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プロローグ
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「はぁ、はぁ、はぁ……!」
ガタガタと揺れるコックピット。
凄まじいGで体を圧迫され、鼓膜をアラート音が叩く。
涙と鼻水を溢れさせながらも目玉をギョロギョロとひっきりなしに動かして辺りを見回し、敵を探す。
パイロットスーツの中がじんわりと汗ばみ、不快感が直に伝わってくる。
両手でそれぞれの操縦桿を握り締め、右人指し指をめいいっぱい引き込み続ける。
「はぁっ……はぁっ……!くそっ!当たれ!当たれぇっ!」
自身の網膜に直接投影された機外の景色、真っ黒な、チリひとつない無の空間。
見えるのは自機の腕と保持するライフル、発砲炎と曳光弾によるストロボのような連続した光のみ。
そこへ突然赤枠の四角いフリップと細長い予測線が出現する。
機体を操作する前に支援AIが自動で回避。
少しばかりのGを感じた直後、1発の光弾が頭上を通り過ぎていった。
あれに当たれば一撃爆散とまでは行かなくとも比較的重めの損傷は免れない。
それも戦闘不能になるような。
「ふーっ……ふーっ……!び、ビビらせやがって……!」
先ほどの射撃から敵の射点の位置を特定、兵装を視線操作で選択、迷わず引き金を引く。
肩部にマウントされた多段式のランチャーから一斉に空対空誘導弾が発射される。
直後にコンテナをパージ、肩が一気に軽くなった。
「頼む……当たってくれ……!!」
自身の願いが籠った白色の槍達は一気に加速し、コンピューターに従って目標へと突き進む。
しかし悲しいかな。
半時間前に完全武装のこちらの部隊を、先輩達の操る『晴嵐』6機をいきなり大破に追いやった化け物に当たる筈がなかった。
奴は凄まじい加速とスピードで視界の外へ消えると残された噴進弾が虚しく空を切る。
皇国近衛軍に配備されているものならしつこく食い下がってくれるのかもしれないが、あいにくこちらのはごくありふれた量産型だ。
そんな高性能さは欠片も無い。
ちなみに今戦っている敵さんだが、こっちとは対照的に性能が高くて強い装備を持っているらしい。
事実、すぐさま自分の正確な位置を補足したのか、先程のお返しが返ってきた。
慌てて足回りのスラスターを起動。
今までの軌道を無理矢理変えて回避に徹する。
「ぐうぅぅ……!!ちっくしょう……ちくしょう!逃げさせてくれよ……!うわっ!?うわあぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、いきなり機体各所に搭載されたアクティブ防護システム、通称ASPが作動した。
どうやらこちらへ飛来した砲弾をはたき落としてくれたようだ。
しかし流石に衝撃と破片までは防ぐことが出来ず、爆風と飛散した金属片が機体の装甲を叩く。
コックピットが酷く揺さぶられると、押し留めていた恐怖が呼び起こされ、軽くパニックになってしまう。
だが幸いにも身体は、教官の『操縦桿だけは死んでも離すな』という言葉を覚えていたようで、すぐに機体の姿勢を立て直すことに成功した。
「はっ、はぁ、はぁ、はぁ……晴嵐だったら死んでた……。ホント、『天雷』に乗っていて良かった……。」
息を整えながら再び前を見据える。
相変わらず敵は背面上方から自分を追い続けており、諦める様子は一切無い。
「ああもうっ……早くっ……諦めろっ……!」
止まらないアラートの中、何とか機体を左右に振って攻撃を避け続ける。
それでも全てを避けることは出来ず、時折りASPでも防ぐことの出来なかった砲弾が装甲の一部を抉り取る。
コンソールに映る、自機のコンディションを表す色が次々に緑から黄色、場所によっては赤に変わっていく。
「い、一番増槽を投棄……!主機を二番に接続……!」
攻撃を食らい続けて怖気付いてしまったのだろう。
もはや戦う気など更々無かった。
遂には重いし残弾もそこまで残っていないからと最後まで持っていた92式120mm機関砲を手放す。
そうして逃げに徹してから数分。
弾が切れたのか、それとも諦めたのか、敵からの射撃が途絶え、うるさいビープ音も消えた。
「終わった……か?」
足は止めないまま頭部を後部上方に向ける。
そこには今しがたライフルらしき武器を捨てた敵機の姿が。
「よ、よし!逃げろっ!」
しめたとばかりにエンジンの出力を一杯に上げれば、背部にマウントされた4つのブースターから青白い炎が噴き出る。
遠距離攻撃が不可能になったのなら、あとは距離を空けて逃げるのみだ。
もくろみ通り少しずつ離れていく敵機。
このまま相手を振り切って味方の居る宙域に逃げ込む……そうなる筈だった。
「……っ!?接近警報!?まさかっ!?」
レーダー上に映る、こちらへ急接近してくる1つの点。
後方カメラを点ければスラリとした白い敵機の姿が。
ここまでくると頭を抱えたくなってくる。
「嘘だろ!?こっちはスピードが売りなんだぞ!?どうして機動力もあって速力までっ……!!」
接近してくる敵が懐から何か棒状のようなものを取り出す。
手投げ弾の類かと思ったが、その正体はすぐに分かった。
柄の先端から伸びたのは光の刀身。
皇国軍でもまだ近衛軍の『極光』くらいにしか装備されていない、いわゆる『ビーム剣』というやつだった。
「な、何もかも高性能じゃねえか!ズルいぞ……ちっ、畜生ぉ!」
近付いてくる死に対して半ばヤケクソに叫ぶが、現状が何か変わる筈もない。
遂には敵の機体が一気に距離を詰め、剣を振りかぶってくる。
一瞬、敵の光剣が迫ってくるところがスローモーションで見えた。
「ああ……。」
これから死ぬのか、女の味だってまだ知らないのにこんな場所で死ぬのか。
嫌だ、死にたくない、生きたい、また生きて故郷に帰りたい。
……いや、死なない、絶対に死ねない、生きる、生き抜く、どんなにかっこ悪くても、どんなに不格好でも。
自身の中で生きる気持ちが再燃する。
操縦桿を握る手に力が入る。
次の瞬間には勝手に腕と口が動いていた。
「死んで……たまるかあぁぁぁ!!!!!」
頭部、胸部バルカン起動、腰部マイクロミサイル装填。
操作をオートからマニュアルに変更、姿勢制御、反転180度。
背部スラスター全力稼働。
ゴンッッッッ!!!!っと衝撃が双方に伝わる。
溶断された左肩のパーツが宙を舞う中、自機の頭部は敵機に思いっきり頭突きをかましていた。
もろにくらった敵が後ろにのけぞり、距離が離れそうになるが、すかさず距離を詰めて追撃。
相手の胴体を腕ごとガッチリ掴み、動けないように拘束する。
「へ、へへ……捕まえたぞ……!このまま天雷のパワーで締め上げてやる!」
ミシミシ、メキメキと嫌な音が響く。
敵は諦めずに手足を動かして振り解こうとしてくるが、単純な力比べではこちらが上のようで、全く抵抗出来ていなかった。
しかしそれでも足掻き続け、遂には頭部のチェーンガンらしきものを乱射してきた。
こんな至近距離では跳弾の危険もあるというのに。
「こなくそっ!!」
豆鉄砲とはいえ、やられっぱなしではいられないとこちらもお返しに頭と胸の計3門のバルカン砲を撃ち返す。
ぐるんぐるんと回り続ける2機の間で毎秒合計500発の鉛玉の応酬が始まった。
大抵は装甲に弾かれるが、一部はセンサー類などの脆弱な箇所へと突き刺さる。
「あぁぁぁぁ!!!!」
もう無我夢中だった。
マニピュレーター損傷覚悟で敵のスラスターを握りつぶし、力任せに腕の関節をへし折る。
マイクロミサイルを至近から叩き込み、敵の脚をボコボコにする。
最後には近接武器であるダガーの存在も忘れて勢いのまま殴った。
指がもげても殴り続けた。
きっと教官や上官、仲間が見ていたのなら、なんだその戦い方はと腹を抱えて大笑いしたに違いない。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……。」
そしてそう時間が経たないうちに決着がついた。
バルカンによってズタズタになった頭部を捻切られ、カクンと糸が切れた人形のように動きを止めた敵機。
対してこちらは左腕を失ったのみで済んだ。
「やった……やったぞ……生き残った……。」
初陣で、初めての単機による撃墜、全身を迸る高揚感。
一気に緊張感が抜け、強張り切っていた体が弛緩する。
だから新たに鳴り始めたビープ音にすぐ気付かなかった。
「……ん?え、えっ!?さ、酸素が!?」
一難去ってまた一難、コンソールに表示される酸素残量のメーター。
慌ててスーツを触りペットボトルサイズの酸素ボンベを手に取ると、ぶつけたのかひしゃげて小さな穴が空いているのが確認された。
ダクトテープを取り出し、取り敢えず穴に貼っておく。
これでゲージが減るのは止まったが、そう長くは保たない。
「くそっ、予備のボンベは……あった。けど3本だけか……。」
手際よく交換を済ませると次に機体のチェックをする。
未だに敵を掴んだままなことに気付くと手を離そうとするが、そこで画面越しに敵機のコックピットブロックが目に入ってきた。
「もしかして誰か居る……?けどコイツって無人機じゃ……いや、ハッチがある理由が分からないか……。」
操縦席のハッチの周りは比較的軽傷であり、滅茶苦茶に撃ち込んだバルカンも大半を弾いていたことから可能性は高い。
自身の中でムクムクと興味が湧いていき、気付けばいつの間にか機外に出て、敵機の表面に取り付いている自分がいた。
「ようし……やるぞ……甲標的のクソ野郎がどんな気持ち悪い面をしているか見せてもらおうじゃないか。」
AIの動かす天雷の右手がハッチを鷲掴みにし、一気にもぎ取る。
阻むものが無くなるのを確認すると、拳銃と懐中電灯を構えながら中を覗いた。
「…………え?」
言葉が出なかった。
てっきり相手のパイロットは気持ち悪い形をした化け物だと思っていた。
無人機を使って人間を襲ってくる卑劣な異星人なんて絶対そうに違いないからだ。
なのに目の前の存在はそれとはまるで正反対の姿形をしていた。
自分より明らかに小さな体躯、触れば折れてしまいそうな細い手足。
一番目を引いたのがヘルメットの向こうに見える顔だった。
まるで陶器のような白磁の肌、流れるような鮮やかな金髪、人形と勘違いしそうなほど整った顔のパーツ。
全てが唸ってしまうくらいには綺麗だった。
「すげぇ……。」
手を伸ばし、彼女の体に触れる。
すると長いまつ毛がピクリと動き、ゆっくりと瞼が開いていく。
「あ……。」
パッチリとした青色の瞳と目が合った。
どうすればいいのか分からず、少しの間固まるが、取り敢えず右手を差し伸べてみる。
「…………?」
こちらの顔と右手を交互に見る彼女。
拳銃を向けたままだったことに気付き、慌てて銃口を上に上げた。
そして軽く手をふるふると振ってみる。
少なくとも戦う気はそこまで無いよと。
「ん……。」
手を伸ばしていると遂に反応があった。
少女側から恐る恐るといった感じで手を握り返してきたのだ。
これが自分と彼女との初の邂逅となった。
ガタガタと揺れるコックピット。
凄まじいGで体を圧迫され、鼓膜をアラート音が叩く。
涙と鼻水を溢れさせながらも目玉をギョロギョロとひっきりなしに動かして辺りを見回し、敵を探す。
パイロットスーツの中がじんわりと汗ばみ、不快感が直に伝わってくる。
両手でそれぞれの操縦桿を握り締め、右人指し指をめいいっぱい引き込み続ける。
「はぁっ……はぁっ……!くそっ!当たれ!当たれぇっ!」
自身の網膜に直接投影された機外の景色、真っ黒な、チリひとつない無の空間。
見えるのは自機の腕と保持するライフル、発砲炎と曳光弾によるストロボのような連続した光のみ。
そこへ突然赤枠の四角いフリップと細長い予測線が出現する。
機体を操作する前に支援AIが自動で回避。
少しばかりのGを感じた直後、1発の光弾が頭上を通り過ぎていった。
あれに当たれば一撃爆散とまでは行かなくとも比較的重めの損傷は免れない。
それも戦闘不能になるような。
「ふーっ……ふーっ……!び、ビビらせやがって……!」
先ほどの射撃から敵の射点の位置を特定、兵装を視線操作で選択、迷わず引き金を引く。
肩部にマウントされた多段式のランチャーから一斉に空対空誘導弾が発射される。
直後にコンテナをパージ、肩が一気に軽くなった。
「頼む……当たってくれ……!!」
自身の願いが籠った白色の槍達は一気に加速し、コンピューターに従って目標へと突き進む。
しかし悲しいかな。
半時間前に完全武装のこちらの部隊を、先輩達の操る『晴嵐』6機をいきなり大破に追いやった化け物に当たる筈がなかった。
奴は凄まじい加速とスピードで視界の外へ消えると残された噴進弾が虚しく空を切る。
皇国近衛軍に配備されているものならしつこく食い下がってくれるのかもしれないが、あいにくこちらのはごくありふれた量産型だ。
そんな高性能さは欠片も無い。
ちなみに今戦っている敵さんだが、こっちとは対照的に性能が高くて強い装備を持っているらしい。
事実、すぐさま自分の正確な位置を補足したのか、先程のお返しが返ってきた。
慌てて足回りのスラスターを起動。
今までの軌道を無理矢理変えて回避に徹する。
「ぐうぅぅ……!!ちっくしょう……ちくしょう!逃げさせてくれよ……!うわっ!?うわあぁぁぁぁぁ!!」
次の瞬間、いきなり機体各所に搭載されたアクティブ防護システム、通称ASPが作動した。
どうやらこちらへ飛来した砲弾をはたき落としてくれたようだ。
しかし流石に衝撃と破片までは防ぐことが出来ず、爆風と飛散した金属片が機体の装甲を叩く。
コックピットが酷く揺さぶられると、押し留めていた恐怖が呼び起こされ、軽くパニックになってしまう。
だが幸いにも身体は、教官の『操縦桿だけは死んでも離すな』という言葉を覚えていたようで、すぐに機体の姿勢を立て直すことに成功した。
「はっ、はぁ、はぁ、はぁ……晴嵐だったら死んでた……。ホント、『天雷』に乗っていて良かった……。」
息を整えながら再び前を見据える。
相変わらず敵は背面上方から自分を追い続けており、諦める様子は一切無い。
「ああもうっ……早くっ……諦めろっ……!」
止まらないアラートの中、何とか機体を左右に振って攻撃を避け続ける。
それでも全てを避けることは出来ず、時折りASPでも防ぐことの出来なかった砲弾が装甲の一部を抉り取る。
コンソールに映る、自機のコンディションを表す色が次々に緑から黄色、場所によっては赤に変わっていく。
「い、一番増槽を投棄……!主機を二番に接続……!」
攻撃を食らい続けて怖気付いてしまったのだろう。
もはや戦う気など更々無かった。
遂には重いし残弾もそこまで残っていないからと最後まで持っていた92式120mm機関砲を手放す。
そうして逃げに徹してから数分。
弾が切れたのか、それとも諦めたのか、敵からの射撃が途絶え、うるさいビープ音も消えた。
「終わった……か?」
足は止めないまま頭部を後部上方に向ける。
そこには今しがたライフルらしき武器を捨てた敵機の姿が。
「よ、よし!逃げろっ!」
しめたとばかりにエンジンの出力を一杯に上げれば、背部にマウントされた4つのブースターから青白い炎が噴き出る。
遠距離攻撃が不可能になったのなら、あとは距離を空けて逃げるのみだ。
もくろみ通り少しずつ離れていく敵機。
このまま相手を振り切って味方の居る宙域に逃げ込む……そうなる筈だった。
「……っ!?接近警報!?まさかっ!?」
レーダー上に映る、こちらへ急接近してくる1つの点。
後方カメラを点ければスラリとした白い敵機の姿が。
ここまでくると頭を抱えたくなってくる。
「嘘だろ!?こっちはスピードが売りなんだぞ!?どうして機動力もあって速力までっ……!!」
接近してくる敵が懐から何か棒状のようなものを取り出す。
手投げ弾の類かと思ったが、その正体はすぐに分かった。
柄の先端から伸びたのは光の刀身。
皇国軍でもまだ近衛軍の『極光』くらいにしか装備されていない、いわゆる『ビーム剣』というやつだった。
「な、何もかも高性能じゃねえか!ズルいぞ……ちっ、畜生ぉ!」
近付いてくる死に対して半ばヤケクソに叫ぶが、現状が何か変わる筈もない。
遂には敵の機体が一気に距離を詰め、剣を振りかぶってくる。
一瞬、敵の光剣が迫ってくるところがスローモーションで見えた。
「ああ……。」
これから死ぬのか、女の味だってまだ知らないのにこんな場所で死ぬのか。
嫌だ、死にたくない、生きたい、また生きて故郷に帰りたい。
……いや、死なない、絶対に死ねない、生きる、生き抜く、どんなにかっこ悪くても、どんなに不格好でも。
自身の中で生きる気持ちが再燃する。
操縦桿を握る手に力が入る。
次の瞬間には勝手に腕と口が動いていた。
「死んで……たまるかあぁぁぁ!!!!!」
頭部、胸部バルカン起動、腰部マイクロミサイル装填。
操作をオートからマニュアルに変更、姿勢制御、反転180度。
背部スラスター全力稼働。
ゴンッッッッ!!!!っと衝撃が双方に伝わる。
溶断された左肩のパーツが宙を舞う中、自機の頭部は敵機に思いっきり頭突きをかましていた。
もろにくらった敵が後ろにのけぞり、距離が離れそうになるが、すかさず距離を詰めて追撃。
相手の胴体を腕ごとガッチリ掴み、動けないように拘束する。
「へ、へへ……捕まえたぞ……!このまま天雷のパワーで締め上げてやる!」
ミシミシ、メキメキと嫌な音が響く。
敵は諦めずに手足を動かして振り解こうとしてくるが、単純な力比べではこちらが上のようで、全く抵抗出来ていなかった。
しかしそれでも足掻き続け、遂には頭部のチェーンガンらしきものを乱射してきた。
こんな至近距離では跳弾の危険もあるというのに。
「こなくそっ!!」
豆鉄砲とはいえ、やられっぱなしではいられないとこちらもお返しに頭と胸の計3門のバルカン砲を撃ち返す。
ぐるんぐるんと回り続ける2機の間で毎秒合計500発の鉛玉の応酬が始まった。
大抵は装甲に弾かれるが、一部はセンサー類などの脆弱な箇所へと突き刺さる。
「あぁぁぁぁ!!!!」
もう無我夢中だった。
マニピュレーター損傷覚悟で敵のスラスターを握りつぶし、力任せに腕の関節をへし折る。
マイクロミサイルを至近から叩き込み、敵の脚をボコボコにする。
最後には近接武器であるダガーの存在も忘れて勢いのまま殴った。
指がもげても殴り続けた。
きっと教官や上官、仲間が見ていたのなら、なんだその戦い方はと腹を抱えて大笑いしたに違いない。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……。」
そしてそう時間が経たないうちに決着がついた。
バルカンによってズタズタになった頭部を捻切られ、カクンと糸が切れた人形のように動きを止めた敵機。
対してこちらは左腕を失ったのみで済んだ。
「やった……やったぞ……生き残った……。」
初陣で、初めての単機による撃墜、全身を迸る高揚感。
一気に緊張感が抜け、強張り切っていた体が弛緩する。
だから新たに鳴り始めたビープ音にすぐ気付かなかった。
「……ん?え、えっ!?さ、酸素が!?」
一難去ってまた一難、コンソールに表示される酸素残量のメーター。
慌ててスーツを触りペットボトルサイズの酸素ボンベを手に取ると、ぶつけたのかひしゃげて小さな穴が空いているのが確認された。
ダクトテープを取り出し、取り敢えず穴に貼っておく。
これでゲージが減るのは止まったが、そう長くは保たない。
「くそっ、予備のボンベは……あった。けど3本だけか……。」
手際よく交換を済ませると次に機体のチェックをする。
未だに敵を掴んだままなことに気付くと手を離そうとするが、そこで画面越しに敵機のコックピットブロックが目に入ってきた。
「もしかして誰か居る……?けどコイツって無人機じゃ……いや、ハッチがある理由が分からないか……。」
操縦席のハッチの周りは比較的軽傷であり、滅茶苦茶に撃ち込んだバルカンも大半を弾いていたことから可能性は高い。
自身の中でムクムクと興味が湧いていき、気付けばいつの間にか機外に出て、敵機の表面に取り付いている自分がいた。
「ようし……やるぞ……甲標的のクソ野郎がどんな気持ち悪い面をしているか見せてもらおうじゃないか。」
AIの動かす天雷の右手がハッチを鷲掴みにし、一気にもぎ取る。
阻むものが無くなるのを確認すると、拳銃と懐中電灯を構えながら中を覗いた。
「…………え?」
言葉が出なかった。
てっきり相手のパイロットは気持ち悪い形をした化け物だと思っていた。
無人機を使って人間を襲ってくる卑劣な異星人なんて絶対そうに違いないからだ。
なのに目の前の存在はそれとはまるで正反対の姿形をしていた。
自分より明らかに小さな体躯、触れば折れてしまいそうな細い手足。
一番目を引いたのがヘルメットの向こうに見える顔だった。
まるで陶器のような白磁の肌、流れるような鮮やかな金髪、人形と勘違いしそうなほど整った顔のパーツ。
全てが唸ってしまうくらいには綺麗だった。
「すげぇ……。」
手を伸ばし、彼女の体に触れる。
すると長いまつ毛がピクリと動き、ゆっくりと瞼が開いていく。
「あ……。」
パッチリとした青色の瞳と目が合った。
どうすればいいのか分からず、少しの間固まるが、取り敢えず右手を差し伸べてみる。
「…………?」
こちらの顔と右手を交互に見る彼女。
拳銃を向けたままだったことに気付き、慌てて銃口を上に上げた。
そして軽く手をふるふると振ってみる。
少なくとも戦う気はそこまで無いよと。
「ん……。」
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少女側から恐る恐るといった感じで手を握り返してきたのだ。
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