黄仁の花灯り

鳥崎蒼生

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秘密

第1章 5-3

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そこまで一気に話したが、宇航ユーハン様はその間、一言も話を遮らずに聞いてくれた。
まぁ驚いて声が出なかったか、私の話が信じられずに呆れて聞くに堪えなかったと言う場合もあるが・・・
「それが、君の秘密・・・という事か?」
やっと話し終えた私に、温かいお茶を注いでくれた。私はそれを一気に飲み干す。
「そうです。滑稽でしょう?人が聞けば、私の頭がおかしいと思われて当然な話です。だから誰にも話していないし、灯鈴には、幼い頃、私が話したようですが、こんなに詳しくは話していません。」
さて、宇航様はどう出るか。信じなくてもいい。信じられない話をしているのだから。誰にも話さないという条件だけ守ってくれれば、それいい。
頭のおかしな人間だと思えば、追い出されたってかまわない。
「まぁ普通なら、信じないだろうね。あまりにも突拍子もない話だからね。」
(やっぱり、そうですよね・・・)
この世界の他に、そんな世界があるという事自体、常識を逸脱した話なのだから。私が逆の立場なら、きっと信じない。
「信じなくてもいいんです。ただ、他には話さないという約束だけは守ってください。話も忘れてもらって大丈夫です。こちらが勝手に話したことですから。」
「信じない、とは言っていない。ただ、頭を整理する必要はあるが・・・君は桜なのか、桜綾オウリンなのか、とかね。」
それは私も悩んだ。私は桜なのか、桜綾なのかと。けれど、私はここで桜綾として生まれ、桜綾として扱われてきた。例え過去の、前世の記憶があったとしても、私は桜綾なのだ。
「私は桜綾として生きています。桜としての記憶はありますが、私はあくまでも桜の記憶を持っているだけで、痛みも苦しみも桜綾として、受けてきました。だから、私は桜綾です。」
桜は桜の人生を生きた。だから私は桜綾の人生を生きると決めた。桜の願いを知っているから。
「君は桜の記憶が嫌ではないのかい?」
「正直、分かりません。混乱して、おかしくなりそうな時もありました。でも、彼女の、桜の気持ちが理解出来てしまうのです。だから私は、ここまで生きてこられました。もし、彼女の願いがなければ、とっくに死んでいたかも知れません。それに、彼女の記憶のお陰で、師匠と出会って、そしてここにいます、だから、悪い事ばかりでもないんです。」
「確かに君が希(まれ)に私の知らない言葉や、知識を持っていることが気にはなっていたが、まさかそんな事とは思ってもみなかった。と言うか考えもしなかった。」
「私がおかしいとはお思いにならないのですか?普通、そこは気持ち悪いとか、信じられないとか、化け物かとか・・・、そういう反応では?」
今まで冷静に話しをしていたが、ふと宇航様の反応に疑問を持った。普通の反応ではない。誰にも話したことがないけれど、もっと驚いたり、訝(いぶか)しんだりする物ではないかと思うのだが・・・いやいや、混乱しすぎて宇航様の思考が停止しているとか・・・。
「あぁ確かに、普通ならそうかも知れないね。でも、君が言うことを否定する根拠がないだろう?と言うか私にはそれを嘘だと証明が出来ないしね。それに、君がここまでして打ち明けたことを、信じない方が難しいし、君の知識はいい意味で非常識だ。だから信じる方が容易い。」
言っている事はまともに聞こえるのだが、こじつけているような気もしないこともない。
「もしかして、混乱しています?それとも気を使ってくださっているとか?」
私がそういうと、宇航様は困った顔で笑いながら言う。
「君は私にどうして欲しいんだい?信じて欲しいのか、それとも信じて欲しくないのか?私よりも君の方が混乱しているように感じるのだが?」
「いえ、その、もっと違う反応を想像していたもので。こんなにすんなり、信じてもらえるとは思っていなくて・・・いや、信じてもらえて嬉しいのですが・・・」
「ほら、君の方が混乱している。」
確かに・・・気が抜けたのか、自分が滑稽に思えたのか、可笑しくなってしまった。
「あは・・・あはははははは」
急に私が笑い始めたので、宇航様は目を丸くしている。とうとう、狂ったかと思われたかも知れない。
それでも、笑いが止まらなかった。
自分が背負っていた物がすごく重いと感じていたのに、今、ここでは何でも無かったかの様に感じる。
「何故笑う?私は何もおかしな事は言っていないが・・・」
「ごめんなさい。宇航様がどうと言うことではなくて、何だか肩の力が抜けて。私が隠していたことが、受け入れられるとは思っていなかったし、ましてや信じる人がいるなんて考えもしなくて。」
「私だって驚いてはいるし、君という人を知らなければ、信じていなかったかもしれない。だが、信頼を示すと言った。こんな嘘みたいな話でそんなことを言うとは考えにくいし、君はそんな嘘を付く人間では無い。なら、選択肢は一つだ。君を信じること。」
なんだか大袈裟な言い回しだが、話した私を信じると言いたいのだろう。
「信じてくれてありがとうございます。」
「こちらこそ、話してくれて感謝している。これからは、何でも話して欲しい。」
「そうですね。私も変な言葉とか使ったら、教えて欲しいです。たまに気を抜くと、桜の記憶の中の言葉が出たりするので。特に発明になると・・・説明する言葉が出てこなくて・・・」
ここにない物を作ろうとすれば、説明するのに言葉が足りなくて、つい、桜の記憶にある言葉を口走ってしまう。
「例えばどんな言葉がある?何か面白い言葉がいいな。教えてくれ。」
面白い、の定義が分からないが・・・
「超ヤバいとか?これだけで沢山の意味を持ちます。本来は危ないとか危険とかの意味ですが、可愛すぎるときも、おいしすぎるときも、驚きすぎる時も、この言葉で会話が成り立つんです。例えば、宇航様、超ヤバくない?とか。」
そう自分で言いながら、笑いが出る。ヤバいという単語が宇航様に似合わない。
「それは、私が危険という意味か?それとも可愛いということか?難しいな。」
「宇航様の見た目が良いので、日本人なら顔を見ただけで、そういうでしょうね。あの人、超ヤバくない?かっこよすぎ!って具合に。」
「かっこいい?」
「見た目がいいことです。」
こんな風に桜の記憶の中の言葉を教えながら、楽しい時間はあっという間に過ぎた。
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