67 / 361
”記憶に残る一日篇”
【宇嶋の計らい】
しおりを挟む「ちと頼みがあるのじゃ」
「頼み?」
「うむ。知っての通りワシの『身守りの会』も大きくなり、門下生も増えた。警視庁にも指導に行っておる・・・・・・が、この老体には厳しくなってきての」
「何を仰いますやら・・・・・・まだまだ現役でしょう?」
「世辞を言うでない。せめてこの本部道場の稽古くらい教えたいのじゃが、指導員が足らなくてのぉ・・・・・・お主、やってみないか?」
「・・・・・・ほう」
「無論、タダでというワケじゃない・・・・・・日給三万円でどうじゃ? 週三回一日二時間」
なんという好条件に好待遇・・・・・・
だが、芥川は笑い出した。
「クックック・・・・・・先生ぃ・・・・・・わざわざ上手い話しを作らずとも、経済的な援助をしたいというのならそう言ってくれればいいのに・・・・・・」
「・・・・・・人生ロスタイムのお主が野垂れ死ぬのは別に構わん。しかし、前途ある少女の生活がかかっているのであれば、話しは変わってくる」
「・・・・・・」
「不自由させたくないんじゃろう? 幸せにしたいんじゃろう?」
「・・・・・・はい」
「ならば、せめて金を稼がんかい甲斐性無し。いくら愛情があっても一文無しじゃ、冷や飯を食わせることになるぞ?」
「・・・・・・それはそうなんですが・・・・・・」
「ま、武術バカのお主のことじゃ。片時も『武』から離れたくないとか思っているのじゃろう? だったら、ここで教えればいい。教えるということは、自分の復習にもなることじゃ」
超難関大学を出た芸能人が言った言葉だ。
『教えることで、自分の理解度も高まる』
より上を目指すのであれば、育成する側になる。
一分の隙もなく、理解し噛み砕いて伝達する。
これにより、人間の脳は一層『知る』ことができる。
「・・・・・・受けます」
「おや・・・・・・もっと悩むかと思ったが」
「武を教えてさらにお金も貰える・・・・・・私にとってこれ以上ない条件です」
「本心は?」
「・・・・・・実はもう口座に八二円しかなくて・・・・・・財布に入っている諭吉さんが最後の頼みの綱なんです・・・・・・ハハハ」
「・・・・・・本当にお主という男は『武』がなければまるでダメな男じゃのぉ」
「面目ないです」
とーーーー
「しかしな、指導員になるからにはテストが必要じゃ。それに合格してもらわなければいけない」
「てすと・・・・・・とは?」
「なぁ~に・・・・・・簡単じゃ!!」
シュバッッ!!
ビシッ!
今まで好々爺だった宇嶋が、何かを放った。
側にいたお付きの弟子が、後日こう語っている。
「いえね? そりゃあ漫画とかでよくあるパターンだと思いましたよ。ほら、投げたチリ紙をキャッチできるのか・・・・・・とか」
でも・・・・・・
「大先生のあんなに速い動きを見たのも初めてでしたし・・・・・・なにより、客人の芥川さんが見事にキャッチをしたのも凄いなぁ・・・・・・って思ってました・・・・・・あの人の手を見るまでは」
芥川が指で挟んでいる物ーーーー
それは鋭い鋼製の、棒手裏剣だった・・・・・・
尖端が、眼球の水晶体の寸前で止まっているが、芥川は瞬きもしていない。
「見事じゃ・・・・・・」
「まったく・・・・・・お人が悪い・・・・・・」
「義眼の方を狙ったんじゃから気を遣った方じゃよ・・・・・・カッカッカ!」
「ククク・・・・・・お返しします」
芥川が手裏剣をビシッと指で弾き、宇嶋向けて発射した。
「よっと!」
宇嶋は指一本で受け流したかと思うと、それを指の上でくるくる回す芸当を魅せた。
「カッカッカ! どうじゃ?」
「流石です」
異次元の技比べに、付き人の弟子は固唾を飲んで見守るしかできなかった。
「合格じゃ」
手裏剣を懐へ隠すと、宇嶋は茶を飲みながら言った。
「ありがとうございます」
「そうじゃのぉ・・・・・・まずは少年部の指導からお願いしてもよいか?」
宇嶋はニッコリとした。
まるで全ての罪を許すキリストのごとき、慈愛に満ちた笑みだった。
「子供はすごい・・・・・・真綿のように、教えたことをするすると飲み込み上達していくぞ」
「私も、子供たちから何か学べそうですね」
「その通りじゃ。それに・・・・・・やはり子供たちは可愛らしいからの♪」
「フフフ・・・・・・」
「稽古なんてやめにして、一緒におやつでも食べていたいくらいじゃ」
「子供たちに、立派な『武』を教えてみせます」
「疑ったりなどしておらん。事情があったらそちらを優先してもらって構わん。まあ気楽に副業じゃと思ってやってくれ」
「はい。承知しました」
芥川が深く礼をした・・・・・・
「ん?」
「はい?」
宇嶋が鼻を鳴らしている。
「血?」
「あ~ハハハ・・・・・・バレましたか」
作務衣を解き、脇腹を見せた。
丹波に刺された傷が生々しく残っている。
「おや・・・・・・そんな状態で呼び出してしもうて悪かった」
「いえいえ。かすり傷です」
「なら、もう堅い話しはやめじゃ! あぐらをかいてラクにせい。そして、老人の話し相手にでもなってくれ」
「では、お言葉に甘えて」
こうして、アラフィフ一歩手前でようやくまともな職に出会った芥川は、宇嶋の計らいで気兼ねのないゆったりとした午後の時間を過ごすことができたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる