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第三章 迫り来る闇
麗しき女学生達
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2026年10月02日。金曜日。12時35分。
UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。食堂。
「ああー! ミスったー!」
食堂に響くクリスの叫び。食堂の隅に設置された大型筐体のゲームを夢中でプレイしているクリスは、どうやら被弾したらしい。数多くのギャラリーの中で見せたスーパープレイ。今日はどうやら失敗したようだ。
「――しかし、すごいですね。絶滅危惧種のレアなゲームがこんなにいっぱいあるなんて……」
「すごいでしょー。苦労して集めたんだよー。橘さんってゲーム詳しいんだね。良いお友達になれそうー」
アルサード教会の白のジャージを着た三人の女学生。霧峰結衣花。松雪彩奈。そして橘蒼依。クリスのプレイを真剣に見ていた橘さんは、プレイが終わったクリスと共にゲームコーナーを楽しそうに見て回っていた。
そう。今日は午後から室長の近接戦闘訓練が行われる。そのために三人の女学生はUCIAに訪れているのだ。
「――このレアチーズケーキ。かなり美味しいわ」
「私も素直にそう思いました。ランチは流石に量が多かったけど、とても美味しかったしデザートもここまで抜かりがないなんて…… 松雪先輩がそう言うなら、味は本物ですね」
おそらくかなりのお嬢様と思われる霧峰さんと松雪さんが、スティーブンのデザートに驚いている。今日は女学生が三人来ると聞いて、スティーブンはかなり張り切って料理やデザートを仕込んでいたようだ。もっとも味がいまいちと思った日は一日も無い。《常に最高に美味い》がスティーブンの信条らしい。
「うちの食堂、気に入って頂けましたか? コーヒーも美味しいんですよ」
わたしは暖かい食後のコーヒーを楽しみながら、テーブルに座ってケーキを食べている二人と会話していた。
「――お気遣い感謝いたします。姫宮様」
上品に頭を下げる松雪さん。緩い巻き髪がとても似合っており、いかにもお嬢様といったオーラが全身から感じられる。明るすぎない赤毛のカラーが上品に思う。美容室にも頻繁に通っているのだろう。さりげなく見えているイヤリングもかなり高級品のようだ。
「これは…… ブルーマウンテンですね。お父様がコーヒー好きで私も中学生くらいから嗜み始めましたが。こんな素敵なお食事を毎日食べられるなんて、UCIAの皆様がうらやましいです」
霧峰さんがコーヒーを飲みながら和やかに答える。銘柄をはっきり答えられるということは、相当なコーヒー通かもしれない。
「ちなみに姫宮様。噂で元FBIと言うことを聞いたのですが……」
独特の高く可愛らしい声で松雪さんが聞いてきた。感じからして何やら興味があるようだ。
「ええ。NYPD(ニューヨーク市警)で経験を積んで、それからFBIの国家保安部に。その後UCIAへ来た感じですね」
「――格好いいですね。女性捜査官って、少し憧れますわ」
そういう松雪さんの眼差しが少し痛い。戦闘能力では霊力込みなら松雪さんのほうが断然上だと思う。私は正直、色々と役に立っている気がしない。不甲斐ないばかりだ。
「姫宮様。真由様とはちなみに――どういう関係なんですか? 真由様は最近、姫宮さんの事をよくお話になるんです」
霧峰さんの言葉。少しドキリとする。初対面でスタンガンを使い気絶させてUCIAに連行したとは流石に言えるはずも無い。この事実を話したら喉元に剣を突きつけられても、おかしくはないだろう。
「え、えっと…… 朝霧さんのお店、たまに行く事があって。これ朝霧さんに頂いたんです。とても気に入ってます」
わたしは右手の中指に嵌められているアメジストのリングを見せた。
「これは、とても綺麗なアメジストですね。真由様から直々にプレゼントを頂くだなんて…… やはりそういう関係だったとは。薄々気づいてはいたのですが」
ん……? 霧峰さんの妙に納得するような言葉。ちょっと待って。何か勘違いしている様な気がする。
「――真由様が選んだ相手というのでしたら。私達も全力で姫宮様をお守り致します。しかし真由様、流石にお目が高いというか…… その行動力を我々AMGEも見習わなければなりませんね」
松雪さんが生暖かい笑みを浮かべる。違う。そうではない。
「そういえば、北條さんの姿が見えませんが……」
とりあえず話題を変えてみる。話によれば北條さんも来るはずだが、まだ姿が見えていない。
「鮎香ちゃんは…… 職員室に呼び出されていまして。おそらくそれで遅れているんだと思います」
心配そうに言う霧峰さん。
「北條も大変ね…… 只でさえご両親が居なくて苦労しているのに。妹さんも年頃か荒れているのかしらね」
目を閉じ静かにそういう松雪さん。
「たしか――麻由美さんという妹がいるんですよね?」
私はそう聞いてみた。
「はい。鮎香ちゃんとは正反対でとても活発な子なんですけど、良い子なんです。只最近、あまり仲が良くないみたいで…… すごく心配してるんです」
そう霧峰さんは言った。
「まあ結衣花は北條の事が大好きだから放っておけないのかもしれないけど、あまりよその家庭内の事は干渉しない方が良いわよ。只でさえ貴女はいつも北條にくっ付いてばかりでしょ。高等学部を突き抜けて――女学院でも相当有名よ?」
呆れたように言う松雪さん。
「――好きな人と一緒にいて何が悪いんですか? 鮎香ちゃんはいつもあんな感じだから、私が守ってるんです! 松雪先輩も先ほど言いましたよね? その行動力を我々AMGEも見習わなければならないって」
少し怒り気味の霧峰さん。登校風景からみても、恐らく彼女は北條さんの事が大好きなのだろう。女性同士の恋愛も私は普通にありだと思う。むしろ女子校や女学院はそれが当たり前のような感じを受ける私の価値観は、間違ってはいないと思いたい。
「いやね、もう少し北條の事も考えなさいと私は言っているの。どんなに好意を抱いている相手にも、いつも付きまとわれたら流石にうざったく感じるでしょう? 只でさえ北條は大人しい性格なんだから」
こうして聞いていると松雪さんのほうが大人の意見だ。
「鮎香ちゃんが――私を鬱陶しく感じてるって言うんですか? いくら先輩でAMGEと言っても、これ以上の侮辱を受けるつもりはありません!」
霧峰が席から立ち上がり、不機嫌そうに食堂から出て行った……。
「――申し訳ありません。姫宮様。結衣花は北條の事になると感情の起伏が激しいんです。お見苦しいところを見せましたね……」
松雪さんは私に頭を下げる。そして奥のゲームコーナーの片隅でこちらを見ていたと思われる橘さんに言った。
「蒼依、貴女はAMGE第二位かつ女学院の四年生。こういう時は仲裁に入るなり結衣花の様子を見に行くなりしても良いのではなくて――? 心配そうに只、眺められてもね」
松雪さんの彼女を見る目が何処となく冷たい。
「貴女はいつもそう。皆をまとめる立場にいながら積極的に動かないし輪に入ろうともしない。人間性でいうなら結衣花の方が明らかにAMGEに相応しいわ。何故貴女がAMGEかつその第二位に選ばれたのか、私は分からない」
松雪さんが静かに言った。
「今の貴女が――私のパートナーである事にも、納得していないわ」
そう冷たく言い放った松雪さんも、食堂を出て行った……。
ゲームコーナーの片隅で、彼女は俯いている。クリスが優しく声をかける。
「あ、そうだ! 橘さんもケーキ食べよー。うちの食堂は何でも美味しいんだよー」
そう言ってテーブルの方に招くが……。
「……すみません。わたしもそろそろ行きます」
橘さんは静かにそう言って食堂を出て行った……。
クリスがしばらく食堂の出入り口を見つめた後、テーブルに座る。
「なんか色々――後ろめたいのかな」
クリスがコーヒーを上質な紙コップに注ぎ、口を付ける。
「橘さん。そう言えば初めて会ったときも、なんだか寂しそうにキャンバスでフルートを吹いていた気がする……」
あの時の事は何故か鮮明に覚えている。明るい曲の筈なのに、何処か悲しい感じがした。
「あんなに綺麗なのにね。よほど何か辛い経験をしてきたのかな……」
「――性同一性障害の子、とくに男の子から女の子になった子は色々と辛いんじゃないかと思うよー。世界的にMTF(男性から女性になる人)は見た目や声の違和感で辛い思いする人が多いって聞くしね。橘さんみたいな完璧な子でも元男性っていう事実が、なにかと苦しくなって行動の足枷となっているのかな…… もっと自信持っていいと、私は思うけどねー」
本国では割とオープンな人間が多かった。やはり日本だとその国民性からか、そうもいかないのだろう…… 今ではトランスジェンダーと世間では言っているが、正確に言えば性同一性障害とトランスジェンダーの意味は違う。それが分かっているからクリスもトランスジェンダーという言葉は使っていないのだろう。
「さて、私達もそろそろ行こうか。今日のトレーニングルームは女の子でいっぱいだね!」
クリスが元気にそう言う。そして私達は、トレーニングルームへと向かった。
2026年10月02日。金曜日。13時00分。
UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。トレーニングルーム。
「――今回から君達の教官を務めるハーディ=エヴァンズだ。元アメリカ海軍特殊部隊NavySEALsで数多くの部下を鍛え上げてきた。はっきり言うがあいつらもかなりヌルいのが多い。君達にはあいつらを軽く蹴散らせるレベルになってもらう。私の近接戦闘術は最強だ。みんな、覚悟は良いな!」
皆が元気よく返事をする。室長の目が輝いている。以前から思っていたが室長はこういうシチュエーションが大好きなようだ。女学生と一緒にこうやっていると、なにか学生時代の部活のような雰囲気もする。もっとも私は勉学に忙しかった為、帰宅部だったが。
「いいか! 近接戦闘の基本はしっかりとした体作りだ! 強力な攻撃を繰り出す筋肉。相手の攻撃を回避する動体視力と瞬発力。攻撃こそが最大の防御だ!」
張り切っている。室長がとても楽しそうに張り切っている。わたしは横に立っているクリスとアイコンタクトを交わす。
その意味は、今日はいつも以上にヤバそうだと言う事だ。
「姫宮! クリス! 何を笑っているんだお前達は!」
(あ、ヤバい……)
室長の怒号が飛ぶ。
「――腕立て伏せ用意! みんなで100回だ! もちろん私もやる! バストアップやウエストの引き締めにも効果があるぞ!」
そしてみんなで室長のかけ声に併せながら、声を張り上げ腕立て伏せ。その後に入念なストレッチを行った後、様々な筋力トレーニングをした。
気がつけば、あっという間に2時間が過ぎていた……。
アルサード教会の女学生達も、もちろん私とクリスもヘトヘトになっていた。今日のトレーニングはいつになく熱が入っている。こまめに水分と塩分を補給しながら、私達はしばらくの休憩に入った。
「素晴らしい。みんなちゃんとやりきったな。タフな身体能力は近接戦闘もだが、様々な場面で効果を発揮する。最近は物騒な世の中だ。自分の身は自分で守る力が女性も必要となる」
室長がタオルで汗を拭いながら爽やかに語る。
「ハーディ様は、全く息が上がっていませんね…… 流石です」
余裕の表情をしている室長に霧峰さんはそう言った。彼女はかなり堪えているようだ。松雪さんもかなり息を荒くしている。
「AMGEでも筋力トレーニングは行っていますが、こういった原始的なトレーニングはやっていませんね……」
聞くところによると、教会や女学院では専用の設備でトレーナーが付いて、効果的な筋力トレーニングをしているらしい。もっともこんな軍隊レベルでは無いと思うが、やりきれた彼女達はすごいと正直に思う。
「まあ私のやり方は軍隊仕込みだから原始的と言われても仕方が無いな。しかし何処でも出来るのが良いところだ。普段から行っていれば効果はあるぞ。筋トレが趣味と言ったら救世主様からは苦笑されたがな」
室長がそう言うと皆が笑う。
「さて、ウォーミングアップはこの辺にしておこう。流石に皆なかなか鍛えているな。ここからは本格的に近接戦闘術を指南していく」
室長がそう言うと、霧峰さんが呼ばれた。皆の前で近接戦闘について基本的な部分を説明していく。今回訪れているアルサードの女学生は皆武器が長剣だ。間合いの取り方、攻撃や防御のバリエーション。彼女をモデルにしながら説明する室長。
「攻撃や防御のパターンは一辺倒になりやすい。相手は武術の達人ではないだろうが、何処からでも変則的な攻撃が出来れば、それだけ相手を惑わせクリーンヒットする確率も高くなる。長剣はリーチが長い。しかし、素早い取り回しには不向きだ。絶対に懐へ入られるな」
皆が返事をする。
「さて、霧峰からいこうか。近接戦闘の腕を磨くには只実戦あるのみだ。全身で戦いのコツを掴め。橘と松雪も後に行うが、霊力の使用は一切認めない。生身でかかってこい」
室長の言葉に松雪さんが反応する。
「ちょっと待ってください。流石に生身では話にならないのではないですか? 最低限のレベルで防御結界くらいは使用を認めてもらわないと。怪我でもしたらどうするのですか?」
確かに彼女達は女学生。霊力が使えてこそ、その戦闘力は飛躍的に高まる。防御結界で攻撃を弾く事が出来るのなら、安全に訓練が行える筈だ。だが室長の性格上それは認めないような気がする。
室長はため息をついて言った。
「なんだ? 怪我が怖いから霊力を使いたいのか? 霧峰は霊力を一切使えないのに私に弟子入りを志願してきた。霧峰の先輩にしては――随分とお上品じゃないか」
挑発するように不敵な笑みを浮かべ言い放つ。
「なんですって…… わたしは皆の安全を考えて言っているんです!」
松雪さんも引かない。
「生身で向かってくる覚悟がないなら教会に帰るといい。いちおう救世主様には私の訓練内容の許可は取っている。『可愛い彼女達をたくさん鍛えてあげてください』とのことだ。帰るなら車を手配しよう。そして救世主様に報告するといい。『霊力無しでは何も出来ません』とな」
鼻で笑って言い放つ室長。プライドが高そうな彼女の性格を見越してか、徹底的に挑発している。
「この私を馬鹿にするとは――いい度胸ですわ! いいでしょう! 一切霊力は使いません! 貴女なんか怖くありませんわ!」
とうとう松雪さんが怒ったようだ。その様子を見て微笑む室長。
「良い気迫だ。やはり戦場を駆ける乙女はこれくらいの気迫がないとな」
室長はそう言うと、竹刀を各自取るように指示する。
「流石に生身で白樫の長剣は危ないだろう。突きと頭部への攻撃は禁止とする。足技は使っていい。ただ足で頭部および腹部への直接攻撃ダメだ」
「なかなか変わったルールですわね。いいでしょう」
松雪さんはそうとう苛立っているようだ。室長を睨み付けている。
「それでは霧峰からいこう。かかってくるといい」
「宜しくお願いいたします!」
そして室長相手の模擬戦が始まったが、さすがに霊力無しだと皆相手にならなかった…… 全員1分も持たずに倒れていく。といっても実際にはかなり手を抜いているようだ。まずは相手に数十秒攻撃させている。残りの十秒で軽々とカウンターを叩き込んでいる感じだ。
私とクリスは二人がかりで上手くコンビネーションを取りながら戦うものの、やはり敵わない。ただ前回よりかはほんの少しだけ健闘できたかのように思う。
「もうみんな終わってしまったか…… 前回、北條の加護を受けた霧峰との戦いは心躍る物があったが」
室長は只一人、涼しい顔をして打ちのめされた私達を余裕で眺めている。
「ここまであっけないとなると――皆霊力有りで私と戦って良かったのかもな」
決して馬鹿にしているのではないのだろうが、おそらく霊力込みで戦った方が大分まともな戦いになるだろう。その方が彼女達も得られる物が多いと思う。
「室長。模擬戦は霊力有りで行った方が、彼女達も得るものが多いと思います。流石にここまで実力差がある状況ですと……」
私は室長に進言した。
「そうだな。姫宮の言うとおりだ。女学生の諸君には霊力の使用を認めよう。ちなみに防御結界とは――どれくらいの攻撃を防げるものなんだ?」
「それは、私が説明します」
松雪さんがそう言うと、室長の前に右手の掌を突き出す。
「わたしの掌を――思いっきり殴ってみてください」
「いいのか? 最悪手首が骨折し掌の骨にもヒビが入るかもしれないが」
彼女は静かに室長を見据え掌を突き出している。
そして室長が思いっきりパンチを放った。室長のパンチが彼女の掌に直撃する瞬間、まばゆい光と激しい電流のような音が辺りに木霊し、室長の体勢を怯ませるほどの衝撃で攻撃を完全に弾いた。
「馬鹿な…… 完全に弾かれた……」
室長が驚いている。そして右手の拳が若干ではあるが赤くなっていた。
「――これは前方展開型の防御結界。前方の攻撃しか防げませんが、その分強固な結界を張る事が出来ます。防御結界は前方展開型の前方防御結界、周囲を完全に覆う全方位型の全方位防御結界。そして予め全方位一定の攻撃を防ぐ防御膜を張る事が出来る、常時展開型の常時展開防御結界があります。私達の訓練で使うのは常時展開型の防御結界。これを剥がされた時点で負けになります。防御結界は霊力の消費が激しいので、状況によりこの三種を使い分けているのです」
「ほう…… おもしろいじゃないか」
「常時展開防御結界は2回から3回ほどの衝撃で効果を失いますが、本来の衝撃の半分以上はカットできます。ただ防御結界の中では一番防御力が低い。術者次第で防御力の差が出るところですわ」
彼女は静かにそう言うと、竹刀を構えた。
「ハーディ様。北條の加護を受けた結衣花を生身で倒したその力――見せてもらいましょうか」
松雪さんの目が真剣だ。室長を鋭く睨み付けている。
「もうすぐ夜だ。そろそろお開きにしようとも思ったが…… そうもいかなそうだな」
室長が竹刀を構える。
そして彼女が竹刀を天井にかざし詠唱を始めた。
「風の女神ウルスハイネよ。我に加護を与え給え。天の風と慈愛の火、祈る声よ響け!」
これは、北條さんの加護とは違う。自然粒子が感応する音と共に彼女の体が蒼白く、そして少し緑がかった光に包まれる。風の女神を主たる加護にしているのだろうか……?
そして掲げた竹刀を振り切ると、鋭い音と共に光のオーラのようなものが彼女を覆うように形成される。あれが常時展開型の防御結界。まばゆい蒼と薄い緑の常時展開防御結界に包まれた松雪さんは、先ほどとは全く違う別人のようだった。
「これは面白そうだな! 本気で行くぞ!」
室長の表情が歓喜した。そしてすぐさま低い姿勢で走り込み、横に素早く切り払う。
「甘いですわね!」
胴を捉えたその切り払いを見事にジャンプで回避する松雪。先ほどの動きとは大違いだ。そして降下しながら竹刀を斜め下に切り払う。
室長と彼女の竹刀がぶつかり合う。ジャンプからの攻撃をガードした室長。そのまま二人は激しく鍔迫り合いを始めた。
「加護があるだけでここまで違うとはな! もっと私を楽しませてくれ!」
「望むところよ! 生身で挑んだ事を後悔させてあげるわ!」
道場の中央で激しく攻防を繰り広げながら交差する二人。
「――危ないです! みなさん隅まで下がってください!」
橘さんが急にそう言って皆を道場の隅に退避させる。トレーニングルームの出入り口近くまで下がったときに、初めてそこに北條さんが居た事に気づいた。
「こんにちは……」
道場で激闘を繰り広げる二人を見ながら、北條さんが引きつった笑みを浮かべて挨拶する。
「鮎香ちゃん、ごめん。来てたの全然気づかなかった……」
霧峰さんが北條さんに寄り添い、道場を心配そうに見つめる。
「松雪先輩…… 本気だわ。ヒートアップすると何やり出すか分からないから、もしもの時は二人で止めよう鮎香ちゃん」
「そ、そうだね…… 松雪先輩。熱くなると止まらなくなるから。もう、遅いかもしれないけど……」
二人の会話が怖い。
「お前も見所があるな松雪! 振りは霧峰より遅いが攻防の発想センスがある!」
凄まじい速さで竹刀を振り攻撃を続ける室長。それを巧みに裁く彼女は、時折反撃を交えながらバックステップやサイドステップを駆使し距離を詰めさせない。まるで後ろに目が付いているかのように回避スペースを把握している。すごいとしか言い様がないが、驚くべきはその瞬発力と跳躍力だ。追い詰められたかと思うと、すぐさま宙を舞い一瞬で位置を入れ替える。
「ホントに生身かこの化け物!」
松雪さんの言葉遣いが荒い。それだけ余裕が一切無いのだ。このままヒートアップしたら確かにまずいような予感がしてきた。
「喰らえ! 真空裂傷波!」
彼女が高くジャンプし、室長めがけて竹刀を振り切る。緑色の光に包まれた竹刀から、風を切るような轟音と共に衝撃波が放たれ室長を襲う。常識外れの光景に思わず自分の目を疑ってしまう私。
「松雪先輩何やっているんですか! 生身の相手に魔法剣術を使うなんて! ここは威力が減衰する修練聖堂じゃ無いんですよ!」
北條さんが叫び取り乱している。
「面白いぞ松雪! 今のは危なかったが惜しかったな!」
まさかと思ったが回避していた。空中から放たれた衝撃波を咄嗟にバク転で回避したのだ。衝撃波が当たった場所は、表面が酷く裂けているのかズタズタになっている。直撃していたら流石にまずい。これ以上は危険だ。二人の戦いを止めないと行けない。
「鮎香ちゃん! 先輩を止めよう!」
霧峰さんが叫ぶ。
そして道場の中央で二人の竹刀が激しくぶつかり合うと、乾いた音と共に二人の竹刀が真っ二つに折れた……。
だが――終わらない。彼女は瞬時に折れた竹刀を投げ捨てると、右手をかざした。
「出でよ! 霊――」
その時、いつの間にか道場の中央に走り込んだ橘さんが、背後から彼女の両手首を掴んで制止した。
「辞めてください! もう終わりです!」
橘さんの叫び声。その声と共に、二人の動きが完全に止まった……。
「松雪先輩…… ハーディ様は確かに軍人でお強いですが、それと共に私達の教官です。しかも生身で相手をしてくださっているのに、こんな場所で魔法剣術を使うなんて何を考えているんですか! 直撃していたら相手が掠り傷じゃ済まない事くらい先輩なら分かっているでしょう!」
北條さんが激怒している。普段とても大人しい分、怒っている北條さんは酷く怖く感じた。
「……悪かったわ。気づいたら相手が生身だという事を完全に忘れてた……」
松雪さんが俯いて北條さんのお説教を聞いている。
「――道場の一部が酷く破損しています。この件は私達の全体責任として真由様と上條聖司祭に報告させて頂きます」
北條さんはそう言うと、室長に頭を下げた。
「ハーディ様、申し訳ございません。道場の修繕費は教会の方で負担する方向になると思います。所用で遅れて来てみれば、このような事態になっていた事を、同じAMGEの仲間として深くお詫び致します。本当に――申し訳ございませんでした」
頭を下げたまま、謝罪する北條さん。
「顔を上げてくれ、北條。私も松雪を必要以上に挑発したからこうなったという経緯がある。彼女一人の責任ではない。しかし――あんな大技を使ってくるとはな。戦場の緊張感を久しぶりに楽しめたよ」
室長は優しく微笑んでいる。それを見た北條さんは少し安心したようだ。
「松雪、俯いていないで顔を上げろ」
室長が松雪さんに歩み寄る。
「――いい戦いだった。冷静に戦場を見極め戦う事は、なかなか簡単に出来る事じゃない。攻守のバランス感覚や攻防のヴァリエーションも豊富だ。何より瞬発力と跳躍力を生かした立体的な戦闘は驚いた。近接戦闘のセンスは正直かなり高いレベルにある」
彼女が俯いた顔を上げ、室長の顔を滲んだような瞳で見つめる。
「あとは一発一発の攻撃力だ。瞬間的な攻撃速度、そしてパワー。それを高める事が出来れば近接戦では無類の強さを発揮するだろう。これからも励むといい。わたしもまた再戦を楽しみにしている」
室長はそう言うと、ポケットに入れていたと思われるハンカチを差し出す。
「これで拭うといい。泣いている顔も可愛いがな」
彼女の顔が少し赤くなったように感じる。
「別に、泣いてなんかいませんわ……」
彼女は涙を拭うと、ハンカチを室長に手渡す。
「今度は…… 私がハーディ様の霊的能力訓練を見てあげますわ」
悔しそうに松雪さんはそう言うものの、なんだか照れ隠しをしているようだ。
「さて、すっかり遅くなったな。もうじき夕食の時間だ。皆ここで夕食を食べていくといい。味は保証する」
霧峰さんは喜んでいるようだ。北條さんも申し訳なさそうな顔をしているが、皆と夕食を取れる事を嬉しく思っているようだ。
「ねぇねぇ麻美」
クリスが私にそう言うと、小さな声で耳打ちしてくる。
「なんかさ。室長が美味しいとこ全部持って行ってる気がするんだけどー。このままだとまたファンが一人増えそうだね。まあ格好いいから仕方ないけどー」
松雪さんの様子を見ながらクリスが楽しそうにそう言った。
「そうだね。狙ってやってないところがまた憎いというか。室長の学生時代、どんな感じだったんだろうね」
そんな事を楽しく話しながら、私達はトレーニングルームを後にした。
UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。食堂。
「ああー! ミスったー!」
食堂に響くクリスの叫び。食堂の隅に設置された大型筐体のゲームを夢中でプレイしているクリスは、どうやら被弾したらしい。数多くのギャラリーの中で見せたスーパープレイ。今日はどうやら失敗したようだ。
「――しかし、すごいですね。絶滅危惧種のレアなゲームがこんなにいっぱいあるなんて……」
「すごいでしょー。苦労して集めたんだよー。橘さんってゲーム詳しいんだね。良いお友達になれそうー」
アルサード教会の白のジャージを着た三人の女学生。霧峰結衣花。松雪彩奈。そして橘蒼依。クリスのプレイを真剣に見ていた橘さんは、プレイが終わったクリスと共にゲームコーナーを楽しそうに見て回っていた。
そう。今日は午後から室長の近接戦闘訓練が行われる。そのために三人の女学生はUCIAに訪れているのだ。
「――このレアチーズケーキ。かなり美味しいわ」
「私も素直にそう思いました。ランチは流石に量が多かったけど、とても美味しかったしデザートもここまで抜かりがないなんて…… 松雪先輩がそう言うなら、味は本物ですね」
おそらくかなりのお嬢様と思われる霧峰さんと松雪さんが、スティーブンのデザートに驚いている。今日は女学生が三人来ると聞いて、スティーブンはかなり張り切って料理やデザートを仕込んでいたようだ。もっとも味がいまいちと思った日は一日も無い。《常に最高に美味い》がスティーブンの信条らしい。
「うちの食堂、気に入って頂けましたか? コーヒーも美味しいんですよ」
わたしは暖かい食後のコーヒーを楽しみながら、テーブルに座ってケーキを食べている二人と会話していた。
「――お気遣い感謝いたします。姫宮様」
上品に頭を下げる松雪さん。緩い巻き髪がとても似合っており、いかにもお嬢様といったオーラが全身から感じられる。明るすぎない赤毛のカラーが上品に思う。美容室にも頻繁に通っているのだろう。さりげなく見えているイヤリングもかなり高級品のようだ。
「これは…… ブルーマウンテンですね。お父様がコーヒー好きで私も中学生くらいから嗜み始めましたが。こんな素敵なお食事を毎日食べられるなんて、UCIAの皆様がうらやましいです」
霧峰さんがコーヒーを飲みながら和やかに答える。銘柄をはっきり答えられるということは、相当なコーヒー通かもしれない。
「ちなみに姫宮様。噂で元FBIと言うことを聞いたのですが……」
独特の高く可愛らしい声で松雪さんが聞いてきた。感じからして何やら興味があるようだ。
「ええ。NYPD(ニューヨーク市警)で経験を積んで、それからFBIの国家保安部に。その後UCIAへ来た感じですね」
「――格好いいですね。女性捜査官って、少し憧れますわ」
そういう松雪さんの眼差しが少し痛い。戦闘能力では霊力込みなら松雪さんのほうが断然上だと思う。私は正直、色々と役に立っている気がしない。不甲斐ないばかりだ。
「姫宮様。真由様とはちなみに――どういう関係なんですか? 真由様は最近、姫宮さんの事をよくお話になるんです」
霧峰さんの言葉。少しドキリとする。初対面でスタンガンを使い気絶させてUCIAに連行したとは流石に言えるはずも無い。この事実を話したら喉元に剣を突きつけられても、おかしくはないだろう。
「え、えっと…… 朝霧さんのお店、たまに行く事があって。これ朝霧さんに頂いたんです。とても気に入ってます」
わたしは右手の中指に嵌められているアメジストのリングを見せた。
「これは、とても綺麗なアメジストですね。真由様から直々にプレゼントを頂くだなんて…… やはりそういう関係だったとは。薄々気づいてはいたのですが」
ん……? 霧峰さんの妙に納得するような言葉。ちょっと待って。何か勘違いしている様な気がする。
「――真由様が選んだ相手というのでしたら。私達も全力で姫宮様をお守り致します。しかし真由様、流石にお目が高いというか…… その行動力を我々AMGEも見習わなければなりませんね」
松雪さんが生暖かい笑みを浮かべる。違う。そうではない。
「そういえば、北條さんの姿が見えませんが……」
とりあえず話題を変えてみる。話によれば北條さんも来るはずだが、まだ姿が見えていない。
「鮎香ちゃんは…… 職員室に呼び出されていまして。おそらくそれで遅れているんだと思います」
心配そうに言う霧峰さん。
「北條も大変ね…… 只でさえご両親が居なくて苦労しているのに。妹さんも年頃か荒れているのかしらね」
目を閉じ静かにそういう松雪さん。
「たしか――麻由美さんという妹がいるんですよね?」
私はそう聞いてみた。
「はい。鮎香ちゃんとは正反対でとても活発な子なんですけど、良い子なんです。只最近、あまり仲が良くないみたいで…… すごく心配してるんです」
そう霧峰さんは言った。
「まあ結衣花は北條の事が大好きだから放っておけないのかもしれないけど、あまりよその家庭内の事は干渉しない方が良いわよ。只でさえ貴女はいつも北條にくっ付いてばかりでしょ。高等学部を突き抜けて――女学院でも相当有名よ?」
呆れたように言う松雪さん。
「――好きな人と一緒にいて何が悪いんですか? 鮎香ちゃんはいつもあんな感じだから、私が守ってるんです! 松雪先輩も先ほど言いましたよね? その行動力を我々AMGEも見習わなければならないって」
少し怒り気味の霧峰さん。登校風景からみても、恐らく彼女は北條さんの事が大好きなのだろう。女性同士の恋愛も私は普通にありだと思う。むしろ女子校や女学院はそれが当たり前のような感じを受ける私の価値観は、間違ってはいないと思いたい。
「いやね、もう少し北條の事も考えなさいと私は言っているの。どんなに好意を抱いている相手にも、いつも付きまとわれたら流石にうざったく感じるでしょう? 只でさえ北條は大人しい性格なんだから」
こうして聞いていると松雪さんのほうが大人の意見だ。
「鮎香ちゃんが――私を鬱陶しく感じてるって言うんですか? いくら先輩でAMGEと言っても、これ以上の侮辱を受けるつもりはありません!」
霧峰が席から立ち上がり、不機嫌そうに食堂から出て行った……。
「――申し訳ありません。姫宮様。結衣花は北條の事になると感情の起伏が激しいんです。お見苦しいところを見せましたね……」
松雪さんは私に頭を下げる。そして奥のゲームコーナーの片隅でこちらを見ていたと思われる橘さんに言った。
「蒼依、貴女はAMGE第二位かつ女学院の四年生。こういう時は仲裁に入るなり結衣花の様子を見に行くなりしても良いのではなくて――? 心配そうに只、眺められてもね」
松雪さんの彼女を見る目が何処となく冷たい。
「貴女はいつもそう。皆をまとめる立場にいながら積極的に動かないし輪に入ろうともしない。人間性でいうなら結衣花の方が明らかにAMGEに相応しいわ。何故貴女がAMGEかつその第二位に選ばれたのか、私は分からない」
松雪さんが静かに言った。
「今の貴女が――私のパートナーである事にも、納得していないわ」
そう冷たく言い放った松雪さんも、食堂を出て行った……。
ゲームコーナーの片隅で、彼女は俯いている。クリスが優しく声をかける。
「あ、そうだ! 橘さんもケーキ食べよー。うちの食堂は何でも美味しいんだよー」
そう言ってテーブルの方に招くが……。
「……すみません。わたしもそろそろ行きます」
橘さんは静かにそう言って食堂を出て行った……。
クリスがしばらく食堂の出入り口を見つめた後、テーブルに座る。
「なんか色々――後ろめたいのかな」
クリスがコーヒーを上質な紙コップに注ぎ、口を付ける。
「橘さん。そう言えば初めて会ったときも、なんだか寂しそうにキャンバスでフルートを吹いていた気がする……」
あの時の事は何故か鮮明に覚えている。明るい曲の筈なのに、何処か悲しい感じがした。
「あんなに綺麗なのにね。よほど何か辛い経験をしてきたのかな……」
「――性同一性障害の子、とくに男の子から女の子になった子は色々と辛いんじゃないかと思うよー。世界的にMTF(男性から女性になる人)は見た目や声の違和感で辛い思いする人が多いって聞くしね。橘さんみたいな完璧な子でも元男性っていう事実が、なにかと苦しくなって行動の足枷となっているのかな…… もっと自信持っていいと、私は思うけどねー」
本国では割とオープンな人間が多かった。やはり日本だとその国民性からか、そうもいかないのだろう…… 今ではトランスジェンダーと世間では言っているが、正確に言えば性同一性障害とトランスジェンダーの意味は違う。それが分かっているからクリスもトランスジェンダーという言葉は使っていないのだろう。
「さて、私達もそろそろ行こうか。今日のトレーニングルームは女の子でいっぱいだね!」
クリスが元気にそう言う。そして私達は、トレーニングルームへと向かった。
2026年10月02日。金曜日。13時00分。
UCIA日本支部捜査基地グラウンドベース。トレーニングルーム。
「――今回から君達の教官を務めるハーディ=エヴァンズだ。元アメリカ海軍特殊部隊NavySEALsで数多くの部下を鍛え上げてきた。はっきり言うがあいつらもかなりヌルいのが多い。君達にはあいつらを軽く蹴散らせるレベルになってもらう。私の近接戦闘術は最強だ。みんな、覚悟は良いな!」
皆が元気よく返事をする。室長の目が輝いている。以前から思っていたが室長はこういうシチュエーションが大好きなようだ。女学生と一緒にこうやっていると、なにか学生時代の部活のような雰囲気もする。もっとも私は勉学に忙しかった為、帰宅部だったが。
「いいか! 近接戦闘の基本はしっかりとした体作りだ! 強力な攻撃を繰り出す筋肉。相手の攻撃を回避する動体視力と瞬発力。攻撃こそが最大の防御だ!」
張り切っている。室長がとても楽しそうに張り切っている。わたしは横に立っているクリスとアイコンタクトを交わす。
その意味は、今日はいつも以上にヤバそうだと言う事だ。
「姫宮! クリス! 何を笑っているんだお前達は!」
(あ、ヤバい……)
室長の怒号が飛ぶ。
「――腕立て伏せ用意! みんなで100回だ! もちろん私もやる! バストアップやウエストの引き締めにも効果があるぞ!」
そしてみんなで室長のかけ声に併せながら、声を張り上げ腕立て伏せ。その後に入念なストレッチを行った後、様々な筋力トレーニングをした。
気がつけば、あっという間に2時間が過ぎていた……。
アルサード教会の女学生達も、もちろん私とクリスもヘトヘトになっていた。今日のトレーニングはいつになく熱が入っている。こまめに水分と塩分を補給しながら、私達はしばらくの休憩に入った。
「素晴らしい。みんなちゃんとやりきったな。タフな身体能力は近接戦闘もだが、様々な場面で効果を発揮する。最近は物騒な世の中だ。自分の身は自分で守る力が女性も必要となる」
室長がタオルで汗を拭いながら爽やかに語る。
「ハーディ様は、全く息が上がっていませんね…… 流石です」
余裕の表情をしている室長に霧峰さんはそう言った。彼女はかなり堪えているようだ。松雪さんもかなり息を荒くしている。
「AMGEでも筋力トレーニングは行っていますが、こういった原始的なトレーニングはやっていませんね……」
聞くところによると、教会や女学院では専用の設備でトレーナーが付いて、効果的な筋力トレーニングをしているらしい。もっともこんな軍隊レベルでは無いと思うが、やりきれた彼女達はすごいと正直に思う。
「まあ私のやり方は軍隊仕込みだから原始的と言われても仕方が無いな。しかし何処でも出来るのが良いところだ。普段から行っていれば効果はあるぞ。筋トレが趣味と言ったら救世主様からは苦笑されたがな」
室長がそう言うと皆が笑う。
「さて、ウォーミングアップはこの辺にしておこう。流石に皆なかなか鍛えているな。ここからは本格的に近接戦闘術を指南していく」
室長がそう言うと、霧峰さんが呼ばれた。皆の前で近接戦闘について基本的な部分を説明していく。今回訪れているアルサードの女学生は皆武器が長剣だ。間合いの取り方、攻撃や防御のバリエーション。彼女をモデルにしながら説明する室長。
「攻撃や防御のパターンは一辺倒になりやすい。相手は武術の達人ではないだろうが、何処からでも変則的な攻撃が出来れば、それだけ相手を惑わせクリーンヒットする確率も高くなる。長剣はリーチが長い。しかし、素早い取り回しには不向きだ。絶対に懐へ入られるな」
皆が返事をする。
「さて、霧峰からいこうか。近接戦闘の腕を磨くには只実戦あるのみだ。全身で戦いのコツを掴め。橘と松雪も後に行うが、霊力の使用は一切認めない。生身でかかってこい」
室長の言葉に松雪さんが反応する。
「ちょっと待ってください。流石に生身では話にならないのではないですか? 最低限のレベルで防御結界くらいは使用を認めてもらわないと。怪我でもしたらどうするのですか?」
確かに彼女達は女学生。霊力が使えてこそ、その戦闘力は飛躍的に高まる。防御結界で攻撃を弾く事が出来るのなら、安全に訓練が行える筈だ。だが室長の性格上それは認めないような気がする。
室長はため息をついて言った。
「なんだ? 怪我が怖いから霊力を使いたいのか? 霧峰は霊力を一切使えないのに私に弟子入りを志願してきた。霧峰の先輩にしては――随分とお上品じゃないか」
挑発するように不敵な笑みを浮かべ言い放つ。
「なんですって…… わたしは皆の安全を考えて言っているんです!」
松雪さんも引かない。
「生身で向かってくる覚悟がないなら教会に帰るといい。いちおう救世主様には私の訓練内容の許可は取っている。『可愛い彼女達をたくさん鍛えてあげてください』とのことだ。帰るなら車を手配しよう。そして救世主様に報告するといい。『霊力無しでは何も出来ません』とな」
鼻で笑って言い放つ室長。プライドが高そうな彼女の性格を見越してか、徹底的に挑発している。
「この私を馬鹿にするとは――いい度胸ですわ! いいでしょう! 一切霊力は使いません! 貴女なんか怖くありませんわ!」
とうとう松雪さんが怒ったようだ。その様子を見て微笑む室長。
「良い気迫だ。やはり戦場を駆ける乙女はこれくらいの気迫がないとな」
室長はそう言うと、竹刀を各自取るように指示する。
「流石に生身で白樫の長剣は危ないだろう。突きと頭部への攻撃は禁止とする。足技は使っていい。ただ足で頭部および腹部への直接攻撃ダメだ」
「なかなか変わったルールですわね。いいでしょう」
松雪さんはそうとう苛立っているようだ。室長を睨み付けている。
「それでは霧峰からいこう。かかってくるといい」
「宜しくお願いいたします!」
そして室長相手の模擬戦が始まったが、さすがに霊力無しだと皆相手にならなかった…… 全員1分も持たずに倒れていく。といっても実際にはかなり手を抜いているようだ。まずは相手に数十秒攻撃させている。残りの十秒で軽々とカウンターを叩き込んでいる感じだ。
私とクリスは二人がかりで上手くコンビネーションを取りながら戦うものの、やはり敵わない。ただ前回よりかはほんの少しだけ健闘できたかのように思う。
「もうみんな終わってしまったか…… 前回、北條の加護を受けた霧峰との戦いは心躍る物があったが」
室長は只一人、涼しい顔をして打ちのめされた私達を余裕で眺めている。
「ここまであっけないとなると――皆霊力有りで私と戦って良かったのかもな」
決して馬鹿にしているのではないのだろうが、おそらく霊力込みで戦った方が大分まともな戦いになるだろう。その方が彼女達も得られる物が多いと思う。
「室長。模擬戦は霊力有りで行った方が、彼女達も得るものが多いと思います。流石にここまで実力差がある状況ですと……」
私は室長に進言した。
「そうだな。姫宮の言うとおりだ。女学生の諸君には霊力の使用を認めよう。ちなみに防御結界とは――どれくらいの攻撃を防げるものなんだ?」
「それは、私が説明します」
松雪さんがそう言うと、室長の前に右手の掌を突き出す。
「わたしの掌を――思いっきり殴ってみてください」
「いいのか? 最悪手首が骨折し掌の骨にもヒビが入るかもしれないが」
彼女は静かに室長を見据え掌を突き出している。
そして室長が思いっきりパンチを放った。室長のパンチが彼女の掌に直撃する瞬間、まばゆい光と激しい電流のような音が辺りに木霊し、室長の体勢を怯ませるほどの衝撃で攻撃を完全に弾いた。
「馬鹿な…… 完全に弾かれた……」
室長が驚いている。そして右手の拳が若干ではあるが赤くなっていた。
「――これは前方展開型の防御結界。前方の攻撃しか防げませんが、その分強固な結界を張る事が出来ます。防御結界は前方展開型の前方防御結界、周囲を完全に覆う全方位型の全方位防御結界。そして予め全方位一定の攻撃を防ぐ防御膜を張る事が出来る、常時展開型の常時展開防御結界があります。私達の訓練で使うのは常時展開型の防御結界。これを剥がされた時点で負けになります。防御結界は霊力の消費が激しいので、状況によりこの三種を使い分けているのです」
「ほう…… おもしろいじゃないか」
「常時展開防御結界は2回から3回ほどの衝撃で効果を失いますが、本来の衝撃の半分以上はカットできます。ただ防御結界の中では一番防御力が低い。術者次第で防御力の差が出るところですわ」
彼女は静かにそう言うと、竹刀を構えた。
「ハーディ様。北條の加護を受けた結衣花を生身で倒したその力――見せてもらいましょうか」
松雪さんの目が真剣だ。室長を鋭く睨み付けている。
「もうすぐ夜だ。そろそろお開きにしようとも思ったが…… そうもいかなそうだな」
室長が竹刀を構える。
そして彼女が竹刀を天井にかざし詠唱を始めた。
「風の女神ウルスハイネよ。我に加護を与え給え。天の風と慈愛の火、祈る声よ響け!」
これは、北條さんの加護とは違う。自然粒子が感応する音と共に彼女の体が蒼白く、そして少し緑がかった光に包まれる。風の女神を主たる加護にしているのだろうか……?
そして掲げた竹刀を振り切ると、鋭い音と共に光のオーラのようなものが彼女を覆うように形成される。あれが常時展開型の防御結界。まばゆい蒼と薄い緑の常時展開防御結界に包まれた松雪さんは、先ほどとは全く違う別人のようだった。
「これは面白そうだな! 本気で行くぞ!」
室長の表情が歓喜した。そしてすぐさま低い姿勢で走り込み、横に素早く切り払う。
「甘いですわね!」
胴を捉えたその切り払いを見事にジャンプで回避する松雪。先ほどの動きとは大違いだ。そして降下しながら竹刀を斜め下に切り払う。
室長と彼女の竹刀がぶつかり合う。ジャンプからの攻撃をガードした室長。そのまま二人は激しく鍔迫り合いを始めた。
「加護があるだけでここまで違うとはな! もっと私を楽しませてくれ!」
「望むところよ! 生身で挑んだ事を後悔させてあげるわ!」
道場の中央で激しく攻防を繰り広げながら交差する二人。
「――危ないです! みなさん隅まで下がってください!」
橘さんが急にそう言って皆を道場の隅に退避させる。トレーニングルームの出入り口近くまで下がったときに、初めてそこに北條さんが居た事に気づいた。
「こんにちは……」
道場で激闘を繰り広げる二人を見ながら、北條さんが引きつった笑みを浮かべて挨拶する。
「鮎香ちゃん、ごめん。来てたの全然気づかなかった……」
霧峰さんが北條さんに寄り添い、道場を心配そうに見つめる。
「松雪先輩…… 本気だわ。ヒートアップすると何やり出すか分からないから、もしもの時は二人で止めよう鮎香ちゃん」
「そ、そうだね…… 松雪先輩。熱くなると止まらなくなるから。もう、遅いかもしれないけど……」
二人の会話が怖い。
「お前も見所があるな松雪! 振りは霧峰より遅いが攻防の発想センスがある!」
凄まじい速さで竹刀を振り攻撃を続ける室長。それを巧みに裁く彼女は、時折反撃を交えながらバックステップやサイドステップを駆使し距離を詰めさせない。まるで後ろに目が付いているかのように回避スペースを把握している。すごいとしか言い様がないが、驚くべきはその瞬発力と跳躍力だ。追い詰められたかと思うと、すぐさま宙を舞い一瞬で位置を入れ替える。
「ホントに生身かこの化け物!」
松雪さんの言葉遣いが荒い。それだけ余裕が一切無いのだ。このままヒートアップしたら確かにまずいような予感がしてきた。
「喰らえ! 真空裂傷波!」
彼女が高くジャンプし、室長めがけて竹刀を振り切る。緑色の光に包まれた竹刀から、風を切るような轟音と共に衝撃波が放たれ室長を襲う。常識外れの光景に思わず自分の目を疑ってしまう私。
「松雪先輩何やっているんですか! 生身の相手に魔法剣術を使うなんて! ここは威力が減衰する修練聖堂じゃ無いんですよ!」
北條さんが叫び取り乱している。
「面白いぞ松雪! 今のは危なかったが惜しかったな!」
まさかと思ったが回避していた。空中から放たれた衝撃波を咄嗟にバク転で回避したのだ。衝撃波が当たった場所は、表面が酷く裂けているのかズタズタになっている。直撃していたら流石にまずい。これ以上は危険だ。二人の戦いを止めないと行けない。
「鮎香ちゃん! 先輩を止めよう!」
霧峰さんが叫ぶ。
そして道場の中央で二人の竹刀が激しくぶつかり合うと、乾いた音と共に二人の竹刀が真っ二つに折れた……。
だが――終わらない。彼女は瞬時に折れた竹刀を投げ捨てると、右手をかざした。
「出でよ! 霊――」
その時、いつの間にか道場の中央に走り込んだ橘さんが、背後から彼女の両手首を掴んで制止した。
「辞めてください! もう終わりです!」
橘さんの叫び声。その声と共に、二人の動きが完全に止まった……。
「松雪先輩…… ハーディ様は確かに軍人でお強いですが、それと共に私達の教官です。しかも生身で相手をしてくださっているのに、こんな場所で魔法剣術を使うなんて何を考えているんですか! 直撃していたら相手が掠り傷じゃ済まない事くらい先輩なら分かっているでしょう!」
北條さんが激怒している。普段とても大人しい分、怒っている北條さんは酷く怖く感じた。
「……悪かったわ。気づいたら相手が生身だという事を完全に忘れてた……」
松雪さんが俯いて北條さんのお説教を聞いている。
「――道場の一部が酷く破損しています。この件は私達の全体責任として真由様と上條聖司祭に報告させて頂きます」
北條さんはそう言うと、室長に頭を下げた。
「ハーディ様、申し訳ございません。道場の修繕費は教会の方で負担する方向になると思います。所用で遅れて来てみれば、このような事態になっていた事を、同じAMGEの仲間として深くお詫び致します。本当に――申し訳ございませんでした」
頭を下げたまま、謝罪する北條さん。
「顔を上げてくれ、北條。私も松雪を必要以上に挑発したからこうなったという経緯がある。彼女一人の責任ではない。しかし――あんな大技を使ってくるとはな。戦場の緊張感を久しぶりに楽しめたよ」
室長は優しく微笑んでいる。それを見た北條さんは少し安心したようだ。
「松雪、俯いていないで顔を上げろ」
室長が松雪さんに歩み寄る。
「――いい戦いだった。冷静に戦場を見極め戦う事は、なかなか簡単に出来る事じゃない。攻守のバランス感覚や攻防のヴァリエーションも豊富だ。何より瞬発力と跳躍力を生かした立体的な戦闘は驚いた。近接戦闘のセンスは正直かなり高いレベルにある」
彼女が俯いた顔を上げ、室長の顔を滲んだような瞳で見つめる。
「あとは一発一発の攻撃力だ。瞬間的な攻撃速度、そしてパワー。それを高める事が出来れば近接戦では無類の強さを発揮するだろう。これからも励むといい。わたしもまた再戦を楽しみにしている」
室長はそう言うと、ポケットに入れていたと思われるハンカチを差し出す。
「これで拭うといい。泣いている顔も可愛いがな」
彼女の顔が少し赤くなったように感じる。
「別に、泣いてなんかいませんわ……」
彼女は涙を拭うと、ハンカチを室長に手渡す。
「今度は…… 私がハーディ様の霊的能力訓練を見てあげますわ」
悔しそうに松雪さんはそう言うものの、なんだか照れ隠しをしているようだ。
「さて、すっかり遅くなったな。もうじき夕食の時間だ。皆ここで夕食を食べていくといい。味は保証する」
霧峰さんは喜んでいるようだ。北條さんも申し訳なさそうな顔をしているが、皆と夕食を取れる事を嬉しく思っているようだ。
「ねぇねぇ麻美」
クリスが私にそう言うと、小さな声で耳打ちしてくる。
「なんかさ。室長が美味しいとこ全部持って行ってる気がするんだけどー。このままだとまたファンが一人増えそうだね。まあ格好いいから仕方ないけどー」
松雪さんの様子を見ながらクリスが楽しそうにそう言った。
「そうだね。狙ってやってないところがまた憎いというか。室長の学生時代、どんな感じだったんだろうね」
そんな事を楽しく話しながら、私達はトレーニングルームを後にした。
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