ザキュウ!

ひさ

文字の大きさ
上 下
2 / 10
第1章 「ザキュウ」

荻野由奈と先生

しおりを挟む
「こんばんは」

夜6時。
手馴れた様子で道場のドアを開ける少女。
よく見ると袴には「荻野」と糸で刺繍された名前が書いてあった。ポニーテール、そして、紺の袴に濃いめのピンクの文字が、わざわざピンク色で名前を付けた彼女のせめてもの女らしさの主張と言えるのではないだろうか。

武道は基本的に男女関係がない。
例えば空手では、流派によるのかもしれないが、特に型試合(かたじあい)では、女子の部、男子の部が無く、個々の帯の色で分けられている。
力の弱い強い、年齢関係なく帯の色で分けて試合をするのだ。
なぜ空手で例えたのかというと……。

ガラッ

「あ、先生こんばんは」
「おお、先に来てたのか由奈」

そう言われたポニーテール少女「荻野 由奈」(おぎの ゆな)は、体操を止め、先生と呼ばれる人の方を向いた。

「はい、今日は学校が早く終わったので」
「そうかそうか、今日は座弓の方をやるのか?」
「はい」
「そうか、じゃあ、俺は空手の型と刀やってるから、好きにやってていいからな」
「わかりました」

……ありえない。もしくは、は?どういうこと?と思う人もいるだろう。説明するから落ち着いてほしい。

ここ、つまり由奈が通う道場では、様々なジャンルの習い事が出来る。
つまり、一つの道場で、空手、刀術、座弓を習うことが出来る。なんてお得なのだ。ちなみに、由奈は空手と座弓を習っており、袴の上は空手胴着を着ている。そして先生と呼ばれているのは、空手と刀術の師範。つまり、座弓はやっていないのだ。由奈の道場では、座弓専門の先生がいて、由奈は2人の師範の指導を受けながら日々鍛錬を積んでいるというわけだ。

すると由奈は、自主練を始めようとする先生に、多分皆が気になっているであろう質問をした。

「先生、先生は座弓やらないんですか?」
「あ〜……、俺には向いてなさそうだからなぁ」

そう言って先生は、拳を勢い良く前へ突き出した。
しおりを挟む

処理中です...