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職場での昼休み
「婚約していたのに 番が見つかったから別れてくれだなんて、ほんとひどいわね」
「可哀そうだけど、仕方がないわよね。 羽翼種って、番と出会ったらそれ以外は受け付けないみたいだし」
「でも、ルシアンさんはベールを取ったらこんなに可愛いんだから、きっとこれからいい相手が見つかるわ。気にしないでね」
「そうそう、今度飲みに行きましょうよ!」
私は同僚たちの慰めの言葉にただ頷いていた。
気を抜いたら、泣き腫らした目から再び涙が出そうだったから。
ちょうど職場での昼休み。小休憩ができるテーブルと椅子がいくつか設置されたリフレッシュルームでの出来事だった。
私は二ヶ月後の自分の誕生日に婚約者と結婚式を挙げる予定だった。
ところが、今からちょうど一週間前に彼は番と出会ってしまった。
だから三日前、彼から婚約解消の申し出を受け、私はすみやかに受け入れた。
羽翼種は、見かけは人間と変わりはないけど、番という独特の習性を持っている。
男は同じ種族の一人に心惹かれ求婚するという。
魂の伴侶とも言われるほど一人だけを生涯愛し続け、浮気もせずに添い遂げるので、まさに究極の純愛とも言われている。
彼はその羽翼種の血を四分の一ひいていた。
でも、彼は人間の血が濃くて魔力がほとんどなかった。
彼も私を好きと言ってくれて、結婚にも前向きだったから、その習性はないと思っていた。
結局、それは間違った認識だったと思い知らされたけど。
私も羽翼種なので他の男から言い寄られないようにずっとベールをかぶっていたけど、婚約破棄してからは不要になった。
私が素顔をさらしたのと、友人たちが同じ職場にいたので、噂があっという間に広まったらしい。
だから本日、よく知らない同僚たちからもこうして慰めの言葉をかけられている。
気持ちは嬉しいけど、初対面に近い人に何て返せばいいのか分からなかった。
「みなさん、お気遣いありがとうございます。申し訳ないけど、そろそろ時間だから、席に戻りますね」
戸惑いながらも当たり障りのない挨拶をして、私は同僚たちと別れて自分の席に向かう。
式場もキャンセルしないといけないわね。
元婚約者のことを考えていたら、やっぱり涙腺が崩壊しそうになっている。
洗面所に行って顔を整えたいと思い、通路を足早に歩いていたら、前方にいた男性に目が留まる。
銀色の綺麗な長い髪を後ろで編んで一つに束ねていたけど、その黒い布製のリボンがちょうど解けて、音もなく床に落ちていく。
落とし物に持ち主は気づかず、スタスタと歩き続けている。
私自身とても急いでいたけど、見て見ぬふりも悪いので、リボンを拾おうとして一歩近づいたときだ。
「セラフィムさまぁ! リボンを落とされましたよぉ!!」
若い女性の声とともに突然後ろから勢いよく体当たりされた。
体のバランスを崩して大きくよろめく。
まさに吹っ飛ばされた感じだ。
それから耳に入ってくる複数の足音。
「ああ、すまない。感謝する」
「いいんですよ。セラフィム様のためですもの。あの、もし良かったら、明日の昼食ご一緒しませんか?」
痛みを堪えて騒ぎの中心に視線を向ければ、若い女性たちが銀髪の男性を囲んでいる。
「申し訳ないが、私はあまり食事に時間をかけないんだ。だが、拾ってくれたお礼に何か飲み物を差し入れをしよう。あなたの部署を教えてくれないか?」
「まぁ! ありがとうございます」
どうやら落とし物をした人物は、職場の魔法省で若い女性からアイドル並みに大人気の男性だったようだ。
セラフィム様。
三ヶ月前に入省した新人の私ですら、噂でその名前を聞いたことがある。
並大抵の語彙力では表現できないほどの美形らしい。熱狂的なファンまでいるそうだ。
憧れの彼とのお近づきのきっかけを見逃したくない彼女たちの気持ちも分からなくもない。
彼は私と同じ珍しい銀髪なのに、それで男性の正体を察せなかった私の落ち度だろう。
でも、今度は失恋じゃなくて、ぶつけられた痛みのせいで涙が出そうになる。
気を取り直して、そそくさと彼らの脇を通って逃げるように洗面所に向かう。
「そこの女性、お待ちください!」
まさかセラフィム様が女性たちに包囲されながらも、私の後ろ姿を見つめて、呼び止めていたなんて露ほども思わずに。
「可哀そうだけど、仕方がないわよね。 羽翼種って、番と出会ったらそれ以外は受け付けないみたいだし」
「でも、ルシアンさんはベールを取ったらこんなに可愛いんだから、きっとこれからいい相手が見つかるわ。気にしないでね」
「そうそう、今度飲みに行きましょうよ!」
私は同僚たちの慰めの言葉にただ頷いていた。
気を抜いたら、泣き腫らした目から再び涙が出そうだったから。
ちょうど職場での昼休み。小休憩ができるテーブルと椅子がいくつか設置されたリフレッシュルームでの出来事だった。
私は二ヶ月後の自分の誕生日に婚約者と結婚式を挙げる予定だった。
ところが、今からちょうど一週間前に彼は番と出会ってしまった。
だから三日前、彼から婚約解消の申し出を受け、私はすみやかに受け入れた。
羽翼種は、見かけは人間と変わりはないけど、番という独特の習性を持っている。
男は同じ種族の一人に心惹かれ求婚するという。
魂の伴侶とも言われるほど一人だけを生涯愛し続け、浮気もせずに添い遂げるので、まさに究極の純愛とも言われている。
彼はその羽翼種の血を四分の一ひいていた。
でも、彼は人間の血が濃くて魔力がほとんどなかった。
彼も私を好きと言ってくれて、結婚にも前向きだったから、その習性はないと思っていた。
結局、それは間違った認識だったと思い知らされたけど。
私も羽翼種なので他の男から言い寄られないようにずっとベールをかぶっていたけど、婚約破棄してからは不要になった。
私が素顔をさらしたのと、友人たちが同じ職場にいたので、噂があっという間に広まったらしい。
だから本日、よく知らない同僚たちからもこうして慰めの言葉をかけられている。
気持ちは嬉しいけど、初対面に近い人に何て返せばいいのか分からなかった。
「みなさん、お気遣いありがとうございます。申し訳ないけど、そろそろ時間だから、席に戻りますね」
戸惑いながらも当たり障りのない挨拶をして、私は同僚たちと別れて自分の席に向かう。
式場もキャンセルしないといけないわね。
元婚約者のことを考えていたら、やっぱり涙腺が崩壊しそうになっている。
洗面所に行って顔を整えたいと思い、通路を足早に歩いていたら、前方にいた男性に目が留まる。
銀色の綺麗な長い髪を後ろで編んで一つに束ねていたけど、その黒い布製のリボンがちょうど解けて、音もなく床に落ちていく。
落とし物に持ち主は気づかず、スタスタと歩き続けている。
私自身とても急いでいたけど、見て見ぬふりも悪いので、リボンを拾おうとして一歩近づいたときだ。
「セラフィムさまぁ! リボンを落とされましたよぉ!!」
若い女性の声とともに突然後ろから勢いよく体当たりされた。
体のバランスを崩して大きくよろめく。
まさに吹っ飛ばされた感じだ。
それから耳に入ってくる複数の足音。
「ああ、すまない。感謝する」
「いいんですよ。セラフィム様のためですもの。あの、もし良かったら、明日の昼食ご一緒しませんか?」
痛みを堪えて騒ぎの中心に視線を向ければ、若い女性たちが銀髪の男性を囲んでいる。
「申し訳ないが、私はあまり食事に時間をかけないんだ。だが、拾ってくれたお礼に何か飲み物を差し入れをしよう。あなたの部署を教えてくれないか?」
「まぁ! ありがとうございます」
どうやら落とし物をした人物は、職場の魔法省で若い女性からアイドル並みに大人気の男性だったようだ。
セラフィム様。
三ヶ月前に入省した新人の私ですら、噂でその名前を聞いたことがある。
並大抵の語彙力では表現できないほどの美形らしい。熱狂的なファンまでいるそうだ。
憧れの彼とのお近づきのきっかけを見逃したくない彼女たちの気持ちも分からなくもない。
彼は私と同じ珍しい銀髪なのに、それで男性の正体を察せなかった私の落ち度だろう。
でも、今度は失恋じゃなくて、ぶつけられた痛みのせいで涙が出そうになる。
気を取り直して、そそくさと彼らの脇を通って逃げるように洗面所に向かう。
「そこの女性、お待ちください!」
まさかセラフィム様が女性たちに包囲されながらも、私の後ろ姿を見つめて、呼び止めていたなんて露ほども思わずに。
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