番と出会ったからって婚約破棄されましたけど、超エリートで美貌の彼から求婚されました。元婚約者から今さら勘違いだったと言われても修羅場です。

藤谷 要

文字の大きさ
1 / 14

職場での昼休み

「婚約していたのに ツガイが見つかったから別れてくれだなんて、ほんとひどいわね」
「可哀そうだけど、仕方がないわよね。 羽翼種うよくしゅって、番と出会ったらそれ以外は受け付けないみたいだし」
「でも、ルシアンさんはベールを取ったらこんなに可愛いんだから、きっとこれからいい相手が見つかるわ。気にしないでね」
「そうそう、今度飲みに行きましょうよ!」

 私は同僚たちの慰めの言葉にただ頷いていた。
 気を抜いたら、泣き腫らした目から再び涙が出そうだったから。
 ちょうど職場での昼休み。小休憩ができるテーブルと椅子がいくつか設置されたリフレッシュルームでの出来事だった。

 私は二ヶ月後の自分の誕生日に婚約者と結婚式を挙げる予定だった。
 ところが、今からちょうど一週間前に彼は番と出会ってしまった。
 だから三日前、彼から婚約解消の申し出を受け、私はすみやかに受け入れた。

 羽翼種は、見かけは人間と変わりはないけど、番という独特の習性を持っている。
 男は同じ種族の一人に心惹かれ求婚するという。
 魂の伴侶とも言われるほど一人だけを生涯愛し続け、浮気もせずに添い遂げるので、まさに究極の純愛とも言われている。

 彼はその羽翼種の血を四分の一ひいていた。
 でも、彼は人間の血が濃くて魔力がほとんどなかった。
 彼も私を好きと言ってくれて、結婚にも前向きだったから、その習性はないと思っていた。

 結局、それは間違った認識だったと思い知らされたけど。

 私も羽翼種なので他の男から言い寄られないようにずっとベールをかぶっていたけど、婚約破棄してからは不要になった。
 私が素顔をさらしたのと、友人たちが同じ職場にいたので、噂があっという間に広まったらしい。
 だから本日、よく知らない同僚たちからもこうして慰めの言葉をかけられている。

 気持ちは嬉しいけど、初対面に近い人に何て返せばいいのか分からなかった。

「みなさん、お気遣いありがとうございます。申し訳ないけど、そろそろ時間だから、席に戻りますね」

 戸惑いながらも当たり障りのない挨拶をして、私は同僚たちと別れて自分の席に向かう。

 式場もキャンセルしないといけないわね。

 元婚約者のことを考えていたら、やっぱり涙腺が崩壊しそうになっている。
 洗面所に行って顔を整えたいと思い、通路を足早に歩いていたら、前方にいた男性に目が留まる。
 銀色の綺麗な長い髪を後ろで編んで一つに束ねていたけど、その黒い布製のリボンがちょうど解けて、音もなく床に落ちていく。

 落とし物に持ち主は気づかず、スタスタと歩き続けている。
 私自身とても急いでいたけど、見て見ぬふりも悪いので、リボンを拾おうとして一歩近づいたときだ。

「セラフィムさまぁ! リボンを落とされましたよぉ!!」

 若い女性の声とともに突然後ろから勢いよく体当たりされた。
 体のバランスを崩して大きくよろめく。
 まさに吹っ飛ばされた感じだ。
 それから耳に入ってくる複数の足音。

「ああ、すまない。感謝する」
「いいんですよ。セラフィム様のためですもの。あの、もし良かったら、明日の昼食ご一緒しませんか?」

 痛みを堪えて騒ぎの中心に視線を向ければ、若い女性たちが銀髪の男性を囲んでいる。

「申し訳ないが、私はあまり食事に時間をかけないんだ。だが、拾ってくれたお礼に何か飲み物を差し入れをしよう。あなたの部署を教えてくれないか?」
「まぁ! ありがとうございます」

 どうやら落とし物をした人物は、職場の魔法省で若い女性からアイドル並みに大人気の男性だったようだ。

 セラフィム様。

 三ヶ月前に入省した新人の私ですら、噂でその名前を聞いたことがある。
 並大抵の語彙力では表現できないほどの美形らしい。熱狂的なファンまでいるそうだ。

 憧れの彼とのお近づきのきっかけを見逃したくない彼女たちの気持ちも分からなくもない。
 彼は私と同じ珍しい銀髪なのに、それで男性の正体を察せなかった私の落ち度だろう。
 でも、今度は失恋じゃなくて、ぶつけられた痛みのせいで涙が出そうになる。
 気を取り直して、そそくさと彼らの脇を通って逃げるように洗面所に向かう。

「そこの女性、お待ちください!」

 まさかセラフィム様が女性たちに包囲されながらも、私の後ろ姿を見つめて、呼び止めていたなんて露ほども思わずに。
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

何もしなかっただけです

希臘楽園
ファンタジー
公爵令嬢であり王太子の婚約者であった私は、「地味だ」という理由で婚約を破棄され、王宮を去った。 それまで私が担っていた役目を、誰も知らないまま。 ――ただ何もしなくなっただけで、すべては静かに崩れていく。 AIに書かせてみた第14弾は、「追放ざまぁ」系の短編。

婚約破棄されたので田舎の一軒家でカフェを開くことにしました。楽しく自由にしていたら居心地が良いとS級冒険者達が毎日通い詰めるようになりました

緋月らむね
ファンタジー
私はオルレアン侯爵令嬢のエルティア。十四歳の頃、家の階段を踏み外して頭を打った衝撃で前世を思い出した。    前世での名前は坂島碧衣(さかしまあおい)。祖父母の引退後、祖父母の経営していた大好きなカフェを継ぐつもりでいたのに就職先がブラック企業で過労の挙句、継ぐ前に死んでしまった。そして、自分が息抜きでやっていた乙女ゲーム「星屑のカンパニー」の悪役令嬢、オルレアン侯爵令嬢エルティアに転生してることに気がついた。  エルティアは18歳の舞踏会で婚約破棄を言い渡される。それだけならまだしも、婚約者から悪役令嬢として断罪され、婚約破棄され、父親から家を追い出され、よからぬ輩に襲われて殺される。  前世だってやりたかったことができずに死んでしまったのに、転生してもそんな悲惨な人生を送るなんて、たまったもんじゃない!!それなら私は前世継ごうと思っていた祖父母のやっていたようなカフェを開いて楽しく自由な人生を送りたい。  森が開けた自然豊かな場所で念願のカフェを侍女のシサとともに開いて楽しく自由にカフェをやっていたら、個性豊かなS級冒険者たちが常連として私のカフェにやってくるようになりました!

「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました

木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。 自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。 ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。 そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。 他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。 しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。 彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。 ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。 ※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)

【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね

ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】 聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。 「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」 甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!? 追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。

空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される

木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。 婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。 やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。 「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。