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しおりを挟むこの日、疲れたであろうローザたち一行のために、早めの晩餐をとることになった。
もちろんクラウスも同席をする。
国同士の関係もあり、和気あいあいというわけではないが、祝い事の席という事もあり、穏やかに時は過ぎた。
そして、別れ際にはローザ自らがクラウスを途中まで見送り、初体面は成功したのだった。
父、リューマン公爵と共に邸に帰ると、母が待ち構えており、何があったと口を割らされた。このままでは一晩中付き合う事になると思ったクラウスと父は、明日も早いと言い訳をし、何とか母の手から逃げることに成功。だが、母はまだ聞き足りないらしく「輿入れ後は、義母になる私が面倒をみることになるのですよ。今から情報収集は必要ですのに。きぃぃぃ」と背後で淑女らしくない声を上げていたが、父もクラウスも無視を決め込み、早い就寝をするのだった。
ローザ達は一週間ほどペテルセンに滞在し、明後日には婚約のお披露目パーティーが王宮で行われる。
明日はその準備をするために、クラウスは登城しないことになっている。
年齢に関係なく、一国の王女殿下の婚約。それ相応の支度があるのだろう。
デビュタント前の王女のために、夜会では無く昼間に行われることになっている。
大広間と庭園を解放し、明るい日差しの中少女らしい雰囲気で行うらしい。
この婚約パーティーは王家が主催のため、リューマン公爵家は一切関わっていない。
もちろん、ビタイチモン払っていない。
王命による婚姻のため、婚約や婚姻に関わる費用はすべて王家持ち。いや、王家の個人資産から出しているらしいと、父であるリューマン公爵が言っていた。
「王家に貸しを作るのに、無理矢理出せばよかったか?」と、怖い顔で笑っていたのは秘密にしておこうと心に誓うクラウスだった。
迎えた婚約披露パーティー当日。
昼からの開始ではあるが、主役であるクラウスは朝早く早々に登城し、ローザのそばに付き従う覚悟でいた。
朝食もそこそこに朝早くから馬車で向かうと、ローザはすでに湯あみも済ませ今は最終段階だという。
控室で何をするともなく椅子に座ったり、窓辺から空を見上げたりと、忙しなく動き回っていたら、第三王子のリチャードが顔を見せた。
「よ! どうだ? 気分は」
「……、何が言いたい?」
「ぷっ! 何って、緊張してるんじゃないかと思って声をかけたのに、それはないんじゃない?」
「緊張なんて、するに決まっているだろう。当り前だ」
「ま、そうだよね。いくら次期公爵とは言え、この場は緊張もするよね。色んな意味で」
「色んな。わかっているなら聞くな」
「まあまあ、そう言わないで。昨日の王女様の様子を教えてやろうと思ってさ」
「昨日の? 昨日は準備があるからと登城はせずにいたから、お顔を合せていない」
「そう、だから彼女の様子をね。教えてあげようと思ったのさ。昨日はドレスの準備とか色々と大変だったみたいだけど、彼女自身はそれほどでもなかったんだよ。
妙齢の淑女とは違うからね、肌の手入れや髪の手入れもそれほど必要はないんだろう」
それはそうだろう、まだ十歳だぞ。どこを磨くんだ?と、疑問を飲み込み。無言のままリチャードの次の言葉を待った。
「昼食の後、むこうの王太子も含めてお茶の時間を儲けてね。それも、僕をご指名で」
「指名? なぜ」
「そう思うだろう? どうやら、僕たちが学友で今も補佐の仕事をしてもらっているってことを聞いていたらしくて、色々聞かれたんだ」
「まさか、変な事は言ってないだろうな?」
「なに? 言われて困るような事でもあるの?」
「いや。別にないが……」
「ははは。そうだろうねぇ。お前は昔から品行方正だったし、浮いた噂もない。
聞かれたことなんて他愛も無いことだよ。お前は何が好きかとか、趣味とか。ストロームから贈り物を送るのに、何が良いかとか。そんなとこ。可愛いだろう?」
クラウスは、リチャードの言葉を聞いてすこしだけほっとするのを感じた。
たぶん、嫌われてはいないと。いや、ひょっとしたら少しは気に入ってもらえているらしいと感じたから。
「確かにまだ子供だけど、歳のわりにはちゃんと理解している。そこら辺の令嬢よりもはるかに賢い」
「それは言い過ぎだろう?」
「そうか? ま、そう言う事にしておくよ」
リチャードの言葉にも納得するところは大いにある。だがそれは彼女たちのせいだけではなく、彼女を取り巻く大人たちが原因でもあるのだから。それに王女としての教育の違いでもあるのだろうと考えていた。
そんな取り留めもないことを話しているうちに、控室のドアがノックされた。
あわてて返事を返せば護衛騎士がドアを開け、ストローム王国から連れて来た侍女が
「ローザ様のお支度が整いましてございます」と告げる。
侍女が一歩下がると、ローザが奥から姿を見せるのだった。
「お待たせいたしました。クラウス様」
婚約披露の宴に合わせた華やかなドレス。年齢に合わせたそれは華美過ぎず、しかし王女としての風格を損なわない物で、ペテルセンが力を入れたことがうかがえる。
桃色のふわりとしたドレスは彼女の可愛らしさと清楚さを一層引き立たせていた。
「ローザ様。よくお似合いです。とても可愛らしい」
素直な言葉を口にするクラウスの少し後ろから助け舟を出すべく、リチャードが声をかける。
「王女殿下、とても可憐で素敵です。その腰のリボンの色はクラウスの瞳の色ですね。
我が国でも婚約者や恋人の色を指し色に使うのが流行っているようです。さすが、流行に敏感でいらっしゃる。クラウスにはもったいない」
笑って話すリチャードの言葉にクラウスは少し考えてしまった。
ローザのドレスの腰に回された紺色のベルトリボンは、クラウスの瞳の色。
リチャードが口にするまで全く気が付かなかったが、言われてみれば自分の瞳と同じ色だと気が付いた。
「ローザ様、私の瞳の色を?」
何の迷いも無くローザに問えば、彼女は頬を赤らめながら「はい。クラウス様のお色です。ご迷惑でしたか?」と、俯いてしまった。
「迷惑だなんてとんでもありません。ありがとうございます。嬉しいです」
その言葉にパァ~ッと明るい顔でクラウスを見上げ、笑みをこぼす姿は年相応の可愛らしい少女だった。そんな彼女の姿を微笑ましく思うクラウスだった。
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