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14.それは成長か退化か

二百八十話 城へ向かって合流

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280話 死者と生者の行く道

それを過ぎて玉座の間に着くと、玉座にうなだれたように座るバーゼスクライトの
姿があった・・・なんで彼が座っているのだろうか?霊体で誰にも見えて無いようだし
本来いる筈の妹の方は何処に行ったのだろうか、休憩中なだけか?
「遅れてしまって悪かった」
「おぉ・・・主、帰っておられたのですね、気付かず申し訳ありません」
「こっちが悪いから気にしないでくれ、それより元気が無いようだが」
「はい、実は昨日の朝方からどうにも体が重く・・・自我が薄れているような気もして
いまして、端的に言うと不調なのです、霊体なのに何故こんな事になっているのか
気になっていましたが・・・成程」
「成程?解ったのか?」
「えぇたった今思い至りました、昨日一昨日と吸血鬼領の方から異様な気配が撒き
散らされておりましたが、あれは主とクドラク卿ので間違いありませんね?」
「あぁ、私に記憶は無いが間違いない」
「となると暴走されたと・・・」
「そうだな、だがそれも自分の未熟が原因だろうよ」
「やはりですか、はぁ・・・全くあのバカめ、長生きしすぎて雑になり過ぎているぞ」
ため息をつきながら溢したそれは呆れと苦笑が混じっていた
「それに関しては奴も言っていたでしょうが仕方ありません、魔人とは元来死ですか
らね、死を越えた事で永遠の存在になっただけの者や生者を殺すだけの者、はたまた
生者も死者も問わず死を撒き散らすだけの者等、それが魔人の本質であり存在意義と
されているモノですから・・・人間のように完全に個としての自己を持つと存在が不安
定になり魔人の性質が暴走を引き起こすのでしょう」
「ふむ、自身の問題と言うより種族としての問題だと?」
「そうだと思われます、人の様に自己を持つ魔人はどれもそれを自身の存在意義とし
ている節がありますから・・・元から魔人として生まれ落ちた貴方にとってそういった
後から得たモノは異物として判断されるのでしょう」
「確かにそうかもしれん、魔人として生まれる存在に人のような我は無いからな」
「そうなのですか?でしたら主もそう言う事なのでしょう」
はて・・・何故そんな事を知っていんだ?そんな知識は持っていなかった筈だが、何故
か当たり前かの様に口から出て来た、また何か魔人の知識を埋め込まれたか?いや
元々は知っていてそれを引き出しただけかもしれないのか・・・
「それより、これからどうするかは決まっているのですか?」
「あぁ、依頼の人探しも兼ねてダンジョン巡りでもと思っている」
「成程、まぁあちこちのダンジョンを巡るなら確かに人探しも兼ねれますな・・・しか
しそうなるとそれなりに長期の活動になるでしょうが、大丈夫なのですか?」
「準備に関しては装備に問題があるが、それはもう現地調達でいいかと思っている」
「ダンジョンでの装備集めが主目的なのですね、確かにダンジョン産の物はそこらの
店売りの物より性能が高いのも多いですから、それなりの性能の装備を整えるとなる
とかなり値が張りますし良い物で一式揃えるとなると家が買える位ですからね」
「性能の良い物となるとドワーフ産か?確かに高いイメージがある」
「それなりの物なら人間産の物でもそれなりに値が張るのですよ、良い物となると
有名所はドワーフやエルフ産の物が多いですね、相応に高いので中々手が出せる物で
はないですよ、家が買える程の値段はこちらです」
「量産品ならそれなりの値段だったよな?」
「ですがあなたの力からするとそんな武器では耐えれず、相対する敵には武器も防具
も耐え切れないでしょう、防具は今のその・・・杜撰とも言える簡易な防具よりは断然
マシにはなるのでしょうが、そのレベルなら無くても防御性能はさして変わらないか
と思います、動きの邪魔になるだけなら着けない方が良い事もありますよ」
「それはそうなんだが、一応着けておく事にしている・・・冒険者が防具を着けて無い
のはおかしいだろう?装備は幾らか見た目だけでも整えておかないと」
「それで整えると言うのは流石に無理があるのでは?一目見てマトモな物じゃない
と判りますよ?確かにローブで隠してはいるようですが判り易すぎます」
「そうか・・・まぁ間に合わせの素材でなんとか作っただけの物だからな、そこは仕方
ないだろう、それに使い捨てでも盾として使える物があった方がいいだろ?」
「確かに酸や粘液などを防ぐには十分1回は防げるでしょうから、まぁ・・・アリ?で
すかね、使い捨てならば直ぐに破棄出来ますし壊れても気にせずに済みます」
「あぁ、焼けば処分できる、ただ靴に関してはもうガタが来ている感じがする」
「それは素人が手を出して簡単に作れる物ではありませんからね」
「そうだな、まぁ壊れたら壊れたでいいんだが・・・バルゼリットはどうした?」
「奴なら妹の所で軍の管轄についての話でもしているのでしょう、奴も暇していて
このままでは仕事の邪魔になりかねんので回収して行きましょうか」
「そうか・・・連絡も無しに2日も遅れたからな」
「それに関しては昨日の朝、彼の配下から遅れる事になると連絡がありましたから
大丈夫です、丸1日遅れるとは思っていませんでしたが別にその位なら何の問題も
ありませんし気にせずともよいかと」
「そうだったのか、分かった呼んで来てくれ・・・そろそろ行こう」
「判りました、あまり生者に死者が関わる物でもありませんしね」
霊体である姿を揺らしながら離れていく・・・前までと移動の仕方が違っているような
気がするし、今まではしっかりと人型を保っていたのにその姿が不安定になっている
様にも見える、霊体を覆うように存在している霊体を留めていると思われる境界をゆ
らゆらと揺らしながら、壁をすり抜けて行く・・・かと言ってその存在が薄まったり不
安定になっている様子は無い、それどころか前よりも存在が強くなっているようにそ
の気配を感じるようになっている・・・気がする、少し離れていた事で感覚を忘れてし
まっているだけだろうか?それとも私の変化の影響を受けてしまっているのか?
「待たせてしまったか?少々引き継ぎの話をしていたのだ」
「既に10年も過ぎているせいで情報が古すぎて役に立つとは思えんがな」
「当てにはなると思う・・・ぞ?うむ、貴族たちも頑張ってくれているしな!」
「まぁこれからここは忙しくなるだろうから、我等は離れるとしよう」
「だからこそ着いていた方が良いのではないかと思うのだが・・・」
「必要な情報は渡したのだ、これ以上死者でしかない私達が関わるべきではない」
「そうだったな、全く兄者は厳しいと言うかドライと言うか」
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