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第九節 告白

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「はい………………ってえ――⁉」







思わずノリツッコミをしてしまう主人公。

「OKってことだよね?」

「え……で、でも。僕でいいの? しかも、女の人から告白って……」

「いいじゃん! そんなコト。それに、もうこの前、告白されたようなもんだから」

「この前…………ハッ!」



(回想)「どうして? 抱き合う事さえ、手と手を触れる事さえできないのに、何でそこまで構ってくれるの?」

「あなたのコトが大切だから」

「!」

尾坦子に対して、主人公が言い放った言葉は胸に深く突き刺さった。主人公は続ける。

「それに、こうすると……」

あの日つくった手袋を、主人公は手にはめていた。

「ほら、手をつなぐことができる」

二人の手と手は一切れの布越しではあるが、確かに触れ合った。(回想終了)



(あ、あの時!)

「あの日、あの時から私はほの字なの。ほの字って分かる?」

「ほの字って……」

尾坦子の意味不明な一言に、錯乱する主人公。

「まぁいいわ。それで、答えは……」



真剣な表情の尾坦子。



ゴクリと息を呑む主人公。



「……はい、よろしくお願いします」



「やた!」



明るく笑う尾坦子。つられて少しはにかむが、急にハッとなる主人公。

(ちょっと待て、付き合うってどういう状態の事を言うんだろう、メ……メールとかをお互いに送り合うとか? 何か変わったことをしなければならないとか……?)

尾坦子は口を開く。



「ツトム君!」

「⁉」



「付き合い始めた訳だけど、今まで通りのツトいいム君でいいから。今まで通りに接して。それと……」

「?」

不意に顔を近付ける尾坦子。そして――







二人の唇は重なった。







「! ! ⁉ ! ! ⁉」





ゆでだこ状態の主人公。

「えへへ。ゾムビーじゃなくなったから、こんなコトもできちゃう。ありがと、ツトム君」

主人公は止めを刺された。失神する主人公。



「パタり」

「えっ」







ゆっくりと目蓋を開ける主人公。

「おっ、目が覚めた? ツトム君」

「!」

尾坦子は主人公を膝枕して介抱していた。



(ああ、神様よ。貴方様に感謝します)

主人公はモテ期の絶頂を迎えたようだ。



「私ね」



「?」



尾坦子が話を切り出す。

「また働こうと思うの。昔みたいに、病院で」

「そっか」

「採用試験もまた、受けないとね」

「うわぁ、大変そう」

表情が歪む主人公。

「大人になったら、誰もがするコトよ?」

「大人、かぁ」

起き上がる主人公。

「気付けば中学2年生で狩人に入隊して、気付けば中学3年生になってた。いつの間にか、大人になっているんだなぁ」

「そう、そんなものよ」

遠くを見つめる尾坦子。

「それと、大人は時間が無いの。本当にそれはどうしようもできないわ。だから……」

「だから……」

「だから?」

主人公は問う。





「とっても少ない、会える日々を特別な日として、少ないながらも大切にしていく……いいえ、大切にしていこうね。ツトム君」





「うん!」

主人公は明るく答えた。その夜、主人公は久しぶりに日記を書いた。







 爆破スマシ――、いつもの如く戦果報告を行っている。

「……よって、抜刀セツナ隊員がゾムビー化したため、攻撃対象として処理しました」

「なんと!」

「おいおい。せっかくの新戦力を、もうダメにしたのか?」

「ここの所激務だってのに、そんなので大丈夫か?」

爆破は冷静に言葉を返す。

「……お静かに。こちらとしても、今回の急な襲来に対して対応が取れていなかった部分もあります。しかし、ここまでの未曾有の事態は、他のどの支部でも起こり得なかったのです」

「しかしだなぁ……」

遂にカッとなった爆破は言う。

「皆様方は現場の空気を知らな過ぎる。よって机上の空論ばかり並べていると見受けられます。しかしそれは、現場の空気を吸っていないので、空気が読めなくて当たり前、と言ったところでしょうか?」



「ガタッ」



「何を言うか‼ この小娘が‼」

「我々がこの施設に出資した恩を忘れたのか⁉」



室内の空気は緊張感に包まれた。そして爆破は口を開く。

「失礼。口が過ぎました。……そして誠に勝手ながら、提案があります」

「まだ言うか!」

左手を上げる爆破。

「前々から話題に上げている、例の宝石。あれの所持権をアメリカ支部に受け渡すつもりなのですが……」



十数分後。

「シャ――」

爆破がシャワーを浴びている。爆破の脳裏をよぎるのは、抜刀セツナ。

(セツナ……愉快な奴だったな……なのに……!)



「キュ……」

シャワーを止める。戦果報告後のシャワーはルーチンになっている様だ。下着を着て、上着に裾を通す。

(あの石……ゾムビーが大量に発生し始めたのは、あの石が我らの手に入ってからだ。確実にゾムビーとあの石には、何か関係がある。それと――)

服を着替え終わる爆破。

(もう、この支部には、ヤツらを確実に仕留められる力が、無い――)







 数日後――、爆破は、主人公を呼び出した。

「こう言っては何ですが、今さら訓練場に呼び出して、何のつもりですか? スマシさん」

「ツトム、ここへお前を呼び出したのは他でもない。この間発現した能力について、知っておきたいからだ」

「あ……あの技……」

虚を突かれた主人公。続いて爆破は話を続ける。

「あの技を私に放つのだ。どのようなものか、直々に味わっておきたい」

「⁉ 本気ですか?」

主人公は更に、驚愕した。

「ああ、殺す気で来い」



「……はい」

爆破の一声で、主人公は手を構えた。

「……ハッ!」

主人公の手は、この前の虹色とは違い、ワインレッドの禍々しい色となった。

「ギン‼」

主人公は、爆破を睨み付ける。そして、





「トン」





主人公は爆破に額を小突かれた。

「あて……」

「額面通り受け止めるなよ、ツトム。恐い顔していたぞ」

「はい……」

爆破のお陰で、正気を取り戻す主人公。

「さっきの指示は、無しだ。今度は、あの時の気持ちになってもう一度だ」

「ハイ‼」

「ぶわっ」

主人公の手のひらは虹色に輝いて、光り始めた。

(これだ。これで……)

「来いツトム‼」

「ハッ‼」

爆破の指示で、士気を挙げる主人公。遂に、光りの矢を爆破に打った。





「ぱああああああ」





爆破の体は、虹色に輝いた。そして、



「何も、起きないだと……?」

主人公が放った攻撃は、爆破には無効化だった。

「ふむ……」

少し考え込む爆破。

(ゾムビーには効果があり、人間には無効の能力……光りの矢の様なモノであり、1体だけの例だが、ゾムビーを人間に戻すチカラ……)

「どうでしたか? スマシさん」

主人公が問いかける。

「分からない事だらけだが、ここでその力をこう呼ぶ事としよう。その力の名は『グングニル』!」
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