16 / 59
一章 聖女と守護者達
十五話「光の御子」後編✳
しおりを挟む
母ラディアータは光の使徒で、隣国では巫女長を務めていた。父とは隣国の王族と聖女の結婚式で出会ったそうだ。父は祝賀訪問した女王の護衛の一人だったのだ。
「どうしようもなかったんですよ」母はその出会いを複雑な表情で語った。
「大切な儀式に参加しないといけないのに、私もお父様も、お互いを見つめたまま一歩も動けなかった。恋に落ちる、なんて言葉では甘過ぎます。呪いにでもかかったのかと思いました」
神託と聖女の口添えもあり、父母はそのまま結婚して、母は父と供に帰国した。
父は幼馴染みの義母と婚約間近だったそうだ。父は単婚の国で育った母に配慮して、義母に婚約中止を申し入れた。義母は突然の事に驚き、父への恋心もおさまらず、婚約は中止ではなく延期となった。
「私は聖女の口添えでこの国に嫁ぐことを許されました。私達の結婚にあたって、第二子はイーストフィールドに帰すと誓約したのに、私は貴女しか授かれなかった。その上、そう長くは生きられません」と、母は五才の私に淡々と伝えた。
「死んじゃやだ、どこにも行かないで」夢の中で、小さな私が母にしがみついている。神殿に私の泣き声が響き渡った。
「お母様が悪いのです。自身の行いの報いを受けている。それに貴女やお父様、プリムラ様まで巻き込んでしまいました」私を抱きしめて母も泣いた。
そんな筈ないわ、お母様。病気は誰にだって襲い掛かるのよ、お母様のせいなんかじゃない。ゆっくり目覚めながら、母の悲しい目を思い出していた。
後に詳しく聞いたが、母は私を授かった時に診察を受けて初めて、子宮から発生した病を知ったそうだ。母は私の出産を何より優先して欲しいと希望して、帝王切開で私を産むと同時に子宮を摘出した。
この手術もこの国だから出来たことで、他の国では二人とも死んでいただろうということだ。
「私は祖国と仕えていた聖女の期待を裏切りました。聖女が最も私の支えを必要とした時に側にいられず、他の子どもを得ることもできなかった。ここまできたら、貴女が成人するまでは側にいたかったのですが」亡くなる三日程前に母は少し元気になり、久しぶりにゆっくり話せた。
子が産めなくなった母は父に義母との結婚を勧め、義母は母に強く望まれて弟を産んだが、その後は頑として子を持とうとしなかったそうだ。
「お父様は子ども好きで、たくさんの子や孫に囲まれた幸せな家庭を思い描いていたのに」自分がその夢を壊した、とは続けずに母は唇を噛んだ。
「私達は幸せよ。お父様も私も、お義母さんもフィルも、みんなお母様が大好き。お母様の子どもに生まれて、本当に良かったわ」私の精一杯の言葉に母は嬉しそうに、でも寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
眠るイオの腕の中で、私はぼんやりと母の顔を思い浮かべていた。彼女の尊敬していた聖女とはかけ離れた自分、今の淫乱で乱れた私を見たら、母は何と言うだろう。
私は考え続ける。一人の伴侶と添い遂げる聖女もいるのに、何故この国の聖女は複数の伴侶を持つことを推奨されるんだろう。
侮蔑され人に見られて辛い思いをしてまで、どうして守護者を七人も揃えるのか。
何故私は、愛しあっているタリーとだけ暮らすのを許されず、守護者全ての加護を受けなくてはならないんだろう。守護者達のことは好きだけど、聖女でなければ複婚はしなかったと思う。タリーも本当は私を独占したいと言っていた。
そして、何とか状況を受け入れようとしているのに、精霊は隣国に送る御子まで生み出せと急かす。
イーストフィールドの聖女は一人だけを愛することができるのに、子を成す役割が果たせない事情があったのだろうか。
ふと気付くと、イオの優しい若草色の目が私をじっと見つめていた。
「疲れているのでしょう? 私達は貴女の守護者です。御子には待って貰います。今夜は伴侶達とゆっくり眠って下さい」私は笑って首を振った。
「タリーが頑張れと言ったわ。彼はしなくてすむ無理や、本当にできない事はさせないの。幼馴染みがいるって損ね。彼の方が私のことを分かってるから」強固な信頼がある。彼がしてくれと言うならできるし、しなくてはならないのだ。
「タリーが羨ましい。体は繋がっているのに、心は遠いままです」イオは泣きそうな顔で笑う。
「私達は家族になるの。心も体の一部よ」私は首を振り、イオに口付けた。
「どうしようもなかったんですよ」母はその出会いを複雑な表情で語った。
「大切な儀式に参加しないといけないのに、私もお父様も、お互いを見つめたまま一歩も動けなかった。恋に落ちる、なんて言葉では甘過ぎます。呪いにでもかかったのかと思いました」
神託と聖女の口添えもあり、父母はそのまま結婚して、母は父と供に帰国した。
父は幼馴染みの義母と婚約間近だったそうだ。父は単婚の国で育った母に配慮して、義母に婚約中止を申し入れた。義母は突然の事に驚き、父への恋心もおさまらず、婚約は中止ではなく延期となった。
「私は聖女の口添えでこの国に嫁ぐことを許されました。私達の結婚にあたって、第二子はイーストフィールドに帰すと誓約したのに、私は貴女しか授かれなかった。その上、そう長くは生きられません」と、母は五才の私に淡々と伝えた。
「死んじゃやだ、どこにも行かないで」夢の中で、小さな私が母にしがみついている。神殿に私の泣き声が響き渡った。
「お母様が悪いのです。自身の行いの報いを受けている。それに貴女やお父様、プリムラ様まで巻き込んでしまいました」私を抱きしめて母も泣いた。
そんな筈ないわ、お母様。病気は誰にだって襲い掛かるのよ、お母様のせいなんかじゃない。ゆっくり目覚めながら、母の悲しい目を思い出していた。
後に詳しく聞いたが、母は私を授かった時に診察を受けて初めて、子宮から発生した病を知ったそうだ。母は私の出産を何より優先して欲しいと希望して、帝王切開で私を産むと同時に子宮を摘出した。
この手術もこの国だから出来たことで、他の国では二人とも死んでいただろうということだ。
「私は祖国と仕えていた聖女の期待を裏切りました。聖女が最も私の支えを必要とした時に側にいられず、他の子どもを得ることもできなかった。ここまできたら、貴女が成人するまでは側にいたかったのですが」亡くなる三日程前に母は少し元気になり、久しぶりにゆっくり話せた。
子が産めなくなった母は父に義母との結婚を勧め、義母は母に強く望まれて弟を産んだが、その後は頑として子を持とうとしなかったそうだ。
「お父様は子ども好きで、たくさんの子や孫に囲まれた幸せな家庭を思い描いていたのに」自分がその夢を壊した、とは続けずに母は唇を噛んだ。
「私達は幸せよ。お父様も私も、お義母さんもフィルも、みんなお母様が大好き。お母様の子どもに生まれて、本当に良かったわ」私の精一杯の言葉に母は嬉しそうに、でも寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
眠るイオの腕の中で、私はぼんやりと母の顔を思い浮かべていた。彼女の尊敬していた聖女とはかけ離れた自分、今の淫乱で乱れた私を見たら、母は何と言うだろう。
私は考え続ける。一人の伴侶と添い遂げる聖女もいるのに、何故この国の聖女は複数の伴侶を持つことを推奨されるんだろう。
侮蔑され人に見られて辛い思いをしてまで、どうして守護者を七人も揃えるのか。
何故私は、愛しあっているタリーとだけ暮らすのを許されず、守護者全ての加護を受けなくてはならないんだろう。守護者達のことは好きだけど、聖女でなければ複婚はしなかったと思う。タリーも本当は私を独占したいと言っていた。
そして、何とか状況を受け入れようとしているのに、精霊は隣国に送る御子まで生み出せと急かす。
イーストフィールドの聖女は一人だけを愛することができるのに、子を成す役割が果たせない事情があったのだろうか。
ふと気付くと、イオの優しい若草色の目が私をじっと見つめていた。
「疲れているのでしょう? 私達は貴女の守護者です。御子には待って貰います。今夜は伴侶達とゆっくり眠って下さい」私は笑って首を振った。
「タリーが頑張れと言ったわ。彼はしなくてすむ無理や、本当にできない事はさせないの。幼馴染みがいるって損ね。彼の方が私のことを分かってるから」強固な信頼がある。彼がしてくれと言うならできるし、しなくてはならないのだ。
「タリーが羨ましい。体は繋がっているのに、心は遠いままです」イオは泣きそうな顔で笑う。
「私達は家族になるの。心も体の一部よ」私は首を振り、イオに口付けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる