異世界帰還〜案内人を頼まれました〜

慧斗

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9.回想〜日本での日常の終わり〜

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 そもそも、なぜ僕が彼らと共にこちらに急遽きゅうきょ帰ってくることになったのか。
 本来の予定では日本で大学を卒業するまで――つまり後3年半の猶予ゆうよがあったはずなのだ。
 残暑はあれど秋も近付き涼しくなってきて、だいぶ過ごしやすい時期になってきた頃。
 連休には温泉巡りや少し先の予定で紅葉狩りとかの、旅行の計画なんかも立てて期待に胸をおどらせていただろうに。
 しかし――いざふたを開けてみれば旅行先は国内でも海外ですらなく、異世界でした――とさ。


◆◇◆◇◆◇


 何気ない日常っていうのは、ある時突然、何の前触れもなく劇的に変化してしまうもので――。

 その日、僕はいつも通り大学へ向かうために駅のホームに立っていた。
 半年も経てば大学への道筋や乗り換えも慣れるというもの、と言うか…やっと慣れたところと言うか。
 覚えるのは簡単なんだけど、通勤通学ラッシュは慣れないんだよな……。
 あの押し合いへし合い具合、無理矢理押し込まれるのは正直キツイものがあるだろう。

「よお、蓮! おっはよーさん!」
「蓮も同じ時間なんてな」

 久しぶりのラッシュの時間に気力を削がれていると、後ろから弾むような元気な声に肩を組まれながら挨拶されて顔を覗きこまれる。
 反対側からは背中をポンと叩かれて逆に眠そうな声で話しかけられた。
 ちなみに蓮と言うのは僕の日本で使ってる名前だ。
 水城みずきれん。どこにでもいる普通の大学生。

「おはよ。智貴、拓人。2人はいつも同じ時間なのか?」
「んにゃ、違う。今日はたまたま~」
「3人揃って通学なんて、珍しいこともあるもんだな」

 そう、大学は同じでも3人一緒に通学なんて多くはない。
 まぁ通学では無いってだけで他は行動を共にすることが多いけどね。
 昼食も学食でよく一緒に食べてるし、休講になった時や週末も時間が合えばつるんで遊んだりもする。

「わぁ、久しぶりですね! 拓人君、蓮先輩。もぅ、お兄ちゃん! 蓮先輩が困ってるよ」
「あ、本当だ。智貴先輩もお久しぶりです」
「久しぶ――」
「困ってないよな!? 蓮! 酷いこと言うなよ、沙貴ぃ」
「今だって蓮先輩が話そうとしたのを遮ったくせに」
「お前が酷いこと言うからだろ?」

 沙貴と香菜は同じ部活で最寄り駅も同じせいか、結構仲が良いみたいだ。
 一気に騒がしくなったなぁ…これなら憂鬱ゆううつだったラッシュも楽しめそうだ。たまにはこういうのも良いかもしれないな、なんて思ったり。
 気恥ずかしくて本人達には言えないけれど。

「おや、おはようございます。皆さんお揃いですね?」
「お、おはようございます」

 樹が亮輔と共に近付いて来た。
 なんとこの2人、マンションのお隣さんらしい。教え子と言うよりも年の離れた弟みたいに思ってるって前に言っていた。

「おはよ。樹先生」
「蓮君、一人暮らしって言ってたけど大丈夫かい?」
「大丈夫、心配性だなぁ」

 高校の時にポロッと一人暮らしをしてるって言ったもんだから、顔を合わせるとこうやって何かと気にかけてくれている。

「樹先生、オレはオレは?」
「はは、智貴君は実家暮らしでしょう? 妹さんから聞いてますよ」
「まぁそうだけど、蓮だけ贔屓ひいきはいけないんだぜ、先生?」
「ふふ、それはすみませんでした」

 樹は先生達の中では年が近いこともあって、フレンドリーに接してくれている。
 特に文芸部はOBも含めて部員を名前で呼んでいることからも分かるだろう。

「一人暮らしって言ったら先生も同じじゃないのか?」
「そうですが、う~ん。先生はもう10年ですからね」
「慣れた?」
「はい、慣れました」

 ヘラッと笑顔を見せる樹はたれ目が強調されて、30歳手前には見えないくらい若い。と言うか幼い? …は失礼か。
 童顔なの気にしてたしな~。

「樹先生、笑うと高校生って言っても疑われないかも」
「智貴君……せめて大学生にしてください」
「あはは~」

 あ、笑って誤魔化したな智貴のやつ。ていうか言っちゃうんだ。
 久しぶりに揃ったメンツで他愛のない会話をしつつ、地下鉄が来るのを待っていたら突如、耳障りな音がした。
 黒板やガラスを爪で引っ掻くような嫌な音。
 辺りを見回しても誰も気付いていないようで、思い思いに過ごして地下鉄が来るのを待っている。
 僕の気のせい? それとも幻聴なのか?
 音は更に大きくなって鳴り響くため、我慢しきれずに耳を塞いで目を固く閉じて耐えようとして、眉間にしわまで寄ってしまった。

「蓮!? どうしたん?」
「蓮、頭痛か?」

 僕の異変にいち早く気付いた智貴と拓人が心配そうに声をかけてきた。

「……ぅ、ぁ……だい、じょぶ。……変な、音、聞こえ…ない?」
「変な音? ………いや、聞こえないけど」
「本当に大丈夫か? 今日は病院に行ったほうが良いんじゃないか?」

 小さい声で途切れ途切れになってしまったけど、聞き取ってくれて辺りに耳をすましたみたい……でも何も聞こえないらしい。
 この音は僕にしか聞こえていない?
 すると音は先程よりも更に大きく鳴り響く。耳を塞いでも全く意味が無い。
 なぜならその音は僕の脳内に直接届いているようで、その振動で脳が揺さぶられる感覚におちいってしまう。
 乗り物酔いしたような状態で吐き気がして気持ち悪い。

「………うぇっ」
「蓮君!! 取り敢えずベンチに移動しましょう?」

 本当に吐くわけじゃないけど思わず手を口に当てて小さくうめくと樹が背中を擦りながらベンチへと誘導してくれる。
 すると皆が心配してついて来た。

「蓮君、何か持病とかありました?」
「………ない」

 樹の問いかけに簡潔に答える。鏡を見なくても分かる、今の僕の顔色はきっと真っ青だろう。

「あの、良かったらこれどうぞ。まだ開けてないから」
「すみません、ありがとうございます」

 女性がミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくれたので、樹が代わりに受け取ってお礼を言っていた。
 顔を上げると大学生くらいだろうか、ボーイッシュな女性が心配そうに見下ろしていた。

「あり、がと」
「いえいえ、どういたしまして。大丈夫?」
「た、ぶん?」
「無理しないほうが良いよ」

 笑顔を作ったつもりだけど、余計に心配されてしまった。
 というか少しずつ人が集まって来てないかな?
 ただでさえラッシュで人が多い時間帯なのに、変に注目されたくないな…。
 相変わらず耳障りな音は僕だけにしか聞こえていない――という事は、だ。考えられる理由は……――。

 ―――ピキ、ピキピキ……パキンッ―――

 やっぱり!!
 さっきまでの耳障りな音は時空に歪みが生じる音で、今のガラスが割れるような音は裂け目が出来た音だ!

「ちょっ、足元! 何か変だ、何も無いのに裂け目みたいなのがっ!」

 ―――パキパキ、バキンッ―――

 ヤバイヤバイ!!
 状況を把握した時にはもう既に遅くて、見る見る内に裂け目は広がっていってあっという間にホームにいた大勢の人達を一瞬にして消し去ってしまった。

━━━━━━━━━━

元々は主人公(ルーティス)のステータスについて書いてましたが、色々と捕捉説明がいりそうになったので…。
後回しにしてもう少し話を進めてからにしようと、新たに話を書くことにしました。
事の発端というか、経緯について書いていきます。
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