セイヨクセイヤク

山溶水

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13.陵みのり

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 なぜ私は女に生まれてしまったのか。

 おかしい。
 なぜ女として生きるのはこうも辛いのか。
 生理、妊娠、出産・・・・・・
 痛いのはいつも女だ。

「子供は二人欲しいなぁ~」

 同級生が話していた。

 訳が分からない。

 子供を産むという行為にどれだけの痛みを伴うのか。
 想像するだけで嫌になってくる。
 男はずるい。
 あいつらには何の痛みもない。
 精子を出すだけ。
 さらに精子を出すということは気持ちいいことらしい。

 ふざけるな。なんで女は痛いのに、男は気持ちいいんだ──

 




 高校二年目の春、保険体育の時間、みささぎみのりは考えていた。

「えー、受精卵が子宮内膜に取り付くことを着床と言う」

 教師の声が教室によく通る。

 男ども、普段はうるさいのになんでこの時間は静かなんだよ。
 ああ、イライラしてきた。早く授業終わらないかな・・・・・・


 窓から外を見上げる。今にも降り出しそうな空だった。




 帰り道、みのりはスーパーマーケットで夕食の材料を選んでいた。
 恋愛に関係する娯楽に興味を持てないみのりの唯一の楽しみが料理と食事だった。

『おいしいものを食べること』

 それが今のところのみのりが考える生きる意味だった。

 キャベツ、ひき肉、タマネギ、チーズを買った。
 これから作るロールキャベツの味に思いを馳せながら帰り道を歩いていた時だった。


 目の前に女が立っていた。


 引き込まれそうな紫がかった瞳。
 ただ立っているだけのなのに、女は妖しい魅力を携えていた。


「あなた、力が欲しいでしょう?」


 それが女との出会いだった。

































 今日も戦う。自分のために。



 みのりの前に立っているサラリーマン風の男はゴルフクラブを持っていた。
 みのりは鞄からスタンガンを取り出し、自らの腕に電気を流した。
 腕に流れる電気が全身に行き渡らせたドーラを伝ってみのりの身体の隅まで行き渡る。
 ドーラの色はエメラルドグリーン。電気によって増したその輝きは、闇夜を照らす強い光を放っていた。
 みのりは身体に電気を纏い、男を睨みつけた。

「そんな使い方もあるのですか。発想の勝利ですね」

 男は感心したように言った。

「では、始めましょうか。やる気満々のご様子ですし」

 男はゴルフクラブを持ち、みのりに襲いかかってきた。


 上等だ、かかってこい──!


 男はゴルフクラブをみのりの頭めがけて振り下ろした。
 男の手に頭蓋を砕いた手応えはない。
 みのりは身体を半歩ずらし、攻撃を躱していた。


 電気を纏うと、自分が強くなった気分になる。
 相手の動きがはっきりと見えるし、身体に流れるビリビリがなんだか気持ちいい。


 みのりは振り下ろされたゴルフクラブを足で押さえつけ、そのまま電気を流した。

「何っ!?」

 男が怯んだ隙にすかさずスタンガンを首元に押しつけた。

「ぐあぁぁぁ!」

 男は倒れた。
 倒れた男の胸に手をかざし、力を奪おうとした時だった。

「これでは明日の仕事に影響が出ますね・・・・・・」

 男は掠れた声で言った。
 みのりは表情を変えずに力を奪った。



 まだだ。まだ足りない。



 力を奪った時の快感ですら、みのりの心には届かなかった。


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