟きで答える。
今の私は長谷川先生に無関心だと仮面を被っているから。伝え聞く噂を拾ってみると、先生の親衛隊なるものが勝手に作られていて、新たに近づこうとしている人を排除しているなんてものもあるって。
それを言ったら、親衛隊こそいないけれど、私も同じようなものだ。男子からは注目されているし、女子だって一枚岩でないことは分かっている。
保護者という他の生徒にとって一番厄介な相手となりかねない後ろ盾を失った私は、これから何があっても基本は自分で解決していかなければならない。2年5組の中ではまだ良くても、他のクラスではそうもいかないだろう。
1日分の各単元のプリントを終えて顔を上げたとき、校内のチャイムが鳴った。これは「追い出しのチャイム」と呼んでいて、この時間で生徒は基本帰らなくてはならない。
「よし、川のところで待っていてくれないか? すぐに用意をして行くから」
本当なら職員室にいるのが普通なのだろうけど、私の補修授業という名目で、放課後はこの部屋にずっといてくれる。
「分かりました」
川沿いを歩き駅に向かう。空の星座はもうすっかり冬のはじめ。夜になると冬のオリオン座も見え始めるようになった。そもそもこの明るい横浜の街あかりでは見える星座もすごく限られてしまうけれど。
先生はこうして暗くなって帰る私を毎日のように珠実園まで送ってくれている。
「遅くなるのは教師が補習を指示しているからだ。家まで送るのは担任の役目だ」
とか言っちゃって。
本当はそれだけじゃないのはお互いわかっているけれど、今は私も制服姿。
だから、本当は昔のように手をつなぎたいけれど、今は隣を歩いてくれているとこで十分。じっと我慢。
結花先生からも、「学校にいる間は辛いけど辛抱だよ」と笑ってアドバイスしてくれている。
長谷川先生も結花先生も、そのギリギリのところで、私の手を引いてくれて導いてくれている。
そんなふたりの先生に、私は応えなくちゃならないと思う。そのための時間なんだから。
「そんな、親衛隊なんてものを勝手に作られてもな……。正直迷惑なだけだ」
「私も困っちゃいます。男子に媚を売っていると思われても……」
「それは松本の本当の姿を知らないからだろう。俺は松本という仮面を被っている花菜ちゃんという素の顔を知っているからな」
それは私も同じ。でも、まだその伝家の宝刀を抜く時じゃないし、出来ることなら学校を卒業するまで抜かずに済むならその方がいい。
「もし、そんな馬鹿げたことが花菜ちゃんに迫るような事があったら、きちんと対処しなくちゃならない。そのときは躊躇するなよ?」
「はい。私も先生を傷つけるようなことが表沙汰になれば許しません」
私にはもう学校の中だけではない味方も付いてくれたし、一緒に考えようと言ってくれている。
一時は、この成績だったり全方位に対する表の顔をするのをやめてもいいかなと思ったりもしたけれど、私たちはまだそこまで達していない。こうして補習授業をしてもらっているのに成績を落とすことがあれば、何をしているのかと言われかねないもん。
だから、高校を卒業するまでは人生勉強だと思っていた。
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