あなたのやり方で抱きしめて!

小林汐希

文字の大きさ
39 / 98
12章 あれは夢じゃなかった!

39話 あの日から変わっていません。

しおりを挟む



「原田……、教えてほしい……」

「は、はい……」

 先生の様子がいつもと違う。

 あの教室のときからだけど、私が知っている限り、こんなに不安そうな顔をしているのは始めて見た。

「俺は去年、原田の気持ちを傷つけてしまった。本当に申し訳なかった」

「ううん、そんなことありません。分かり切っていたことなんです。先生と私はそういう関係だったんです。当然のお答えだって自分で渡す前から理解していましたから」

 あのときは必死に涙をこらえたけど、それは嘘じゃない。

 許されることのない想いは振られることが必然だったんだもの。

「昨日、俺は原田の気持ちを聞いてしまった。……あれは当時の夢か原田が俺の妄想によるそら耳だったのか、それとも……今の原田の中の気持ちなんだろうか。俺はそれが聞きたい」

「先生……」


 鼓動が激しくなって顔が赤くなる。

 覚えている。


 先生が好きだと、一緒にいたいと言った。


 あれは夢じゃなかったんだ。そして先生に聞こえていたんだ。


 言葉に出すのが怖い。

 もし、ここで答えを言ったら、偶然にも店員とお客さんという立場で再会した私たちのこれからが消えてしまうかも知れない。

 でも、ここで何も言わない方が、今度は私に後悔を残してしまうかもしれない。



「先生……」


 5分くらいかも知れない。私はギュッとつぶっていた目を開ける。

 私の正面に先生が身動きせずに正座で待っていてくれた。


「今……です。私の気持ちはあの時から何も変わっていません」


 お店で会っていれば、いつかは分かってしまうことだ。

 それに、もう立場的にも隠す必要はない。

 これで再び振られても仕方ないと覚悟を決めて伝えた。

「そうか、分かった」

 本当に無茶苦茶なことを言ったはずなのに、先生は逆にスッキリした顔で優しく頷いてくれた。


「原田、今週の土曜日は予定あるか?」

 壁に貼られているカレンダーのその日に何も印が付いていないことを確かめながら聞いてくる先生。

「いいえ、特に何も予定はありません」

 その日は特に私の予定もなかったから、お昼の時間だけ菜都実さんのお店でお仕事だ。

 菜都実さんは用事が入った時は遠慮なく休んでいいよと言ってくれる。

「じゃあ、久しぶりにドライブにでも行くか?」

「い、いいんですか?」

「どうする? 車酔いするというなら別に考えるぞ」

「大丈夫です! 先生の運転で酔ったことありませんよ?」


 でも、今回は学校の修学旅行の時とは全然意味が違うと瞬時に感じる。

「俺の人生の中で、こんなことをするのは初めてだ」

 先生からスマートフォンを取り出して、お互いの連絡先を交換した。

 そうだよね。プレゼントすら受け取らないのだから、個人の連絡先を知った生徒はこれまでいなかったと思う。

「今日はきっと寝られません……」

 帰り際、門の外まで出て、いつもと同じように見送ることにした。

「でも俺はまだ答えを言ってないだろ」

「いいんです。私、自分の言葉で言うことが出来たんです。それだけでも、私にとってはものすごい進歩です」

「そうだよな。また熱出すなよ? 土曜日は俺も楽しみにしてる」

「はいっ!」

 その代わり、先生は金曜日まで残りの3日間はお店に来られないと言った。

 少し残念だけど、それに深く追求するつもりはなかった。先生も大人で社会人だもの。いろいろと事情があっても不思議じゃない。

 その日、最後に画面に表示されたのは、先生からの「おやすみなさい」だった。

 私は同じ言葉をすぐに送信して、その名前と言葉が表紙された画面を抱きしめながら再びお布団に入って眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...