1 / 3
第1話 まねしない鏡と紳士なランプ
しおりを挟む
森の奥に小さなお家があります。
とても古いけれど大事に時を重ねてきたお家です。
白い壁に這う、緑のツタがドレスのよう。朱色のかわら屋根には四角い煙突がついていて、ステンドグラスの飾り窓のついた玄関扉があります。いつでも誰でも招き入れてくれるようなやさしい雰囲気です。
このお家で古い素敵な家具たちがひっそりと暮らしています。
「そのままの姿だけを、まねしているだけなんて、まっぴら」
立派な飾り枠の大きな鏡は言いました。
「わたしの前の持ち主のおばあさんは、毎朝、わたしを見つめて言うの。 はぁ、今日もシワが増えたわ。こんなに年をとってしまってって。 だから、わたしは、そのままの姿をうつすのをやめたの」
「わたしは、わたしが見せたいものを見せることにしたのよ。」
「ランプが灯りをともす役割があるように、鏡には、この世界をそっくりに映すという役割があるんじゃないのか?」
「このやわらかな灯りをともせる役割を僕は誇りに思うよ」
ステンドグラスの素敵な模様のランプは言いました。
「わたしは、その”役割”に、うんざりしたの」
「たとえ、世の中のすべての鏡がその役割を放棄したとしても、世界は何も変わらないわ」
「むしろ、見せたいものを見せる方がいいわ」
「その前の持ち主には、何を見せたんだい?」
ランプはたずねました。
「見るたびに、3日ずつ若返えった姿を見せたわ。そのおばあさんが生まれる前から、わたしはこの家にいたから、おばあさんの昔の姿をうつすのはとても簡単なことだったわ。」
とおい記憶を思い出しながら、はぁとため息をついて悲しそうに続けました。
「しばらくは、おばあさんは喜んでいたわ。しわがなくなった気がするってね。 そのうちに、わたしに布をかぶせて見ないようになったわ」
鏡の言葉を聞いたランプが、確信を得たように言いました。
「きっと、おばあさんは怖くなったのかもしれないね」
「そうよ、わたしを呪われた鏡だと言ったわ!」
鏡は少し声を荒げました。
ランプは、鏡をいたわるようにじっと見つめています。
鏡もじっとランプを見つめ、そして、しょんぼりとしました。
「わたし、おばあさんのこと大好きだったのよ」
「…わたしの気持ちは、誰にもわからないわ」
「僕にもしも腕があったらなら、君のことをそっと抱きしめたと思う」
「ありがとう。でも、そう言ってくれたあなたと、3日ごと若返る姿を見せたわたしは、同じだと思うわ」
「どういう意味だい?」
「”そうしてあげたかった”って気持ちは、同じでしょう?」
鏡は、また、はぁとため息をつき、
「相手が違うだけで、こんなにも違うのね」
と言いました。
その言葉を聞いたランプは、少しためらってから、意を決したように言い出しました。
「実はね、僕はもう灯をともすことはできないんだ。 …だから、もしかしたらランプじゃないかもしれない」
鏡はびっくり!
「何を言ってるの?あなたはどこからどう見てもランプよ?」
「僕はもう、かたちだけのランプになってしまったんだよ。さっき、パチンと音がして壊れてしまったんだ」
鏡はステンドグラスがキラキラと夜を照らしていた姿を思い出しました。
「きっと、なおるわ、ここに誰かがくればいいのよ」
「そうだね、僕をなおしてくれるといいな」
「きっと、なおしてくれるわ。そして、わたしの布をぱっととって、なんて素敵な鏡なの!と言うわ」
「そうかもしれないね」
と、ランプは相づちをうってから、きりっと姿勢を正して続けました。
「僕は、なおったら役割を全うするよ。僕のステンドグラスに灯がともる姿が好きなんだ」
「わたしもよ」
鏡はにっこり笑いました。
「そのとき、きっとわたしは、わたしがうつしたい姿をうつすわ」
「え?また、呪われた鏡って言われちゃうんじゃないか?」
「まぁ、ランプ、失礼ね!」
二人は、くすくすと笑いました。
灯りのともらないランプと布をかぶった鏡は、森の奥の小さな古いお家で、ちょっぴり傷ついた心をかかえて、誰かが来るのを楽しみに待っています。
とても古いけれど大事に時を重ねてきたお家です。
白い壁に這う、緑のツタがドレスのよう。朱色のかわら屋根には四角い煙突がついていて、ステンドグラスの飾り窓のついた玄関扉があります。いつでも誰でも招き入れてくれるようなやさしい雰囲気です。
このお家で古い素敵な家具たちがひっそりと暮らしています。
「そのままの姿だけを、まねしているだけなんて、まっぴら」
立派な飾り枠の大きな鏡は言いました。
「わたしの前の持ち主のおばあさんは、毎朝、わたしを見つめて言うの。 はぁ、今日もシワが増えたわ。こんなに年をとってしまってって。 だから、わたしは、そのままの姿をうつすのをやめたの」
「わたしは、わたしが見せたいものを見せることにしたのよ。」
「ランプが灯りをともす役割があるように、鏡には、この世界をそっくりに映すという役割があるんじゃないのか?」
「このやわらかな灯りをともせる役割を僕は誇りに思うよ」
ステンドグラスの素敵な模様のランプは言いました。
「わたしは、その”役割”に、うんざりしたの」
「たとえ、世の中のすべての鏡がその役割を放棄したとしても、世界は何も変わらないわ」
「むしろ、見せたいものを見せる方がいいわ」
「その前の持ち主には、何を見せたんだい?」
ランプはたずねました。
「見るたびに、3日ずつ若返えった姿を見せたわ。そのおばあさんが生まれる前から、わたしはこの家にいたから、おばあさんの昔の姿をうつすのはとても簡単なことだったわ。」
とおい記憶を思い出しながら、はぁとため息をついて悲しそうに続けました。
「しばらくは、おばあさんは喜んでいたわ。しわがなくなった気がするってね。 そのうちに、わたしに布をかぶせて見ないようになったわ」
鏡の言葉を聞いたランプが、確信を得たように言いました。
「きっと、おばあさんは怖くなったのかもしれないね」
「そうよ、わたしを呪われた鏡だと言ったわ!」
鏡は少し声を荒げました。
ランプは、鏡をいたわるようにじっと見つめています。
鏡もじっとランプを見つめ、そして、しょんぼりとしました。
「わたし、おばあさんのこと大好きだったのよ」
「…わたしの気持ちは、誰にもわからないわ」
「僕にもしも腕があったらなら、君のことをそっと抱きしめたと思う」
「ありがとう。でも、そう言ってくれたあなたと、3日ごと若返る姿を見せたわたしは、同じだと思うわ」
「どういう意味だい?」
「”そうしてあげたかった”って気持ちは、同じでしょう?」
鏡は、また、はぁとため息をつき、
「相手が違うだけで、こんなにも違うのね」
と言いました。
その言葉を聞いたランプは、少しためらってから、意を決したように言い出しました。
「実はね、僕はもう灯をともすことはできないんだ。 …だから、もしかしたらランプじゃないかもしれない」
鏡はびっくり!
「何を言ってるの?あなたはどこからどう見てもランプよ?」
「僕はもう、かたちだけのランプになってしまったんだよ。さっき、パチンと音がして壊れてしまったんだ」
鏡はステンドグラスがキラキラと夜を照らしていた姿を思い出しました。
「きっと、なおるわ、ここに誰かがくればいいのよ」
「そうだね、僕をなおしてくれるといいな」
「きっと、なおしてくれるわ。そして、わたしの布をぱっととって、なんて素敵な鏡なの!と言うわ」
「そうかもしれないね」
と、ランプは相づちをうってから、きりっと姿勢を正して続けました。
「僕は、なおったら役割を全うするよ。僕のステンドグラスに灯がともる姿が好きなんだ」
「わたしもよ」
鏡はにっこり笑いました。
「そのとき、きっとわたしは、わたしがうつしたい姿をうつすわ」
「え?また、呪われた鏡って言われちゃうんじゃないか?」
「まぁ、ランプ、失礼ね!」
二人は、くすくすと笑いました。
灯りのともらないランプと布をかぶった鏡は、森の奥の小さな古いお家で、ちょっぴり傷ついた心をかかえて、誰かが来るのを楽しみに待っています。
0
あなたにおすすめの小説
ぼくのだいじなヒーラー
もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。
遊んでほしくて駄々をこねただけなのに
怖い顔で怒っていたお母さん。
そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。
癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。
お子様向けの作品です
ひらがな表記です。
ぜひ読んでみてください。
イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
パンティージャムジャムおじさん
KOU/Vami
児童書・童話
夜の街に、歌いながら歩く奇妙なおじさんが現れる。
口癖は「パラダイス~☆♪♡」――名乗る名は「パンティージャムジャムおじさん」。
子供たちは笑いながら彼の後についていき、歌を真似し、踊り、列は少しずつ長くなる。
そして翌朝、街は初めて気づく。昨夜の歌が、ただの遊びではなかったことに。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる