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第一節 暗雲、立ち込める空。雷鳴、鳴り響く夜に

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その日は大嵐だった。



ゴウ――と、吹き荒れる風。ザ――と、流れ込むような雨。そんな中、狩人ラボの一室に、腕を組み座る者が一人。爆破スマシである。

(あのアメリカ視察から二カ月程経っている。そろそろヤツらも、動き出す頃か……)

一室には大型のテレビも備わっていた。

「次のニュースです。この前の日曜日に起きた事件で……」

殺人事件のニュース等、人的災害についてのニュースが流れていた。

(なぜ人は人を傷つけ合い、殺し合ってしまうのか……)

爆破は一人、考える。



「――以上、本日のニュースでした」

ふと、チャンネルを変えてみる。自然災害についての特集だった。

(ゾムビーだけではなく災害だらけだな、この国は)

更にチャンネルを変える。動物が他の動物を殺して、生きながらえている番組だった。



「ふー」



溜息をつく。

(人間だけではなく、生物が汚らわしいとまで思ってしまうな。どんな生物でも殺し合い、憎しみ合うのか……)

「しかし!」

爆破は思わず声を漏らす。

(私とて同じだ。ゾムビー達を、人間だった者達と殺し合い、死なせている……悪を倒している自分がカッコいいとでも思っていたのか……?)

すると、



「プルルルル! プルルルル!」



机にある電話機が鳴った。電話に出る爆破

「もしもし、狩人関東支部ですが……」

「hey! Jap!!」

電話主は英語で話し掛けてきた。

(やはり……か)

爆破も英語で対応する。

『こんばんは、hunter.N州支部の方だろうか?』

『そうだ! そちらで言うところの、副隊長を務めさせてもらっている者だ。何だあの石は⁉ アレの所為でこちらの支部の基地はゾムビーだらけだ! 隊員達も数十名やられた。どうしてくれるんだ‼』

電話主の男は叫ぶように話してくる。



『と、言いましても』



『!』

『そちらの支部にも、以前あの石はあったと聞いております。更に今回、研究材料になると、そちらも同意の上で石の所有権を移したのですが?』

淡々と話す爆破。それに対し、怒った様に男は言う。

『くっ、この敗戦国の軍隊風情が‼ 石の数が増えて、ゾムビー発生率も増えたと言っているのだ!!!』

『なら、我々にどうしろ、と?』





『…………』





『成程、心得ました』

(さて、時は満ちた……やるしか、無いようだな)





数日後――、ラボ内の廊下を携帯電話で話しながら歩く爆破。

「ああ、それで今回の部隊はおよそ20人だ。……分かった。チャーターは必要ないと伝えてくれ!」

「ピッ」

携帯電話を切る爆破。少し顔を上げる。

(次なる決戦の地は、始まりの地……か……)





その数時間後――、ツトムの教室。朝礼が始まった。

「起立! 気を付け! れ……」







「ガラガラッ‼ ダン‼‼‼」







「⁉」

教室の戸を開ける者が! 爆破スマシだった。





「ツトム! 私だ‼ アメリカへ飛ぶぞ‼‼‼」





呆気に取られる主人公。

「へっ? アメリカ……? というか、スマシさん、今朝礼の最中ですよ。まさか出動……じゃあないですよね? アメリカなんて」

「そのまさかだ」

「ですよね……ってえ――――⁉」

「ざわざわ」

ノリ突込みする主人公と、ざわつき始める教室内。



「あのー。いちおーこのクラスの担任の者ですがー、そーゆーのはちょっとー」



担任が爆破に忠告しようとする。

「そうですよ! まだ夏休みまで1カ月以上あるし……べ、勉強が……」

「もう、校長には話をつけてある」



「⁉」



爆破の言葉に、驚愕する主人公。

「因みに、断ると日米安全保障条約にも引っかかるぞ」





(えぇっ――‼ 安保条約にぃいい――⁉)





淡々とした爆破の言葉に、さらに驚愕する主人公。

「事態は急を要する。行くぞ‼」

「ガッ」

主人公の肩を担ぐ爆破。

「えぇ⁉ まだ心の準備が……」

「仕方ないな、一時間やる、その間に家族との別れを済ませるんだな」

「一時間て……(なんか急にいつもより増してスパルタになってるぅ――‼)」

困惑する主人公。

「お前の自宅に行くぞ! ツトム‼」

「えっ? あっ、ハイ」

促されるままに教室から出ていく主人公。更にざわつく教室内。

「あー、ツトムぅ。がんばぁ――」

素っ気なく言う担任。

(くっ、人の気も知らないで……)

悔しがるツトム。すると巨房が立ち上がり言った。



「主人公ツトム隊員! 健闘を祈る‼」



「!」



(ミノリちゃんだけがこのクラスの癒しだよ……)

やや救われた様子の主人公。



「何をやっている! 行くぞ‼」

「あっ、ハイ!」

主人公は爆破の一声で正気に戻った。廊下を進む二人。



「! そうだ。サケルもここの中学に居たな。呼ぶぞ」



引き返す爆破と主人公。

(軽く、忘れられている……)

主人公はひっそりと思うのだった。





逃隠の教室――、







「ガラガラッ‼ ダン‼‼‼」







「⁉」



教室の戸を開ける者が! 当然、爆破スマシだった。







「サケル! 私だ‼ アメリカへ飛ぶぞ‼‼‼」







「グガ――、! 何⁉ 敵襲か⁉」



居眠りを決め込んでいた逃隠。飛び起きる。

「全く、相変わらずだな。お前は」

呆れた表情の爆破。





「何だね君は⁉」





クラスの担任が問う。



「私か? 私は政府公認機関・狩人の隊長! 爆破スマシだ‼」



おお、と、どよめくクラス内。

(何だか無理矢理過ぎる気がする。スマシさん、何かあったのかなあ)

不安に思う主人公。

「出動ですカ⁉ 俺は何時でも準備万端だい‼」

学生服を脱ぎ捨て、特殊スーツに身をまとう逃隠。



「宜しい。担任の方、校長先生には話はつけてある。では!」



「では! と言われても……」

動揺する逃隠のクラスの担任。



「じゃア! そういうコトで!」



逃隠は担任に手を振って教室を飛び出そうとする。



「ちょっと、!」



止めようとする担任を爆破が手を出して制止する。

「これは今日二回目だが、……ええい! 何度でも言ってやる‼ この案件を断ると日米安全保障条約にも引っかかるのですよ? 先生」

「ハッ⁉」

「といった処で……事態は急を要する。行くぞ‼」

「ラジゃー‼」

爆破の命令に言葉通り従い、教室を去る逃隠。

「すっ、すいませーん」

気の毒そうに小声で主人公は言い、逃隠と爆破の後に続いた。爆破、逃隠、そして主人公がアメリカ行きに向けて歩き出した。学校を出る三人。







「さて……」

爆破が口を開く。

「私も鬼では無い」

(十二分に鬼ですが⁉)

面食らう主人公。

「ツトムにはもう話したが、今から一時間やる。気持ちの整理と親御さんへの別れの挨拶を済ませるんだな」

「ラジゃー‼」

「らじ……じゃあ……」

威勢よく答える逃隠と、オロオロとうろたえている主人公。



「おっと、別れの挨拶と言っても、何も死にに行くわけではないぞ? 二人の身の安全は私が保証する。命に代えても――だ」



爆破の言葉にハッとなる主人公。

(スマシさん……表面上はいつもより強引だけど、根っこの部分は変わらない、いつものスマシさんだ)



「もしもし、親父カ?」

逃隠は携帯で電話をし始めた。

「うん……それで……分かったんだい!」

「ピッ」

携帯の電源を切る逃隠。爆破に話し掛ける。

「隊長! 言葉の意味は分からないけど、親父はぐっどらっくと言ってたんだい」

「決まりだな」

爆破は明るく言う。

「さて、次はツトムの家だな」

グイっと顔を寄せる爆破。

「ぼっ、僕は家族に直接言います! 電話では何ですし……」

「よし、それでいいぞ」

3人は主人公宅に立ち寄るコトとなる。
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