私は悪役令嬢ですが、実は魔王から世界を救っています。

カモミール

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7話.舞台

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ライオネルが去っていくのを見て、マーニィは安堵する。

流石の彼も諦めたようだ。
当然だろう。

男爵が王族とのやり取りに加われるはずがない。それにわたくしが死ぬことで世界は完全に
平和になるのだ。
彼も割り切ってくれたのだろう。

これから起こる光景を彼に見せたくはなかったというのが本心だ。

この3か月間は本当に素晴らしい日々だった。
あんなに眩しい毎日は7年ぶりだ。


じゃあね。ライオネル。わたくしのことは忘れてどうか健やかに。

心の中でつぶやき、目の前のユリウス王子に向き直る。

「この場は国の要人が揃っている。卒業式を迎える諸君には申し訳ないが、この場を借りて、マーニィ嬢を断罪する」
「ふっ、ここまで間抜けとは思いもしませんでしたわ。まさか、第一王女であるわたくしにこのような無礼を働くとは。あなたの国ごと粛清される覚悟はよろしくて?」
扇子の角度を口角を少しだけ見えるように調整して不敵に笑って見せる。
こんな馬鹿げた断罪でもわたくしを助けるものは誰もいないと分かっているけど。
そんな状況をこれまでずっと作り上げてきたのだから。

これが、わたくしの最期の舞台なのだ。
魔王を封じるために悪役令嬢を演じることになった奇妙ともいえる7年間もこれで終わる。

これがラストスパート。
ここで失敗するわけにはいかない。
悪役令嬢らしく、最後に必死にあがいてみせる。
わたくしに恨みを持つ人が最高のカタルシスを感じるように。
誰も遺恨を残さず、この舞台を〆れるように。

「私が証言いたしますわ」
ユリウス王子の背後から、マリアンヌが顔を覗かせる。
「マーニィお姉さまは、わたくしに対してひどい嫌がらせをしました。昔は優しかったのに…もう限界です。こんなお姉さまはもう見ていられません」
そうして、マリアンヌはわたくしに受けた仕打ちを1つ1つ挙げていく。
冤罪の1つもない、正真正銘わたくしが、マリアンヌに行った嫌がらせの数々だ。

自分は、今までどれだけ妹の気持ちを踏みにじってきたのかと思う。
当然妹だけではない。

魔王の悪意に対応するために、どれだけの人を傷つけてきたのだろう。
メビウスがよく言っている通りだ。

毎日メビウスが頭の中で囁く声が思い浮かぶ。
何人もの人間を壊してきた罪人と。一番側で見た内容をそのまま鮮明に語り掛けるのだ。

正直、あれはこたえたなぁ。

これだけ覚悟を決めても死ぬのは怖い。怖くて仕方がない。
だから、せめて最後にとびきりの罪悪感を抱えて死にたかった。憎悪を浴びて、自分の罪の意識を再確認して、自分は死ぬべきだと納得して死にたかった。

手がカタカタと震える。それが伝播して扇子が揺れていた。

ごめんね。マリアンヌ。私はこれでいなくなるから。

さながら、卒業式が行われている体育館の檀上は、
罪を決める裁判所のようになっていた。

「第二王女ごときが、わたくしを誰だと思っているのですか!!こんなのは陰謀です!」
無様に激高して、悪あがきをする様を演じる。
だが、予想通りわたくしの言葉に同調する者はだれ一人いなかった。

「俺も嫌がらせを受けた」、「私も」と次々と声が上がる。
ユリウス王子が次々とわたくしの罪状を読み上げていく。
それを聞いてわざとらしく狼狽えてみせる。

既にマリアンヌの罪を読み終え、別の生徒たちにした悪事の読み上げに移っていた。
生徒たちも次々と証言をする。

そうして、何分が経っただろう。
途方もなく長い時間だった気がする。

ついに罪の読み上げが終わる。
「この咎人を拘束せよ」
ユリウス王子が兵2人に命じ、わたくしの腕を後ろで縛って拘束しようとする。

「下賤な庶民が!!触らないでくださる!!」
ここで捕まっては意味がない。
兵2人を振りほどき、わたくしは懐からナイフを取り出した。

「な!?」
ユリウスが驚愕の声をあげる。
「マリアンヌーーーー!!!」
わたくしは絶叫して、ナイフの先をマリアンヌに向けたまま突進する。

「この!」

ユリウスが握っていた剣を構えて、わたくしの頭上に振り下ろした。
死の予感が全身に広がる。わたくしは、危険を察知しながらもそのまま前進し続けた。
ああ、これで終わる。

魔王の命も。
わたくしの命も。

これでもう、他の誰かを傷つけなくていいんだ。
それだけが、心底安堵した。

最後に何故かお兄様ではなく、ライオネルの顔が浮かぶ。
彼には、本当に助けられた。彼の存在が、視界が灰色に見えた7年間で最期に世界を照らしてくれた光だった。

神様が最後に与えてくれたご褒美だったのかもしれない。なんて…少し思う。

彼には本当に申し訳ない事をしたと思っている。
善良な彼はきっとわたくしの死を悲しむだろう。
ごめんねと心の中でつぶやく。

だけど、わたくしは、魔王これで倒すんだ。人類を救ったんだ。それを1人だけでも知ってくれているなんて、なんて嬉しいことなんだろう。
身勝手にもそう思ってしまう。

もし生まれ変わるなら、魔王なんていない世界で、お兄様や彼みたいに素敵な人と一緒にずっとあの輝いた世界で暮らしてみたいなぁ。

心の中でそう思ってわたくしはそっと目を閉じた。






その時。

「そこまでだ!!!!」
ガキィンと金属がぶつかる音がした。
思わず目を見開くと、そこにはお兄様がこちらをじっと見ているのが分かった。
ユリウス王子の剣は、お兄様の剣によって片手で止められている。

お兄様!?なんで…いやそれよりも。

わたくしは今、マリアンヌの元にナイフを向けて走っている。
まずい!このままじゃマリアンヌを本当に刺してしまう。
何とかナイフの軌道を逸らす。体の勢いは止められずに、マリアンヌにぶつかり、そのまま2人の体は床に倒れ込む。

「お姉…さま?」
マリアンヌが信じられないものを見たような目でこちらを見ている。
わたくしが咄嗟にナイフをずらしたことがマリアンヌにも伝わったのだろう。
明らかに彼女は困惑していた。

「マーニィ、お前、やっぱりそうなのか」
お兄様もマリアンヌ同様信じられないと言った顔でこちらを見ていた。

お兄様が…なんでここに?バレたの?でも半信半疑の反応に見える?
様々な疑問が頭の中に浮かぶ。


「僕が君のお兄さんに教えたんだ」
体を起こして声のする方を見ると、そこには息を絶え絶えにしたライオネルが立っていた。




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