異世界帰還〜案内人を頼まれました〜

慧斗

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12.回想〜任命〜5/20追記

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 皆が立っていた場所を眺めていると視線を感じて顔を上げる。
 まぁさっきの話の流れから用件は見当が付くけどね。

「さて、聞いておったな?」
「はい、グランディオ様」

 呼ばれたので消していた気配を戻して近付き、目の前まで行くと片膝を付いてひざまずく。

「あの者らの案内人を任せたい」
「承りました」

 だろうと思ったよ。だって彼らと話している最中に僕の方を見ていたし。

「ルーよ。儂はそなたの思考も読めるのじゃぞ? 本音と建前で随分と口調が違うのう?」

 やっぱりバレてーら。さっきもどうせ気配消してても、思考を読んでたんだろうね。

「ルー」
「わかってますよ、口調でしょう?」
「ふむ。わかっておるのなら、なぜじゃ?」
「それはグランディオ様が主神だからですよ」
「しかし、そなたは儂の眷属けんぞくじゃろうが」
「そうですよ…むしろ、だから、です」

 さすがに考えるのと話すのとは別だと思う。それよりも聞きたいことがあるんだよね。

「聞きたいこととはなんじゃ?」
「………ナチュラルに思考を読まないでくださいよ」
「細かいことを気にするでない。それで?」

 細かいかなぁ? 思考を読まれるって大事おおごとだと思うけど?

「ルー」
「……はい、わかりました。実は…時空の狭間に残された、他の人達のことです」
「やはり、そのことじゃったか」

 観念して僕が話し出すと、グランディオ様も勘づいていたようだった。
 というよりも気にしていたって言った方が正しいかもしれない。

「儂の力ではそなたと先程の者達だけで限界じゃった。すまんのう」
「いえ、グランディオ様は悪くありません」
「そうか…」

 グランディオ様は心底申し訳なさそうに謝るので言わなければ良かったと後悔してしまう。
 でもどうしても確認しておきたかった。

「グランディオ様。転移させた彼らは事故死なら、まだ時空の狭間にいる彼らのことはどうなっているのですか?」
「そうじゃな、現時点では行方不明というところじゃないかのう」
「現時点では?」
「そなたも解っておろうが、あの場所は自力で脱け出すのはほぼ不可能じゃ」
「……はい」

 それは実際に体験したばかりだから良く解る。正直な話、とても怖かったしな。
 身体が朽ち果てるよりも先に精神的に参って、心が壊れてしまっていただろう。

「つまり神が手を貸さねばならぬということじゃ。そして手を貸した神の管理する世界へと魂は順応するわけじゃが…。そこで初めて元いた世界では死んだことになるのじゃ。だがしかし……儂のところでは、もう受け入れてやることは出来ぬ」
「ということは、時空の狭間にいる彼らは地球では生死が判明していないから行方不明だと?」
「そうなるな」

 そんな……それじゃあ、地球の神様が手助けしてくれるまで彼らはあんな場所に閉じ込められたまま?
 いつ来るかも解らない助けを待ち続けなければならないと?
 もしかしたら間に合わずに死んでしまうかもしれない。
 仮に間に合っても心が壊れて手遅れになってしまうかもしれない。

「………そんなの、あんまりだ……。きっと、耐えられない…」
「ルー……」

 名前も顔も知らない人達だけど、彼らにだって家族がいて帰りを待ってくれている相手がいたはずなのに…。
 彼らの心情を思うと悔しくてやるせなくて、グランディオ様の顔を真っ直ぐ見ることが出来ずにうつむいてしまう。
 そんな僕の頭を落ち着くまで優しく撫で続けてくれた。
 どれくらいの間そうしていただろうか、やっと落ち着いてから話を切り出した。

「グランディオ様、ひとついいですか?」
「なんじゃ?」

 ひとつ思い至ったというか、疑問に思っていたけれどそれどころじゃなくて頭の隅に追いやっていたことを思い出した。

「時空の歪みの原因って、何ですか?」

 時空の歪みなんて、そうそう起きるような現象じゃない。
 だって時空の歪みを切っ掛けに発生する裂け目は天変地異の前触れだとか、魔獣の活性化だとかで、過去に大混乱した程なのだ。
 それが起こったのなら、何らかの原因があるはずだけど……。

「今のところ、原因は解っておらん」
「……そうですか…」
「すまんな、だが警戒はしておいてくれんかのう?」
「はい、グランディオ様。……そういえば、彼らに与えたスキルはあの5つで全部ですか?」

 つらそうな顔を見ているのが嫌で自分から振った話題を無理矢理変えた。
 グランディオ様もその意図に気付いたようだがフッと微笑んだだけで何も言わなかった。

「いや、その他にもそれぞれ別のスキルを与えておいたが…後は頼むからの」
「はい、それとスマホですが。電気が無いのに充電はどうするおつもりで?」

 写真だけとはいえスマホを使うなら充電しなければならないが、電気なんて無いんだけど。
 地球での家電製品はこちらなら魔道具マジックアイテムだが、動力源は魔力だ。
 あ、もしかして?

「そうじゃ、ルーの物と同じで魔力で動くようにしてあるから、それも説明しておいてくれんか?」
「承りました。グランディオ様」

 相変わらず普通に思考を読んでくるのはスルーしておこう。同じやり取りを繰り返すだけだしね。
 僕も彼らと同じでスマホを持っている。日本でスマホが無いと色々と不便だし。
 そして既にこちらでも使えるように改良済みだ。
 グランディオ様は意地でも変えない僕の口調に苦笑いをしていたけれど、そこはきちんとけじめが必要だと思うんだよね。

「ならばルーよ、せめてグランディオと堅苦しく呼ばずにグランでもディオでも構わんから、呼び方を変えるつもりはないかの?」
「……………はい?」

 いやいや、ちょっと待って。突然のことで思考停止しちゃって返事が遅れたよ。
 何だって?

「じゃから呼び方を変えないか、と聞いたんじゃ」
「えぇ、それは聞こえました。ただ…主神を愛称で呼べと仰るんですか?」
「その通りじゃ」
「えぇ~……、それはどうかと思いますけど?」

 だって主神だぞ? 主神を愛称って恐れ多くないだろうか?

「その主神みずから構わないと言っているのだから気にするでない」
「…えっと……、考えておきます」
「仕方がないのう、これ以上無理強いするのも心苦しいので止めておくか」

 助かった~! ここで決めて良いことじゃないと思うんだよね。

「そなたのことは我が子や孫のように思っておる。その相手に堅苦しい呼ばれ方は好かんのでな」
「そう思ってもらえるなんて、嬉しいかぎりです」
「じゃが期待しておるぞ?」
「あ…あはは~……はい…」

 ヤバい、乾いた笑いしか返せないよ…。
 居心地が悪くなる前に去った方が良さそうだな。

「それでは、グランディオ様。只今戻りました、それから行って参ります」
「頼んだぞ、ルーナティア」
「はい!」

 普段は「ルー」と愛称で呼ぶのに、今は「ルーナティア」と正式な名前で呼ばれた。
 なんだかくすぐったいけど嬉しくて、自分でも気付かないうちに笑顔で返事していた。
 それを見たグランディオ様は優しい顔で見送ってくれた。

 そして僕は彼らが降り立った場所を探して近くへと転移した。


◆◇◆◇◆◇


 そして現在、僕達は小屋で休息を取っている真っ最中――と、言うわけだ。
 明日の天気、どうなんだろ?
 晴れなら皆が寝る前に話した通りに先に進むけど、雨もしくは崩れそうな空模様だったらもう1日休んでおいた方が良いかもしれない。
 ついでにこちらの世界について色々と話しておく必要があるし。
 何せグランディオ様、一般常識のことを忘れてたみたいだしなぁ。

━━━━━━━━━━

大型連休も今日で終わりですね。
連休で書き貯めてたのはこれで最後なので、またスローペースに戻ります。
明日以降は週に1話か2話くらいが目標です~。

※追記
前話で書いた追加したいエピソードは神域を立ち去る直前のやり取りです。
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