10 / 13
9話.副産物
しおりを挟む闇は手と化し、マーニィの中にあった光をわしづかみにする。
それは彼女の善性の心から生まれる
光のエネルギー、その核だ。
「くっく、やっと」
本当に長かった。この魔王をこれほど長く縛り付けるとは、本当に大した小娘だ。
これを握り潰すことで、乗っ取りは完了する。
今度こそ勇者を殺し、魔道が制する素晴らしい世界を作ることができるのだ。
その瞬間、手のひらから大量の光が漏れ出る。
「なっ!?なんだこれは!?」
あまりに予想不能のことに驚愕する。
光のエネルギ―がどんどん高まっていく。
「馬鹿な。そんなこと、有り得ない」
突然、エネルギーが増幅するなんて。
どんどん、どんどん光のエネルギーは増えていく。
馬鹿な、馬鹿な、こんなこと。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
声にならない絶叫を上げながら、
魔王の怨念とも言える思念体はかき消されていった。
◇◇
目を覚ますと、毎日見ている天井が見えた。そこはわたくしの部屋のベットの上だった。
一体何が起きたのだろう。
体を起こそうとするが、うまく動かない。
「目が覚めたか?」
低い声に横を見ると、そこには見知った顔があった。
だが、この部屋でもう見る事はないと思っていた顔。
この国の国王、サンクロード・フィン・クローディオだった。
「お父様!?」
驚愕に目を見開く。
「なぜここに」
父は多忙の身だ。こんなわがままな娘に会いに来る時間なんてあるはずもないだろうに。
悪役令嬢のふりをするのも忘れて慌てて立ちあがろうとする。
それを父はそっと制した。
「よい。それより、いつもと態度が違うな」
「それは」
「言わなくていい。レオンから聞いた。お前の中に魔王がずっと憑りついていたことも、それを抑えるために、お前が悪女を演じていたことも」
「そうですか」
そういえば、お兄様にもライオネル経由で秘密がバレていたことを思い出した。
よく考えれば、それをお父様に報告するのは当然だろうと思う。
そうして、記憶が倒れる前の瞬間に追いつく。
「そうだ。魔王は、魔王はどうなったんですか?」
王はフルフルと首を振る。
「残念ながら完全には消滅しなかったようだ。まだお前の中にいる」
そう言われても、あの瞬間のことをわたくしはまだほとんど理解できていなかった。
「そもそも何でわたくしは魔王に乗っ取られていないんですか」
「お前の状況やあの卒業式の日の事をこの国にいる専門家たちに調べさせた。が、まずはお前の口からききたい。そもそもあの時何が起こったのだ?」
「えっと、わたくしの体の中から魔王の闇が広がってきて。その後のことは」
うまく思い出せなくて、言葉が出せなかった。
「闇が広がる前に、誰かのことを思い浮かべなかったか?」
お父様の問いにはっとする。わたくしは、闇をどうにかしてほしいと神に祈った。
皆を助けるために。
その時、最初に思い浮かんだのは
「お前は、7年間希代の悪女を演じる事で、悪意を発散してきたそうだな。ライオネルという青年からそう聞いている」
コクリと頷き「はい」と返事をする。
「だが、それは思いもよらない効果を生んだ。お前も気づいていなかったのだと思うが」
「効果?」
首をかしげる。7年間この状況に関連する知識を調べてきたが、思い浮かぶものはなかった。
「悪意を発散する行為は同時に7年間お前の中にある善性を封印する結果になったのだ。善性とは魔術的に正のエネルギーの源になる。お前は誰よりも優しい子だったな。その優しさが膨大な正のエネルギーとして蓄積され、誰かを助けたいという願いがトリガーになって一気に解き放たれた。流石の魔王も、その威力には耐えられなかったらしい。耐えきった辺りは流石にしぶといが、それでも体を構成する悪意はほとんど削られた」
「それって」
「ああ。もう魔王にお前を乗っ取るほどの負のエネルギーは残されとらん。これからはお前の中でただ生きるだけの存在となるだろう」
ポンと父はわたくしの肩を叩く。
「完全とは言い難いが、お前は解放されたのだ。この7年、如何につらく苦しい日々だったか、私には想像もできん。だが、本当によくやった。父として誇らしく思う」
「え?」
あの父が礼を言うなんて。
「そして、この国の王として、心から礼を言う。この国を救ってくれてありがとう」
そう言って王は頭を下げる。
目から涙が零れ落ちる。
7年前からわたくしは父からも見放されていた。
わたくしたち王族がもっとも期待を裏切ってはいけない王である父から。
当時、一番つらかったことが、この父の目線だったかもしれない。
だからこそ、報われたような気分を強く感じたのだ。
本当に、ライオネルが編入してからこの3か月は泣いてばかりだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
聖女アマリア ~喜んで、婚約破棄を承ります。
青の雀
恋愛
公爵令嬢アマリアは、15歳の誕生日の翌日、前世の記憶を思い出す。
婚約者である王太子エドモンドから、18歳の学園の卒業パーティで王太子妃の座を狙った男爵令嬢リリカからの告発を真に受け、冤罪で断罪、婚約破棄され公開処刑されてしまう記憶であった。
王太子エドモンドと学園から逃げるため、留学することに。隣国へ留学したアマリアは、聖女に認定され、覚醒する。そこで隣国の皇太子から求婚されるが、アマリアには、エドモンドという婚約者がいるため、返事に窮す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる