【完結】断罪された悪役令嬢は、二度目は復讐に生きる

くろねこ

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第四十二話 堕ちていく




王都大聖堂。

かつて「奇跡が降りる場所」と呼ばれた中央祭壇は、
今や――ただの広い空間だった。

光はない。
祈りも、応答も。

白い石床に立つクラリッサは、
初めて“何も起きない場所”に立っていた。

「……どうして」

声は、震えていない。

それが、逆に異様だった。

何度も。
何度も。
祈った。

言葉も、所作も、完璧に。

だが――何も返ってこない。

かつては、
膝をついた瞬間に温度が変わった。
祈りの途中で、光が集まった。
民衆の前で、世界が応えた。

今は。

自分の声だけが、虚しく反響する。

「……私は、選ばれたはず」

誰に向けた言葉か、分からない。

神か。
自分か。

背後で、扉が軋む音がした。

振り返ると、
そこにいたのは――神官たちだった。

だが、その目は。もう、見上げていない。

「聖女様」
「……今後の扱いについて」

扱い。

その言葉で、クラリッサは理解してしまった。

――捨てられたのは、身体じゃない。
――“役割”だ。

「奇跡は……戻るわ」
「一時的な……拒絶で……」

言い訳は、途中で止まった。

神官たちの中に、祈っている者が、一人もいなかったから。彼らは、もう信じていない。信仰ではなく、“機能”としての聖女を。

「……私は、聖女よ」

最後の抵抗。だが返ってきたのは、沈黙だった。その沈黙が、何よりも残酷だった。

奇跡が起きない聖女は、
ただの――
女だ。

美しいだけの。
何も与えられない存在。

クラリッサは、その場に崩れ落ちる。
初めて。誰にも、手を伸ばされないまま。
王宮前広場。かつては歓声で満ちていた場所。

今は――怒号と罵声が渦巻いていた。

「奇跡はどうした!」
「聖女はどこだ!」
「子どもが死んだぞ!」

ジークフリート・ヴァルフェルドは、
演壇の上に立っている。用意していた演説文は、一行も使えなかった。なぜなら。民衆は、もう聞く気がない。

「民のために!」
「混乱を防ぐために、私は――」

「嘘だ!」
「選別してたのは誰だ!」
「俺たちは“価値がない”ってか!」

石が飛ぶ。当たらない。だが――近い。
ジークフリートは、初めて気づく。
自分は、剣で守られているだけで――
支持されていなかったのだと。

「……聖女派を切った!」

叫ぶ。

「王権の判断だ!」

それは、自分を守るための言葉だった。
だが民衆は、一瞬で見抜く。

「今さらかよ!」
「都合が悪くなっただけだろ!」

「奇跡がある間は黙ってたくせに!」

一人が叫び、十人が続き、百人が同じ言葉を吐く。ジークフリートの背中に、冷たい汗が流れる。

(……違う)
(俺は、統治のために……)

だが。その“正しさ”を、今、信じてくれる者はいない。彼は理解する。王権とは、
民が「信じている間」だけ成立するものだ。

そして今――
その信頼は、完全に崩れている。

「……退却を」

側近の声が、かすれる。ジークフリートは、民衆を見下ろしながら、初めて思う。

――逃げ場が、ない。

聖女を切った。だが、民はそれで満足しなかった。

むしろ――
「切った事実」すら、罪になった。

彼は、初めて“盤の外”に立たされている。
王子としてではなく。責任を取るべき、一人の人間として。




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