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一章 聖女と守護者達
十五話「光の御子」後編✳
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母ラディアータは光の使徒で、隣国では巫女長を務めていた。父とは隣国の王族と聖女の結婚式で出会ったそうだ。父は祝賀訪問した女王の護衛の一人だったのだ。
「どうしようもなかったんですよ」母はその出会いを複雑な表情で語った。
「大切な儀式に参加しないといけないのに、私もお父様も、お互いを見つめたまま一歩も動けなかった。恋に落ちる、なんて言葉では甘過ぎます。呪いにでもかかったのかと思いました」
神託と聖女の口添えもあり、父母はそのまま結婚して、母は父と供に帰国した。
父は幼馴染みの義母と婚約間近だったそうだ。父は単婚の国で育った母に配慮して、義母に婚約中止を申し入れた。義母は突然の事に驚き、父への恋心もおさまらず、婚約は中止ではなく延期となった。
「私は聖女の口添えでこの国に嫁ぐことを許されました。私達の結婚にあたって、第二子はイーストフィールドに帰すと誓約したのに、私は貴女しか授かれなかった。その上、そう長くは生きられません」と、母は五才の私に淡々と伝えた。
「死んじゃやだ、どこにも行かないで」夢の中で、小さな私が母にしがみついている。神殿に私の泣き声が響き渡った。
「お母様が悪いのです。自身の行いの報いを受けている。それに貴女やお父様、プリムラ様まで巻き込んでしまいました」私を抱きしめて母も泣いた。
そんな筈ないわ、お母様。病気は誰にだって襲い掛かるのよ、お母様のせいなんかじゃない。ゆっくり目覚めながら、母の悲しい目を思い出していた。
後に詳しく聞いたが、母は私を授かった時に診察を受けて初めて、子宮から発生した病を知ったそうだ。母は私の出産を何より優先して欲しいと希望して、帝王切開で私を産むと同時に子宮を摘出した。
この手術もこの国だから出来たことで、他の国では二人とも死んでいただろうということだ。
「私は祖国と仕えていた聖女の期待を裏切りました。聖女が最も私の支えを必要とした時に側にいられず、他の子どもを得ることもできなかった。ここまできたら、貴女が成人するまでは側にいたかったのですが」亡くなる三日程前に母は少し元気になり、久しぶりにゆっくり話せた。
子が産めなくなった母は父に義母との結婚を勧め、義母は母に強く望まれて弟を産んだが、その後は頑として子を持とうとしなかったそうだ。
「お父様は子ども好きで、たくさんの子や孫に囲まれた幸せな家庭を思い描いていたのに」自分がその夢を壊した、とは続けずに母は唇を噛んだ。
「私達は幸せよ。お父様も私も、お義母さんもフィルも、みんなお母様が大好き。お母様の子どもに生まれて、本当に良かったわ」私の精一杯の言葉に母は嬉しそうに、でも寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
眠るイオの腕の中で、私はぼんやりと母の顔を思い浮かべていた。彼女の尊敬していた聖女とはかけ離れた自分、今の淫乱で乱れた私を見たら、母は何と言うだろう。
私は考え続ける。一人の伴侶と添い遂げる聖女もいるのに、何故この国の聖女は複数の伴侶を持つことを推奨されるんだろう。
侮蔑され人に見られて辛い思いをしてまで、どうして守護者を七人も揃えるのか。
何故私は、愛しあっているタリーとだけ暮らすのを許されず、守護者全ての加護を受けなくてはならないんだろう。守護者達のことは好きだけど、聖女でなければ複婚はしなかったと思う。タリーも本当は私を独占したいと言っていた。
そして、何とか状況を受け入れようとしているのに、精霊は隣国に送る御子まで生み出せと急かす。
イーストフィールドの聖女は一人だけを愛することができるのに、子を成す役割が果たせない事情があったのだろうか。
ふと気付くと、イオの優しい若草色の目が私をじっと見つめていた。
「疲れているのでしょう? 私達は貴女の守護者です。御子には待って貰います。今夜は伴侶達とゆっくり眠って下さい」私は笑って首を振った。
「タリーが頑張れと言ったわ。彼はしなくてすむ無理や、本当にできない事はさせないの。幼馴染みがいるって損ね。彼の方が私のことを分かってるから」強固な信頼がある。彼がしてくれと言うならできるし、しなくてはならないのだ。
「タリーが羨ましい。体は繋がっているのに、心は遠いままです」イオは泣きそうな顔で笑う。
「私達は家族になるの。心も体の一部よ」私は首を振り、イオに口付けた。
「どうしようもなかったんですよ」母はその出会いを複雑な表情で語った。
「大切な儀式に参加しないといけないのに、私もお父様も、お互いを見つめたまま一歩も動けなかった。恋に落ちる、なんて言葉では甘過ぎます。呪いにでもかかったのかと思いました」
神託と聖女の口添えもあり、父母はそのまま結婚して、母は父と供に帰国した。
父は幼馴染みの義母と婚約間近だったそうだ。父は単婚の国で育った母に配慮して、義母に婚約中止を申し入れた。義母は突然の事に驚き、父への恋心もおさまらず、婚約は中止ではなく延期となった。
「私は聖女の口添えでこの国に嫁ぐことを許されました。私達の結婚にあたって、第二子はイーストフィールドに帰すと誓約したのに、私は貴女しか授かれなかった。その上、そう長くは生きられません」と、母は五才の私に淡々と伝えた。
「死んじゃやだ、どこにも行かないで」夢の中で、小さな私が母にしがみついている。神殿に私の泣き声が響き渡った。
「お母様が悪いのです。自身の行いの報いを受けている。それに貴女やお父様、プリムラ様まで巻き込んでしまいました」私を抱きしめて母も泣いた。
そんな筈ないわ、お母様。病気は誰にだって襲い掛かるのよ、お母様のせいなんかじゃない。ゆっくり目覚めながら、母の悲しい目を思い出していた。
後に詳しく聞いたが、母は私を授かった時に診察を受けて初めて、子宮から発生した病を知ったそうだ。母は私の出産を何より優先して欲しいと希望して、帝王切開で私を産むと同時に子宮を摘出した。
この手術もこの国だから出来たことで、他の国では二人とも死んでいただろうということだ。
「私は祖国と仕えていた聖女の期待を裏切りました。聖女が最も私の支えを必要とした時に側にいられず、他の子どもを得ることもできなかった。ここまできたら、貴女が成人するまでは側にいたかったのですが」亡くなる三日程前に母は少し元気になり、久しぶりにゆっくり話せた。
子が産めなくなった母は父に義母との結婚を勧め、義母は母に強く望まれて弟を産んだが、その後は頑として子を持とうとしなかったそうだ。
「お父様は子ども好きで、たくさんの子や孫に囲まれた幸せな家庭を思い描いていたのに」自分がその夢を壊した、とは続けずに母は唇を噛んだ。
「私達は幸せよ。お父様も私も、お義母さんもフィルも、みんなお母様が大好き。お母様の子どもに生まれて、本当に良かったわ」私の精一杯の言葉に母は嬉しそうに、でも寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
眠るイオの腕の中で、私はぼんやりと母の顔を思い浮かべていた。彼女の尊敬していた聖女とはかけ離れた自分、今の淫乱で乱れた私を見たら、母は何と言うだろう。
私は考え続ける。一人の伴侶と添い遂げる聖女もいるのに、何故この国の聖女は複数の伴侶を持つことを推奨されるんだろう。
侮蔑され人に見られて辛い思いをしてまで、どうして守護者を七人も揃えるのか。
何故私は、愛しあっているタリーとだけ暮らすのを許されず、守護者全ての加護を受けなくてはならないんだろう。守護者達のことは好きだけど、聖女でなければ複婚はしなかったと思う。タリーも本当は私を独占したいと言っていた。
そして、何とか状況を受け入れようとしているのに、精霊は隣国に送る御子まで生み出せと急かす。
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ふと気付くと、イオの優しい若草色の目が私をじっと見つめていた。
「疲れているのでしょう? 私達は貴女の守護者です。御子には待って貰います。今夜は伴侶達とゆっくり眠って下さい」私は笑って首を振った。
「タリーが頑張れと言ったわ。彼はしなくてすむ無理や、本当にできない事はさせないの。幼馴染みがいるって損ね。彼の方が私のことを分かってるから」強固な信頼がある。彼がしてくれと言うならできるし、しなくてはならないのだ。
「タリーが羨ましい。体は繋がっているのに、心は遠いままです」イオは泣きそうな顔で笑う。
「私達は家族になるの。心も体の一部よ」私は首を振り、イオに口付けた。
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