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2日目:終わりのない旅
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仕事帰りの終電。金曜の夜の割に、車内は妙に静かだった。
スマホの充電が切れそうだったが、調べ物をしていたのでギリギリまで使っていた。もうすぐ乗り換えの駅に着くはずだと思いながら、うとうとしてしまった。
ふと気がつくと、電車は知らない景色の中を走っていた。
「……え?」
窓の外には、黒い山々と広がる草原。いつもの町の風景はどこにもない。慌てて車内の電光掲示板を見ると、見たことのない駅名が流れていた。
——次は、きさらぎ駅。
ゾクリとする。きさらぎ駅なんて聞いたことがない。都市伝説でよく話題になる、あの駅の名前が思い浮かぶ。
「冗談だろ……」
周りを見回すと、車内には自分を含めて数人しかいなかった。みんな静かで、顔がよく見えない。まるで霧がかかったようにぼんやりとしている。
不安になり、スマホを取り出そうとしたが、圏外だった。試しに電車の中を歩いてみると、乗客の一人がこちらをじっと見つめていることに気がついた。
「……あなたも、ここに来ちゃったの?」
低い声の女性だった。髪が長く、白っぽい服を着ている。
「えっと……ここ、どこですか?」
「きさらぎ駅。戻れる方法を探してるの?」
ドキリとする。まるで、戻れないのが前提みたいな言い方だった。
「戻れますよね?」
女性は少し考え込むように目を伏せ、静かに言った。
「この電車に乗ったままだと、次の駅で降りることになる。でも……そこは、もっと帰れない場所」
「……どういうことですか?」
「ここで降りて、線路沿いを歩いたほうがいい。でも、気をつけて。『駅の住人』に見つからないように」
住人? 何のことだ?
気がつくと、電車がスーッと速度を落とし、停車した。
ホームには、数人の人影があった。いや、人影——?
彼らの姿を見た瞬間、背筋が凍りついた。
顔が、ない。
黒い影のような存在が、ゆっくりこちらを向いた。
「……降りて」
女性が小声で言う。
「早く。見つかる前に」
恐怖で足がすくんだが、意を決して電車を飛び出した。
足元の砂利を踏みしめながら線路沿いを走る。後ろを振り返ると、駅のホームにいた影たちが、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
——ついてくる。
「ヤバい……!」
息を切らしながら必死に走る。やがて、線路の先に、ぼんやりとした光が見えてきた。
「助かった……!」
そう思った瞬間、背後から肩を掴まれた。
「——ダメ」
あの女の声だった。
「行っちゃダメ。そこは……」
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
——ガタン。
気がつくと、電車の座席に座っていた。
いつもの車両。いつもの景色。
「……夢?」
スマホを見ると、充電は切れていた。まるで、何もなかったかのように電車は走っている。
安心して、肩の力を抜いた。
——その時、隣の座席から、静かな声がした。
「……逃げられたと思った?」
ゾクリとして横を見る。
そこには、さっきの女性が座っていた。
「……きさらぎ駅へようこそ」
耳元で囁かれた瞬間——視界が暗転した。
終
スマホの充電が切れそうだったが、調べ物をしていたのでギリギリまで使っていた。もうすぐ乗り換えの駅に着くはずだと思いながら、うとうとしてしまった。
ふと気がつくと、電車は知らない景色の中を走っていた。
「……え?」
窓の外には、黒い山々と広がる草原。いつもの町の風景はどこにもない。慌てて車内の電光掲示板を見ると、見たことのない駅名が流れていた。
——次は、きさらぎ駅。
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「えっと……ここ、どこですか?」
「きさらぎ駅。戻れる方法を探してるの?」
ドキリとする。まるで、戻れないのが前提みたいな言い方だった。
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女性は少し考え込むように目を伏せ、静かに言った。
「この電車に乗ったままだと、次の駅で降りることになる。でも……そこは、もっと帰れない場所」
「……どういうことですか?」
「ここで降りて、線路沿いを歩いたほうがいい。でも、気をつけて。『駅の住人』に見つからないように」
住人? 何のことだ?
気がつくと、電車がスーッと速度を落とし、停車した。
ホームには、数人の人影があった。いや、人影——?
彼らの姿を見た瞬間、背筋が凍りついた。
顔が、ない。
黒い影のような存在が、ゆっくりこちらを向いた。
「……降りて」
女性が小声で言う。
「早く。見つかる前に」
恐怖で足がすくんだが、意を決して電車を飛び出した。
足元の砂利を踏みしめながら線路沿いを走る。後ろを振り返ると、駅のホームにいた影たちが、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
——ついてくる。
「ヤバい……!」
息を切らしながら必死に走る。やがて、線路の先に、ぼんやりとした光が見えてきた。
「助かった……!」
そう思った瞬間、背後から肩を掴まれた。
「——ダメ」
あの女の声だった。
「行っちゃダメ。そこは……」
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
——ガタン。
気がつくと、電車の座席に座っていた。
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「……夢?」
スマホを見ると、充電は切れていた。まるで、何もなかったかのように電車は走っている。
安心して、肩の力を抜いた。
——その時、隣の座席から、静かな声がした。
「……逃げられたと思った?」
ゾクリとして横を見る。
そこには、さっきの女性が座っていた。
「……きさらぎ駅へようこそ」
耳元で囁かれた瞬間——視界が暗転した。
終
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