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27章 運命のくじ引き
第102話 バレンタイン・パニック
しおりを挟む完全フリーだと話していた長谷川先生に恋人がいるのではないか? という話が一時広がった。
クリスマスに長谷川先生が女性と並んで歩いているのを偶然スマホで撮影した子がいたらしく、年明けに大騒ぎになったんだ。
騒ぎのまっただ中の教室に登校して、その話を聞いたときにはドキッとしたけれど、相手の女性は謎のままだった。
私も恐る恐る、路上でスクープしたという写真を見せて貰った。人通りもたくさんあったし写真自体も暗く不鮮明。先生は横顔が写っていたけれど、反対側に並んでいる人物の顔は他の人の影でほとんど判別できない。ただ後ろ髪の長さからかろうじて女性だと分かる程度だと確認して内心ホッとした。
あの時の大変身のおかげで、その相手が私だったとはみんな気づいていないんだ。
社会人か? それにしては若そうだ。高校生か? もう少し年上っぽい。結局のところ大学時代の後輩ではないかという話に落ち着いた。年上じゃ仕方ないよと、本気で落ち込む子も中にはいた。
私は授業前に先生にそんな教室の様子を急いでメッセージで流した。
直後のホームルームで質問責めにあったけれど、大学の同窓会の帰りだったと話をでっち上げて、あくまで特定の交際相手はいないと強行突破したっけ。
そんなことがあったから、バレンタインは大変だった。先生は受け取らないと言ったけど、結局は袋いっぱいになったものを持ち帰ってきたんだよ。
現実はお家で私が渡した手作りのチョコブラウニーを食べて満足してくれて、あとは食べきれないからと先生と二人で珠実園に持っていった。
「あらあら、モテる男性教師はどこも同じね」
結花先生が笑って受け取ってくれた。陽人先生も同じだって。口に入れたのは結花先生が作ったオランジェットだけ。あとの貰ったものは「珠実園に寄付!」だって。
「既婚だって言ってるのに、不思議なものよね。義理だって分かるのならまだ分かるけれど、結構本気なのもあるのよ? 私の存在なんて無視されてるみたいじゃない?」
言葉は怒っているようだけど、もう毎年のことだと楽しそう。
「結花先生は心配じゃないんですか?」
「だって、それだけ人気のある人が私の旦那様だもの。私は陽人さんの気持ちを知ってるから、それだけで十分。ホワイトデーだってねだったことないよ?」
結花先生すごい……。そうだよね、あれだけのことをくぐり抜けて結ばれたお二人だもんねと納得してしまった。
結花先生のお家と私が持ち込んだチョコレートは調理室で一度仕分けして、明らかに手作りのものは混じっているものが分からないから、申し訳ないけれど除けた。お菓子屋さんの商品は珠実園の先生のおやつに。パッケージの市販品はもう一度テンパリングしておかし作りの材料になったりと、結局は珠実園の子どもたちのおやつになったという後日談は学校じゃ言えない。
もちろん誰にも黙っていたけれど、中には熱烈な内容の手紙をつけてきた子もいた。その名前を見て、意外な子が……と思ったりもしたっけ……。
「心配するな。俺はもう取り消し不要な予約を自分で入れたんだから。誰が何を言おうと、もう遅い。嫉妬も心配もするなよ?」
二人だけのとき、あの指輪をつけている私に先生は笑って手を握ってくれた。
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