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第11章「四聖獣ポセラドル」
白と黒のあいだで
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ルンサームを壊滅させた冷めた青白い光。
まさか今度は自分が解き放つとは思っていなかった。ヴァーヌの予知が現実になってしまった。
眩い光の後に訪れる静寂と闇は、あの時と似ているような。ヒューゴ・デリッタの声が聞こえ、神魔羅殿に行きなさいと導いた。でも、今日は導きの声がしない。
両耳が詰まり、頭の内側に押さえつけられる感覚に襲われる。まるでエレベーターに乗った時と似ている。
(もういや)
俯くと、灰白色の地面が目に飛び込んできた。草は生えておらず、もろに地肌が見える。
それよりも驚いたのは、朽ちたはずの中学校の制服を着ていることだった。破れ一つ見当たらない、帰り道に怪物に襲われる前のまま。
ひょっとして、今までの冒険は全て幻だったのだろうか。『リューク・オーフェン』という名前の世界は存在せず、魔王も聖獣もいなかった。
(私にはもう関係ないこと)
遠雷が聞こえる。空が閃く度に、分厚く垂れ込めた雲が見える。どうやら雷は背後の方で鳴っている。
矢庭に、胸元がヒリついた。首からぶら下げている位置――冒険が幻なら、ペンダントは元通りのはずだ。
(……え)
鎖を手繰り寄せてペンダントを取り出すと、欠けていた。なぜか今までイルが持っていた片割れの月がぶら下がっている。表面に細かな青白い閃光が走り、刺々しい。
もう片方を見つけ出さなくちゃ。この荒野のどこにある。もしかしたら、雷が轟く場所に行けば、何か分かるかもしれない。
雷に打たれるとか、近づけば感電するとか、後戻りできなくなるとか、怖くなかった。
(城かな?)
最初は稲妻だと思った。
でも、一向に動かないし、消えない。目を凝らせば、大きさはまちまちで垂直に連なり、表面に窓らしき穴が開いている。
城壁はなく、荒野にぽつんとそびえ建っている。
人影もなく、時折聞こえる轟音が城主のようだ。
城に近づくにつれて、ペンダントから発する棘の感触が鮮明になる。
知らず知らずのうちに眼前に大扉が迫り、ぶつかりそうになった。
「……あ」
ぴっちりと閉じているはずの扉から風が漏れ、頬を撫でた。指先で触れようとしたら、ひとりでに開いた。
(呼んでいる)
そう感じた。中に入ったら二度と出てこられないとは思わなかった。
轟音がくぐもってゆっくり聞こえる。ホールは閑散として、人っ子一人いない。床を蹴る足音が妙に体の内側から聞こえて、こだまする。
窓が割れたのだろうか、床にガラスの破片が散乱している。踏まないように避けながら歩こうとしたら、自分の顔が映り込んだ。おそらくいつもの暗い面持ちをしているのだろう。じっと見たくなかった。目を逸らそうとしたら、見覚えのある景色に変わった。
(どうして)
中学校の校庭、別棟の校舎――季節はどうやら冬ではないようだ。目の前をとんぼが横切り、木々は新緑からぼちぼち黄みがかっている。生徒は手に手に透明な小袋を持って、校舎の外へと歩き出す。袋の中には、牛乳瓶とパック――キャベツサラダをサンドしたコッペパンに鶏の唐揚げ、輪切りのとうもろこしが詰められている――が見える。おおぞら給食の時間だった。この日だけは教室を出て校内で自由に給食を食べられる。校庭の桜の木の下、美術室のピロティー、運動場のど真ん中を陣取る人も。班ではなく、友達同士で集まって食べても良い日。
でも、一緒に食べてくれる人なんていない。毎年、気が重い時間の一つだった。
確か受験する高校は弁当持参である。もし班がなかったら、いったい誰と弁当を食べたら良いのだろう。どうせまた毎日独りぼっちになってしまうんだ。
「馬鹿やろう」
空しくなって、ガラスを踏みにじった。今更どうしてこんな胸くその悪くなる映像を見せつけられないといけないの。こんな場所から早く遠ざかりたい。
(……また)
またもや風が頬を撫でた。正面に伸びる大階段ではなく、部屋の隅に見える地下から吹いてくる。
行かなくちゃ。はやる鼓動に、駆け足になる。階段はエルガンヴァーナの教会と違って狭く、一人がやっと通れるくらいだった。
ルンサームを壊滅させた冷めた青白い光。
まさか今度は自分が解き放つとは思っていなかった。ヴァーヌの予知が現実になってしまった。
眩い光の後に訪れる静寂と闇は、あの時と似ているような。ヒューゴ・デリッタの声が聞こえ、神魔羅殿に行きなさいと導いた。でも、今日は導きの声がしない。
両耳が詰まり、頭の内側に押さえつけられる感覚に襲われる。まるでエレベーターに乗った時と似ている。
(もういや)
俯くと、灰白色の地面が目に飛び込んできた。草は生えておらず、もろに地肌が見える。
それよりも驚いたのは、朽ちたはずの中学校の制服を着ていることだった。破れ一つ見当たらない、帰り道に怪物に襲われる前のまま。
ひょっとして、今までの冒険は全て幻だったのだろうか。『リューク・オーフェン』という名前の世界は存在せず、魔王も聖獣もいなかった。
(私にはもう関係ないこと)
遠雷が聞こえる。空が閃く度に、分厚く垂れ込めた雲が見える。どうやら雷は背後の方で鳴っている。
矢庭に、胸元がヒリついた。首からぶら下げている位置――冒険が幻なら、ペンダントは元通りのはずだ。
(……え)
鎖を手繰り寄せてペンダントを取り出すと、欠けていた。なぜか今までイルが持っていた片割れの月がぶら下がっている。表面に細かな青白い閃光が走り、刺々しい。
もう片方を見つけ出さなくちゃ。この荒野のどこにある。もしかしたら、雷が轟く場所に行けば、何か分かるかもしれない。
雷に打たれるとか、近づけば感電するとか、後戻りできなくなるとか、怖くなかった。
(城かな?)
最初は稲妻だと思った。
でも、一向に動かないし、消えない。目を凝らせば、大きさはまちまちで垂直に連なり、表面に窓らしき穴が開いている。
城壁はなく、荒野にぽつんとそびえ建っている。
人影もなく、時折聞こえる轟音が城主のようだ。
城に近づくにつれて、ペンダントから発する棘の感触が鮮明になる。
知らず知らずのうちに眼前に大扉が迫り、ぶつかりそうになった。
「……あ」
ぴっちりと閉じているはずの扉から風が漏れ、頬を撫でた。指先で触れようとしたら、ひとりでに開いた。
(呼んでいる)
そう感じた。中に入ったら二度と出てこられないとは思わなかった。
轟音がくぐもってゆっくり聞こえる。ホールは閑散として、人っ子一人いない。床を蹴る足音が妙に体の内側から聞こえて、こだまする。
窓が割れたのだろうか、床にガラスの破片が散乱している。踏まないように避けながら歩こうとしたら、自分の顔が映り込んだ。おそらくいつもの暗い面持ちをしているのだろう。じっと見たくなかった。目を逸らそうとしたら、見覚えのある景色に変わった。
(どうして)
中学校の校庭、別棟の校舎――季節はどうやら冬ではないようだ。目の前をとんぼが横切り、木々は新緑からぼちぼち黄みがかっている。生徒は手に手に透明な小袋を持って、校舎の外へと歩き出す。袋の中には、牛乳瓶とパック――キャベツサラダをサンドしたコッペパンに鶏の唐揚げ、輪切りのとうもろこしが詰められている――が見える。おおぞら給食の時間だった。この日だけは教室を出て校内で自由に給食を食べられる。校庭の桜の木の下、美術室のピロティー、運動場のど真ん中を陣取る人も。班ではなく、友達同士で集まって食べても良い日。
でも、一緒に食べてくれる人なんていない。毎年、気が重い時間の一つだった。
確か受験する高校は弁当持参である。もし班がなかったら、いったい誰と弁当を食べたら良いのだろう。どうせまた毎日独りぼっちになってしまうんだ。
「馬鹿やろう」
空しくなって、ガラスを踏みにじった。今更どうしてこんな胸くその悪くなる映像を見せつけられないといけないの。こんな場所から早く遠ざかりたい。
(……また)
またもや風が頬を撫でた。正面に伸びる大階段ではなく、部屋の隅に見える地下から吹いてくる。
行かなくちゃ。はやる鼓動に、駆け足になる。階段はエルガンヴァーナの教会と違って狭く、一人がやっと通れるくらいだった。
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