【完結】断罪された悪役令嬢は、二度目は復讐に生きる

くろねこ

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第四十三話  さばかれる

 



王宮地下、臨時高等審問廷。

玉座の間でも、執務室でもない。「王族を裁くため」にだけ使われる、古い石造りの法廷。ジークフリート・ヴァルフェルドは、
そこで初めて椅子に縛られた立場に置かれていた。

冠はない。
外套もない。
あるのは――名前だけ。

「第一王子ジークフリート」

審問官の声は、淡々としている。

「あなたは、聖女派による奇跡選別と生贄増加を黙認し、それを政治的に利用した疑いがあります」

「黙認ではない」

即答だった。

「統治だ。国家の安定のための判断だ」

その言葉に、傍聴席の貴族がざわめく。

――悪手だった。

審問官は、一枚の書類を掲げる。

「では、この命令書は?」

王子の筆跡。聖女派への“迅速な処理を許可する”一文。

「……」

「民衆のため、と言いましたね」

静かな声。

「ですが、ここに記された対象は――
“反対派貴族”と“南区信徒”です」

空気が、凍る。

「平等ではない統治を、あなた自身が認めたことになります」

ジークフリートは、初めて視線を逸らした。

――この場では、言葉は武器にならない。

(……ここまで、か)

その夜。彼は、逃げた。裁判継続の名目で与えられた一刻の隙。側近が用意した裏通路。

だが――城門は、開かなかった。

「王命により、通行不可」

告げたのは、エドワード・ヴァルグリムだった。

「……貴様」

「民の前で、聖女を切りましたね」

淡々と。

「なら次は、あなた自身が“民に切られる番”です」

剣は抜かれない。逃げ場もない。ジークフリートは理解した。自分はもう、王子ではない。

――ただの、裁かれる者だ。


王都大聖堂・封鎖区画。奇跡を失った聖女クラリッサは、それでも「声」を失っていなかった。

「……私を切ったのは、王子よ」

震える声で、神官たちに告げる。

「すべては、王命だった」
「私は、従わされたの」

嘘ではない。だが、真実でもない。

「生贄の数も」
「選別も」
「全部、あの人の指示」

――責任転嫁。

だが。一人の神官が、静かに言った。

「……聖女様」

「あなたは、“奇跡が拒まれた理由”を説明していません」

クラリッサの喉が、詰まる。

「……拒まれた?」

「ええ」

神官は続ける。

「奇跡は失敗したのではない」
「拒否されたのです」

その言葉で、クラリッサの中の何かが、弾けた。

「……違う」

「違うわ!」

叫ぶ。

「私は選ばれたの!」
「神に愛されていた!」

「なのに――あの女が!」

初めて、本音が零れ落ちる。

「死んだはずの、あの女が!」
「裁定者が!」
「私から……奪った!」

沈黙。神官たちは、完全に理解した。

この女は――神を信じていない。

信じているのは、“自分が特別であるという幻想”だけだ。

「……リリアーナ」

クラリッサは、呪うように名を吐く。

「あなたがいなければ……!」

その瞬間。

聖印が――完全に、砕けた。

白ではない。光でもない。ただの、石片になって。誰も、祈らない。誰も、跪かない。クラリッサは、その場に立ち尽くす。

気づいた時には、彼女はもう――

聖女ではなかった。

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