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”もうひとりの門下生”
【新樹VSセツナ】
しおりを挟む先ほどとは逆だった。
芥川と沼田は道場の壁際に座り、二人の若人が相対している。
新樹はウォーミングアップとして腕を伸ばし、足を開き、シャドーを始めていた。
一方のセツナは、着慣れていない道着を擦ったり握ったりしている。
道着は空手のような厚手だが、拳法のように足が短めで作られていた。
「・・・・・・本当にあの二人を?」
「ええ」
沼田は不安そうだった。
「あの白真会ですら、白帯の組手にはグローブやすね当てをつけ、頭にはヘッドギアを被る・・・・・・新樹君はともかく、組手をしたことのないセツナ君が何も装備しないのは・・・・・・」
「・・・・・・実戦には防具などありませんよ」
「ですが・・・・・・」
「それに・・・・・・客観的に見るいいチャンス」
「チャンス?」
「私の目を取った彼女の力が、まぐれか本物か・・・・・・ワクワクしますねぇ」
「・・・・・・お二人のどちらを応援されるつもりですか?」
「別にどちらへも肩入れしません」
「門下生と新参者の戦い・・・・・・複雑では?」
「戦いはシンプル。勝敗がただそこにあるのみです」
「・・・・・・なんだか、組手を軽く見ていませんか?」
「ま~生還が前提の戦いに、本気でヒリヒリはしませんからねぇ~」
「・・・・・・これ以上は何も言いません」
さて・・・・・・
「お二人とも準備はよろしいですか?」
芥川の問いに、新樹は「はいっ!」と答え、セツナは頷いた。
「それでは・・・・・・勝敗は戦闘不能をもって決することとします」
「上等ぉ・・・・・・」
「・・・・・・」
向かい合った・・・・・・
背の丈は両者互角・・・・・・少しセツナが小さいくらいだ。
新樹は構える。
「・・・・・・変わった構えですね」
「沼田さん流石っ。彼の短所である低身長を逆手に取った『潜り込みの構え』です」
「ほお・・・・・・」
右腕を前に出しているが、その手は開いている。
左腕は腹部近くに水平に置き、下からの攻撃へのカバーとしている。
重心は後ろ足に乗せ、前足は踵を浮かせる猫足立ち。
「なるほど・・・・・・上段の攻撃にも下段の攻撃にも対応ができ、さらに避けることも近づいた相手を蹴ることもできる・・・・・・合理的な構えというわけか」
「理論上は、ね」
「アレを教えたのは芥川さん自身では?」
「様々な武術を混ぜているので、選んでもらいました。その中で彼が自分に合っていると言ったのが、あの構えです」
「・・・・・・選択制なのですか」
「はい。押しつけても意味はありませんからねぇ」
では・・・・・・と、
「力の限り、戦って下さい」
芥川が手を挙げた。
「互いに礼!!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・しない。
新樹は睨み、セツナもそれに呼応するかのように視線を鋭くしている。
「はぁ・・・・・・開始ぃ!!」
始まって、一秒も経っていない。
だが、すぐ異変に三人は気がついた。
「あの・・・・・・構え・・・・・・」
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