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第24話 第6章 山城の意地④
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宿屋連盟ウトバルク支部は、時が止まったかのように緩やかな時間が流れている。
窓を開けなくても分かるほど、相変わらず兵士が巡回する足音が聞こえた。だが、壁を一枚を隔てたこの場所は、平和そのものと言っても良い。
「彩希さん、遅いですね」
「そう、だな。ウルドに捕まったりしてないよな」
黒羽は最悪の光景が脳裏に浮かんだが、すぐに頭を振って追い払った。
「たぶん、そうなる前に大暴れするはずですから、大丈夫じゃないですか? 大人しく捕まるような人じゃないでしょう」
「確かに、見つかってたら城が今頃粉微塵になってるだろな」
頬がほころんだ。きっと見つかった瞬間に彼女はドラゴンに変身して、ウルドと戦うだろう。
「黒羽さん、野菜を切り終えましたよ」
黒羽はレアが切った野菜を見た途端、ほうと感心した。
「お、凄いじゃないか。前よりも上手に切れているぞ」
まだ、荒いところはあるが、出会った頃の彼女に比べると雲泥の差がある。黒羽はジーンと胸が熱くなった。
「私、頑張りましたから。誉めてください」
胸を張り、得意げな笑みを浮かべるレア。あまりの可愛らしさに、黒羽は頭をこれでもかと撫でまくった。
「ちょっと黒羽さん」
「本当によく頑張ったな。俺、なんだか嬉しくって」
涙目になりながら、笑う黒羽を見てレアは複雑そうに微笑んだ。
(たぶん、妹が成長したような気持ちなんですよね。……妹じゃ嫌です)
レアは、決意を込めた瞳で黒羽を見る。
「レア?」
彼女の様子に気付いて、黒羽は顔を覗き込む。
(よーし、行っちゃえ)
レアは素早く黒羽の頬にキスをして、抱きついた。
「! え?」
「えへへ、誉めてくれるなら、これくらいしてくれないと」
唖然とする黒羽に構わず、レアは頬を朱に染めながらも一向に離れなかった。
やれやれ、何だか昔俺に懐いてた猫みたいな反応だな、と黒羽は困ったように笑っていると、
「おい、秋ちゃん。二股は感心しねえな」
山城の野太い声が聞こえた。
驚いて厨房の入り口を見ると、山城が甲冑姿で立っている。
「ど、どうしてここに?」
「あー、そいつぁだな。彩希ちゃんにお願いをして、俺と入れ替わってもらった。これを、預かってる」
山城の手には、落としたはずの鍵が収まっていた。
「入れ替わったということは、彩希は城の中ですか?」
「おう。本当にすまねえ。心配だろうなぁ。でもよ、俺はどうしても嫁さんに会いたい。こんなことになってしまって、もう……会えねえんじゃねえか思うと怖くてな」
「……そう、ですか」
黒羽は苛立ちが、泡のように膨らんでいくのを感じた。俺に相談もなく勝手なことを。もし入れ替わりがバレたら大変じゃないか。
――でも、彩希は入れ替わりを承諾した。
「黒羽さん?」
レアの声に、引き戻された。黒羽は何とか笑みを形作ると、山城へ話しかけた。
「無事でよかった。食事を作ってたんです。あー、鎧姿じゃ疲れるでしょう。レイモンドさんにお願いをして着替えてきてください」
「おう、そうさせてもらうさ」
黒羽の顔は笑っている。山城はそんな彼の表情ではなく、目を見ていたが何も言わずにレイモンドの名を呼んだ。
窓を開けなくても分かるほど、相変わらず兵士が巡回する足音が聞こえた。だが、壁を一枚を隔てたこの場所は、平和そのものと言っても良い。
「彩希さん、遅いですね」
「そう、だな。ウルドに捕まったりしてないよな」
黒羽は最悪の光景が脳裏に浮かんだが、すぐに頭を振って追い払った。
「たぶん、そうなる前に大暴れするはずですから、大丈夫じゃないですか? 大人しく捕まるような人じゃないでしょう」
「確かに、見つかってたら城が今頃粉微塵になってるだろな」
頬がほころんだ。きっと見つかった瞬間に彼女はドラゴンに変身して、ウルドと戦うだろう。
「黒羽さん、野菜を切り終えましたよ」
黒羽はレアが切った野菜を見た途端、ほうと感心した。
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まだ、荒いところはあるが、出会った頃の彼女に比べると雲泥の差がある。黒羽はジーンと胸が熱くなった。
「私、頑張りましたから。誉めてください」
胸を張り、得意げな笑みを浮かべるレア。あまりの可愛らしさに、黒羽は頭をこれでもかと撫でまくった。
「ちょっと黒羽さん」
「本当によく頑張ったな。俺、なんだか嬉しくって」
涙目になりながら、笑う黒羽を見てレアは複雑そうに微笑んだ。
(たぶん、妹が成長したような気持ちなんですよね。……妹じゃ嫌です)
レアは、決意を込めた瞳で黒羽を見る。
「レア?」
彼女の様子に気付いて、黒羽は顔を覗き込む。
(よーし、行っちゃえ)
レアは素早く黒羽の頬にキスをして、抱きついた。
「! え?」
「えへへ、誉めてくれるなら、これくらいしてくれないと」
唖然とする黒羽に構わず、レアは頬を朱に染めながらも一向に離れなかった。
やれやれ、何だか昔俺に懐いてた猫みたいな反応だな、と黒羽は困ったように笑っていると、
「おい、秋ちゃん。二股は感心しねえな」
山城の野太い声が聞こえた。
驚いて厨房の入り口を見ると、山城が甲冑姿で立っている。
「ど、どうしてここに?」
「あー、そいつぁだな。彩希ちゃんにお願いをして、俺と入れ替わってもらった。これを、預かってる」
山城の手には、落としたはずの鍵が収まっていた。
「入れ替わったということは、彩希は城の中ですか?」
「おう。本当にすまねえ。心配だろうなぁ。でもよ、俺はどうしても嫁さんに会いたい。こんなことになってしまって、もう……会えねえんじゃねえか思うと怖くてな」
「……そう、ですか」
黒羽は苛立ちが、泡のように膨らんでいくのを感じた。俺に相談もなく勝手なことを。もし入れ替わりがバレたら大変じゃないか。
――でも、彩希は入れ替わりを承諾した。
「黒羽さん?」
レアの声に、引き戻された。黒羽は何とか笑みを形作ると、山城へ話しかけた。
「無事でよかった。食事を作ってたんです。あー、鎧姿じゃ疲れるでしょう。レイモンドさんにお願いをして着替えてきてください」
「おう、そうさせてもらうさ」
黒羽の顔は笑っている。山城はそんな彼の表情ではなく、目を見ていたが何も言わずにレイモンドの名を呼んだ。
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