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二章「結婚の儀」
二十九話「巫女姫の疑惑」前編
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「明日、巫女姫が訪問したいと言ってるみたいだけど、どうする?」夕食時にパクレットがみんなに尋ねた。
巫女姫が保護されて一週間がたった。十日間の逃避行で、巫女姫は随分消耗していたそうだ。三日程前までは、コレウスとイオナンタも彼女の治療に駆り出されていた。
漸く回復した彼女を歓迎して、今夜は王族の私的な晩餐会が開かれている。加護が増したパクレットには、そこでの会話が聞こえたようだ。個室内の会話は遮断してるけど、公的な所での会話は拾ってしまうんだって。
「何か予定があったかしら?」私は首を捻る。
「お父上とフィルが、届け物に来るって言ってたよ」タリーの言葉に思い出す。あぁ、お義母さんが私に作ってくれた物ね。
「フィルは騎士見習いの登録に来るんだっけ?」ヒビスクスを見ると頷いている。
「隊長は昇進登録です。新領地に移動になるかもしれません」嬉しそうなのは、お父様のシゴキから逃げられるからじゃないよね?
「フィルはどこに配属されそう?」みんなが私を見る。ブラコンだと思ってるんでしょ。
「巫女姫の命の守護者になるなら、早目に絆を結んだ方が良いのかと思って」
私の言葉にタリーが頭を掻き、イオも困り顔を向けた。
「巫女姫は、光の御子とその世話係達には会いたくないんだって」みんなが呆気に取られた。
「……じゃあ、何の為にこの国に来たの?」私の質問に、みんな頷いた。
「王族達も訳が分からないようですね。彼女が望んだのは、貴女に会うことだけです」タッカが闇の精霊に尋ねてくれたらしい。
「そんな状況で会うのは不安だわ」私の母を恨んでいても、おかしくはないし。
「他の精霊達は何か知りませんか? イーストフィールドの精霊達にも尋ねて貰いましょう」イオがみんなに頼んでくれる。
私はお茶を入れて、みんなの返事を待った。
「『ただの誤解と思い込みだ。問題はそんな事ではない』と光の精霊が呆れています。直接には話せないので、説得もできないそうです」イオが首を傾げながら言った。
「『どうしてみんな、お母様を捨てたの?』と、うわ言を言っていたそうだ。イーストフィールドでは鏡を見ると泣くからと、治療者が外していた」コレウスが顎を撫でている。
「母親である聖女のお墓に向かって『本当にお父様を裏切ったの?』と話しかけてたって。彼女が出国準備を始めたのは、縁談が持ち上がるより前みたいだね」パースランが続ける。
「お父上に保護された時には酷く驚いてた。あと、この国の豊かさを見て『お父様が加護を失ったせいなの?』と自国の貧しさを嘆いてる。父親は土の魔術師だったそうだよ」
「家族で温泉に出掛けたのが、最初で最後の旅行だったらしい。その時の家族の絵を大切にしていたのに、急に仕舞い込んでしまったと、火の精霊が寂しがってる。この国に入ってからの情報はない」ヒビスクスがため息を吐いた。
「僕には新しい情報はないね。マジョラムと会うのを強硬に嫌がったというくらい。まぁ、推測はできるけど。パクレットの意見も聞かせてくれる?」タリーがお茶を飲む彼を見る。
「巫女姫は『みんなが母親を捨てた』と言う。これは父親である聖女の伴侶、命の守護者であるマジョラム、ヴェロニカのお母上の巫女長、この三人だよね?」パクレットの言葉に頷く。
「最近、彼女が鏡や絵を見たがらなくなり、聖女の墓に『父親を裏切ったのか』と言ったのだから、自分が父親の子供ではないと疑ってるんじゃないかな?」うーん、違和感があるわ。
「でも、マジョラムは巫女姫が生まれるより前、聖女と伴侶が結婚した直後に王宮を出たけど、巫女姫は十六でしょ? 二年後に生まれてるんだから、計算が合わないわ」
「マジョラムは何回か、王都に戻っています。もう一つの可能性は、お父上ですね。貴女が一歳の頃にお母上に頼まれてイーストフィールドに行き、聖女達と会ったそうです」
イオの言葉に唸る。時期もぴったりね。
「巫女姫はマジョラムかお父様が実の父親じゃないかと疑ってるのね。私が知ってる訳ないじゃない?」はぁ、とため息を吐く。
夢の中の聖女を思い出す。あの人は伴侶を愛していた。彼の嫉妬によって加護を失うと分かっていても、離れられないと言った。
聖女の想いを考えると辛くなる。巫女姫はどうしてそんな疑いを持ったんだろう。
巫女姫が保護されて一週間がたった。十日間の逃避行で、巫女姫は随分消耗していたそうだ。三日程前までは、コレウスとイオナンタも彼女の治療に駆り出されていた。
漸く回復した彼女を歓迎して、今夜は王族の私的な晩餐会が開かれている。加護が増したパクレットには、そこでの会話が聞こえたようだ。個室内の会話は遮断してるけど、公的な所での会話は拾ってしまうんだって。
「何か予定があったかしら?」私は首を捻る。
「お父上とフィルが、届け物に来るって言ってたよ」タリーの言葉に思い出す。あぁ、お義母さんが私に作ってくれた物ね。
「フィルは騎士見習いの登録に来るんだっけ?」ヒビスクスを見ると頷いている。
「隊長は昇進登録です。新領地に移動になるかもしれません」嬉しそうなのは、お父様のシゴキから逃げられるからじゃないよね?
「フィルはどこに配属されそう?」みんなが私を見る。ブラコンだと思ってるんでしょ。
「巫女姫の命の守護者になるなら、早目に絆を結んだ方が良いのかと思って」
私の言葉にタリーが頭を掻き、イオも困り顔を向けた。
「巫女姫は、光の御子とその世話係達には会いたくないんだって」みんなが呆気に取られた。
「……じゃあ、何の為にこの国に来たの?」私の質問に、みんな頷いた。
「王族達も訳が分からないようですね。彼女が望んだのは、貴女に会うことだけです」タッカが闇の精霊に尋ねてくれたらしい。
「そんな状況で会うのは不安だわ」私の母を恨んでいても、おかしくはないし。
「他の精霊達は何か知りませんか? イーストフィールドの精霊達にも尋ねて貰いましょう」イオがみんなに頼んでくれる。
私はお茶を入れて、みんなの返事を待った。
「『ただの誤解と思い込みだ。問題はそんな事ではない』と光の精霊が呆れています。直接には話せないので、説得もできないそうです」イオが首を傾げながら言った。
「『どうしてみんな、お母様を捨てたの?』と、うわ言を言っていたそうだ。イーストフィールドでは鏡を見ると泣くからと、治療者が外していた」コレウスが顎を撫でている。
「母親である聖女のお墓に向かって『本当にお父様を裏切ったの?』と話しかけてたって。彼女が出国準備を始めたのは、縁談が持ち上がるより前みたいだね」パースランが続ける。
「お父上に保護された時には酷く驚いてた。あと、この国の豊かさを見て『お父様が加護を失ったせいなの?』と自国の貧しさを嘆いてる。父親は土の魔術師だったそうだよ」
「家族で温泉に出掛けたのが、最初で最後の旅行だったらしい。その時の家族の絵を大切にしていたのに、急に仕舞い込んでしまったと、火の精霊が寂しがってる。この国に入ってからの情報はない」ヒビスクスがため息を吐いた。
「僕には新しい情報はないね。マジョラムと会うのを強硬に嫌がったというくらい。まぁ、推測はできるけど。パクレットの意見も聞かせてくれる?」タリーがお茶を飲む彼を見る。
「巫女姫は『みんなが母親を捨てた』と言う。これは父親である聖女の伴侶、命の守護者であるマジョラム、ヴェロニカのお母上の巫女長、この三人だよね?」パクレットの言葉に頷く。
「最近、彼女が鏡や絵を見たがらなくなり、聖女の墓に『父親を裏切ったのか』と言ったのだから、自分が父親の子供ではないと疑ってるんじゃないかな?」うーん、違和感があるわ。
「でも、マジョラムは巫女姫が生まれるより前、聖女と伴侶が結婚した直後に王宮を出たけど、巫女姫は十六でしょ? 二年後に生まれてるんだから、計算が合わないわ」
「マジョラムは何回か、王都に戻っています。もう一つの可能性は、お父上ですね。貴女が一歳の頃にお母上に頼まれてイーストフィールドに行き、聖女達と会ったそうです」
イオの言葉に唸る。時期もぴったりね。
「巫女姫はマジョラムかお父様が実の父親じゃないかと疑ってるのね。私が知ってる訳ないじゃない?」はぁ、とため息を吐く。
夢の中の聖女を思い出す。あの人は伴侶を愛していた。彼の嫉妬によって加護を失うと分かっていても、離れられないと言った。
聖女の想いを考えると辛くなる。巫女姫はどうしてそんな疑いを持ったんだろう。
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