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『極道のお・仕・事♪』
しおりを挟むY口組直参大阪N西組構成員の「井手氏」は、高度経済成長期に大阪を中心に活動していた。
主なシノギのひとつに「みかじめ料」があった。
風俗店や飲食店などに用心棒代として金銭を要求するといった、昔ながらのヤクザの食いぶちである。
しかし、大阪西成区のとある居酒屋が、みかじめ料を断った。
ここで特例を残したら他のみかじめ料を払っている店から文句が出てくるのは当然。
そこで井手ともう三人の組員が、出動した。
みかじめ料を払わなかったらどうなるか・・・・・・ヤクザなやり方だった。
「おいおい酒がおせぇんだよ!!」
「マッズいのぉ!! こんなブタのエサで金取ってンのか!?」
「おいそこのテーブルのネーチャン!! こっちに来て一緒に飲もうやないか!!」
わざと店の入り口に一番近い席に座り、大声で飲んで騒いで他のお客様にご迷惑をかけまくる。そして店員が止めに来ても、威嚇して追い返す。
まあ包み隠すことなく言えば、嫌がらせなワケである。
それを三日三晩繰り返した。
出禁を言い渡されようが、知ったこっちゃない。
テーブルの上に足をクロスさせ、持ってきた酒にタバコの吸い殻を落として、
「おおっと灰皿と間違えたぁ~新しいの持ってこんかい!!」
と、店員が悲鳴を上げるまで追い込む。
この時の感情はどういったものだったか、と問うた。
「親父の命令やからなぁ・・・・・・特別、罪悪感もなかったわ。ワシらは当然の権利を訴えかけるかのごとく、騒いで迷惑かけていただけや」
なるほどマヒしていたらしい。
「それに、あの店法律破って未成年にも酒出してたさかい、サツに通報される心配もなく好き勝手にしてたんや」
とのことだった。
「親が黒と言えば、白も黒になるのがあの世界や」
などと格好つけて言っていたが・・・・・・威力業務妨害なことには変わりない。
だが、店に入ろうとする客は井手たちを見て逃げていくし、店内も徐々に閑古鳥が鳴くようになっていった。
あとひと押し・・・・・・
だが、この悪漢たちにも遂に天罰が下るのであった。
それは四日目のこと。
「こんばんわぁ!! 今夜も邪魔するでぇ!!」
暖簾をくぐった瞬間だった。
まるでゴムに包まれた岩に当たったような衝撃によって、四人は店に入ることができなかった。
「なんや!?」
のそ・・・・・・のそ・・・・・・
そこに立っていたのは、身長一九〇センチを優に超える大男だった。
白のタンクトップを着ているが、山脈の如き筋肉の隆起が浮かんでいる。
そして、肩から胸にかけて入れ墨の大輪が咲いていた。
「おいゴラァ・・・・・・ワシらの組がケツモチしとる店で、好き勝手してくれたらしいのぉ」
実は、この店N西組から要求される前から、別の組にすでにみかじめ料を払っていたのであった。
そのことを知らずに、井手たちは暴れてしまった。
「井手ちゃん!! こっちは四人や!!」
「せや!! フクロ(袋叩き)にしてまえ!!」
だが、
「フンッ!!」
「ごふっ!!」
四人の中で一番腕っ節のある組員が、巨漢の一撃で吹き飛んでいったことで、人数の有利は効かないことがハッキリと分かった。
この後、逆にボコボコにされた井手たちはライオンに見つかったガゼルの如く凄まじい勢いで逃げ出した。
最期に見た巨漢のタンクトップは、井手らの血で赤くなっていた。
「ーーーーということで・・・・・・」
「で・・・・・・逃げ帰ってきたンかこのボケェ!!」
ボロボロで事務所に帰って組長を怒らせたくはなかったが、あの巨漢にこれ以上殴られたら半殺しではきかなくなる。そう思って帰ってきた。
「で、その店はもう別の組に納めとるンやな?」
「へい・・・・・・」
「ったく・・・・・・本家からの命令で余計な抗争は御法度や。ホンマやったらオドレらに、ドスでもチャカでも持たせてケジメとらせてくるところなンやが・・・・・・このアホ共!!」
「すんまへん!!」
しかし、内心は四人共ホッとしていた。
人殺ししたいヤクザなど少数派。
まして、なぜかあの大男にはどんな武器を使っても勝つことができない。そんな直感が働いていた。
「お前ら今日から一週間、せんちん(便所)の掃除や!! それで勘弁したる!!」
「ありがとうございます!!」
指も無事でよかった。
めでたしめでたし・・・・・・と、思えないのは私だけだろうか?
完
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