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12.プレーンヨーグルトにいちごジャム

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シャワーを終えて、部屋中の電気を消して、ベッドルームにいくと、修平は壁際を向いてベッドの中に入っていた。
ボクは、部屋のわずかなフットライトの灯りをたよりに、ベッドのあいているスペースにもぐりこんだ。
とたんに、
「帰れっつっただろ」
背中を向けている修平が不機嫌をあらわにした声で言った。
「修平、もうちょっと向こうに行けよ」
修平が言ったのを無視して、ボクは強引に自分の寝場所を確保して、
ボクも修平に背を向けて、目をとじた。
背中どうしがふれないくらいの隙間を取っていたけれど、
それでも、じんわりと、修平の体温が伝わってくる。
秋の夜の寒さに、バスルームを出たとたんに冷え始めていた身体が、また温かさを取り戻す。
さっきの口ゲンカのイライラは胸の中に健在だけど、そのあったかな体温は、ボクを安心という糖衣にくるんでくれた。








ひそやかに身体を這う指先の感触がした。
パジャマの隙間から入り込んできている手が、あちこちをゆるやかに撫でている。
ゆっくりと、でも、的確に、感じるところを探ってくるから、
こもった息がもれる。
「・・・・、しゅーへい?」
眠りからはっきりと目が覚めてないぼんやりとした意識のまま、名前をよぶと、くちびるに湿ったものがおしあてられた。
声をだしたことでひらいた口に、
唾液をふくんだ舌がはいりこんでくる。
濡れた粘膜同士がふれあう。舌をゆるく吸われて、ボクも修平の舌を吸いかえした。
こすれあう舌の刺激が甘くて、身体がざわめいて、おおいかぶさってきている身体に手をまわしながら、芯がともりはじめた下半身を押しつける。修平の、もう、硬くなっているものが、太ももに当たっている。
その熱の感触に、身体がうるんとなっていく。
もっと、こすりつけるようにすると、
期待したとおりに、パジャマのウエストのゴムをくぐってごつごつとした骨っぽい手が入ってきた。
下着越しに、かたくなりつつあるものをたどられて、うずいて、また、口から吐息がもれた。
どうして、
やさしくされると、もっとヒドクして、って思うんだろう・・・・・・。
ボクも片手を修平の脚の間に伸ばす。熱い塊に、次の段階の行為を想像して、身体が熱をあげていく。
ふれられる自分の欲望の、
布越しの感触がもどかしくて、腰がゆれた。
「もっとか?」
気持ちまでもとろかすような声で、くちびるをはなした修平が問いかけてくる。しめった息が頬をなでていくのにさえ感じて、ん、っと息で返事をした。
うっすらと目を開くと、ボクを欲しがる修平の顔。
ボクの答えなんかわかってるくせに、
でも、はっきり言わないとつづけてくれない。
「・・もっと、直接、―――― して」
欲望にうるんだ目で修平を見つめて、かすれた声で言ったとたんに、猛ったような視線に身体を灼かれた。
(もう、全部、早く、修平のものにして)
いつも、この目で見られると、こんなに、身体がふるえて、こんなふうに乞うように願ってしまう。
くたり、と力の抜けてしまった身体を、ただただ、修平が与えてくれる熱で揺らして、激しく、貫いてくれるのを待ちわびる。
修平の手が、下のパジャマと下着をいっしょにつかんできたから、腰をあげると、そのいつものタイミングで、パジャマと下着が一緒に太ももあたりまで下ろされた。
意識は、だんだんとハッキリしてきたけれど、もう、身体は熱でつながりあいたくてどうしようもないところまできていた。








「寝起きをおそうなんて、ズルくない?」
トーストにマーガリンをぬりたくりながら、ボクは言った。
朝起きたら、気がつけばなんだかそういうことになっていて、無意識と現実のあいだをいったりきたりしながら抱かれて、はっきりとと目が覚めてからも、お互いにもて余した熱をどうにかしたくて、・・・もう一回 ―――― が、終わった頃にはボクもしっかりと頭が冴え渡っていて昨夜のことをくっきりと思い出したから、
ボクの身体から抜いていく修平に向かって、上がりそうになる声をこらえながら、「なんだよ、これ」と言ったら、「セックス」と平然と答える修平にカチンっときて、ボクは修平がどくと、よろけそうになる腰を奮い立たせてさっさとバスルームに行った。
も少しさ、「昨日は悪かった」とか、「凛一としたかったんだ」とか言えってんだよ!
そんなわけで、夜からのケンカはまだ尾をひいていて、新鮮な朝の食卓にまで漂っていた。
このガサガサの気分は、どうにも修平をヘコましてやりたくてしょうがない気持ちにさせる。
「いいだろ、別に。朝勃ちしてそんな気分になったら、そこに、お前が居たし?」
修平が個包装のバターのつつみを開きながら言った。甘党の修平はバターをぬったその上に、イチゴジャムものっける。
修平はパンにバターだけど、ボクは断然、マーガリンだ。やわらかくスーっとのびてくのがいいし、味だって、マーガリンのほうがおいしく感じる。
「なんだよ、まるで、ボクって身体だけみたいじゃん」
100%オレンジジュースを飲みながら、
ふんって言ったら、
「ああ、だから?」
ボクが言ったことを肯定するように修平が返してきた。
カラリ、とイヤな音をたてて、胸の中になにかが落ちて来た。
おとしたてのコーヒーが修平のカップの中にたっぷりとそそがれている。
白い湯気がカップの中からゆらりゆらりと立ち上っていく。
ここは、いつもみたいに「修平みたいなオッサンなんかにそんなこと言われたくない」みたいな感じで、ギャーギャーわめく場面だろう、と頭の中で、誰かがボクに言ったけど、口はカチンと凍りついて、ただ、機械的に口の中に入っていたオレンジジュースを飲み下して、手に持っていたトーストを口に運んだ。
いつもは、ふんわりと香ばしいトーストも、まるで布っきれを食べてるみたな感じがする。
それをモソモソと噛み砕いて咀嚼したあとに、ようやく、
声がでた。
「あっそ」
それぎり、もう、修平とはしゃべらなかった。
修平も、
視線もあわせず、反撃してこなかったボクにつまらなくなったのか、何も言わなくなった。








朝食のあと、―――― もう、11時近くになっていたけれど、「コンビニに行ってくる」と言って、修平の部屋をでた。
それは、つまりコンビニの雑誌コーナーで1時間は立ち読みしてくるってことで、修平に怒ってるけど自分の家には帰んないよってことで、
そういうボクの行動を理解しているのかいないのか、
「単三電池買ってきてくれ」
と、修平はオツカイを頼んできた。








日曜日の昼前。冬の気配は濃厚で、太陽はくっきりとはっきりしているけれど、吹いてくる風はけっこう冷たい。
寒さにふるえるほどではないけれど、ボクは無意識に手を握り合わせていた。
修平の部屋から、コンビニまで徒歩5分。さらに1分ほど歩けば、もう一つ別のコンビニがある。
どっちに行こうかな、と、そんな単純なことを精一杯の悩みのようにして考えても、
痛みは、
小さくはならなかった。
(カラダ、だけ、・・・かぁ)
さっきの食卓でのやりとりを頭から消すことができなくて、
ボクは顔をしかめた。
昨日から修平はなんだか機嫌が悪くて、仕事でなにかあったのかな、って感じだった。
けど、修平は、いつもそういうことボクにはなんにも言わないし、ボクも、仕事・・・同じ学校だから、先生同士のことだったりしたら、ボクには言いにくいだろうな、と思って、聞きだせずに居た。
それで、修平は昨夜、ボクがリビンでテレビを観ている間、ベッドルームにこもって、長いこと誰かと電話で話しをしていた。
ボクには言えないんだな、って思って、それはしょうがないことだってわかっていたけど、ボクじゃ修平を支えきれないんだ、って思うと、なんだか気持ちが淋しい感じになって、
でも、せめて、修平にやさしくしようと思っていたのに。
ベッドルームから出てきた修平に精一杯話しかけて、明るい気分になってもらおうとガンバッテたのに、修平のつっかかってくるような言葉に、イラっとして、つい口答え・・。
それで、どーでもいいことで、口げんかになってしまった。
昨日の夜、修平に背を向けて眠りながら、あー、ボク、何やってんだろう、と胸の中でグジグジ悩んだ。
修平とはよく口げんかもするけど、
ボクが学校の友だちのこととか勉強のこととか家族のこととかで、へこんでいると、修平はボクの話しを聞いてくれる。
それで、ほっとしたり安心したり、へこみがちょろっと浮上したりする。
だから、ボクも、修平がそんな時には、そんなふうに出来たらな、って思ってたけど・・・。
ボクは、小さく息を吐いた。
修平が、ボクのことを好きなのだとはちゃんとわかっている。
ボクだって、修平のこと、すごく好きだ。
それだからこそ、
ボクは修平の役に立ちたい。
(けど、ボクが、出来ることってなんにもないんだ・・)
昨日だって、落ち込んでいる修平を慰めることも励ますことも出来ずに、ただイライラを募らせただけだった。
だから、さっき、修平にああ言われて、
ホント、身体だけかもな、って思った。
他には、ボクは修平にはなにもしてあげられない・・・。
ボクは両手を上着のポケットにつっこんだ。
考え事をしていても、脚は自動的に通いなれたコンビニへの道を辿る。
次の角を曲がればすぐに、見慣れたブルーの建物が見えてくるだろう。
ポケットの中で、ボクは硬く握りこぶしをつくった。
修平が口の悪いのなんて初めっからだし、それに、ボクもガンガン言うし、言い返すし。
ボクだって修平にヒドイことを言ったことがある。
ヒドイことだってした。
ムカムカして、修平がつくってくれたご飯を「マズイ」と言って全然、手をつけなくて、その場で自分でインスタントラーメンをつくって食べたこともある。
「修平が『先生』だから、一緒にどっこにも出歩けない! つまんない!!」と言葉を投げつけた。
修平の部屋の合鍵だって投げつけたこともある。「こんなのもう一生使わない」と叫びながら。
それは、いつもみたいな修平との口げんかじゃなくて、
ただの八つ当たりだった ――――・・・。
それのどれもは、本気の意味で言ったわけじゃなくて、ただただ、腹立たしい気持ちを修平をぶつけただけのことだったけれど、思い出せばかなりヒドイことをしたり言ったなよな、と思うし、もし、それらを自分がされたのだったら、泣くだろうなあ、と思う・・・。
でも、修平はショックな顔もみせなかった。冷たく無視するでもなく、かといって大げさに甘やかすでもなく、淡々と怒っているボクを受け止めていた ―――― やさしい沈黙はあたたかな毛布みたいだった。
それが当たり前の大人の行動なのだろう、と思うと、
今、涙ぐんでいる自分が、まだ、随分な子どもなんだな、と思う。
24才の修平から見たら、高校2年生なんて、随分ガキだろうし。
自分でも、自分がけっこう甘えてたな性格をしてるんだと自覚している。
友だちや美術部の先輩、イトコの剛にいちゃん、そして、修平にも「甘ったれ」って言われるし。
でも、ボクだって、自分の足で、ちゃんと立とうとはしている。
だから、こんな、修平の言葉に傷ついたからって、泣いてわめいて、なだめてもらおうなんて思わない。


なのに、胸のブルーはこんなにも、鬱陶しくも蒼い。


「身体だけ」っていうのは・・・・・、
あれは、修平がボクのことを、
お前は、何にも出来ないガキだよ、って思ってるってことだよね。










「あー、ワルかったな」
コンビニへ出かけてから、きっかり1時間半後、
部屋に戻ってきて、買ってきた電池をカウンターキッチンのところに置いたときに、ベランダに居た修平がボクに声をはなってきた。修平は、部屋着のスウェットから、シャツとジーパンに着替えていた。休みの日、出掛けないときは、たいてい、部屋着のまんまなのに。
「いいよ、別にこれぐらい」
一緒に買ってきたマンガ雑誌を手に、ボクはソファにすわった。
開け放された窓からは11月の風が吹いてきている。リビングから続くベランダには、布団と毛布が干してあった。今日は、天気がいいから、今夜はあったかいだろうなあ。
明日は月曜で学校だから、ボクはもう夕方には家に帰るけど、あの布団で修平と温まりたいな、と思った。
本当は、コンビニ行って、そのまま家に帰ってしまおうかと思った。ケンカしてる修平と同じ空間に居るのなんて気づまりだし、――――。
けど、どうしてだか、こっちに戻ってきてしまった。
「ヨーグルト食べるか?」
ぼぉっと外をながめていたボクに、不意に修平がそんなふうに声をかけてきた。
ヨーグルト・・・、そんなの今朝、冷蔵庫に見かけたっけと思いながら、
「―――― うん」
と答えた。
ヨーグルトはけっこう好き。普通に甘いのも食べるけど、どっちかっていうとプレーンの甘くなくて、すっぱみの多いのが。
ボクが返事をすると、
修平がヨーグルトカップを手に、隣にすわってきた。手のそれをくれるのかと見ていると、修平はヨーグルトの入ったカップのフタをはぐと、持っていたスプーンをヨーグルトにつっこんだ。
なんだよ、自分の分は自分で冷蔵庫から取ってこいってことかよ、と思いながら、立ち上がろうとしたとき、
「ほれ、あーん」
おっさん、なんのつもりだよ、という言葉はのみこんだ。
おっさん、という単語が、修平の相当な地雷だってことに最近気がついた。同じように、近視のメガネを老眼鏡と言うのもNGだ。
どうやら、修平は修平なりに、ボクとの年齢差を気にしているらしい。
「・・・修平?」
「いいから、口あけろよ」
甘いんだか甘くないんだかのシュチエーションにとりあえず口をあけてやる。
―――――――― ってか、一さじが多すぎなんだけど。
一口で味わう適量ってものが、あるだろう、と思ったけど、そのまま食べた。
今の気分だと、ナニを言っても修平にケンカを売りそうだから。
けれど、口に含んだヨーグルトは、――――。
「・・・・・・おいしい」
本当に。
修平がよく買う3コでいくらの甘味大のヨーグルトじゃなくて、ふわっとなめらかで、ちゃんとミルクの味もヨーグルトのすっぱさも感じられる。
よくよく、修平の手の中のカップを見ると、スーパーやコンビニでは売ってなさそうな高級感のあるパッケージだった。
―――― こんなの朝、冷蔵庫からバターやマーガリンを出すときに見なかったけどな。
「ほれ」
もう、ひとすくい、修平がさしだした。相変わらず量の多いそれを口に入れた。
つるり、とノドにすべりこんでいく。
ノドに固まっていた黒い塊を溶かしていくみたいに。
「・・修平は食べないの?」
「あー、俺は別に」
「ジャム、持ってくる」
プレーンヨーグルトが苦手な修平が買ってくるヨーグルトはいつだって味が付いてるやつで、ボクが自分で買ってこない限り、修平んちの冷蔵庫にそれがあることはない。
ヨーグルトソースなんてのはないから、イチゴジャムでものっければ、修平好み程度には甘くなるだろう。
もってきた、イチゴジャムのフタをあけてひとすくい修平の手にあるカップの中に入れて、ぐるんとまぜこんで、今度はボクが一さじスプーンですくって、修平の口の前にもっていった。
さすがに、あーん、は言えない。
けど、修平は黙って口を開けた。
そうやって、交互に食べた。
ジャムをまぜこんだプレーンヨーグルトは甘くなったけど、これでいいや、と思った。
すっぱいのも好きだけど、甘いヨーグルトも好きだし。
修平とふたりでおいしく食べられるのなら、甘いほうがいい。
「―――― 俺、口、悪いよな」
食べ終えたカップをガラステーブルに置いて修平が言った。
「悪かったな、朝」
「―――― いいけど、別に」
修平がテーブルに置いた空きカップの中につかったスプーンを突っ込みながらボクは答えた。金属のスプーンが紙の容器に2本。倒れそうで倒れないバランスだ。
「ボク、・・・どうせ、そんなかなあ、って気もしてたし」
ちょっとつつけば、確実に倒れそうなヨーグルトの空きカップを見ながら、
かるく、へへ、ってうまく笑えた ――――。
冗談っぽく言って笑ってながしてしまうことにしよう。
ヨーグルトはおいしかったし、うれしかった。
けど、
笑顔をつくってみたけど、これは、うまくいかなかったような気がする。目元のところがピクピクしているのを自分でも感じる。
「今朝言ったことは本気じゃない。イライラしてつい言っちまったことだ。―――― 凛一にあんなふうに言うんじゃなかった」
修平が言った。
「ごめんな」
言われて、首をふった。手の甲で目元をおおったまま。
「さっき、凛一がコンビニに行くって出てった時、」
修平がボクの身体を引き寄せた。
「このまんま、凛一が帰ってこなかったらどうしよう、と思った」
ボクも思った。もう、このまま、自分の家に帰ろう、かと。
「よかった ―――― 凛一が帰ってきてくれて」
でも、やっぱり、この暖かな腕の中がいい。いつも、ここに居るのがいい。
こんなふうに、強く抱きしめてくれるのがいい。
ボクは、修平の肩に目元をすりつけて、
それから、言った。
「―――― 修平、・・・昨日、なんかイヤなこと、あった?」
「・・ああ、あったな、」
修平が言った。疲れたような声とため息をひとつ。だけど、髪の毛をなでてくる手が、すごくやさしい。頬にふれる修平が着ているネルシャツのやわらかな感触と同じくらいに。
「・・いろいろあって、ムカムカきて、ダチに電話して話してたら、―――― 結局のところ、俺も、どーしよーもない奴だよなぁ、ってヘコんでた」
「そっか」
「・・ああ」
深い静かな声。
そっと、修平の背中に手をまわした。
「その電話してたダチが、飲みに出ようぜって誘ってくれたけどな、」
「うん」
「けど、なんだか、凛一のそばに居るほうがよかったからさ」
「・・・・・・」
「でも、結局、昨日の夜みたいに、―――― 凛一に、あんなふうにケンカふっかけてたんじゃ、どうしようもないな」
17才のボクから見たら、7つも年上の修平なんて、断然、完成されたオトナだけど、
でも、
やっぱり、オトナになったとしても、こんなふうに弱くなったりするもんなんだ・・。
ボクは修平の背にまわしている手で、そっと、修平の背中をなでた。
「俺には、凛一が居てくれるだけで、それだけで、いいんだ」
苦しい。うれいしのに、苦しい。涙を留めるのはこんなにも ――――。
好きだよ、大好きだよ、
そう思って、ふせていた修平の肩から顔を上げて、
「・・キス、しよ」
ボクは、ちいさくつぶやいた。
「凛一、」
すぐ目の前の修平は滅多に見ないような真剣な顔をして、親指の腹でボクの目元をやさしくなぞると、
シンプルな言葉を口にした。
「ボクも、だよ」
そう答えた、ボクに、修平は静かに、くちびるをかさねてきた。


そうして、
ボクたちは、ちいさくてあわいキスを何度も何度もくりかえした。








ケンカして仲直りしたあとっていうのは、なんだか照れくさい。
それは修平も同じようで、
ソファに並んですわったまんま、お互いにもじもじしていると、
「―――― 今度、どこかに泊りがけで行こうか」
修平がちょっと照れたふうに言った。
「え?」
「あー、ほら、2学期が終わるまでは行事が多くて、忙しいけど、冬休みになれば時間も取れるからな。―――――――― いやか?」
「え、う、ううん」
ボクはあわてて、心配そうな顔をしている修平に首をふってみせた。
だって、びっくりした。
日帰りで遠出はしたことあるけど、
どこかに、泊まる、なんてことしたことなかったから、びっくりして、
それから、嬉しくなった。
「ボク、すごく行きたいよ」
くすぐったい思いのまま、そう答えると、
修平が、表情をゆるませた。
「どこにすっかなー」
「そーだねー、ボク、温泉に、」
「温泉以外でな」
オンセンという言葉がかさなった。
「「は?」」






「温泉きらいなんて、日本人としてありえないよ」
「ってか、高校生のくせにしてジジムサイとこ好きだね、お前」
俺は硫黄のニオイが嫌いなんだよ、と修平が言った。
「なんだよ、修平、温泉卵は好きなくせにさ」
温泉卵機なんて見たの、修平んちが初めてだった。
「ああ?! 生卵の白身が食べられないヤツに言われたかねーな」
それ、会話、つながってないし、とツッコム前に、
「そんなの普通だろ! きな粉をごはんにかけて食べるのはどうかと思うけどね」
もう言葉がとびでていた。
「うるせーな、イビキかくくせに」
「なんだよ、右曲がりのくせに」
「先っぽも出てないくせに生意気言うな」
「じゃあ、もう、無理やり出させるのやめろよな」
それから、
ボクたちは延々とお互いへの口撃がとどまることはなかった。






( おわり )



・・・な、仲良し、さん???
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