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一章 聖女と守護者達
二十三話「動乱の幕開け」中編✳
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御子を抱いて、ヒビスクスとタッカと一緒に伴侶の間に移動する。守護者達はマジョラムと神官に、御子と私を見せたくないんだろう。
「こちらに来るのは久しぶりね」ヒビスクスに御子を預けて、タッカを抱きしめた。御子を身籠ってからは、ほとんど聖女の間で過ごしている。
タッカは自身の闇の加護が光の御子に害を及ぼさないよう、近付きすぎないようにと気を使っている。最近、少し寂しそうだ。
「ヴェロニカ、自分はイーストフィールドの人達が嫌いです」タッカが私を強く抱き返して話し始めた。
「貴女を淫らだと貶める癖に、この国の豊かさを羨み聖女の力を妬む。お母上はイーストフィールドの巫女長だったんだから、貴女を帰国させるべきだと言っています」タッカは泣きそうな声で続ける。
「離宮に来た神官は戸惑っているだけですけど、今王宮にいるイーストフィールドの官吏達は貴女も連れて行くか、ご家族を人質にして呼び寄せるつもりでいます」
ヒビスクスが息を呑んだ。何てこと。精霊の善意から、こんなことになるなんて。
「『影』から聞いたのか?」ヒビスクスの声は鋭い。タリー達も知らなかったものね。
「闇の精霊からです。イーストフィールドの闇は濃い。セントラルとも繋がっています」タッカをソファに座らせて、震える手を握る。
「自分はヴェロニカを拐うか殺すようにと命じられて、セントラルから来ました。まさか守護者に選定されるとは思わず、ただ接触する為に儀式に参加しました」
それで、結婚までしてしまったと。クスクス笑い出した私を、二人が呆気に取られたように見つめてから、顔を見合わせて笑った。
「今更疑ったりしないぞ?」ヒビスクスがタッカにウィンクする。御子がいなければ抱きしめているだろう。
「『影』の接触はないか?」ヒビスクスが訊ねる。
「ありますよ。離宮の周りを取り囲むので、毎晩散歩がてら掃除してます。そろそろ人手不足になってきたようですね」掃除って……タッカもヒビスクスも笑ってるから、突っ込まないけど。
「イーストフィールドに精霊はいないの?」ちょっと考えた私の問いに、各々が視線を宙に向ける。
「弱って数は少ないが、王宮を中心に存在するそうです」ヒビスクスが答えた。
「光と闇の精霊はそこそこ。命は僅かしかおらず、四属性はかなり少ないそうです」タッカは具体的ね。
「タリーが帰ってきたら、みんなで相談しましょう」イーストフィールドを見捨てるか、王族を見限るか、まだ建て直せるのか、精霊達はどう考えているのかを。
「暫くタッカと過ごしてもいい?」ヒビスクスに目を向けると、肩を竦めて自室に入って行った。
「御子、暫く俺で我慢して下さいよ」きゃっきゃと笑う声がするから大丈夫だろう。
「聖域に行く?」伴侶達の聖域は各々の自室から繋がっているそうだ。
「御子に影響してはいけないので、命の間に招待して貰えますか?」タッカに顎を掬われ、口付けられる。
私とタリーの部屋は命の間となったが、ごく普通で、命の樹が生えているくらい。タッカが樹の実を採って食べさせてくれると、すぐに体が熱くなってきた。
「ヴェロニカ、自分が怖くはないですか?」タッカが私を組み敷きながら訊く。少し震えている体が愛おしい。
「前世は平和な所だったけど、私の曾祖父は戦争を体験していたの」タッカの頬を撫でて、目を合わせる。
「『人を殺すのは任務だった。それで許されるとは思わんが、好きで殺したりはせん』って、話してくれたことがあるわ」これで伝わるだろうか。
「愛してるわ、タッカ。貴方は私達を害さない」そっと口付けると、舌を絡め取られて口内を激しく犯された。
「あぁ、御子には悪いけど、子育ては早く終わらせて欲しいです」タッカの呻き声に笑う。体を交互に向けて、お互いを手と口で慰め合ってイき、後ろに迎えてまた達した。
「タリーが帰って来ました。聖女の間に移動しましょう」タッカの声は落ち着いている。
洗浄術を掛けて抱き上げられ、タッカの首に腕を回す。小柄でも力強い。
ゲームでも闇の守護者はアサシンや忍者が多かったわ。どうして思い出さなかったのかと考えて、タッカが余りに可愛かったからだ、と思い直す。楽しそうな私に彼も微笑んでくれる。
「イーストフィールドになど渡しません。貴女は私達の聖女です」タッカの囁きに頷く。私達の家族になった可愛い黒猫さん。凄腕なんだろうけど、味方なら心強いわ。
眠った御子を抱えたヒビスクスと合流して聖女の間に入ると、厳しい表情の守護者達が揃っていた。
「こちらに来るのは久しぶりね」ヒビスクスに御子を預けて、タッカを抱きしめた。御子を身籠ってからは、ほとんど聖女の間で過ごしている。
タッカは自身の闇の加護が光の御子に害を及ぼさないよう、近付きすぎないようにと気を使っている。最近、少し寂しそうだ。
「ヴェロニカ、自分はイーストフィールドの人達が嫌いです」タッカが私を強く抱き返して話し始めた。
「貴女を淫らだと貶める癖に、この国の豊かさを羨み聖女の力を妬む。お母上はイーストフィールドの巫女長だったんだから、貴女を帰国させるべきだと言っています」タッカは泣きそうな声で続ける。
「離宮に来た神官は戸惑っているだけですけど、今王宮にいるイーストフィールドの官吏達は貴女も連れて行くか、ご家族を人質にして呼び寄せるつもりでいます」
ヒビスクスが息を呑んだ。何てこと。精霊の善意から、こんなことになるなんて。
「『影』から聞いたのか?」ヒビスクスの声は鋭い。タリー達も知らなかったものね。
「闇の精霊からです。イーストフィールドの闇は濃い。セントラルとも繋がっています」タッカをソファに座らせて、震える手を握る。
「自分はヴェロニカを拐うか殺すようにと命じられて、セントラルから来ました。まさか守護者に選定されるとは思わず、ただ接触する為に儀式に参加しました」
それで、結婚までしてしまったと。クスクス笑い出した私を、二人が呆気に取られたように見つめてから、顔を見合わせて笑った。
「今更疑ったりしないぞ?」ヒビスクスがタッカにウィンクする。御子がいなければ抱きしめているだろう。
「『影』の接触はないか?」ヒビスクスが訊ねる。
「ありますよ。離宮の周りを取り囲むので、毎晩散歩がてら掃除してます。そろそろ人手不足になってきたようですね」掃除って……タッカもヒビスクスも笑ってるから、突っ込まないけど。
「イーストフィールドに精霊はいないの?」ちょっと考えた私の問いに、各々が視線を宙に向ける。
「弱って数は少ないが、王宮を中心に存在するそうです」ヒビスクスが答えた。
「光と闇の精霊はそこそこ。命は僅かしかおらず、四属性はかなり少ないそうです」タッカは具体的ね。
「タリーが帰ってきたら、みんなで相談しましょう」イーストフィールドを見捨てるか、王族を見限るか、まだ建て直せるのか、精霊達はどう考えているのかを。
「暫くタッカと過ごしてもいい?」ヒビスクスに目を向けると、肩を竦めて自室に入って行った。
「御子、暫く俺で我慢して下さいよ」きゃっきゃと笑う声がするから大丈夫だろう。
「聖域に行く?」伴侶達の聖域は各々の自室から繋がっているそうだ。
「御子に影響してはいけないので、命の間に招待して貰えますか?」タッカに顎を掬われ、口付けられる。
私とタリーの部屋は命の間となったが、ごく普通で、命の樹が生えているくらい。タッカが樹の実を採って食べさせてくれると、すぐに体が熱くなってきた。
「ヴェロニカ、自分が怖くはないですか?」タッカが私を組み敷きながら訊く。少し震えている体が愛おしい。
「前世は平和な所だったけど、私の曾祖父は戦争を体験していたの」タッカの頬を撫でて、目を合わせる。
「『人を殺すのは任務だった。それで許されるとは思わんが、好きで殺したりはせん』って、話してくれたことがあるわ」これで伝わるだろうか。
「愛してるわ、タッカ。貴方は私達を害さない」そっと口付けると、舌を絡め取られて口内を激しく犯された。
「あぁ、御子には悪いけど、子育ては早く終わらせて欲しいです」タッカの呻き声に笑う。体を交互に向けて、お互いを手と口で慰め合ってイき、後ろに迎えてまた達した。
「タリーが帰って来ました。聖女の間に移動しましょう」タッカの声は落ち着いている。
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「イーストフィールドになど渡しません。貴女は私達の聖女です」タッカの囁きに頷く。私達の家族になった可愛い黒猫さん。凄腕なんだろうけど、味方なら心強いわ。
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