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2.寄り道
しおりを挟む「あれ、陸、何してんだ?」
学校帰りに立ち寄った本屋の雑誌コーナーのとことで、聞きなれた声に顔を上げたら、スーツ姿の兄貴が立っていた。
本屋は私鉄駅が入ってるビルの3階にある。ワンフロアが全部本屋、というこのあたりじゃいちばん大きなとこだけど、夕方ちょい前なせいか、今はお客さんはそんなに多くない。
「雑誌を買いに来たんだ。―――― ショウ兄ぃ、今日、早いね」
目の前の兄貴は、髪の毛をワックスで整えて紺のスーツをびしっと着こなしていて、けっこう、いっぱしのサラリーマンに見える。脇に抱えているに革のカバンもそれらしいし。
家じゃあ、たいていスエットの上下でだらだらしてるのに、見かけで、こうも印象がかわるんだなあ、とヨソイキの兄貴を見るといつもそう思う。
ボクは小笠原 陸。高校1年生だ。
兄貴は、小笠原 章。社会人2年目。
いつも帰ってくるのは早くて8時過ぎなのに、こんなところに居るなんて今日はもう仕事終わったのかな?
そう思って聞いたら、サラリ、と兄貴が言った。
「まだ、営業の途中」
に、本屋? な顔をボクがすると、
「ちょっと息抜き」
と兄貴が苦笑い。
「なにー、マンガ買うのー?」
さほどマンガ大好きでもないショウ兄ぃだけど、なにかのひょうしにマンガを「大人買い」してくることがある。ボクは、それのおこぼれにいつもあずかっている。高校生のお小遣いで買えるのなんてほんの少しだし。
「ボク、読みたいのがあるんだよねー」
弾んだ声で言うと、
「俺は、お前に読ませたくて買ってるわけじゃないんだぞ」
とは言ってるけど、完読みしたあとはボクに回してくれるし、最終的には「俺の部屋に置いとくのはジャマ」と言って、全巻ボクの部屋に移動させてくる。
「そいうんじゃなくてさー、お奨めがあるんだよ」
ボクは3人兄弟の末っ子なので自他共に認める甘え上手だ。空気を読んでの踏み込み具合や引き際の見定め方は、自分でも職人技だよなーと思う。
で、
今日の兄貴は、ちょい機嫌よさげ。「大人買い」までは行かなくても、ボクに何か買ってくれそうな雰囲気。仕事でなにかいいことあったかな?
こういうときは、雑誌で読んだけど、コミックスも欲しいやつをねだろう。
腕をつかんで、コミックスコーナーに引っ張って行こうとしたとき、
「陸?」
呼ばれてくるりとふりむくと、驚いてる顔して沢垣先輩が立っていた。
「あ、先輩」
そうだった。先輩といっしょだったんだ。先輩はオトコだけど、ボクの恋人、1コ上の2年生だ。
ボクの目線につられてか、兄貴も先輩を見た。
あ、れ、?
どこにもコンセントないのに、今、火花散らなかったっけ?
「知り合いか?」
なんだか背筋をのばして、兄貴がボクに聞いた。
「うん、学校の沢垣先輩」
ボクも先輩も同じ制服なんだから一目瞭然なんだろうけど、・・・。
「ああ、卓球部の、」
ボクは卓球部に入っているから、兄貴はそう思ったらしい。
でも。
「えーと、先輩はバスケ部」
部活はチガウけど、いろいろといろんなところまでお世話になってます、とは紹介できないので、
「先輩、こっちはうちのいちばん上の兄貴」
と先輩に話をふった。
先輩がちっさくぺこっとすると、
「いつも陸がお世話になって、いるのかな?」
ちょっとアゴをあげて兄貴が言った。
「はい、いつも」
なんだか不適に見えなくもない笑みを浮かべて先輩が返した。試合開始直前に相手チームに投げつける目に似てる。
「そう、それはありがたいな。でも、面倒だったら、いつでも止めてくれてかまわないんだよ」
「いいえ、そんなことはこの先一生ありませんから、ご心配なく」
うっわ、今日の本屋は冷房がよく効いているなあ。
なんか、寒くなってきちゃったよ。
「さ、陸、ナニが欲しいんだ」
先輩が言ってるのをみなまで聞かず、
兄貴が、ボクがつかんでいた腕をするりとボクの腰に回してきて歩き出しながら言った。
「さっきの陸のお兄さんは、もしかして、陸の離婚したお母さんが再婚した相手の連れ子で、一緒に生活をしはじめたとたん陸にいけないあんなことやこんなことを・・・・・・。そして、本当はふたりは愛しあってるのに、世間のカモフラージュのために陸はオレと・・・」
本屋から下のフロアに下りる階段のところで先輩が言い出した。フロアの中央にエスカレーターがあるから、階段を利用する人は少ない。
その階段の踊り場のところで、
また、先輩の後ろ向きな想像がはじまった。
あのあと、「わーい!何買ってもらおうかなあ」とうきうきしたとたん、兄貴のケータイに会社からの呼び出しがかかって、兄貴は「悪い、また今度」と言ったついでに、ボクの耳元で「今日はゼッタイまっすぐ家に帰れ」と厳命して会社へ行ってしまった。
ちぇー残念。ま、でも、「また今度」って言ったからいいや。
けど、高校生にもなって兄貴に放課後どこ行くかとかの指図を受けるわけないから、最後の台詞は聞かなかったことにしよっと思って、先輩を振り返ると、
ずーん、と暗い顔をした先輩が立っていた。さっきまでの毅然とした感じは微塵もなかった。
先輩はいつも、本当はボクが他の誰かを好きなんだという捏造ストーリーをつくりあげては、自己中毒的にブルーになる。
最初のころは、いちいちいちいち「そんなことないよお」と言ってきたけれど、果てしなく繰り返されると、なんとなくパターンが読めてきた。
とりあえず急転直下型に落ち込むけど、へこむだけへこむと、またじわわあっと自分で浮上してくるから、
最近はブルーになってる先輩を見ても放っておくことが多い。
それに、今度はどんなとんでも話しをつくりあげるんだろう、とちょっと楽しんでみたり・・・。この前は、コンビニでボクが落とした小銭を拾ってくれたスーツ姿のリーマンっぽい人に「ありがとうございます」と言っただけで、先輩に「今、陸が恋に落ちた音を聴いた」と言われたっけ ―――― 。
しかし、コレはいただけない。
「先輩・・・、うちの母さんは離婚したことないし、兄貴とはめっちゃ血がつながってんだけど。
顔、似てただろう?」
てか、先輩とボク、オトコ同士なのに、どうやって世間のカモフラージュになるんだ?
「じゃあ、義理の兄弟愛じゃなくて、本当の兄弟で禁断の・・・っぐぅ!」
卓球部の城島先輩直伝のヒザ蹴りを先輩の腿あたりにお見舞いした。
ボクと兄貴だなんて、想像しただけで、さっきコーラを飲みながら食べた焼きそばパンが出てきそうなんだけど。
「だって、陸、すごい仲良さそうだったじゃないか。こう、あまーい、ピンクな空気がふたりをつつんでた」
脚をさすりながらシュンとした顔で先輩が言った。
「兄弟だから、仲良いのはあたりまえだろ」
ぴんくの空気はいまいちわかんないけど。
「なに言ってんだ、兄弟とは永遠のライバルだぞ。オレは、弟とあんなにらぶらぶに見詰め合ったことなんかない!」
たしか先輩には1コ下の弟がいたんだっけ。
「らぶらぶ、って・・・・・・」
先輩、一度、眼医者に行ったほうがいいんじゃないだろうか。
「だって、別れ際に陸の耳にチューして行った・・・・・・。いいんだ。陸がどんなふうにオレを利用したって・・・、オレは陸のそばに居られるだけで ―――― 」
哀しげに床を見つめながら言ってる先輩に、
「今日、先輩んちに行くのやーめた」
ボクは腰に手を当てて、ぷいってして、言った。
今日は、先輩の家に行く約束してた。
先輩のお父さんもお母さんも今日は帰ってくるのが遅いらしいから(先輩の弟は、スポーツ特待で入学した高校の寮に入ってるそうだ)、久しぶりのふたりっきり。最近、先輩もボク部活が忙しくてゆっくり会うヒマがなかったから。
すぐにでも、家に行きたいみたいな先輩を焦らし焦らししながら、街をぶらついてた。からまる視線とか偶然ふれる身体とか手とかに、なんか、こう、徐々に熱が高まっていく感じにドキドキしていた ―――― のにさ・・・。
「えーえーえー」
先輩がびっくりした声で言った。
「だって、先輩、ヘンなことばっかし言うし、ボクの話しは聞かないし」
ヘンなこと言う先輩には慣れてはきたけどさ、面白いからまあいっかーと思うときもあったけど、
でも、
だって、ボク、こんなに先輩のこと好きなのに、
全然、信用してくれてないのとかって、いい加減、けっこう腹が立つ。
それに、どうやって見たらあれが「別れ際のちゅー」に見えるんだよ。ただの内緒話じゃないか。
「ヘンなこと言う先輩の家になんか行きたくない」
「えー、陸ー、もう言わないからー」
突然の、えっち中止を言ったも同然の来宅拒否宣言に、
したいーしたいーしたいー、ってのが先輩の表情にでていた。
・・・ええと、ボクも、そうだけどサ。
そろっと、肩に手をかけてきたのを、身体ごとよけて、
「やだ」
拗ねて、そう言ったけど、
も1回、ごめんを言ったら、許してあげるつもりだったんだよ ―――― 。
「わかった。じゃあ、オレんちじゃなくていいから、ソコのトイレでしよ」
!!!
ありがとう、城島先輩。
先輩が部活中に直伝してくれたおかげです。
見事なヒザ蹴りが、不埒なことを言う輩の腹にびしっと決まって、沢垣先輩は今、床に崩れ落ちています。
( おわり )
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