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第四節 交渉

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『まず、事の発端から考えるんだ』



『⁉』



虚を突かれるN州支部の者。身体は続ける。

『ゾムビーが地球に発生し始めたのは、我々地球人が宇宙に足を踏み入れて、ゾムビーのウイルスを地球に持ち帰ったからだ。違うか?』

『そ、……ソレは……』

『その時にあの石も数個持ち帰ったのだろう。ゾムビーが地上に発生した原因は、明らかに人間側にある』

『ぐ……ぐぬぬ』

支部の者はぐうの音も出ない様子だった。更に身体は続ける。

『それを、攻撃して来たから攻撃し返すでは筋が通らないだろう』

『それで、こちらから謝り、下手に出る、と言うのデスか……?』

『そうだ。和解の道はそこから以外ない』

N州支部の者の質問に淡々と答える身体。



(会話の全ては英語だからラ分からないけど、副隊長が上手に回っている事は分かる!)

主人公はそっと思う。

『そうデスか……。それでヤツらが和解に応じてくるという確証はあるのデスか?』

支部の者の質問に再び答える身体。

『それは分からない。しかし、こちらの隊長、そしてそちらのエース隊員を失った今、ヤツらゾムビー達を再び宇宙で迎え撃つ事が出来る可能性の方が、低いのでは?』

『! ……。分かりマシタ。しかし試すのは一回だけデスよ?』

『今回の申し出に、応じてくれるのか⁉』

『……ハイ』



「グッ」



拳を握る身体。その様子を見ていた主人公と逃隠。

「副隊長!」

「副隊長ォオオ‼」



「スッ」



飛びつきそうな二人を右手で制止する。

『石を宇宙へ送る具体的な方法についてだが、ゾムビー達がそれに気付いてくれないと話にならないな』

『そうデスねー。無人ロケットに入れて飛ばすのが安全策デスガ……』





すると――、



「バチバチッ……ジー、ジー」

通信回路に異変が。



「!」

「‼」

「⁉」



身体、逃隠、そして主人公が異変に反応した。

「ジー、ジー」

通信回路が安定してきた。







『‼ ‼ ⁉』







一同が驚愕する。何と、モニターにはかつて見た、ゾムビーの親玉が映っていたのだ。

『ヤア、久シブリダナ、諸君』

親玉は語り掛けてきた。





「お! お前は‼」





主人公が叫ぶ。



「スッ」



それを身体は右手で制止させた。

「久しぶりだな、何の用だ? まさか先程の話を聞いていたのか?」



『ソノマサカダ』



「!」

身体は動揺した、と同時に

「それなら話は早いな」

今をベストなタイミングと見込んだ。

「今回、あの石をロケットに入れて宇宙に還す。その代わりに今後、人間を襲って来ない様にしてもらいたい。どうだ?」





『……』





数秒の時間が過ぎた。そして、ゾムビーの親玉は口を開く。

『直グニハ、答エハ出セナイ。ソチラノ都合モアルダロウ……マズハ三ツ。三ツノ石ヲ宇宙ニ送ッテクレルカ? 話ハソレカラダ』

「分かった。早急に三つのあの石を宇宙へ送る。それが確認できたらこちらを認めてくれるかどうか、その段階に入ったと見る」

『ヨロシイ。ソレデ手ヲ打トウ。ソレデハ、サラバダ』



「ジー、ジー……ブブー」



再び通信回路に異変が。

「ジージー」

『繋がりマシタか?』

N州支部の者がモニターに映った。

『今のやり取りデスが、こちらにも同じ映像、音声が流れていた為理解する事が出来マシタ』

『そうか……』

身体は返す。

『まずハ、三つ……デシタね。あちらから通信を行ってきたのが幸運デシタ。早急にロケットを手配シマース』

『……頼む』

『分かりマシタ。デハ、失礼しマース』

『ああ、じゃあ……な』



「プツンッ」



モニターがオフになり、通信回路も遮断された。

「副隊長! やりましたね。こんなに上手く事が運ぶなんて!」

主人公が明るく身体に話し掛ける。

「……」

俯いた様子の身体

「副隊長……?」

身体の左手を見ると、強く握った拳が。握り過ぎて血が滲んでいた。



「! 副隊長……」



「怖がらせてしまって、悪かったな」

身体が口を開く。

「俺とて、不本意だったんだ。いくら隊長の意向とは言え、隊長を殺したヤツらと和解なんて――、な。ゾムビーも、現場を知らないあの支部の者も嫌いだ……」

「……」

黙り込んでしまう主人公。





そこで、

「副隊長ォ! それでも! 前を向いて行くしか、無いんだい‼」

逃隠が口を開いた。

「隊長は! 和解を望んだんだい‼ だから……だから!」

両目は涙で滲んでいた。

「分かった」

身体は逃隠に近付きながら言う。

「悪かったな、これじゃあ、隊長に顔向けできないな」



「ぽん」



逃隠の頭に手をやる。

「俺は前を向いて生きて行く」

「副隊長ォオオ」

身体に抱きつく逃隠。

「こらこら、止めないか」

それを見て、主人公は思う。

(サケル君が居てくれて良かった。僕じゃあすぐに声を掛けられなかった)

身体と逃隠がじゃれ合っている。

(僕も……やるんだ! 前を向いて生きて行こう)





hunter.N州支部――、

『早く! 約束の日まで時間が無いヨ』

急ピッチでロケット発射の準備が進められている。



(回想)

爆破や主人公達は、頭に直接呼びかけてくるような “音”を感じ取った。その音は、ロケットのコックピット等に居るパイロット達にも聞こえた。

『今回ハ、ココマデデ勘弁シテヤロウ。シカシ、我々ハ諦メンゾ。アノ石ヲ……。モウ7日、一週間後ニマタ戦力ヲ立テ直シテキサマラヲ襲ウ。セイゼイ余命ヲ楽シムンダナ。ハッハッハッハ』

“音”は徐々に消えていった。

(回想終了)



(あの石を欲していたゾムビーの親玉……和解の道は本当に在るのか……?)

N州支部の者は考え込む。





そして――、

『石は積んだな⁉』

『確認済みです‼』

『分解装置の動作確認は⁉』

『完了しています‼』

『よし、5分後、発射する‼』



遂に例の石が載ったロケットが発射される。

『スリー、ツー、ワン……』





「ゴゴゴゴゴゴゴ」





発射は成功に終わった様だった。

『成功……だな』

hunter.N州支部の隊員達はロケットの動向を伺う。

『現在、冥王星方向へ向けて進行中……ふぅ。ひとまずは安心だ』

『帰りの燃料の心配しないで済むから、楽なモンだな』

口々に言う隊員達。







日々は過ぎていき、約束の日の1日前になった。



Hunter内部、モニタリング室にて。

隊員が口を開く。

『ロケットどこまで行ったかなー』

『3日以上経ってる、相当遠くへ行っただろう』





すると――、

「バチバチ……ジー、ジー」



「!」

「⁉」



いきなり、通信用のモニターの電源が入った。そして――、

『ゴキゲンヨウ、地上ノ諸君』

ゾムビーの親玉が話し掛けてきた。



「!」

「‼」



『上へ連絡だ。急げ』

『ラジャー』



隊員達は上司を呼ぶ様だった。

『アノ石ヲ載セタロケット、確カニ確認デキタ。礼ヲ言ウ』

『クソッ俺達で対応していいのか⁉ 上の者はまだ来られないのか⁉』

『私ハ、身分ハ問ワナイ』



「‼」



『石ヲ確認デキタノデ、地上ニ居ルゾムビー達ニ指示ヲ出シ、攻撃ヲ止メサセル。更ニ頼ミガアル』



『……何だ?』

モニタリング室に居た隊員は少し冷や汗をかきながら問う。

『地上ニ散ラバッタ、全テノ石ヲコチラヘ返シテモライタイ』



「⁉」

「‼」



隊員達は驚愕した。

『な……まだ石が地上に在るのか⁉』

『少シ昔話ヲシヨウ』
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