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2.高熱恋愛

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ボクが先生にはじめて会ったのは、春休み中の学校でだった。






きれいな背中だな、と思った。
見ていて気持ちがいいくらい、姿勢がよかった。
ボクが、校舎の正面玄関前の廊下を通ったとき、その男の人は、ちょうど学校の事務室から出てきたところだった。
まだ春休み中だから、学校内は、人が少なくてシンとしていた。
新学期から2年生になるボクは、所属している美術部の新入生勧誘ポスターを作るために、学校にきていた。
本格的に絵を始めたのは、高校に入学してからだったから、まだたいした技術ももってなかったけれど、
ボクは、水彩の絵の具を、あわくあわく、ましろいキャンバスに塗りかさねていくのがとても好きになっていた。
だから、
その人のスーツがちょっと見ないような深い濃紺だったから、どんなふうに絵の具をかさねていったら、こんな青がだせるかなと思った。
さっぱりと短い髪はカラーリングをしていないらしく真っ黒で、深い海の底のような色のスーツをきっちり着こなしている肩幅のある背中は、背筋がピンと伸びている。背が高くて、手足が長いに身体は俊敏そうで、何かスポーツでもしてそうに見えた。
そして、ふと、そのスーツの下にデッサンの練習に使っている男性の胸像石膏の見事な筋肉が頭の中に浮かんだ・・・。
そしたら、
トクン、と胸をひときわ大きな鼓動が打った。
誰に聞かれたわけでもないに、ボクはびっくりして、自分の胸をおさえたとき、
その背中が、ボクを振り向いた。


それが、先生だった。










だってさ、部活で遅くなった帰り道のバス停で、
ちっさな折り畳み傘で、どしゃぶりの雨をしのいでいたときに、さっそうと、車であらわれて、
「送っていこうか?」
なんて、顔見知りに言われたら、
誰だって、乗せてもらうよな?
ラッキーと思って、乗っけてもらったけど、
すぐに後悔した。
車の中の2人っきりの空間に入ったとたん、
身体がびりびりするぐらい、緊張した。
ちゃんと平静を装えると思ったのに、全然だった ―――― あんまりにも、先生に近すぎて・・・・・・。
うまく、シートベルトがはめられなくて、カチャカチャやっていると雨に濡れた手に金具がすべって、
シートベルトがしゅるしゅるっと巻きもどっていってしまった。
「なに、やってんだ藤原?」
学校のときとは違う、ぞんざいな声。
曽根崎修平、今年の四月からうちの学校にきた国語の先生だ。
うちのクラスの副担任で、ボクが授業関係の雑務をする学習委員だから、他の生徒よりはわりと接触がある。
今日だって、昼休みに、クラスで集めたテキスト購入希望の用紙を先生のところに持って行ったし。
曽根崎先生は、学校にきてまだ間がないけど、けっこう、生徒に親しまれている。
さっぱりきっぱりした口調での授業はわかり易くて、冗談は言うけれど多くの私語をゆるさない緊張感がある。
2年生のボクらとは年が7つしか違わないから、年配の教師が多いこの学校では年が近くて気軽に話しかけやすいせいか、廊下やなんかで「センセー」と声をかけられているのをよく見かける。
共学か女子高だったら、そのシャープな顔立ちとスタイルのよさが受けて、女子生徒から人気になっただろうな、って感じ。残念ながら、うちは男子校だけどね。
ボクは、曽根崎先生が、苦手だ・・。
ボクは、まじめな生徒だ。先生にも事務員さんにも食堂のおばちゃんにもきちんと敬語をつかう。
でも、新任の曽根崎先生だけには、ワルぶった態度をとってしまいたくなる。
本当の自分を一ミリでも見せたくない。
煙幕を張って、ボクに近づけさせたくない、
なのに、何故か、まるで磁力にすいつけられるように、
ふらふらと先生に近づいていってしまう。
美術室の隣が書道室で、先生は選択授業の書道も担当してるから、
ボクが美術部の部活してるときも、その隣の部屋で授業の準備をしてたりする。
用もないのに、その書道室の前をボクが行ったり来たりしてんのとか、
―――― 先生、知らないよね?



先生は、わざわざ路肩に車を停めて、シートベルトを引っ張り出してくれた。
その近づいてきた大きな身体にどきりとして、身体を引こうとしたけど、座席の背もたれにはばまれて身動きできなかった。
シートベルトをはめるガチャっていう、ただそれだけの音が、音楽も流れていない車の中でやけに大きく聴こえた。
これぐらいのことで、アリガトウなんて言う必要もない、と思って、
緊張をまぎらわすように、なにかの会話をみつけるために、
「先生、タバコ、吸ってるんだ」
って言った。
はじめから敬語なんかつかってなかった。それをとがめられたこともない。
先生だって、他の生徒が居るときにはちゃんとした言葉づかいなのに、
クラスの学習委員をしているボクが、国語辞書の申込書なんかをクラスで回収したのを持っていったりしたときだとかに、
ボクと先生のふたりっきりだったりすると、
先生だってけっこう適当な言葉づかいになる。
「まあな」
「学校で吸ってるところみたことない」
先生の、職員室の机の上も、国語科教室の机の上にも灰皿なんてなかった。
でも、車の中はタバコのにおいがする。
「全部を生徒に見せてるわけでもないし?」
・・・こういうところに、傷つく。
生徒、って枠に自分を入れられてしまうことに。当たり前なことに。
会話を続ける気力もなくて、車の外の雨に目をやった。早く車を発進させればいいのに、って思った。
「緊張してるのか?」
直球で、不意につっこまれた。
「してないよ、あんたなんかに」
「かわいくねーな、藤原」
胸の真ん中を刺された。びっくりするぐらい、その言葉に哀しくなる自分が悔しい。
いつもそうだ。何気ない言葉に有頂天になったり、深く落ち込んだり。
こんなやつのたわいもない言葉に、一喜一憂してしまう。
うつむくと、アゴをとられた。
「へー、泣きそうな顔をしている」
近づいてくる顔に、身体が感電したみたいにビリビリする。こんなへんな自分をもてあます。こんな感情をボクの中に起こす先生が憎らしくなる。
「―――― 教師が生徒をいじめんなよ」
「ってねーけど?」
手、をにぎられた。
「絵の具がついてるぞ」
男らしいごつごつした手。温かな体温が、雨に打たれて冷えたボクの身体に熱をうつす。
その熱に、ガマンできない何かがソロリと動く。
先生の親指の腹がボクの右手の甲をこすった。
この人はわざとやってるんじゃないだろうかと、思う。
ボクの反応が面白くて、
わざとボクに必要以上にちかづいて、
ボクがどぎまぎしているのを、内心で笑っているんじゃないだろうかと疑った。
疑って、いやな気分になって、
なのに、先生の手をふりほどけなかった。
絵の具がとれるまで、先生に手を預けたままだった。
「お前、けっこう濡れてるな、俺の部屋で制服を乾かしていくか?」
なんでそんなに強い力でボクの手をにぎって、そんなにまっすぐな瞳でボクをみつめてくるんだろう。
感情は嵐みたいに激しく波打っているのに、
ボクは、
「・・うん」
って、すましたふりして答えた。
先生はきっと、ボクがどんなに先生を好きか知りもしない。




でも、先生は知っていた。




あ、・・・れ・・?
と、思ったときには、もう、先生のくちびるがボクのくちびるに合わさっていた。
マンションの駐車場らしきところで先生が車を停めて運転席のシートベルトを外すと、先生はボクに顔を近づけてきた。
ザアアっと雨が急に激しくなった。
車の窓ガラスに叩きつける雨の勢いが強くて、まわりの景色がただの白い水飛沫だけになった。
白い世界。だけど、激しい雨音は、なぜか、遠くて、ただ、目の前の先生の息づかいと、自分の心臓の音がすごく大きく響いている。
目がはなせなかった。
ボクのほうに近づけてくる身体に引き寄せられるように、ボクも先生に近づいていった。
シートベルトの拘束がもどかしく思ったとき、
先生のくちびるがボクのにふれた。
(あれ・・・?)
ドクンっドクンっと心臓が大きな音をたてている。
うすく目を閉じている先生の顔。
やわらかなくちびるの感触。
こんなに間近に先生の顔を見るのははじめてだった。
先生のにおいや体温を感じて身体の熱があがってきている。
先生が身体をひいた。
「ここだ」
何事もなかったように先生が言って、助手席のシートベルトのストッパーを押した。
ベルトの拘束が取れて、身体は自由になったのに、先生のボクを射抜くような視線に身体が不自然に固まる。
一瞬、あわさっただけのくちびるがやけにびりびりしていて、
自分の手でさわってみた。
不意打ちのキスをされて、ものすごく腹が立った。
「先生って、こんな、アソビで生徒に手ぇだすとかするんだ」
身体はがちがちに緊張していた。
「アソビ、じゃないな」
ウソばっかり。
でも、言葉が出なくて、
心臓が痛いくらい鳴っていて、
「・・へー」
ってだけ、
やっと答えることが、できた。






マンションの6階。いちばん奥の扉の前で先生が足を止めた。扉の横のネームプレートには”曽根崎“と名前だけが書かれている。
ここに来るまでなんにも話さなくて、視線も寄こしてこなかった先生が革のカバンから鍵を取り出すとボクを振り向いた。
「帰るか?」
なんて言うから、驚いていると、
「送って行くぞ」
と言った。
な、なんだんだ。部屋に来いと言ったり、帰れと言ったり、
なんなんだよ、なんなんだよ、とものすごく腹が立って、
ムカッときた。
「寒い。・・・早く、開けろよ」
春の雨なのに、今日は気温が低くて、雨に濡れた身体は冷えきっているけれど、
かすかにふるえていたのはそのせいだけじゃない。
だから、
部屋に入ってすぐに扉のガシャンと閉まる音と一緒に先生の腕の中に抱き込まれるなんて、
予想もしてなくて。
でも、身体は知っていた。
だから、気持ちはびっくりしているのに、自然と腕が先生の背中にまわった。
雨でしっとり濡れているスーツごしに感じる身体。
息が熱くて、
頭の中がぐらりと揺れて、
ああ、めまい、ってこんな感じなんだ、と思った。
泣きそうで、怖くて、うれしくて、身体が大きくふるえたら、
先生がもう一度言った。
「帰るか?」
そんなことを聞いてくるくせして、抱きしめる腕の力が強かったから、
帰らなくてもいいんだな、と思った。
「・・寒い」
と、言ったら、もっとぎゅっと抱きしめられた。
だから、もっと、してほしくて、
「寒いよ、先生」
ボクも先生の身体を強く抱きかえした。
それで、
またキスされた。
今度は、
ボクも目を閉じた。








セミダブルのベッドのシーツの上を、あちこちにずりずりと逃げ回っていたらしい。
「焦らしてるのか?」
って聞かれたけど。
そうじゃない。
恥ずかしくて、
いたたまれなくて、
怖いから。
したことないし。
でも、初めて、だとかって言ったら面倒くさがられるかな、と思った・・・。
去年、つきあってた先輩と、こういうことしようとして、失敗して、
それから、先輩ときまずくなって、自然消滅っぽくなってしまったから。
玄関でキスされて、そこからすぐリビングで、もう一つの扉の向こうにはベッドがあって、
そこで、また、深く口づけられて、
制服をどんどん剥がされながら、
あれ、ボク、いつのまに靴を脱いだんだろうと思っていたら、
もう、ベッドのスプリングがキシリと鳴っていた。






泣くのとかってフツーだよね。
だって、苦しいし。
「藤原、息、はいて」
意味がわかんなくて首をふる。
「ほら、ふーっって」
頬をなでられた。
ぐっと閉じていたくちびるを先生の親指の腹ですられて、気づいた ―――― 目の前に先生の顔がある。
黒い瞳がじっとボクを見ている。すいこまれそうなくらい、深い。
「ほら、出来るだろ。ふーって息をはいて」
実演して見せくれて、ボクの顔に先生の呼気がかかった。
ああ、呼吸ってそうするんだったって、思いだした。
口をあけて、
「―――― ゆっくり、はいて」
言われる通りに、した。
もっと深くに、熱いのが挿ってきた。
や、怖い。
先生の硬くなったのがボクの身体を割り広げて、侵入してくる圧迫感に、
息がとまった。
無理、できない。
「―――― やめるか?」
でも、
そう言われて咄嗟に、
それは、もっとイヤだと思った。
だから、
先生の腕をつかんで、首をふった。
「やめない」
って言いながらも、
なんで、こんなバカみたいなことやってるんだろうって思った。
本当だったら、ビデオでも観ながら、夕食ができるのを待ってる時間なのに。
しなくても、いいことしてる。
しなくたって、別になんともないこと、
なのに、
苦しいってわかってても、
ふれた先生の身体から手がはなせない。筋肉質な腕、ボクとは違う大人の身体。
この身体と、つながりたい、とこころの底から思った。
ボクの中に、深く入ってきて欲しいと泣きそうな気持ちで思った。
でも、先生はゆっくりと、ボクの体内から、抜いていった。
いやだ。
「やだ、する。・・・先生とする。先生だから、――――。
先生とだからしたい」
もう、頭の中でそう思ってるのか、口に出してそう言ったのかわからなかった。
「―――― 俺も、藤原としたいよ」
そんな声も、熱を帯びたような先生の顔も、ボクが頭の中でつくりだした幻なのか、現実なのかわからなかった。
ただ、重なってる身体の体温が、重みが、肌の感触が、あって、そういう先生を感じられるのが、
すごく胸がいっぱいになる。
先生がボクの身体のあちこちをなでてきた。
やさしく、やわらかく。
先生の手の感触がきもちよかった。
下腹をまあるくなでられたときは、くすぐったくて、笑いそうになった。
服を脱がされてすぐに、先生の口に含まれて、舌で激しく舐められて、その口に迸してしまったボク自身にも、もう一度戻ってきて、
最初にされた急激に性感を高めるようなさわり方じゃなくて、
ゆっくりとなだめるように、ふれてきた。
そうやって、だんだん、身体の力が抜けていくのが自分でもわかった。
そうして、
先生がボクの右手を握ってきた。
手のひらと、手のひらをあわせて、指同士をたがいちがいに絡ませた。
大きくて肉厚でがっしりしてる手が、力強く、ボクの手をにぎってる。
重ねあわせてると、先生の手のひらから流れてくる温かい体温を感じて、
自然と息がすうっと、自分の中にはいってきた。
ボクのソコを探っていた指がでていって、また、さっきみたいに、先生のがボクの入り口にあてがわれた。硬くて熱くてぬるっとしたのが。
「挿れてもよさそう?」
キスのあいまに、そう囁かれた。
よさそうなのかどうなのか自分でわからなくて、答えられなかった。
「藤原、こわい?」
「・・・うん」
「大丈夫だから」
たったそれだけの言葉なのに、
安心できた。
だから、
「先生、―――― 好き」
自然に、言葉がこぼれた。






先生が、
こきざみに腰をふって揺するようにしてどんどんめりこませてくる。
手、を、
必死に握りかえした。
揺さぶられているのは身体だけのはずなのに、
感情も激しく揺れていた。
決壊、しそうだった。
それから動きがとまって、
頭上の先生の顔を見ると、
額にうっすらと汗をかいていて、
唐突に、その汗をなめてみたい、と思って、
先生と握りあってないほうの手をのばした。
おずおずと、先生の額をさわった。
温かく湿っている皮膚。ボクとは違う体温。
男らしい眉を、少しなでて、
「汗、かいてる」
指先で、先生の汗をぬぐった。
そうして、それを、
自分のくちびるにはこぶ。
含んで、なめて、味わった。
「―――― しょっぱい」
「・・フジワラ、」
かみ殺しきれないような声で、
「あおってるのか?」
と聞かれて、わけもわからず先生の顔を見上げると、
唐突に、ぐんと身体をつかれた。
「アっ、」
勢いで、身体がずり上がった。
「痛っ、イタイ」
痛くて、とっさに、先生が逃れようと、なんとか身体を動かすと、
へんなふうに身体がねじれて、
気がつけば、横向きになって、片足だけ高々と先生の肩に乗せられていた。
そして、もっと、勢いづいて、先生が腰を穿ってくる。
「や、クルシ・・・」
待って、待って、待ってと言ったのに、
聞いてくれない、
獣のような息づかいが、部屋に響いていて、
あんなに深く近くに来て欲しいと思っていて、実際、そうなったのに、
苦しくて痛くて、ひとりぽっちのように淋しくなった。
それでも、
まだ、右手だけは握りあったままだったから、
その手に左手を、それから額を寄せて、
横向きの身体のまま、祈るように上半身を丸めた。
早く、この嵐のような時間が終わって、と。
そうしていたら、急に、身体を揺すっていた振動がとまった。
「―――― 藤原」
声がして、顔をあげると、汗をびょっしょりかいて、
眉間にしわをよせてる先生の顔があった。
なにか、すごく苦しそうで、
どうしたんだろうと、心配になった。
自分の状況も、一瞬、わすれて。
伸びてきた先生の手が、肩にふれそうになって、
怖くて、また、痛くされる、って、
ビクっとした。
そんなボクに先生は、
ためらったみたいで、それでも、肩をやわらかくおして、
ボクの身体を正面に向けさせた。
片足はもう、先生の肩の上からおろされていた。
先生は少し気まずそうな顔をしていた。
まだ、先生のが挿ったままだったから、
「もう、終わった?」
聞いたら、
「・・・・・・いや、まだだけど」
困ったように先生が微苦笑した。
しなくて、いいのかな?
「藤原にキス、したくなった」
さっきまでの荒々しい雰囲気をそこかしこに、漂わせながらも、
先生は、やさしい瞳でボクを見下ろしていた。
「・・・して」
ヒドイ人なのかやさしい人なのか、わからない。
でも、
どこもかしこも先生とふれあっていたかった。
先生は、最初にしたみたいな、ボクの服をぬがせながらしてくれたのと同じ、
やわらかなキスをしてくれた。
だから、また、「好き」と言葉がこぼれでたら、先生も吐息の声で「オレモダ」と言ったように聞こえて、ウソかマボロシがユメのどれかなと思った。
でも、本当だったら、うれしいと思ったら、
ボクのココロもカラダもふわんとやわらかくなってった。






先生が挿れてくる前に、ボクの身体をあちこちさわってきて、すごい感じて、
人からさわられるだけで、こんなに、ふるえるほどに興奮して気持ちよくなることに驚いてたトコを、今、また、まさぐられてた。
きゅっと、胸の先を刺激されて、
身体の芯が、びりびりっとした。そんなとこそんなふうに感じたことなくて、でも、戸惑いよりも先に、甘い吐息が口からこぼれた。
さっき、先生の口に迸したときみたいに、自分のが硬く勃ちあがっていくのがわかった。
もう、身体がおぼえていた。どこが悦よくて、どこがいきそうになるとこなのかを。
先生の手やくちびるがソコにくると、身体がよろこんだ。
また、先生が動きはじめた。
でも、今度はゆるやかな律動だった。
ボクの身体の上を行き来するたくましい身体はしっとりと汗ばんで、筋肉がうきあがっていた。
その身体につつまれてる温かさだとか、先生のが挿ってきてるところの熱さだとか、
先生の汗のにおいだとかを感じてると、
頭が、ぼぉっとしてきた。
そしたら、身体のどこかで、
火がともった、
ような感じがした。
小さな火が、じわりと、何かに向かってひろがりはじめていた。
「藤原、」
呼ばれて、先生に目を向けたら視界がにじんでいた。
「辛いか」
「・・・ううん」
首をふった。まぶたから頬へ水滴がつたうのを感じた。
自分の状況をどう伝えていいかわからなくて、
先生の腰にからめた脚のかかとで、先生の腰をこすった。
「もっと、大丈夫か?」
何を聞かれてるかわからなかったけど、でも、確かに何かが、もっと、欲しい気がして、
「うん」
と、答えたら、
ストロークが長くなって、
この人に、ボクはもっと、深く溺れていくんだ、って予感がした。






まるでイナズマが駆け抜けていくみたいな甘い衝撃が、カラダに響き渡っていった。先生が挿ってるところから、おかしくなっていく、ヘンになっていく。
なに、なに、なに、ナニシタノ、ボクにナニシタノ、
って聞きたかったのに、アアという息しか出なくて、必死にしがみついてると、名前を呼ばれて、口づけされて、苦しいぐらい舌を吸われて、息、できなくて、うめいたら、ぬるんとしたのは口から出て行って、それから、首のつけ根のところを強く吸われて、感じて、また、溶けていきそうで、そんな声がでたら、
もっと、もっと、激しく身体を揺さぶられた。








「準備できたか?」
制服に着替え終えたボクに先生が言った。
「うん、できた」
学生かばんを手に取った。先生が家まで送ってくれるという。
やさしく髪をなでつけてくれた。
大きな手。がっしりした安心できる手。さっきまで、ボクを抱きしめてくれていたけど、今はもう違う。
さっきまで、この手はボクだけのものなんだ、ってあんなにはっきりと確信できていたのに、
今は、もう、そんなに強くはそう思えなくて、
胸がキュっとなった。
痛いけど、きっとキスしてくれたら、すぐに痛みはなくなる気がして、
先生の顔を見上げた。
どう言えば、キスしてもらえるのかなって考えていると。
「後悔してるか?」
って聞かれた。
そんなこと全然なかったから、驚いた。
「ううん、なんで?」
どこか痛そうな顔をして、
「俺が、後悔してるから」
と先生にそう言われて、
世界が真っ暗になった。
さっきの、
想いが通じ合ったような一瞬は、やっぱり幻?
―――― アソビ、にもならなかったんだ、ボク・・・・・・。
平気な顔をしなくちゃ、と思ったのに、
ひくっと、いやな感じにノドが震えた。
泣いてしまいそうな顔を見せたくなくて、背中を向けようとしたら、
手が、
ボクのことを安心させる先生の手が、ボクの頬をなでた。
「もっと、やさしくしてやればよかった」
こめかみに、先生のくちびるがふれてきて、
「次はそうする」
そのくちびるが、まなじりから流れた涙を、やさしくすってくれた。






( おわり )

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