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「服だ」
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王から褒美だと、またおかしなものを与えられた。
「……なにこれ?」
「気に入らないだろうか?」
「っていうか、なに?」
するとエメラードは目を丸くした。
「服だ」
「え、着るの、これ?」
ずいぶんズルズルとしているので、カーテンかテーブルクロスかと思った。もちろんどちらもこの部屋には不要である。
「着る。着てみてほしい」
「……」
「頼む」
「……。あんたがそう言うなら」
着ても損はないが、いくらか精神を削られそうだ。いつも世話になっているエメラードに言われたからこそである。服くらい着てやろう。
しかしエメラードとしては、それが王のためなのだろう。複雑である。
「えーっと……スカートじゃないよね?」
「ではないと思うが……」
どうやらエメラードも詳細は知らないらしい。
では着方を訪ねても無駄である。スクはしぶしぶ受け取って、赤と黒という絶望的な布を広げてみた。
「…………うん」
なんとも言えない。
「スカートではないな」
エメラードが喜ばしく明るい顔で言った。確かに、どうやら二本の足を通す筒がある。
「スカートじゃなきゃいいってわけじゃないよ」
「そうか……」
とにかくひらひらしているので、邪魔としか言いようがない。何に使うひらひらなのだろう。
「もしもの時はテーブルクロスになるとか」
「テーブルクロスが衣服より必要な場面は、あまりないのではないか?」
貴族の坊っちゃんがそう言うのであれば、スクにその場面が思い浮かぶはずがない。
「じゃあ、破いて包帯にする」
「布といえばそれだな」
いいのか。
「……やまほど包帯ができそう。感謝しといて」
「うむ……」
「吸水性は悪そうだけど、止血になら使え……る、かな……脆そう……」
「そうだな……」
「はあ」
どうでもいいことを話したあとで、スクは囚人用の服の上からソレをかぶった。とにかくひらひらしているので手こずる。
「なんか袖がいっぱいある」
「いや、そこは袖ではない」
「あ、こっちか」
どっちでもいいような気もするが、手が出ないのは問題だ。これだけひらひらしているのに、一応袖はふたつのようだった。
「すごいじゃま……」
「そう言うな。よい衣装とは、邪魔なものだ」
「そうなんだ……」
「ああ。大金をはたいて見せびらかすためだけの服だ」
「防御力もない」
「ないな……」
「笑えない? これ」
とりあえずそれらしく着られた。全体は黒で、ところどころに赤が差し込まれている。布地はとても丁寧に縫われていた。針子はどんな気持ちで、この仕事をこなしたのだろうか。
「笑え……はしない」
「遠慮しなくていいよ」
「どうだろうかと思ったが、そこまでおかしくはない」
「えぇ……」
なんということか、エメラードが敵に回った。どう考えてもおかしいだろう。
「鏡があればいいのだが。その、まあ君は子供のようなので、背伸びしているようには見える」
「はあ」
「が、色味はとても似合っている」
「へえ」
「生地は柔らかい印象だが、色が強いので、凛々しさが」
「ほう」
まだエメラードは何か言っているが、スクはまったく聞いていなかった。敵の流言に騙されないこと、大事である。
「ただ、一枚では寒そうだ」
それには頷いた。
今は普段の囚人服の上に着ているが、一枚は無理だろう。確実に寒い。
絨毯やベッドのおかげで足元の冷えはないが、寒々しい幽閉所だ。もしかすると塔の上なのかもしれない。
「あ、そう考えると、上に着られるものはありがたいよ」
「雑に着る生地ではないと思うが……まあ、そうだな。着ないよりはいいだろう」
スクは前向きに考えることにして、それにしてもひらひらは邪魔だ。
「これ、引きちぎったらだめかな?」
「……できればやめてほしい」
「うーん……まあ、ロープにもできそうにないしね」
簡単に引きちぎれそうなのだが、それだけに丈夫さがない。全くない。高級な布地かもしれないが、利用価値はあまりなさそうだ。
「そうではなく……、いや、そうだな。ロープになってはいけない」
「え、だから柔らか素材?」
「かもしれない。陛下のお考えは深い」
そうだろうか。
囚人に危険なものを与えないのは当然だ。脱走の警戒はもちろん、自殺も警戒しなければならない。
(やろうと思えばどうとでもできるけど)
今のところスクにその考えはない。どうせ何をしようと最終的に死ぬのだから、目先の危機がなければ動かないのが一番だ。
「それに、無理に破るとよけいに透け……その、衣服としてみっともなくなるのではないか」
「よけいにって言った? 元からみっともない前提で言った?」
「言っていない」
エメラードは目を伏せて丁寧に否定した。
「うん、まあいいけど。次に何かくれるなら、実用的なものがいいって言っといて」
「陛下は私の意見を取り入れはするまい」
「ああうん……」
真顔で言われて、確かにそうだ。絶対に聞くまい。
「あ、でも逆に? こうしてって言われたら絶対やらないという意味で、行動を操ることが」
「私はそんなことはしない」
「だろうね」
ゲームでさえあれだけわかりやすい人である。そんな器用で狸なことができるわけがない。
「……なにこれ?」
「気に入らないだろうか?」
「っていうか、なに?」
するとエメラードは目を丸くした。
「服だ」
「え、着るの、これ?」
ずいぶんズルズルとしているので、カーテンかテーブルクロスかと思った。もちろんどちらもこの部屋には不要である。
「着る。着てみてほしい」
「……」
「頼む」
「……。あんたがそう言うなら」
着ても損はないが、いくらか精神を削られそうだ。いつも世話になっているエメラードに言われたからこそである。服くらい着てやろう。
しかしエメラードとしては、それが王のためなのだろう。複雑である。
「えーっと……スカートじゃないよね?」
「ではないと思うが……」
どうやらエメラードも詳細は知らないらしい。
では着方を訪ねても無駄である。スクはしぶしぶ受け取って、赤と黒という絶望的な布を広げてみた。
「…………うん」
なんとも言えない。
「スカートではないな」
エメラードが喜ばしく明るい顔で言った。確かに、どうやら二本の足を通す筒がある。
「スカートじゃなきゃいいってわけじゃないよ」
「そうか……」
とにかくひらひらしているので、邪魔としか言いようがない。何に使うひらひらなのだろう。
「もしもの時はテーブルクロスになるとか」
「テーブルクロスが衣服より必要な場面は、あまりないのではないか?」
貴族の坊っちゃんがそう言うのであれば、スクにその場面が思い浮かぶはずがない。
「じゃあ、破いて包帯にする」
「布といえばそれだな」
いいのか。
「……やまほど包帯ができそう。感謝しといて」
「うむ……」
「吸水性は悪そうだけど、止血になら使え……る、かな……脆そう……」
「そうだな……」
「はあ」
どうでもいいことを話したあとで、スクは囚人用の服の上からソレをかぶった。とにかくひらひらしているので手こずる。
「なんか袖がいっぱいある」
「いや、そこは袖ではない」
「あ、こっちか」
どっちでもいいような気もするが、手が出ないのは問題だ。これだけひらひらしているのに、一応袖はふたつのようだった。
「すごいじゃま……」
「そう言うな。よい衣装とは、邪魔なものだ」
「そうなんだ……」
「ああ。大金をはたいて見せびらかすためだけの服だ」
「防御力もない」
「ないな……」
「笑えない? これ」
とりあえずそれらしく着られた。全体は黒で、ところどころに赤が差し込まれている。布地はとても丁寧に縫われていた。針子はどんな気持ちで、この仕事をこなしたのだろうか。
「笑え……はしない」
「遠慮しなくていいよ」
「どうだろうかと思ったが、そこまでおかしくはない」
「えぇ……」
なんということか、エメラードが敵に回った。どう考えてもおかしいだろう。
「鏡があればいいのだが。その、まあ君は子供のようなので、背伸びしているようには見える」
「はあ」
「が、色味はとても似合っている」
「へえ」
「生地は柔らかい印象だが、色が強いので、凛々しさが」
「ほう」
まだエメラードは何か言っているが、スクはまったく聞いていなかった。敵の流言に騙されないこと、大事である。
「ただ、一枚では寒そうだ」
それには頷いた。
今は普段の囚人服の上に着ているが、一枚は無理だろう。確実に寒い。
絨毯やベッドのおかげで足元の冷えはないが、寒々しい幽閉所だ。もしかすると塔の上なのかもしれない。
「あ、そう考えると、上に着られるものはありがたいよ」
「雑に着る生地ではないと思うが……まあ、そうだな。着ないよりはいいだろう」
スクは前向きに考えることにして、それにしてもひらひらは邪魔だ。
「これ、引きちぎったらだめかな?」
「……できればやめてほしい」
「うーん……まあ、ロープにもできそうにないしね」
簡単に引きちぎれそうなのだが、それだけに丈夫さがない。全くない。高級な布地かもしれないが、利用価値はあまりなさそうだ。
「そうではなく……、いや、そうだな。ロープになってはいけない」
「え、だから柔らか素材?」
「かもしれない。陛下のお考えは深い」
そうだろうか。
囚人に危険なものを与えないのは当然だ。脱走の警戒はもちろん、自殺も警戒しなければならない。
(やろうと思えばどうとでもできるけど)
今のところスクにその考えはない。どうせ何をしようと最終的に死ぬのだから、目先の危機がなければ動かないのが一番だ。
「それに、無理に破るとよけいに透け……その、衣服としてみっともなくなるのではないか」
「よけいにって言った? 元からみっともない前提で言った?」
「言っていない」
エメラードは目を伏せて丁寧に否定した。
「うん、まあいいけど。次に何かくれるなら、実用的なものがいいって言っといて」
「陛下は私の意見を取り入れはするまい」
「ああうん……」
真顔で言われて、確かにそうだ。絶対に聞くまい。
「あ、でも逆に? こうしてって言われたら絶対やらないという意味で、行動を操ることが」
「私はそんなことはしない」
「だろうね」
ゲームでさえあれだけわかりやすい人である。そんな器用で狸なことができるわけがない。
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