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5.犬も食わない恋模様
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「浮気してやるっ!!」
タンカをきって、リビングをとびでた。
ムカついたムカついたムカついた。
今日は、本当に、サイアクに頭にきた!
玄関で、スニーカーに足をつっこんでいると、
「凛一、」
「なんだよ」
背中向けたまま、とりあえず答えた。
けど、こころのどこかで、追っかけてきてくれた先生にちょっとホッとしてた。
「忘れもの」
振り向くと、先生がボクのデイバッグを放り投げるように手渡してきた。
なんだよ、コイツ!
あんまり先生が平静だから、言ってやった。
「ボクだってその気になれば、オトコのひとりやふたり引っ掛けることができるんだからな!」
・・・やりかたわかんないけど。
「それに、元カレだっているんだから」
・・・今春、隣県の大学に進学して、そっちで暮らし始めたって、ウワサは聞いたけど、新しい連絡先は知らない。
「止めたってムダだからなっ!」
ツンとして言ってやった。
少しは、慌てろってんだ。
「へぇ、じゃあ、俺も元カレでもこの部屋に呼ぶかな」
え、
「そして、あのベッドで、」
「ダメっ」
つっかけていたスニーカーをけって、あわてて部屋にあがった。
「ダメだからそんなこと」
やだ。
先生が、ボク以外の人とするのなんて、ヤダ。
それに、先生が誰かとあのベッドを使うのなんて想像もしたくない。
こないだだって、
本当は、先生が酔っ払ったっていう友だちに、ベッドを貸したのだってイヤだったんだから。そんなことは、さすがに、子どものワガママっぽくて、言えなかったけど。
「う、ウソだから。ボク、浮気とかしないし」
腕をくんで立ってる先生の二の腕にすがりつくようにして言った。
「だから、修平もしないで」
「ふん、どうするかな」
「・・・修平」
不安になって、先生の腕を握る手に力が入る。
「もう、わがまま言わないから。修平の仕事の邪魔しないし。・・・・・・大人しく家に帰る」
学校の行事や中間考査や修平の書道展への作品出品だとかで、日曜日にゆっくり会えたの久しぶりだった。
だから、すごく楽しみしてたのに、先生は、授業の準備があるから相手できないとか言うし。
わかってたんなら、最初っから言えばよかったんだ。
なにも、ボクが先生の部屋に来てから言わなくたっていいだろう。
そしたら、ボクも別の予定を立ててたさ。
そんな連絡なんか別にしなくてもいい、って先生は考えてるんだ、と思ったら、
思いっきり腹が立ったんだ。
ぎゅうっと先生の腕をつかみながら、先生の顔を見上げてると、
先生が、ふっと息を吐いて、
「―――― 悪かったよ」
と言った。
急にそんなこと言われてびっくりしていると、
ボクの腰に手をまわしてきた。
「あのな、俺は仕事だけど、お前に部屋にいてほしいと思うのは俺のワガママか?」
「え?」
ぐっ、と抱き寄せられた。
心音がすごい間近に聞こえる。
「前もってはっきり言わなくて悪かった。相手はしてやれないけど、部屋にいてくれないか?」
「あ、・・・うん」
まっすぐにそう言われて、なんだか恥ずかしくなった。
それって、ボクと一緒にいたいってことだよね。
そう思ったら、うれしくて、
ボクも先生の背中に手を回して抱きついた。
この体温がすごく好き。
「ボクも、ちゃんと修平から話しを全部聞く前に、ヘンなこと言って、ごめん」
まったくだ、という先生の小さなため息のような声がした。
浮気、って言ったの、少しは気にしてくれたのかナ ――――。
「ねぇ、もう、ボクたち、仲直りした?」
「したよ」
「よかった」
ほっとした顔を先生に向けたら、少し目を細めた先生の顔が近づいてきたから、
顔を上げて、キスをまった。
いつもの、する時の前のような、気分を高めるようなキスじゃなくて、
やさしい気持ちを交換するようなおだやかなキスを、した。
それから先生はベッドルーム兼仕事部屋にこもって授業の準備をしてた。
お昼は、ボクががんばってパスタをつくった。乾麺をゆでて、パスタソースの缶をあけただけだったけど、ちゃんとレタスをちぎってサラダもつくった。
パスタを食べたあと、先生は仕事に戻って行ったけど、ときどき部屋から出てきた。
出てきて、居間でテレビを見てたり雑誌を読んでたボクと、ソファに座って、お茶をして、ちょこっとだけいちゃいちゃもした。
夕方、5時くらいに仕事を終えた先生が、餃子をつくってくれた。
手でこねた餃子の中身を、魔法みたいに、きれいに餃子の皮につめていくのを、ボクも不器用な手で真似をした。
「今度、水彩道具をこっちにも置いとく」
水彩を描くのは美術部の部活だけじゃなくて、今は、あちこちに出かけてスケッチなんかもし始めている。先生の部屋で、窓から見える風景を、コンパクトなスケッチブックに描くのもいいかな、と思った。
そしたら、先生が忙しいときでも、そばで静かにしていられる。
「ああ、そうだな」
先生もうれしそうにそう答えた。
だから、
「一緒に暮らすってこんな感じなのかな」
って言ってみた。
そしたら、
「うーん、・・・そうかもな」
少し、引き気味に答えるから、
「何、修平は、ボクと暮らすのがヤなの?!」
声がとがった。
先生が、んーーと眉根を寄せて、ちょっと困ったように言った。
「凛一は、イビキがすごいからなぁ」
えっっ?!!
( おわり )
タンカをきって、リビングをとびでた。
ムカついたムカついたムカついた。
今日は、本当に、サイアクに頭にきた!
玄関で、スニーカーに足をつっこんでいると、
「凛一、」
「なんだよ」
背中向けたまま、とりあえず答えた。
けど、こころのどこかで、追っかけてきてくれた先生にちょっとホッとしてた。
「忘れもの」
振り向くと、先生がボクのデイバッグを放り投げるように手渡してきた。
なんだよ、コイツ!
あんまり先生が平静だから、言ってやった。
「ボクだってその気になれば、オトコのひとりやふたり引っ掛けることができるんだからな!」
・・・やりかたわかんないけど。
「それに、元カレだっているんだから」
・・・今春、隣県の大学に進学して、そっちで暮らし始めたって、ウワサは聞いたけど、新しい連絡先は知らない。
「止めたってムダだからなっ!」
ツンとして言ってやった。
少しは、慌てろってんだ。
「へぇ、じゃあ、俺も元カレでもこの部屋に呼ぶかな」
え、
「そして、あのベッドで、」
「ダメっ」
つっかけていたスニーカーをけって、あわてて部屋にあがった。
「ダメだからそんなこと」
やだ。
先生が、ボク以外の人とするのなんて、ヤダ。
それに、先生が誰かとあのベッドを使うのなんて想像もしたくない。
こないだだって、
本当は、先生が酔っ払ったっていう友だちに、ベッドを貸したのだってイヤだったんだから。そんなことは、さすがに、子どものワガママっぽくて、言えなかったけど。
「う、ウソだから。ボク、浮気とかしないし」
腕をくんで立ってる先生の二の腕にすがりつくようにして言った。
「だから、修平もしないで」
「ふん、どうするかな」
「・・・修平」
不安になって、先生の腕を握る手に力が入る。
「もう、わがまま言わないから。修平の仕事の邪魔しないし。・・・・・・大人しく家に帰る」
学校の行事や中間考査や修平の書道展への作品出品だとかで、日曜日にゆっくり会えたの久しぶりだった。
だから、すごく楽しみしてたのに、先生は、授業の準備があるから相手できないとか言うし。
わかってたんなら、最初っから言えばよかったんだ。
なにも、ボクが先生の部屋に来てから言わなくたっていいだろう。
そしたら、ボクも別の予定を立ててたさ。
そんな連絡なんか別にしなくてもいい、って先生は考えてるんだ、と思ったら、
思いっきり腹が立ったんだ。
ぎゅうっと先生の腕をつかみながら、先生の顔を見上げてると、
先生が、ふっと息を吐いて、
「―――― 悪かったよ」
と言った。
急にそんなこと言われてびっくりしていると、
ボクの腰に手をまわしてきた。
「あのな、俺は仕事だけど、お前に部屋にいてほしいと思うのは俺のワガママか?」
「え?」
ぐっ、と抱き寄せられた。
心音がすごい間近に聞こえる。
「前もってはっきり言わなくて悪かった。相手はしてやれないけど、部屋にいてくれないか?」
「あ、・・・うん」
まっすぐにそう言われて、なんだか恥ずかしくなった。
それって、ボクと一緒にいたいってことだよね。
そう思ったら、うれしくて、
ボクも先生の背中に手を回して抱きついた。
この体温がすごく好き。
「ボクも、ちゃんと修平から話しを全部聞く前に、ヘンなこと言って、ごめん」
まったくだ、という先生の小さなため息のような声がした。
浮気、って言ったの、少しは気にしてくれたのかナ ――――。
「ねぇ、もう、ボクたち、仲直りした?」
「したよ」
「よかった」
ほっとした顔を先生に向けたら、少し目を細めた先生の顔が近づいてきたから、
顔を上げて、キスをまった。
いつもの、する時の前のような、気分を高めるようなキスじゃなくて、
やさしい気持ちを交換するようなおだやかなキスを、した。
それから先生はベッドルーム兼仕事部屋にこもって授業の準備をしてた。
お昼は、ボクががんばってパスタをつくった。乾麺をゆでて、パスタソースの缶をあけただけだったけど、ちゃんとレタスをちぎってサラダもつくった。
パスタを食べたあと、先生は仕事に戻って行ったけど、ときどき部屋から出てきた。
出てきて、居間でテレビを見てたり雑誌を読んでたボクと、ソファに座って、お茶をして、ちょこっとだけいちゃいちゃもした。
夕方、5時くらいに仕事を終えた先生が、餃子をつくってくれた。
手でこねた餃子の中身を、魔法みたいに、きれいに餃子の皮につめていくのを、ボクも不器用な手で真似をした。
「今度、水彩道具をこっちにも置いとく」
水彩を描くのは美術部の部活だけじゃなくて、今は、あちこちに出かけてスケッチなんかもし始めている。先生の部屋で、窓から見える風景を、コンパクトなスケッチブックに描くのもいいかな、と思った。
そしたら、先生が忙しいときでも、そばで静かにしていられる。
「ああ、そうだな」
先生もうれしそうにそう答えた。
だから、
「一緒に暮らすってこんな感じなのかな」
って言ってみた。
そしたら、
「うーん、・・・そうかもな」
少し、引き気味に答えるから、
「何、修平は、ボクと暮らすのがヤなの?!」
声がとがった。
先生が、んーーと眉根を寄せて、ちょっと困ったように言った。
「凛一は、イビキがすごいからなぁ」
えっっ?!!
( おわり )
応援ありがとうございます!
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