アルサードの乙女達 CODE:AW SIDE EPISODE Ⅰ

黒咲鮎花

文字の大きさ
14 / 16
第三章 幻夢の夜

亀裂 ①

しおりを挟む
 2026年8月26日。水曜日。20時12分。
 温泉旅館 星嶺閣せいれいかく 座敷。

「流石に今日はお酒無しよ。悪酔いされたらたまったものじゃないわ」

 長野旅行最後の夜。私達は温泉を楽しんだ後、皆で鍋を囲んで夕食を取っていた。

「蒼依ちゃんも一緒に温泉入ったら良かったのに」

 千里さんの何気ない言葉。蒼依さんは自室のシャワーで済ませたようだ。やはり私達と一緒に温泉へ入るのは気が引けるのかもしれない。私や結衣花ちゃんも特にその辺りは気にしていないのだが、蒼依さんの性格上気を遣ってしまうのだろう。

「まあ好きにさせてあげたら? 一人でゆっくり湯を浴びたいときもあるのでしょうし」

 松雪さんの言葉。少し言い方が冷たく感じるが、恐らく松雪さんなりにフォローしているのだ。

「すみません。先日微熱も出ていたので……」

 蒼依さんはおそらく作り笑いを浮かべてそう取り繕っている。

「蒼依。このお肉もういいわよ。病み上がりなんだからしっかり食べなさい」

 鍋の中で火が通ったお肉や湯豆腐を、手慣れた手つきで取り皿に移す松雪さん。

「あらあら。優しいじゃない彩奈。流石は蒼依ちゃんのパートナーね」

「からかわないで千里。病み上がりの人間に当然のことをしている迄よ」

 そうは言うものの、松雪さんはかなり蒼依さんのことを心配しているはずだ。今日の昼間、蒼依さんのパートナーは千里さんだった筈。特に問題は無かったと思いたいが……。

「お肉、湯豆腐も美味しい……」

 にっこりと微笑んで松雪さんが取り分けてくれた料理を食べる蒼依さん。その笑顔は作り笑いではない様に思える。

「今日は蒼依ちゃんと一緒に色々散策したんだ。この辺りは景色も綺麗で清々しくて。明日にはまた東京に戻るなんて考えたくないわね」

 千里さんの言葉に皆が同意する。楽しかった長野旅行も今夜で終わり。明日の朝10時には迎えのバスが来る。もう少し羽を伸ばしたいとみんな思っている筈だ。

「結局鮎香ちゃんとはあんまり一緒に過ごせなかったなぁ」

 その一言に皆が笑う。

「結衣花ちゃんはいっつも鮎香ちゃんにべったりなんでしょ? たまには鮎香ちゃんゆっくりさせないと」

「そうよ結衣花。北條の事も少しは考えなさい」

 千里さんと松雪さんの言葉にいつもの反論をする結衣花ちゃん。只その様子をみんなが微笑ましく思っているようだ。

「蒼依さん。体を癒やすためにもしっかり食べてくださいね」

 私はそう言って空になっていた蒼依さんの取り皿に、鍋の料理を数品よそる。

「ありがとうございます。北條さん」

 そう言って微笑む彼女。その表情を見る限り、ほぼ問題なく回復しているようでホッとした。

 それからしばらく夕飯を食べながら、皆と普段は出来ないようなたわいもない話や女子トークに花を咲かせながら夜が過ぎていった。普段AMGEとして教会の職務に就いている私達は、基本的にペアで動いている事からこういう機会はあまり無い。こういった場を作ってくれた真由様や上條聖司祭、佐藤聖司祭に心から感謝したい。

 ただ、横目でときおり蒼依さんを見るが、あまり積極的に会話に参加していないように思える。大人しい性格だからこれが彼女の普通なのかもしれないが……。

「そういえば、明日東京に戻るけど16時に招集だとキツそうね」

 千里さんがふとそんなことを言い出す。スマートホンを確認すると、私にも16時に教会からの招集がかかっている。結衣花ちゃんも同じようだ。

「二泊三日の旅行なら明日まで職務は無しにしてもらいたいけど……」

 スマートホンを見ながらため息交じりの松雪さん。

「蒼依。明日の招集大丈夫かしら? まだ体調が優れないなら、あまり無理は良くないわよ」

「…………」

 松雪さんの言葉に、蒼依さんが黙り込む……。

「蒼依、どうしたの……?」
 

「ごめんなさい…… 私はもう、AMGEとして皆さんと共に戦う資格が無いと、思っています……」
 

 蒼依さんが発したその言葉に、全員が沈黙した……。

 ある程度覚悟はしていたが、実際に本人の言葉をきくと、胸が締め付けられるように辛くなる……。

『啓ちゃんは、唯一の親友でした…… 一緒に泣いて笑って…… 二人で励まし合って…… 一緒にアルサード女学院へ通うことを夢見ていました…… それなのに……』

 蒼依さんは、ずっとそれが心の傷として残っている。共にアルサード女学院へ通うことを夢見て、励まし合ってきた親友……。

 だけど選ばれたのは彼女だけ。その親友は今どうしているかは分からないけど、経緯を考えれば蒼依さんの元から去って行ったのだろう。私が仮に同じ立場なら、誰もいないところへ逃げ出してしまいたくなる……。

「蒼依………… どういう事なの?」

 沈黙を破ったのは松雪さんだった。

「その…… 色々と考えたんです。私は今現在、AMGE第二位として任に就いていますが、松雪さんの仰るとおり、誇りあるAMGE第二位には相応しくない…… それは前から分かっていたんです……」

 俯き、蒼依さんは言葉を続ける。

「AMGEの皆さんは、松雪さんを初め、本当に尊敬する方達ばかりで…… 正直なところ私は和を乱してばかり…… 相応しくないと思うのです。は……」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...