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16.竹林に行こう

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 それじゃあ移動しますかね~。時間短縮のために風魔法をかけておこうか。

「《加速アクセル》」

 風をまとった状態で地面を蹴りだして竹の群生地へと走り出す。反動でドンッと言う破裂音と軽い地鳴りが聞こえたのは無かったことにしよう…。ちょっと勢いつけすぎたみたいだな。
 森の中を高速で走り抜けているせいか素肌が出ている顔にあたる風が冷たい。夜風が僕の身体から体温をじわじわと奪っていく。
 失敗したな…風の膜も張っておくんだった。今からでも遅くないよな? 風魔法で身体を風の膜で覆って保護しよう。
 あ~…にしても寒い、さーむーいー! これ以上冷えないようにしただけだから、一度下がった体温はそのままなんだよなぁ。わかってるよ、自業自得だろう? あぁもぅ、誰に言い訳してるんだろ、僕は…。
 気分を切り替えて別な事を考えよう。帰りはちょっと散策しながらにしようかな。食料の調達はテトに頼んではいるけど、前と違う所がないか僕も調べたいし…。ウィズを信頼してないわけじゃないけど、自分の目でも確認したほうが良いだろうし。
 考え事というか自問自答? …んー、ひとりノリツッコミ? なんでも良いけどそれを続けながらも走り続けること30分弱で目的地に到着した。
 景色は鬱蒼うっそうな森から竹林へと様変わりしている。春ならたけのこがたくさん生えそうだ。

「どれが良いかな~?」

 適度な太さがあって真っ直ぐ伸びている竹が良いな~。
 時折立ち止まって竹に触れて質感を確かめながら、竹林をゆっくりと品定めしながら進んでいく。
 竹の匂い、草の匂い、地面を踏みしめる音、風で揺れて笹の葉が擦れる音。静かな夜だから日中は気にならない音もよく聞こえてくるのがとても心地良い。
 ある竹の前で立ち止まって両手を添えて、目を閉じて額をつける。

「あぁ、これが良いな。《風刃ウィンドカッター》」

 竹に向けて複数の風の刃で輪切りにして、先程と同じように地面に落ちる前に収納していく。
 立派な竹だったし充分だろ。目的を果たしたことだし帰ろっと。
 来る時は直線で突っ切って来たから帰りは迂回ルートにしよう。
 風魔法なしで普通に走りながら、ふと思い立ってテトに念話を繋いで状況を確認する。

『テト?』
『はーい、なーに?』
『何が採れた?』
『えっとねー、リンゴと柚子でしょー、それにブドウもあったよ! あとは栗とクルミとクランベリー! それとねそれとね、ほめて! ハチミツ見つけたの! えらい?』
『うん、えらいえらい。お手柄だよ、ありがとう』
『えへへ~、ほめられた~! あと茸も見つけたの~』
『テト、凄いよ。適当に切り上げて小屋まで戻っておいで。僕もこれから帰るから』
『はーい! またあとでね、ルー』

 テトとの念話を切った後も嬉しそうな声が残っている感じがする。  
 テトはかなり頑張ってくれたみたいだ。茸だけじゃなく木の実や果物も色んな種類が採れたみたいだし、何より蜂蜜。地球と違いこちらの世界で甘味は貴重で、砂糖は一部の地域でしか生産されていない。
 だから果物ってだけで収穫なのに蜂蜜まで手に入れるなんて……帰ったらテトを甘やかしてやろう。
 次はゼファーに念話を繋いで話しかける。

『ゼファー?』
『ルー? どうかした?』
『いや、何か仕留めたかな~と思って』
『………まだ』
『まだ?』
『…………うん……。弱いの逃げるんだもん』

 あ~…そうか。ゼファーって身体も大きいし、結構強い部類なんだよね。狩りに行く気満々で出ていったから身体も大きいままだったし怯えてるんだな。
 かなりしょげてるな~。声に覇気が全くない、というかいじけてる?
 ここはアドバイスしたほうが良い……よね?

『ゼファー、身体小さくしたらどう?』
『小さくしたらボクも弱くなっちゃうよ?』
『ゼファーなら小さくなっても勝てると思うけど?』
『ん~、わかった。小さくなってみるよ』

 ゼファーと念話を終了させる。
 これで何か仕留められたなら少しは元気が出るかな? ビッグボアの肉が大量にあるから困らないんだけど、ゼファーの好きにさせてやりたいし。
 さて…あまり時間をかける訳にはいかないけど、僕はテトが見つけた物以外で何かないか探してみようかな~。

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お久しぶりです!
1ヶ月ぶりの更新ですみません!!
ちょっと体調を崩してまして……短めです。
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