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第三章
アキバは秋晴れ(2)
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どうやらお姫様の話がいいらしく、女の子の母親である定食屋の女性が、「シンデレラをお願いします」と言う。
「シンデレラか......女の子向けの本って、あんまり読んだことないんだよなあ......」
修次は、白髪交じりの短髪に手をやり、ちょっと困った様子だ。
「そっか......典弘さん相手には読まなかっただろうしな」
侑哉も、小さい頃は冒険ものや乗り物の話ばかり親にせがんでいた記憶がある。男兄弟のため、家にある本も男子向けのものばかりだった。修次が自分の妻に助けを求めようとしたとき、侑哉の隣でいずみが手を挙げた。
「読みましょうか?」
安田一家は驚いた顔をしたが、隣にいるのが侑哉なので連れとわかったらしい。典弘がいずみに声をかける。
「読んでもらえるんですか?」
「はい。得意です」
いずみは笑顔でそう言い、するっとレジャーシートを迂回して修次の元へ来る。修次はアウトドアチェアをいずみに譲り、様子が見える場所に移動した。そして安田書房の奥さんが用意したシンデレラの絵本を典弘がめくると、いずみは軽く会釈をし、聴衆に向かって本文を読み始めた。美人で、接客業でしゃべり慣れているというのもあるだろうが、何より保育士なのだ。
必要以上におおげさにならず、時折聞いている子供の目を優しく読む様子はとても絵になり、遠目から気にしていた人たちも寄ってきて、ささやかな読書会だった店舗の前は、あっという間にひとだかりができた。
なるほど、これも適材適所かと侑哉は感心する。
そうしてほかの子がリクエストした絵本をあと二冊読むと、修次が「読みきかせを終わります」と終わりの挨拶をした。
初対面の人にあまり負担をかけるのは申し訳ないと思 ったのだろう。実際、いずみも挨拶のあと緊張を解くように深く息を吐いていたが、客席の子供たちを見る表情は侑哉の目にとても満足げに映った。
「いずみちゃん、すごい! カッコよかったー!」
花子が、戻ってきたいずみにハグをする。いずみの右耳に自分の口が来るように抱きついたのは、聞こえるほうの耳にしっかり届けるためだろうか。侑哉は、静音が花子のことを「本当にヒロイン」と言っていたのを思い出した。
その後、侑哉たち三人は安田一家の歓待を振り切り、めいめいで古書店街を回る。過ごしやすい気候の中、ひとり気ままに会場を歩きながら侑哉も何冊か購入し、小一時間ほど経ち再度花子たち合流する。
「あれー、侑哉、なんか買ったんだ。珍しい!」
「大声で『珍しい』とか言うなよ......」
侑哉は恥ずかしくなり花子を制したが「ほんとのことじゃん」とさらに言われ、軽い意地悪でピンクの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「いやー! ひっどーい!」
花子も半ば笑いながら応戦したが、その様子をいずみが笑いながら見ていた。
「本当に仲いいねえ、ふたり」
「いずみちゃあん、これ仲いいとか言わないでしょー!」
「でもほら、あのこ」
いずみが示した先に、定食屋の女の子がいた。侑哉たちのほうをじっと見ていたが、花子がそちらを見ると、ててて、っと小走りで近づいてきた。
どうしたの? と花子がかがんで女の子と目線を近づけようとした時、女の子が花子のピンクのツインテールを両手で思い切り引っ張った。
「......いたーっいッ......!」
花子は何がなんだかわからず、目にうっすら涙を浮かべながら自分の頭をさする。女の子は既に母親のもとに走り去っており、母親は事情を察して慌てて近寄ってきた。すみません、と母親からは謝られたが、行動の理由がわからず「小さい子供のすることだし......」と花子もそう言う他はない。
「俺がはなちゃんの頭ぐしゃぐしゃっとしたのを真似をしたかな......ごめんな、はなちゃん」
侑哉が花子に謝ると、いずみがおかしそうに笑う。
「違うんですよー、あれ、やきもちです。最初目を逸らしたのは、侑哉君が好きで照れちゃったからだと思いま すよ。まさか初対面のはなちゃんに戦いを挑むとは思いませんでしたけど」
「え」
侑哉と花子は顔を見合わせる、あんな小さい子どもが? と侑哉は驚き聞き返したが、いずみは頷く。
「女子は、小さくても『女子』ですからねえ。あのくらいの子はまだまだ可愛いもんですよ?」
はー、と侑哉は口をぽかんと開ける。
「でも......誤解でこんな目に逢うのはいや!」
髪を結い直しながら花子は叫ぶ。侑哉は罪悪感から花子にジュースを奢りながらも、「なんでおれが......」とやるせない気持ちになったのだった。
「シンデレラか......女の子向けの本って、あんまり読んだことないんだよなあ......」
修次は、白髪交じりの短髪に手をやり、ちょっと困った様子だ。
「そっか......典弘さん相手には読まなかっただろうしな」
侑哉も、小さい頃は冒険ものや乗り物の話ばかり親にせがんでいた記憶がある。男兄弟のため、家にある本も男子向けのものばかりだった。修次が自分の妻に助けを求めようとしたとき、侑哉の隣でいずみが手を挙げた。
「読みましょうか?」
安田一家は驚いた顔をしたが、隣にいるのが侑哉なので連れとわかったらしい。典弘がいずみに声をかける。
「読んでもらえるんですか?」
「はい。得意です」
いずみは笑顔でそう言い、するっとレジャーシートを迂回して修次の元へ来る。修次はアウトドアチェアをいずみに譲り、様子が見える場所に移動した。そして安田書房の奥さんが用意したシンデレラの絵本を典弘がめくると、いずみは軽く会釈をし、聴衆に向かって本文を読み始めた。美人で、接客業でしゃべり慣れているというのもあるだろうが、何より保育士なのだ。
必要以上におおげさにならず、時折聞いている子供の目を優しく読む様子はとても絵になり、遠目から気にしていた人たちも寄ってきて、ささやかな読書会だった店舗の前は、あっという間にひとだかりができた。
なるほど、これも適材適所かと侑哉は感心する。
そうしてほかの子がリクエストした絵本をあと二冊読むと、修次が「読みきかせを終わります」と終わりの挨拶をした。
初対面の人にあまり負担をかけるのは申し訳ないと思 ったのだろう。実際、いずみも挨拶のあと緊張を解くように深く息を吐いていたが、客席の子供たちを見る表情は侑哉の目にとても満足げに映った。
「いずみちゃん、すごい! カッコよかったー!」
花子が、戻ってきたいずみにハグをする。いずみの右耳に自分の口が来るように抱きついたのは、聞こえるほうの耳にしっかり届けるためだろうか。侑哉は、静音が花子のことを「本当にヒロイン」と言っていたのを思い出した。
その後、侑哉たち三人は安田一家の歓待を振り切り、めいめいで古書店街を回る。過ごしやすい気候の中、ひとり気ままに会場を歩きながら侑哉も何冊か購入し、小一時間ほど経ち再度花子たち合流する。
「あれー、侑哉、なんか買ったんだ。珍しい!」
「大声で『珍しい』とか言うなよ......」
侑哉は恥ずかしくなり花子を制したが「ほんとのことじゃん」とさらに言われ、軽い意地悪でピンクの頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
「いやー! ひっどーい!」
花子も半ば笑いながら応戦したが、その様子をいずみが笑いながら見ていた。
「本当に仲いいねえ、ふたり」
「いずみちゃあん、これ仲いいとか言わないでしょー!」
「でもほら、あのこ」
いずみが示した先に、定食屋の女の子がいた。侑哉たちのほうをじっと見ていたが、花子がそちらを見ると、ててて、っと小走りで近づいてきた。
どうしたの? と花子がかがんで女の子と目線を近づけようとした時、女の子が花子のピンクのツインテールを両手で思い切り引っ張った。
「......いたーっいッ......!」
花子は何がなんだかわからず、目にうっすら涙を浮かべながら自分の頭をさする。女の子は既に母親のもとに走り去っており、母親は事情を察して慌てて近寄ってきた。すみません、と母親からは謝られたが、行動の理由がわからず「小さい子供のすることだし......」と花子もそう言う他はない。
「俺がはなちゃんの頭ぐしゃぐしゃっとしたのを真似をしたかな......ごめんな、はなちゃん」
侑哉が花子に謝ると、いずみがおかしそうに笑う。
「違うんですよー、あれ、やきもちです。最初目を逸らしたのは、侑哉君が好きで照れちゃったからだと思いま すよ。まさか初対面のはなちゃんに戦いを挑むとは思いませんでしたけど」
「え」
侑哉と花子は顔を見合わせる、あんな小さい子どもが? と侑哉は驚き聞き返したが、いずみは頷く。
「女子は、小さくても『女子』ですからねえ。あのくらいの子はまだまだ可愛いもんですよ?」
はー、と侑哉は口をぽかんと開ける。
「でも......誤解でこんな目に逢うのはいや!」
髪を結い直しながら花子は叫ぶ。侑哉は罪悪感から花子にジュースを奢りながらも、「なんでおれが......」とやるせない気持ちになったのだった。
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