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第十一節 年初め

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年は明け、1月――。

正月を迎えた主人公は、リビングでテレビを見ていた。

『中東で続く紛争、年明けの現在でも――』

母は深く溜め息をつきながら、主人公に話し掛けた。

「せっかくゾムビー達も居なくなって、平和が訪れたかと思うとヒト同士で殺しあうなんて……。どうにかならないものかしらねぇ。正月早々、嫌な気分だわ」

「母さん……」

母に視線を移した主人公は、少し悲しい表情を浮かべていた。そしてふと、あるコトを思い出したのだ。いつしかの、爆破の言葉を――。



(回想)

「世界の神が戦争を生み、戦争を許し、戦争を続けさせた。神様でさえリジェクトの餌食にしなくてはならないのかな?」

(回想終了)



そして更に、身体が率いる新制狩人に対しても、思いをはせていた。

(身体……隊長……。新しくなった狩人は、自衛隊と一緒に活動をするって言ってた。大丈夫かな……?)



「ツトムぅー! そろそろ年賀状が届いているんじゃないかしら? 郵便受け、見に行ってくれる?」



「!」

考え事をしていた主人公だったが、母の一声で我に返った。

「分かった、母さん。外、行ってくる!」

主人公はそう言って、郵便受けを見に行った。

――、

(年賀状、届いてたけど去年より減っている……。僕と父さん、母さん宛の分を仕分けしないと)

主人公は、少し複雑な気持ちで、届いていた年賀状を家の中へ持って入った.。

「どうだった、ツトム?」

「届いていたよ、母さん。今から仕分けしておくね」

「頼んだわ」

主人公は年賀状の仕分けを始めた。自分宛の年賀状を確認すると、友出、逃隠、身体と、数名のクラスメイトから来ているものがあった。

(コガレ君……『今年もよろしくな!』って……! サケル君、学校違うけど勉強の方、大丈夫かな? あっ! クラスのあの子、送っておいて良かったぁー……、尾坦子さんは……元旦の0時に丁度あけおめメール来たから、ハガキは送ってこないか……。あっ!)

ここで主人公は一枚の年賀状に目が留まる。

「身体……隊長から……」

『明けましておめでとう。勉学に励み、立派な大人になれよ』

主人子はそのシンプルな、無地に文字だけの年賀状を目にし、思いを巡らせる。敢えて余計なコトを考えさせまいとしている姿勢が、その文字から伝わってきたのだ。

(身体……隊長……!)

居ても立っても居られなくなった主人公は、身体に電話を掛けた。

「……どうした? ツトム」

「身体隊長! ……あっ、明けましておめでとうございます」

「ああ、明けましておめでとう。それを言う為にわざわざ電話を掛けたのか?」

「いっ、いえ! ちょっと気になったことがありまして……」

「何だ? 言ってみろ」

ゴクリと息を呑んだ後、主人公は身体に質問を投げかけた。

「身体隊長、新しく生まれ変わった狩人は、自衛隊と一緒に活動しているんですよね? 世界で起こっている紛争や戦争に対しては、関わっていたりするのでしょうか?」

「成る程、その話か。その質問に対してだが、広い意味で言えば答えはイエスだ」

「!!」

「だが心配するな、ツトム。どういう風に関わっているかだが、紛争地域に赴いて、毛布などの衣類や、食品といった救援物資を送り付けている感じだ。もし戦うなら、相手は人間だ。狩人はゾムビー達と戦う術や心構えはできていても、人間を殺すそれらは持ち合わせていない」

主人公は胸をなでおろし、溜め息をつきながら言った。

「はぁー、良かったー。それを聞いて、少し安心しました」

「ははっ、お前は狩人を離職した。命懸けの戦いから身を引いたんだ。もう普通の生活を送っていればいいんだぞ。厄介ごとは、大人に任せろ」

主人公は身体の言葉を耳にし、人差し指で鼻を擦りながら言った。

「身体隊長、一緒に戦った仲じゃないですか。心配ぐらいさせてくださいよ。でもありがとうございます。逆に気を使ってもらって」

「ああ。ところでツトムは、環境問題に取り組む高校に通っているんだな?」

「はい!」

「いいじゃないか。環境汚染が進み、またゾムビーやゾムビーに次ぐ存在が、地球を脅かさない様、尽力してくれ。こちらはこちらで地球の為に戦っていく」

「はい! 頑張ります!! お互い、場所は違えど戦っていきましょう!」

テレビから流れてくるニュースに、心を痛めていたが、身体との電話で元気を取り戻した、そんな元旦だった。
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