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第二の封印

ヘッドからブラッド

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 どれくらい気を失っていただろうか。
 長い時間は経っていないと思うが……。

「――ぐっ!」

 ズキンと頭に刺激が走った。少し強く頭を打ち付けてしまったらしい。
 まぁ、普通の人間に比べれば幾分か頑丈な俺はどうでもいい。それより心配なのはセルデリカだ。

 どうやら俺は力いっぱいセルデリカを抱きしめていたらしく、胸元から苦しそうな声が聞こえてくる。よかった、命に別状はないみたいだ。
 すぐに両腕の力を緩めて、抱きしめていた彼女の顔を窺う。

「おい、セルデリカ。セーフか?」

 無事か? そう聞きたかったのだが、無駄にオシャレなせいで緊張感が抜ける。
 ったく、こういう時は本当に不便だぜ。

「う……、うん。勇者は……?」

 小さな声を上げながらセルデリカも俺の顔に目を向ける。
 しかしどういう訳か、俺の顔を見た途端に彼女の顔面が真っ青に染まった。

「――あぁっ! 勇者っ、ヘッドからブラッド! ブラッドがっ!!」
「ん……?」
 
 瞳に涙をためながら、ひどくうろたえ始めたセルデリカの言葉から察するに、どうやら俺の額から血が流れているらしい。痛みが一番強い場所に手を当ててみると、確かに指先に真っ赤な液体が付いていた。

 これくらいどうってことはないんだが……。

 あまり血を見たことが無いらしく、セルデリカは今にも泣きだしてしまいそうだった。さすがは魔王の娘と言うべきなのか、むしろ魔王の娘らしくないというべきなのか。
 ともかく、泣かれるのは勘弁願いたい。
 これ以上心配させないように、俺は敢えて平気な顔を心がけて笑って見せた。

「これくらいノープロブレムだ」
「で、でもっ!」


 優しい娘だ――ふと、そんなことを思った。
 あの悪逆非道かつ傍若無人だった魔王の娘とは思えないほど、セルデリカは優しい。魔王には魔王なりの矜持と理想があったのはわかるが、彼女のような魔族が魔王となっていたら、人間との関係もまた違ったモノになっていたかもしれない、と。

 まぁ、たらればの話をしたところで意味はない。俺はセルデリカの父親である魔王を引き合いに出して、彼女を落ち着かせることにした。

「俺はお前のファザーにキルされかけながらもなんとか倒したマンだぞ。お前のファザーがどれだけストロングだったかは、お前が一番アンダースタンドしてるだろ?」
「それは、そうだけど……」
「だから俺はノープロブレムだ」

 角に触れないように気を付けながら、彼女の頭を軽く撫でる。

「……んっ」

 それでようやく落ち着いたのか、セルデリカは自分の足で立ち上がった。少しだけ顔が赤いように見えるのは気のせいだろうか。
 俺も簡単ではあるが傷の手当てを済ませて立ち上がる。

 俺たちが落ちた穴は深さ五メートルといったところだろうか。

 いきなり大穴が空いた理由は不明だが、なんとかよじ登れる高さだ。ただセルデリカのことを考えると、何か足場を作ったほうがいいだろう。
 足場に使えそうな物がないかと辺りを歩き始める。

 と、その時だった。

「勇者ちょっとウェイト! アレをルックしてっ」
「ん?」

 呼び止められた俺はセルデリカが指さす方を見た。
 するとそこには洞窟らしきモノがあった。
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