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最後の封印
恐ろしい生き物
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これから向かうのは魔族の地。
そう思って念入りに準備を進めていたら、いつの間にか大荷物になっていた。
「これほどの荷物が必要でしょうか……? 人間の里が無いとはいえ、あまりにも物が多いように思うのですけれど」
純粋な疑問を向けられて、俺は苦笑で応える。
確かに俺自身もこれほどの荷物が必要かと疑問に思う。だが以前の魔王を倒す旅で感じた不便や苦労を思い出すと、どうしても物を減らせなかった。
それに俺は初めてセルデリカと会った時の事を思い出していた。
あの時のセルデリカは荷物らしい荷物は何一つ持っておらず、しかも角も尻尾も隠さぬまま、身一つでアレア王国まで来ていた。あんな無謀に比べれば荷物が多すぎるくらい可愛いものだ。
ほんと、あの時俺に会えなかったらどうするつもりだったんだろうな……。
まぁ、たらればの話はさておき。
俺たちはさっそく最後のダンジョンに向かって出発することにした。
語彙力に不便を感じない以上、それほど焦る必要はないのかもしれないが、最後のダンジョンだからこそ早く終わらせて平穏を取り戻したいと思ったからだ。
そろそろアレア王国に戻って魔王討伐の報告をしたいしな。
「そうだセルデリカ。ディミトリアは最後の神器を守ってる守護者については教えてくれなかったのか? どうせまた厄介なのが居るんだろ?」
道中、俺は気になっていたことを訊いてみることにした。
まだ少し緊張するが、大人びたセルデリカにもだんだん慣れてきたものだ。
「いえ、それがどうも守護者は居ないようなのです」
「そうなのか?」
「はい。ディミトリア曰く、最後のダンジョンには『恐ろしい生き物』が住み着いていて、父上はその『恐ろしい生き物』の寝床に神器を置いたらしいのですよ」
「『恐ろしい生き物』……? それは魔物ってことか?」
俺が改めて訊くと、セルデリカは首を横に振った。
「もし魔物であれば父上が従えていたはず。ですので魔物ではないのでしょう。おそらく普通の魔物より上位の存在……。なんにせよ厄介な存在であることは間違いないでしょうね」
あの魔王でさえ従えることができなかった『恐ろしい生き物』……?
まったく見当もつかないが、俺の背中にはゾクリと悪寒が走った。
「……油断大敵ってことだな」
「ええ。これまで以上に気を引き締めてくださいね、勇者」
「まさかセルデリカにそんなことを言われる日が来るとはな」
「なんだか少し失礼な物言いですわね……。でも許してあげますわ」
――また美味しいモノを食べさせていただければ、ですけれど。
最後にそう付け加えたセルデリカに、俺は思わず笑ってしまった。
そして同時に安心した。まるで別人のように大人びた姿になっているが、中身はラグンツェの串焼きを頬張っていた、あの少女のままなのだとわかったから。
そのおかげ、だろうか。『恐ろしい生き物』に感じていた恐怖が少し和らいだ気がした。彼女と二人ならきっと大丈夫、そんな思いまで湧きあがってくる。
「――ああ、約束するよ。この旅が終わったら、とびっきり美味いものを食わせてやる」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日して、俺たちはついに最後のダンジョンにたどり着いた。
そこは魔族の地でありながらも、ほとんど魔族が住んでいない土地だった。
おそらくダンジョンに住み着いているという『恐ろしい生き物』の噂が、魔族さえ寄せ付けなくなっているのだろう。
理由はどうあれ、魔族が居ないのは好都合だ。
俺はセルデリカに出会って魔族への偏見がいくらか和らいだ。しかしディミトリアのような魔王に忠誠を誓っていた魔族から見れば、俺は完全に仇なのだ。
それを考えれば無益な戦いを避けられるだけで十分に助かったと言える。
「よし。行こう」
さっそくダンジョンに入ると、中はかなりの広さがあった。
そのため住み着いている魔物も相当な数だろうと思っていたのだが……、
「どうやら『恐ろしい生き物』のせいで、魔物は住み着いていないようですわね」
「好都合、って訳でもないか。その『恐ろしい生き物』ってのが、今もこのダンジョンに居る証拠ってことだな」
「そういうことでしょうね。この様子ですと、やはり一番奥――祭壇の間を寝床にしているのでしょう」
「ああ、俺も同じ意見だ」
一応、最低限の警戒をしながら、俺たちはゆっくりと最奥へと足を進める。
そしてついに祭壇が見えてきた、その時だった。
「なんだっ!?」
ダンジョンがいきなり揺れ始めたのだ。
鼓膜まで震わせるような激しい揺れ――違うっ! これは何かの叫び声だ!
「ま、まさかこの声……っ!」
揺れが一度収まると、セルデリカが驚愕の表情を浮かべながら呟いた。
なんだなんだっ? いったい何に気付いたんだっ!?
その疑問を口にしようとした瞬間――俺はその答えを自分の目で確認することとなった。
『グオオオオオオォォォォォォオオオオオ――――――ッ!!』
再びダンジョンが揺れる。
『恐ろしい生き物』の正体――それは真紅のドラゴンだった。
そう思って念入りに準備を進めていたら、いつの間にか大荷物になっていた。
「これほどの荷物が必要でしょうか……? 人間の里が無いとはいえ、あまりにも物が多いように思うのですけれど」
純粋な疑問を向けられて、俺は苦笑で応える。
確かに俺自身もこれほどの荷物が必要かと疑問に思う。だが以前の魔王を倒す旅で感じた不便や苦労を思い出すと、どうしても物を減らせなかった。
それに俺は初めてセルデリカと会った時の事を思い出していた。
あの時のセルデリカは荷物らしい荷物は何一つ持っておらず、しかも角も尻尾も隠さぬまま、身一つでアレア王国まで来ていた。あんな無謀に比べれば荷物が多すぎるくらい可愛いものだ。
ほんと、あの時俺に会えなかったらどうするつもりだったんだろうな……。
まぁ、たらればの話はさておき。
俺たちはさっそく最後のダンジョンに向かって出発することにした。
語彙力に不便を感じない以上、それほど焦る必要はないのかもしれないが、最後のダンジョンだからこそ早く終わらせて平穏を取り戻したいと思ったからだ。
そろそろアレア王国に戻って魔王討伐の報告をしたいしな。
「そうだセルデリカ。ディミトリアは最後の神器を守ってる守護者については教えてくれなかったのか? どうせまた厄介なのが居るんだろ?」
道中、俺は気になっていたことを訊いてみることにした。
まだ少し緊張するが、大人びたセルデリカにもだんだん慣れてきたものだ。
「いえ、それがどうも守護者は居ないようなのです」
「そうなのか?」
「はい。ディミトリア曰く、最後のダンジョンには『恐ろしい生き物』が住み着いていて、父上はその『恐ろしい生き物』の寝床に神器を置いたらしいのですよ」
「『恐ろしい生き物』……? それは魔物ってことか?」
俺が改めて訊くと、セルデリカは首を横に振った。
「もし魔物であれば父上が従えていたはず。ですので魔物ではないのでしょう。おそらく普通の魔物より上位の存在……。なんにせよ厄介な存在であることは間違いないでしょうね」
あの魔王でさえ従えることができなかった『恐ろしい生き物』……?
まったく見当もつかないが、俺の背中にはゾクリと悪寒が走った。
「……油断大敵ってことだな」
「ええ。これまで以上に気を引き締めてくださいね、勇者」
「まさかセルデリカにそんなことを言われる日が来るとはな」
「なんだか少し失礼な物言いですわね……。でも許してあげますわ」
――また美味しいモノを食べさせていただければ、ですけれど。
最後にそう付け加えたセルデリカに、俺は思わず笑ってしまった。
そして同時に安心した。まるで別人のように大人びた姿になっているが、中身はラグンツェの串焼きを頬張っていた、あの少女のままなのだとわかったから。
そのおかげ、だろうか。『恐ろしい生き物』に感じていた恐怖が少し和らいだ気がした。彼女と二人ならきっと大丈夫、そんな思いまで湧きあがってくる。
「――ああ、約束するよ。この旅が終わったら、とびっきり美味いものを食わせてやる」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日して、俺たちはついに最後のダンジョンにたどり着いた。
そこは魔族の地でありながらも、ほとんど魔族が住んでいない土地だった。
おそらくダンジョンに住み着いているという『恐ろしい生き物』の噂が、魔族さえ寄せ付けなくなっているのだろう。
理由はどうあれ、魔族が居ないのは好都合だ。
俺はセルデリカに出会って魔族への偏見がいくらか和らいだ。しかしディミトリアのような魔王に忠誠を誓っていた魔族から見れば、俺は完全に仇なのだ。
それを考えれば無益な戦いを避けられるだけで十分に助かったと言える。
「よし。行こう」
さっそくダンジョンに入ると、中はかなりの広さがあった。
そのため住み着いている魔物も相当な数だろうと思っていたのだが……、
「どうやら『恐ろしい生き物』のせいで、魔物は住み着いていないようですわね」
「好都合、って訳でもないか。その『恐ろしい生き物』ってのが、今もこのダンジョンに居る証拠ってことだな」
「そういうことでしょうね。この様子ですと、やはり一番奥――祭壇の間を寝床にしているのでしょう」
「ああ、俺も同じ意見だ」
一応、最低限の警戒をしながら、俺たちはゆっくりと最奥へと足を進める。
そしてついに祭壇が見えてきた、その時だった。
「なんだっ!?」
ダンジョンがいきなり揺れ始めたのだ。
鼓膜まで震わせるような激しい揺れ――違うっ! これは何かの叫び声だ!
「ま、まさかこの声……っ!」
揺れが一度収まると、セルデリカが驚愕の表情を浮かべながら呟いた。
なんだなんだっ? いったい何に気付いたんだっ!?
その疑問を口にしようとした瞬間――俺はその答えを自分の目で確認することとなった。
『グオオオオオオォォォォォォオオオオオ――――――ッ!!』
再びダンジョンが揺れる。
『恐ろしい生き物』の正体――それは真紅のドラゴンだった。
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