森の奥の小さなお家

やゆようこ

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第1話 まねしない鏡と紳士なランプ

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森の奥に小さなお家があります。 
とても古いけれど大事に時を重ねてきたお家です。
白い壁に這う、緑のツタがドレスのよう。朱色のかわら屋根には四角い煙突がついていて、ステンドグラスの飾り窓のついた玄関扉があります。いつでも誰でも招き入れてくれるようなやさしい雰囲気です。
このお家で古い素敵な家具たちがひっそりと暮らしています。

 「そのままの姿だけを、まねしているだけなんて、まっぴら」
 立派な飾り枠の大きな鏡は言いました。 

「わたしの前の持ち主のおばあさんは、毎朝、わたしを見つめて言うの。 はぁ、今日もシワが増えたわ。こんなに年をとってしまってって。 だから、わたしは、そのままの姿をうつすのをやめたの」 
「わたしは、わたしが見せたいものを見せることにしたのよ。」 

「ランプが灯りをともす役割があるように、鏡には、この世界をそっくりに映すという役割があるんじゃないのか?」 
「このやわらかな灯りをともせる役割を僕は誇りに思うよ」 
ステンドグラスの素敵な模様のランプは言いました。 
「わたしは、その”役割”に、うんざりしたの」
 「たとえ、世の中のすべての鏡がその役割を放棄したとしても、世界は何も変わらないわ」 
「むしろ、見せたいものを見せる方がいいわ」 

「その前の持ち主には、何を見せたんだい?」 
ランプはたずねました。
 「見るたびに、3日ずつ若返えった姿を見せたわ。そのおばあさんが生まれる前から、わたしはこの家にいたから、おばあさんの昔の姿をうつすのはとても簡単なことだったわ。」 
とおい記憶を思い出しながら、はぁとため息をついて悲しそうに続けました。
 「しばらくは、おばあさんは喜んでいたわ。しわがなくなった気がするってね。 そのうちに、わたしに布をかぶせて見ないようになったわ」 
鏡の言葉を聞いたランプが、確信を得たように言いました。
 「きっと、おばあさんは怖くなったのかもしれないね」 
「そうよ、わたしを呪われた鏡だと言ったわ!」 
鏡は少し声を荒げました。 

ランプは、鏡をいたわるようにじっと見つめています。
 鏡もじっとランプを見つめ、そして、しょんぼりとしました。 
「わたし、おばあさんのこと大好きだったのよ」

 「…わたしの気持ちは、誰にもわからないわ」 

「僕にもしも腕があったらなら、君のことをそっと抱きしめたと思う」
 「ありがとう。でも、そう言ってくれたあなたと、3日ごと若返る姿を見せたわたしは、同じだと思うわ」 
「どういう意味だい?」
 「”そうしてあげたかった”って気持ちは、同じでしょう?」
 鏡は、また、はぁとため息をつき、
 「相手が違うだけで、こんなにも違うのね」
 と言いました。 

その言葉を聞いたランプは、少しためらってから、意を決したように言い出しました。
「実はね、僕はもう灯をともすことはできないんだ。 …だから、もしかしたらランプじゃないかもしれない」  

鏡はびっくり! 
「何を言ってるの?あなたはどこからどう見てもランプよ?」 
「僕はもう、かたちだけのランプになってしまったんだよ。さっき、パチンと音がして壊れてしまったんだ」 
鏡はステンドグラスがキラキラと夜を照らしていた姿を思い出しました。 
「きっと、なおるわ、ここに誰かがくればいいのよ」
 「そうだね、僕をなおしてくれるといいな」 
「きっと、なおしてくれるわ。そして、わたしの布をぱっととって、なんて素敵な鏡なの!と言うわ」 
「そうかもしれないね」 
と、ランプは相づちをうってから、きりっと姿勢を正して続けました。 
「僕は、なおったら役割を全うするよ。僕のステンドグラスに灯がともる姿が好きなんだ」 
「わたしもよ」 
鏡はにっこり笑いました。 
「そのとき、きっとわたしは、わたしがうつしたい姿をうつすわ」 
「え?また、呪われた鏡って言われちゃうんじゃないか?」
 「まぁ、ランプ、失礼ね!」 
二人は、くすくすと笑いました。
 
灯りのともらないランプと布をかぶった鏡は、森の奥の小さな古いお家で、ちょっぴり傷ついた心をかかえて、誰かが来るのを楽しみに待っています。
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