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煌めくシャンデリアの下では、本年度の卒業生たちが並べられた料理に舌鼓を打ちつつ、グラスを片手に同級生や恩師たちとの和やかな会話に花を咲かせていた。
学生という身分は本日で終わり、明日からは一貴族として、それぞれの道を歩むことになる。そんな不安と期待を胸に、別れを名残惜しんでいると。
「クラリッサ・ルミエール!」
不躾な声に、会場にいる全員の眉が僅かにひそめられた。
その方向に反射的に顔を向ければ、檀上にて第一王子であるアデル・グランディオスが、芝居がかった仕草で指を突きつけている。その反対の腕には、シルバーブロンドの男爵令嬢イレーネ・グラーフがうるうるとした瞳で縋り付いていた。
「なにごとでしょうか、アデル様?」
クラリッサは静かに答えた。高く結い上げられた金髪が眩しい。
そんな彼女をアデルは真っすぐに睨みつけ、叫んだ。
「お前のような性悪な女とは婚約破棄だ! 私は真実の愛であるイレーネと新たに婚約を結び直す!!」
その発言に、空気はさらに変わる。
そう、ただ『変わった』だけ。
「まあ、嬉しいですわ! アデル様」
イレーネが頬を染めて嬉しそうにアデルを見上げる。
「さようでございますか。確かに承りました」
クラリッサは淡々と冷静に答え、優雅なカーテシーを披露した。
瞬間。
ざわざわと周囲の騒めきが戻った。
「海を挟んだ島国に留学するんだろう?」
「ああ、独自の文化を直に見たくてさ」
「手紙くらい出せよ」
「分かってるって」
「もう皆様と毎日会えないのは、寂しくなりますわ」
「ええ……。もう授業帰りにカフェに寄ったりできないのね」
「お茶会の招待状は送りますから、ご都合がよろしければ是非いらしてくださいな」
「まあ、嬉しいわ。私の方かも送らせていただきますわね」
「先生には本当にお世話になりました」
「君のおかげで何度問題を作らされたか……。少々心配だが、明日からはしっかりと歩いていくようにな」
「はい、がんばります!」
何事も無かったかのようにパーティが再開され、つい先程まで渦中にいた3人は戸惑う。
「お、おい!」
先に声をあげたのはアデルだった。
それでも騒めきは止まらない。華やかな笑い声や会話は、あちこちに咲いたままだ。
「故郷に帰るんだろう? 婚約者とはすぐに?」
「ああ、諸々片付いたらな。お前は?」
「私も同じだ。招待状送っても大丈夫か?」
「もう結婚式の準備は済んでいるの?」
「ええ、彼はもう待ちきれないみたいで」
「あらあら、お熱いこと」
「招待状は近い内に送りますから、是非いらしてね」
「私を無視するのか!? 不敬だぞ!!」
アデルがさらにそう喚くように言えば、さすがにぴたり、と話し声は止んだ。
……が、3人を見つめる目は冷たく、白けている。
「まだ終わっていないのですか?」
そう口に出したのは、アデルたちを担任していた教師だった。
「おかしいですね、出し物の申請書は提出されておりませんが?」
「だ、だしもの?」
「……違うのですか?」
教師の目が、すう、と冷たく狭められる。
「本日は卒業パーティ。この晴れ舞台に色を添える目的であるのなら、多少のことには目を瞑るつもりでいたのですが……」
「完全な私情を持ち込んだ、ということですね。アデル・グランディオス」
絶対零度を思わせる視線に、アデルは反射的に竦みあがった。
「王家という立場を盾に、一生に一度しかない『卒業』という晴れ舞台を壊そうとするとは、なんと愚かなことを。後日、正式に学校から王家に抗議させていだきますので、ご了承ください」
「なっ、私は、そんなつもり、ではっ……」
「貴方がどのような気持ちであろうと、もう遅いのですよ。それからもちろん、この場にいた生徒、教師への慰謝料も併せて請求させていだきます。まあ、微々たるものでしょうが塵も積もればどうなるのでしょうね?」
そう言われ、アデルの目が周りの生徒や教師たちへと動いた。
誰れもかれもが、失望と侮蔑の視線を送っていることにようやく気付いたらしく、声にならない声をあげている。
「それから、他人事のような顔をしていますが、クラリッサ・ルミエール、イレーネ・グラーフ。あなた方の御家にも正式な抗議をさせていただきますので、そのつもりでいるように」
「な、なんでですか!?」
「どうして……!」
2人が心底心外だ、という顔をするのに、教師は軽く溜息を吐いた。
「まず、イレーネ・グラーフ。貴方は明らかにアデル・グランディオスに加担していました。誰が見ても分かる形で」
教師の目線が動いたのにハッと気づいたイレーネは、慌ててアデルに縋り付いていた腕を解いた。もう遅いが。
「そして、クラリッサ・ルミエール。名を呼ばれて出てきたのは当然の反応として、何故か『別室での話し合い』を提案せず、『話を聞く姿勢』に入りましたね」
「まるで婚約破棄を告げられることが、事前に分かっていたようですね」
「そ、そんなことは、ありませんわ!」
震えながら叫ぶクラリッサだが、教師は意に介さない。
「ですが、貴方が『話を聞く姿勢』に入った結果、卒業パーティに水を差したのもまた事実ですよね?」
「それはっ……」
「これ以上は結構」
教師はクラリッサを遮り、冷たい目のまま告げた。
「続きは別室で伺います」
素早く他の教師に囲まれて強制的に会場の外へと連れ出される3人。
担任教師は軽く礼をしてその後を追う。
そうして静かに扉が閉められた直後、会場では騒めきが楽しげに響き渡った。
(終)
学生という身分は本日で終わり、明日からは一貴族として、それぞれの道を歩むことになる。そんな不安と期待を胸に、別れを名残惜しんでいると。
「クラリッサ・ルミエール!」
不躾な声に、会場にいる全員の眉が僅かにひそめられた。
その方向に反射的に顔を向ければ、檀上にて第一王子であるアデル・グランディオスが、芝居がかった仕草で指を突きつけている。その反対の腕には、シルバーブロンドの男爵令嬢イレーネ・グラーフがうるうるとした瞳で縋り付いていた。
「なにごとでしょうか、アデル様?」
クラリッサは静かに答えた。高く結い上げられた金髪が眩しい。
そんな彼女をアデルは真っすぐに睨みつけ、叫んだ。
「お前のような性悪な女とは婚約破棄だ! 私は真実の愛であるイレーネと新たに婚約を結び直す!!」
その発言に、空気はさらに変わる。
そう、ただ『変わった』だけ。
「まあ、嬉しいですわ! アデル様」
イレーネが頬を染めて嬉しそうにアデルを見上げる。
「さようでございますか。確かに承りました」
クラリッサは淡々と冷静に答え、優雅なカーテシーを披露した。
瞬間。
ざわざわと周囲の騒めきが戻った。
「海を挟んだ島国に留学するんだろう?」
「ああ、独自の文化を直に見たくてさ」
「手紙くらい出せよ」
「分かってるって」
「もう皆様と毎日会えないのは、寂しくなりますわ」
「ええ……。もう授業帰りにカフェに寄ったりできないのね」
「お茶会の招待状は送りますから、ご都合がよろしければ是非いらしてくださいな」
「まあ、嬉しいわ。私の方かも送らせていただきますわね」
「先生には本当にお世話になりました」
「君のおかげで何度問題を作らされたか……。少々心配だが、明日からはしっかりと歩いていくようにな」
「はい、がんばります!」
何事も無かったかのようにパーティが再開され、つい先程まで渦中にいた3人は戸惑う。
「お、おい!」
先に声をあげたのはアデルだった。
それでも騒めきは止まらない。華やかな笑い声や会話は、あちこちに咲いたままだ。
「故郷に帰るんだろう? 婚約者とはすぐに?」
「ああ、諸々片付いたらな。お前は?」
「私も同じだ。招待状送っても大丈夫か?」
「もう結婚式の準備は済んでいるの?」
「ええ、彼はもう待ちきれないみたいで」
「あらあら、お熱いこと」
「招待状は近い内に送りますから、是非いらしてね」
「私を無視するのか!? 不敬だぞ!!」
アデルがさらにそう喚くように言えば、さすがにぴたり、と話し声は止んだ。
……が、3人を見つめる目は冷たく、白けている。
「まだ終わっていないのですか?」
そう口に出したのは、アデルたちを担任していた教師だった。
「おかしいですね、出し物の申請書は提出されておりませんが?」
「だ、だしもの?」
「……違うのですか?」
教師の目が、すう、と冷たく狭められる。
「本日は卒業パーティ。この晴れ舞台に色を添える目的であるのなら、多少のことには目を瞑るつもりでいたのですが……」
「完全な私情を持ち込んだ、ということですね。アデル・グランディオス」
絶対零度を思わせる視線に、アデルは反射的に竦みあがった。
「王家という立場を盾に、一生に一度しかない『卒業』という晴れ舞台を壊そうとするとは、なんと愚かなことを。後日、正式に学校から王家に抗議させていだきますので、ご了承ください」
「なっ、私は、そんなつもり、ではっ……」
「貴方がどのような気持ちであろうと、もう遅いのですよ。それからもちろん、この場にいた生徒、教師への慰謝料も併せて請求させていだきます。まあ、微々たるものでしょうが塵も積もればどうなるのでしょうね?」
そう言われ、アデルの目が周りの生徒や教師たちへと動いた。
誰れもかれもが、失望と侮蔑の視線を送っていることにようやく気付いたらしく、声にならない声をあげている。
「それから、他人事のような顔をしていますが、クラリッサ・ルミエール、イレーネ・グラーフ。あなた方の御家にも正式な抗議をさせていただきますので、そのつもりでいるように」
「な、なんでですか!?」
「どうして……!」
2人が心底心外だ、という顔をするのに、教師は軽く溜息を吐いた。
「まず、イレーネ・グラーフ。貴方は明らかにアデル・グランディオスに加担していました。誰が見ても分かる形で」
教師の目線が動いたのにハッと気づいたイレーネは、慌ててアデルに縋り付いていた腕を解いた。もう遅いが。
「そして、クラリッサ・ルミエール。名を呼ばれて出てきたのは当然の反応として、何故か『別室での話し合い』を提案せず、『話を聞く姿勢』に入りましたね」
「まるで婚約破棄を告げられることが、事前に分かっていたようですね」
「そ、そんなことは、ありませんわ!」
震えながら叫ぶクラリッサだが、教師は意に介さない。
「ですが、貴方が『話を聞く姿勢』に入った結果、卒業パーティに水を差したのもまた事実ですよね?」
「それはっ……」
「これ以上は結構」
教師はクラリッサを遮り、冷たい目のまま告げた。
「続きは別室で伺います」
素早く他の教師に囲まれて強制的に会場の外へと連れ出される3人。
担任教師は軽く礼をしてその後を追う。
そうして静かに扉が閉められた直後、会場では騒めきが楽しげに響き渡った。
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