夢幻無限の依代昇華

柊 弥生

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依代1

微動、されど変化

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伊織の家は、ボロアパートだ。

学生一人が住むだけのために選ぶのだから安い賃貸アパートを重心において選んだのだ。
やっとコケの生えるそのボロアパートが見えるところまで着くと、そこには異常な光景が広がっていた。
魔術師や超能力者の姿が何人も伊織の家の前に来ていたのだ。
そいつらの左腕には見覚えのある腕章。

「し、市民防衛隊シティズン……」

彼らはナラズモノを退治するほかに、市民ランク内の風紀も取り締まる役目を果たしている。
何かしでかしたか……?と頭をめぐらせて見るが思い当たる事は一つしかなかった。
「ん?貴様、伊織透であっているか」
家の前まできたら、案の定捕まえられてしまった。
伊織は無言でうなずき、「何ですか」と知らん顔をする。
「貴様、市民ランクにも拘らずナラズモノと対戦したな」
市民ランクに対戦権は無い。
伊織はそれを犯していた。
魔術師のローブを羽織る男は伊織をぐっと睨みつけた。
しかし伊織は引かなかった。
「いやいや、正当防衛ですって、本当に」
「しかし、たった三発の銃弾で倒せる相手ではないはずだ」

「あれ?何で、三発しか撃っていないって分かるんです?音で認識したにしたって市民に提供された銃は、周りの混乱を招かないために音が小さくなるように作られているはずですけど」

その問いに、その場に居た市民防衛隊はバツが悪そうに目を逸らした。
「もしかして、ナラズモノが来ていたのに自らの任務放って闘う市民を見てた?」
「い、いや、我々が来たときにはもう」
「にしても来るの遅くないですかぁ?本当は市民が避難し終わる前に来るモンじゃないんですか」
言い訳をする市民防衛隊の声を遮るように伊織は畳み掛ける。
だがしかし市民に負けるわけにはいかないのだろう。市民防衛隊のメンバーは、始めよりも強い口調で言い放つ。
「市民には対戦権は無い!貴様が法を犯したのは事実だ!ちょっと来てもらおうか!」
「えっ!ちょっと、本当に正当防衛だって!」
(流石に牢獄行きはいやだって!!)
力任せに腕を引っ張られ引きずられそうになる伊織は必死に抵抗する。
しかし思ったよりも市民防衛隊の野郎どもの力は強く、地面から足が離れそうになる。

「止めなさい」

女の声が聞こえた。
市民防衛隊の動きが止まる。
何事かと伊織は声のしたほうに目を向けてみれば、そこには黒いスーツに身を包んだ黒髪の女が余裕そうに立っていた。
「こ、これは藍原様!」
「ぐふぇっ!?」
いきなり市民防衛隊の野郎度もが女に向けて敬礼をした。その拍子に手を放された伊織は地面に顔面を突っ伏してしまう。
「第四小隊か……。貴様らの行動は見ていた。市民防衛隊の行動はすばやくが原則だ。しかし、貴様らは到着が遅かったどころか、正当防衛だと言っている少年を無理やり連行・・・。貴様ら第四小隊のノルマが下がってきているからといって、やっていいことと悪い事がある。戻ってしっかり反省するように」
「「は、はい!」」
黒髪の女は一気に市民防衛隊を捲くし立て、その場から撤退させた。
その場には、黒髪の女と伊織だけが残される。
市民防衛隊の姿が見えなくなると、伊織はすぐに黒髪の女に声をかけた。
「すみません、ありがとうございました。あのままだと牢獄行きになってたと思うんで」
「少年」
伊織の言葉を聞いたか否か、黒髪の女は辺りを見回しながらそう声をかける。
「伊織透くん、でいいのかな。私は市民防衛隊シティズン調律指揮官の、藍原麗子という。単刀直入に聞くが、君はこの都市を変える気はないか」


「…………………は?」


思わず抜けた声が出た。

デカイ、スケールがとてつもなくデカイ。

ポカンとする伊織をよそに、黒髪の女―――藍原麗子はそのまま続けた。
「君が先ほどのゴーレムを倒していたところは見ていた。君のランクは市民ランクでは無いことは分かったよ。君のその力は我等が目指す都市改革にも役立つと思う。君のその力を生かすためにも、私とついて来てはくれないだろう・・・」
「いやいやちょっと待って!」
機関銃のように放たれる、唐突な、しかも意味不明な藍原の言葉に、思わず終止符を打った。
そんな伊織に、藍原は「どうしたんだ?」というような顔で首をかしげている。
「全く意味が分からないんですけど!都市を変える?市民ランクじゃない?都市改革?俺の力がそれに役立つ?一体何の詐欺なの!!」
半ば泣き目で訴えかける伊織に、藍原は笑いながらそれを聞いていた。
「ああ、また私の悪い癖が出たようだ。どうも私は人の話を聞かないどころか自分の考えを押し付けてしまうところがあってね、いやあ、ごめん」
「分かってるんならなおす努力をしてください」
呆れながら伊織は相槌を打った。
「立ち話もなんだから、君の部屋に入らせてもらっても構わないかな」
「……はあ」
この人に何を言っても意味がない。
そう悟った伊織は何も言い返さず、そのままボロアパートの一室へと案内した。

部屋に入り綺麗に掃除された部屋、畳の上にどっかりと座った藍原はそのまま話し始めた。
「私は、表向きはさっきも紹介したとおり市民防衛隊の指揮官だ。だけどその本職は、非政府隔離組織、略称NGOという機関のクラスA戦闘部隊隊長なんだ」
「すいません、いきなり造語たっぷりで意味分かりません」
「NGOは、この都市方針に反対する組織と思ってくれればいい。私たちはランクによって分けられた不平等な都市方針を、共同、つまり全ランクの人間が心の底から助け合って生きていく都市を目指すために作られた。君は、格差革命という歴史を知っているか」
その問いに、頷いて答える。
「その革命によって、今の差のある不平等な都市になった。私たちが目指すのは、格差革命が起こる前の平和な世界だ。これがNGOの存在意義。ここまでは分かってくれたかな」
「まあ」
家に早めに帰れたと言うのに、いきなり長話をされる。
何故か悲壮感が心の中に立ち込める。だがしかしまだ話は終わらない。
「NGOは、すぐには見つけられないところに存在している」
「なんですか、そのいきなりアバウトな情報」
「非政府組織なんだ。それに隔離されているから、あながち間違っていない。……その拠点には、NGOの大きな活動の一つである、古郷華学園がある。そこは、全ランク共同の学園だ。普通教育はしっかりと受けられる。しかしほとんどは戦闘強化教育だ」
「せ、戦闘強化教育?」
何だその、意味分からないが恐ろしそうな教育は。
「そう。平等を目指すに当たっては、市民も戦わなくてはならない。市民ランクは身体能力の向上を、超能力者、魔術師は戦闘スキルの向上を計る教育だ」
なるほど、そんな事も考えているのか。
「そして、この学園の方針は、共同、平等、この二つなんだ。そして私は君に出会った。君は市民ランクではない。そんなものが、この不平等な都市に放置しておいたら私達の存在意義が揺らぎかねない」
「だから、俺についてきて欲しい……ってことか……」
伊織はそう呟いて藍原を見た。
彼女は満足そうにニッコリと笑って続ける。
「君にこの学園に入って欲しい。もちろん費用はこちらがすべて負担しよう。だから、伊織透、この願いを受け入れてはくれないだろうか」
「そのNGOの施設に入ったところで、俺に何のメリットがあるんです?」
「現実的なことを言うね、君は」
「だって現実じゃないですか」
そういうと、藍原は少し考え込んだ。
どうしても伊織をNGOに協力して欲しいのだろう。
しばしの沈黙のあと、自信ありげに藍原は伊織を見つめた。
「この都市が、その人の能力の変化によってランクや階級が変わっていくのは知っているな。魔術師ランクや超能力者ランクだったらその能力や技量、精神力や魔力が変化すれば、階級が上がったり下がったり上級になったり、初級になったりするんだ。君のような市民ランクだったら頭が良くなれば階級が上がって逆に悪くなれば階級は下がる。それらは、テストなどで判断されるな。しかし我らの学園は公式機関と手を組み、変更は難しいとされたランクでさえ変えてしまうことができる。つまり……」
藍原は伊織に顔をぐいっと近づけて言った。
「君に、それ相応のランクが付けられる。君の存在価値が見い出せる。そしてその存在価値によって、多くの人を救う事が出来る。これでは不満かな?」
「……俺の、存在価値」
確かに、伊織は自分の力を隠して生きてきた。
与えられたランクは変えることが出来ないから、そのランクの中で隠れてきた。
しかし、この藍原という女の言うとおりNGOに手を貸せば、それはなくなる。
自分を自分だと言い張って生きていける。
そんな小さな理由でも、この女の手を取っても良いのだろうか。
伊織透の思考は、至極単純だった。
「分かった」
自分が自分らしく生きていきたい。
その伊織の考えとNGOの方針は、合致するところが少なからずあるはずだ。
ならば、協力したい。
伊織のその返事を聞いた藍原は満面の笑みを浮かべて、黒スーツの胸ポケットから何らかのマークが刻まれた薄い板―――カードのようなものを取り出した。
「それじゃあ、君にそれ相応のランクを見積もりに行こうか。我らが学園、古郷華学園で」

瞬間。

伊織の視界は、光に包まれた。

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