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序章
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その場所はかつて、たくさんの物語であふれていた。
本棚に収まりきらないくらいたくさんの本たち。
空を舞い、自分が気に入る読者を探す本。
様々な世界の、様々な物語を集めた本棚。
世界に息づく生き物や空想の生き物たちの生態をまとめた図鑑や魔法道具の図鑑。
美しい言葉、禁忌の言葉、それらを集めた辞書たち。
返却期限に厳しく、そしてすべての本を把握している司書。
妖しくこちらへ誘う禁書が収められた棚と、口を閉ざした番人。
本の中から飛び出す妖精たち。妖精たちのいたずらで、息づく本の住人たち。
その場所に芽吹いていた物語すべてが今は封じられたように、口を閉ざしている。
そんな本来想像していた異世界の図書館のどれとも異なった場所に、彼女はいた。
まるで見た目だけ図書館で、中身は全く別物のような空間だった。
見渡す限りに広がる本棚。これは、図書館でよく見る光景。
しかし目に入る本棚すべてになぜか鎖がまかれ、本が自由に取り出せない。
鎖の周りには、規制対象と書かれた紙がいくつも貼られている。
そのため、本来見えるはずの背表紙の文字すら、読めない。
本棚の上には、とぐろを巻いた蛇が居座っている。
金属のようなものでできた無機質な姿で、蛇は本棚からこちらを見下ろしている。
最初、図書館には彼女と、蛇しかいないように思われた。
彼女は蛇を見つめ、蛇もまた、機械の目でこちらを見つめていた。
そんな時、彼女の前を一人の人物が通りすぎた。
その人物は大きなリュックサックを背負い、旅人のような恰好をしていた。
彼は、彼女の脇を通り抜けると本棚の本をじっと見つめていた。
しばらくして、ふと本棚の本へ歩み寄り、その中の一冊に触れようとする。
しかし本棚の鎖と、旅人の手が触れる前に機械の音声に妨害された。
『ケイコク、ケイコク。キセイタイショウノ、ホンニフレルコトハ、ジョウオウノ、メイニヨリ、キンシサレテイル。タチサレ、タチサレ』
「それなら規制されていない本は、どこにあるんだ」
そう旅人が尋ねると、機械の蛇は、するすると器用に本棚から滑り降りる。
そして、床をくねくねと滑りながら図書館の中央へと進んでいく。
旅人と彼女は、蛇についていく。
案内されたのは、たった三列ほど並べられた本棚の前だった。
その一つ一つに、少しずつ本が入っている。ここには、鎖はされていない。
しかし本棚を覗き込んだ彼女は気づく。自分が求めるものは、ここにはないと。
旅人も、どうやら同じことを思ったようだ。
「違う、探しているのは物語だ」
そう告げる客に、機械の蛇の冷たい機械音声が告げる。
『モノガタリ、モノガタリ。……ソノヨウナコトバ、トウロクサレテイナイ。モノガタリ、ソレハ、ソンザイシテハイケナイモノ。ソノコトバヲ、シッテイルオマエ、キセイタイショウ。タイホスル、タイホスル』
機械の蛇の目が、赤く輝いた。
本を横に並べた二冊分ほどしかなかった蛇の体。
それが、本十冊ほどの巨大な体へと変貌を遂げていた。
そして、青ざめた顔の旅人に巻き付いていく。蛇の体はさらに大きくなっていく。
恐怖で声も出ない旅人の顔を見ながら、彼女は思う。
どうして、私が選ばれたのか。その理由は、今は分からない。
けれど、手を差し伸べなければ、絶対後悔する。
彼女は、自分の胸のネックレスをつかむ。
本を象ったそのネックレスが淡い光を帯びる。
機械の蛇がこちらへ目を向けたとき、彼女は叫んだ。
「物語を、始めましょう。私の知っている世界の、物語を」
本棚に収まりきらないくらいたくさんの本たち。
空を舞い、自分が気に入る読者を探す本。
様々な世界の、様々な物語を集めた本棚。
世界に息づく生き物や空想の生き物たちの生態をまとめた図鑑や魔法道具の図鑑。
美しい言葉、禁忌の言葉、それらを集めた辞書たち。
返却期限に厳しく、そしてすべての本を把握している司書。
妖しくこちらへ誘う禁書が収められた棚と、口を閉ざした番人。
本の中から飛び出す妖精たち。妖精たちのいたずらで、息づく本の住人たち。
その場所に芽吹いていた物語すべてが今は封じられたように、口を閉ざしている。
そんな本来想像していた異世界の図書館のどれとも異なった場所に、彼女はいた。
まるで見た目だけ図書館で、中身は全く別物のような空間だった。
見渡す限りに広がる本棚。これは、図書館でよく見る光景。
しかし目に入る本棚すべてになぜか鎖がまかれ、本が自由に取り出せない。
鎖の周りには、規制対象と書かれた紙がいくつも貼られている。
そのため、本来見えるはずの背表紙の文字すら、読めない。
本棚の上には、とぐろを巻いた蛇が居座っている。
金属のようなものでできた無機質な姿で、蛇は本棚からこちらを見下ろしている。
最初、図書館には彼女と、蛇しかいないように思われた。
彼女は蛇を見つめ、蛇もまた、機械の目でこちらを見つめていた。
そんな時、彼女の前を一人の人物が通りすぎた。
その人物は大きなリュックサックを背負い、旅人のような恰好をしていた。
彼は、彼女の脇を通り抜けると本棚の本をじっと見つめていた。
しばらくして、ふと本棚の本へ歩み寄り、その中の一冊に触れようとする。
しかし本棚の鎖と、旅人の手が触れる前に機械の音声に妨害された。
『ケイコク、ケイコク。キセイタイショウノ、ホンニフレルコトハ、ジョウオウノ、メイニヨリ、キンシサレテイル。タチサレ、タチサレ』
「それなら規制されていない本は、どこにあるんだ」
そう旅人が尋ねると、機械の蛇は、するすると器用に本棚から滑り降りる。
そして、床をくねくねと滑りながら図書館の中央へと進んでいく。
旅人と彼女は、蛇についていく。
案内されたのは、たった三列ほど並べられた本棚の前だった。
その一つ一つに、少しずつ本が入っている。ここには、鎖はされていない。
しかし本棚を覗き込んだ彼女は気づく。自分が求めるものは、ここにはないと。
旅人も、どうやら同じことを思ったようだ。
「違う、探しているのは物語だ」
そう告げる客に、機械の蛇の冷たい機械音声が告げる。
『モノガタリ、モノガタリ。……ソノヨウナコトバ、トウロクサレテイナイ。モノガタリ、ソレハ、ソンザイシテハイケナイモノ。ソノコトバヲ、シッテイルオマエ、キセイタイショウ。タイホスル、タイホスル』
機械の蛇の目が、赤く輝いた。
本を横に並べた二冊分ほどしかなかった蛇の体。
それが、本十冊ほどの巨大な体へと変貌を遂げていた。
そして、青ざめた顔の旅人に巻き付いていく。蛇の体はさらに大きくなっていく。
恐怖で声も出ない旅人の顔を見ながら、彼女は思う。
どうして、私が選ばれたのか。その理由は、今は分からない。
けれど、手を差し伸べなければ、絶対後悔する。
彼女は、自分の胸のネックレスをつかむ。
本を象ったそのネックレスが淡い光を帯びる。
機械の蛇がこちらへ目を向けたとき、彼女は叫んだ。
「物語を、始めましょう。私の知っている世界の、物語を」
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